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ネージュ編
44 副作用?
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俺は無我夢中だった。
自分より体の大きな成人男性を抱えられるとも思ったことはない。
なのに、俺の心の求めるままに体は動き、鉱夫を抱えて俺はとんでもない距離を一歩で跳躍した。
唖然としていられたのは一瞬のことで、状況が切迫しているのは変わりない。俺は鉱夫の手を引いて炭鉱の入り口に避難した。
「す、すまねえ!」
「いえ、これが俺たちの仕事なので!」
とりあえず気にするなと伝えて外に戻る。竜巻はとんでもないところへ向かってガンガン進んでいき、ソニアは《旋風斬》で地道に1匹1匹倒していくことにしたようだった。
「んもー、面倒! 《暴風斬》!!」
「ギャン!!」
3匹で固まっていたダイアウルフがその一撃で吹っ飛ぶ。
……範囲おかしくないか?
ソニアにはいろいろ言いたいことがあったけど、俺も拓けた場所に出たダイアウルフに古屋を落としたりしてとにかく敵の数を減らすことに集中する。
大して間も置かずに負けを悟ったダイアウルフは、くるりと反転して逃げ始めた。
これは、やばい。森の中に逃げられたらどうにもならない!
「ジョー! あそこら辺の木をごっそり収納して!」
「ええっ、そんなことが……やってみる!」
ソニアに言われるがまま、俺はダイアウルフの生き残りが走り去ろうとしている先の方まで、直線上で生えている木を魔法収納空間にしまうように念じた。
生体がしまえるくらいだから、きっとこれもできるはず、と自分に言い聞かせて。
「全身全霊! ぶっ飛ばすわよー!! 《突風》!」
気合いに満ちた声を張り上げ、滅多に使わない魔法をソニアが使った。本来ならば強い風が吹くだけらしい《突風》は、地面を抉りながら凄まじい速度でダイアウルフを背後から襲い、宙に巻き上げて周囲の木々に衝突させた。
え、これ……軌道が真っ直ぐの竜巻とほとんど変わらないのでは?
相変わらず俺の予想の範囲を超えてくるソニアの魔力には驚くしかない。
「更に10倍! 《暴風斬》!」
「10倍って何が!?」
あまりにも物騒な言葉に俺は突っ込まざるを得なかった。ソニアは俺の言葉を無視して険しい顔で杖を構え、剣を振るように鋭く杖を振り抜いた。
俺が空間魔法で収納した以外の木々にも、ざっくりと剣で斬られたような傷が付いていく。そして、魔法が向かった先のダイアウルフは《突風》のせいで激しく木に衝突して多くはまだ倒れたままで――そこに襲いかかったソニアの《暴風斬》でズタズタに切り裂かれていった。
《暴風斬》って、小さい風の刃をたくさん出す魔法だとエリクさんが言っていたけど……今の10倍の《暴風斬》は、ひとつひとつの風の刃が《旋風斬》並みだった……。
こっわ……。
俺の視界で確認できる限り、逃げおおせたダイアウルフはいなかった。
魔物討伐のミッションのひとつ、「ダイアウルフの群れの殲滅」はこれで片付いたことになる。
俺は森の中で血だまりの中に倒れているダイアウルフを確認し、母狼と覚しきメスの側で息絶えている仔を見て胸が痛んだ。
わかってる。ダイアウルフは人をも襲う凶悪な魔物。仔狼だって1年も経てば十分人間にとって脅威になる。
理屈ではわかってる。だけど、だけど――。
「ごめんな……」
俺の腕で抱えられるほどの大きさの仔ダイアウルフに向かって俺は呟いた。
これはただの感傷だ。カンガで狼を倒したときは、こんな罪悪感は感じなかった。
ただ、相手が仔狼だったからというだけの理由の、どうしようもない感傷。
しばらくしてサーシャが戻ってきたので、俺はダイアウルフを埋めてやっていいかと尋ねた。
母狼に寄り添うような仔狼を見て、サーシャも表情を曇らせる。
「魔物も自然の一部です。たまたまこの辺りに棲み着いてしまっただけの……。人に危害を与えるというのはわかっているんですが、やるせないですね。……最近、ジョーさんが犬になっているから特に」
それも、あるかもしれないな。
俺はサーシャとソニア、そして鉱夫たちに許可を取って、空間魔法を使って大きな穴を掘るとそこにダイアウルフの亡骸を入れていった。
最後に一旦魔法収納空間にしまった土を被せ、坑道の前まで戻ってからソニアの指示で収納した木々も元に戻す。
僅かに血の匂いが漂っている以外は、何事もなかったかのような元通りの景色がそこには広がっていた。
ダイアウルフを埋めた場所にサーシャが膝を突く。これから祈りを捧げるのだろうと思って俺も並んで膝を突いた
「どうか安らかに眠ってください。そして願わくば、次の生が穏やかでありますように」
サーシャの言葉を聞きながら、俺は無言で目を閉じ、頭を垂れた。
あの仔狼の姿は、しばらく瞼から離れそうになかった。
サーシャの方の成果は、オウルベアを3頭倒したところらしい。
これはさすがにギルドに素材として買い取りしてもらった方がいいというので、俺はサーシャの先導でオウルベアを収納するために山へ入っていった。
「な。なんだこれ」
初めて見るオウルベアの姿に、俺は呆然と呟いた。
大きさはヒグマレベル。色も形もそんな感じ。そして全身を羽が覆っていて、頭はフクロウ……というか、これミミズクだな、羽角があるし。
羽が生えている手の先には、まさしく熊! という凶悪な爪が生えている。
「結構賢いんですが、やっぱりそれほど素早くなくて」
「サーシャ、ドラゴンと比較してない? 多分これ、本気で走るとすごく早い奴だと思うんだけど」
「はっ!? そ、そうですね……補助魔法を掛けていなかったら絶対に追いつかれると思います」
恐ろしいくらいに強さのインフレが起きている!!
「縄張りがあるので、住処がそこそこばらけているんですよ。午後は反対方向を回ります」
生態的には熊だな。完全に。
俺は傷がひとつだけで絶命している最初の1頭を収納すると、次々にサーシャの先導の元でオウルベアを回収していった。
なんでも、爪は武器の材料になるし、胆嚢が強壮薬になるらしくて――完全に熊だな!!
そして俺たちが坑道前に戻ると、腕組みをしたソニアがそこで待ち構えていた。
「サーシャ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」
「どうしましたか、ソニアさん」
「ジョーのことよ。……さっき、竜巻に巻き込まれ掛けた鉱夫を抱えて、とんでもない距離を跳んだの」
その竜巻は自分が打ったもので、もう最初の一瞬から暴走したことは言わないんだな……。
「どういうことですか?」
「ジョー、ちょっと思いっきり跳んでみて」
「う、うん」
俺は助走を付けずに脚のバネだけで立ち幅跳びをした。膝を曲げてぐん、とふくらはぎに力を入れて手を前後に振る。――そして思いっきりジャンプ。
体が、軽かった。今まで感じたことのないほどに。
そして、助走無しだったのに軽く5メートル以上は跳んでいて、俺自身が仰天していた。
「……ジョーさん、これを」
改めておかしいと思い知った身体能力に挙動不審になっている俺に、サーシャが自分のメイスを手渡してくる。
意外に軽いと思ってしまうのは、やはり筋力が上がっているせいか?
「あの岩を、思いっきり殴って下さい。大丈夫です、岩より硬い素材ですから」
俺はメイスを振りかぶり、思いっきり振り下ろした。案外重心の関係で振り下ろしやすいものなんだな。
岩にメイスを叩きつけると、重い手応えで手が痺れる。――でも、それどころじゃなくて。
俺の一撃で、岩は見事に粉砕されていた……。
「ほぼ、補助魔法を掛けたときの私と同じくらいの身体能力だと思います」
「ええー、サーシャの一撃って岩を砕くの!?」
古代竜を倒したのも大猪を倒したのも見たことのないソニアがドン引きしている。
わかる。初依頼のカンガでは俺が狼を倒したし、タンバー神殿ではアヌビス相手だったから、強いことはわかってても実際にどのくらいの力があるかは知らなかったんだろう。
そうか、これがサーシャと同じくらいの強さか……。
でも俺は慣れないせいか制御できる感じがしないな。どのくらいの加減で跳べば思ったところに着地できるかもわからないし。
「突然よね? 原因は何なのかしら……と言ってもあれくらいしか思い当たらないけど」
ソニアの視線が、帽子で隠された俺の耳に向けられる。
サーシャもソニアの隣で頷いていた。
まあ……そう考えるのが妥当だよな。
犬耳が生えてから、妙に体が軽いと思うことはあった。
ネージュのタンバー神殿に向かったときなんかがそれだ。普通だったら息が切れる距離の上り坂を難なく走りきった。
「犬耳が生えた代償?」
「そう考えるのが自然ですよね」
俺は自分の体温で温まった石の首輪に触れて、盛大にため息をついた。
身体能力が上がったのはありがたいかもしれないけど、それ以上に不便が多すぎる!
やっぱりこれ、呪いだろ!
身体能力が上がっても俺が使える武器があるわけではなく、シミターは余っているとはいっても持ったことのない武器をいきなり操れるわけでもなく、「とりあえず逃げるのには困らない」という理由でその日の午後は俺とサーシャでオウルベア退治を続けた。
意外に役に立ったのは、石だ。
野球ボールくらいの大きさの石を見つける度に拾っておいて、オウルベアに思い切り投げつける。
それが顔面に命中しただけでオウルベアは仰け反り、さっくりとサーシャに退治されていた。
けれど、その日倒せたのは計6頭。
依頼達成には残り4頭のオウルベア退治が必要となる。
結局その日は坑道の入り口の真ん前に家を出して万が一の魔物の襲撃に備え、俺は早めに食事と入浴を済ませて犬になった。
「あっ!」
黒犬姿の俺を見て、サーシャが何か気付いたように目を丸くする。
「ジョーさん! 今からオウルベア退治に行きましょう! 今なら鼻が利くんですよね?」
そ、それがあったかー!!
自分より体の大きな成人男性を抱えられるとも思ったことはない。
なのに、俺の心の求めるままに体は動き、鉱夫を抱えて俺はとんでもない距離を一歩で跳躍した。
唖然としていられたのは一瞬のことで、状況が切迫しているのは変わりない。俺は鉱夫の手を引いて炭鉱の入り口に避難した。
「す、すまねえ!」
「いえ、これが俺たちの仕事なので!」
とりあえず気にするなと伝えて外に戻る。竜巻はとんでもないところへ向かってガンガン進んでいき、ソニアは《旋風斬》で地道に1匹1匹倒していくことにしたようだった。
「んもー、面倒! 《暴風斬》!!」
「ギャン!!」
3匹で固まっていたダイアウルフがその一撃で吹っ飛ぶ。
……範囲おかしくないか?
ソニアにはいろいろ言いたいことがあったけど、俺も拓けた場所に出たダイアウルフに古屋を落としたりしてとにかく敵の数を減らすことに集中する。
大して間も置かずに負けを悟ったダイアウルフは、くるりと反転して逃げ始めた。
これは、やばい。森の中に逃げられたらどうにもならない!
「ジョー! あそこら辺の木をごっそり収納して!」
「ええっ、そんなことが……やってみる!」
ソニアに言われるがまま、俺はダイアウルフの生き残りが走り去ろうとしている先の方まで、直線上で生えている木を魔法収納空間にしまうように念じた。
生体がしまえるくらいだから、きっとこれもできるはず、と自分に言い聞かせて。
「全身全霊! ぶっ飛ばすわよー!! 《突風》!」
気合いに満ちた声を張り上げ、滅多に使わない魔法をソニアが使った。本来ならば強い風が吹くだけらしい《突風》は、地面を抉りながら凄まじい速度でダイアウルフを背後から襲い、宙に巻き上げて周囲の木々に衝突させた。
え、これ……軌道が真っ直ぐの竜巻とほとんど変わらないのでは?
相変わらず俺の予想の範囲を超えてくるソニアの魔力には驚くしかない。
「更に10倍! 《暴風斬》!」
「10倍って何が!?」
あまりにも物騒な言葉に俺は突っ込まざるを得なかった。ソニアは俺の言葉を無視して険しい顔で杖を構え、剣を振るように鋭く杖を振り抜いた。
俺が空間魔法で収納した以外の木々にも、ざっくりと剣で斬られたような傷が付いていく。そして、魔法が向かった先のダイアウルフは《突風》のせいで激しく木に衝突して多くはまだ倒れたままで――そこに襲いかかったソニアの《暴風斬》でズタズタに切り裂かれていった。
《暴風斬》って、小さい風の刃をたくさん出す魔法だとエリクさんが言っていたけど……今の10倍の《暴風斬》は、ひとつひとつの風の刃が《旋風斬》並みだった……。
こっわ……。
俺の視界で確認できる限り、逃げおおせたダイアウルフはいなかった。
魔物討伐のミッションのひとつ、「ダイアウルフの群れの殲滅」はこれで片付いたことになる。
俺は森の中で血だまりの中に倒れているダイアウルフを確認し、母狼と覚しきメスの側で息絶えている仔を見て胸が痛んだ。
わかってる。ダイアウルフは人をも襲う凶悪な魔物。仔狼だって1年も経てば十分人間にとって脅威になる。
理屈ではわかってる。だけど、だけど――。
「ごめんな……」
俺の腕で抱えられるほどの大きさの仔ダイアウルフに向かって俺は呟いた。
これはただの感傷だ。カンガで狼を倒したときは、こんな罪悪感は感じなかった。
ただ、相手が仔狼だったからというだけの理由の、どうしようもない感傷。
しばらくしてサーシャが戻ってきたので、俺はダイアウルフを埋めてやっていいかと尋ねた。
母狼に寄り添うような仔狼を見て、サーシャも表情を曇らせる。
「魔物も自然の一部です。たまたまこの辺りに棲み着いてしまっただけの……。人に危害を与えるというのはわかっているんですが、やるせないですね。……最近、ジョーさんが犬になっているから特に」
それも、あるかもしれないな。
俺はサーシャとソニア、そして鉱夫たちに許可を取って、空間魔法を使って大きな穴を掘るとそこにダイアウルフの亡骸を入れていった。
最後に一旦魔法収納空間にしまった土を被せ、坑道の前まで戻ってからソニアの指示で収納した木々も元に戻す。
僅かに血の匂いが漂っている以外は、何事もなかったかのような元通りの景色がそこには広がっていた。
ダイアウルフを埋めた場所にサーシャが膝を突く。これから祈りを捧げるのだろうと思って俺も並んで膝を突いた
「どうか安らかに眠ってください。そして願わくば、次の生が穏やかでありますように」
サーシャの言葉を聞きながら、俺は無言で目を閉じ、頭を垂れた。
あの仔狼の姿は、しばらく瞼から離れそうになかった。
サーシャの方の成果は、オウルベアを3頭倒したところらしい。
これはさすがにギルドに素材として買い取りしてもらった方がいいというので、俺はサーシャの先導でオウルベアを収納するために山へ入っていった。
「な。なんだこれ」
初めて見るオウルベアの姿に、俺は呆然と呟いた。
大きさはヒグマレベル。色も形もそんな感じ。そして全身を羽が覆っていて、頭はフクロウ……というか、これミミズクだな、羽角があるし。
羽が生えている手の先には、まさしく熊! という凶悪な爪が生えている。
「結構賢いんですが、やっぱりそれほど素早くなくて」
「サーシャ、ドラゴンと比較してない? 多分これ、本気で走るとすごく早い奴だと思うんだけど」
「はっ!? そ、そうですね……補助魔法を掛けていなかったら絶対に追いつかれると思います」
恐ろしいくらいに強さのインフレが起きている!!
「縄張りがあるので、住処がそこそこばらけているんですよ。午後は反対方向を回ります」
生態的には熊だな。完全に。
俺は傷がひとつだけで絶命している最初の1頭を収納すると、次々にサーシャの先導の元でオウルベアを回収していった。
なんでも、爪は武器の材料になるし、胆嚢が強壮薬になるらしくて――完全に熊だな!!
そして俺たちが坑道前に戻ると、腕組みをしたソニアがそこで待ち構えていた。
「サーシャ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」
「どうしましたか、ソニアさん」
「ジョーのことよ。……さっき、竜巻に巻き込まれ掛けた鉱夫を抱えて、とんでもない距離を跳んだの」
その竜巻は自分が打ったもので、もう最初の一瞬から暴走したことは言わないんだな……。
「どういうことですか?」
「ジョー、ちょっと思いっきり跳んでみて」
「う、うん」
俺は助走を付けずに脚のバネだけで立ち幅跳びをした。膝を曲げてぐん、とふくらはぎに力を入れて手を前後に振る。――そして思いっきりジャンプ。
体が、軽かった。今まで感じたことのないほどに。
そして、助走無しだったのに軽く5メートル以上は跳んでいて、俺自身が仰天していた。
「……ジョーさん、これを」
改めておかしいと思い知った身体能力に挙動不審になっている俺に、サーシャが自分のメイスを手渡してくる。
意外に軽いと思ってしまうのは、やはり筋力が上がっているせいか?
「あの岩を、思いっきり殴って下さい。大丈夫です、岩より硬い素材ですから」
俺はメイスを振りかぶり、思いっきり振り下ろした。案外重心の関係で振り下ろしやすいものなんだな。
岩にメイスを叩きつけると、重い手応えで手が痺れる。――でも、それどころじゃなくて。
俺の一撃で、岩は見事に粉砕されていた……。
「ほぼ、補助魔法を掛けたときの私と同じくらいの身体能力だと思います」
「ええー、サーシャの一撃って岩を砕くの!?」
古代竜を倒したのも大猪を倒したのも見たことのないソニアがドン引きしている。
わかる。初依頼のカンガでは俺が狼を倒したし、タンバー神殿ではアヌビス相手だったから、強いことはわかってても実際にどのくらいの力があるかは知らなかったんだろう。
そうか、これがサーシャと同じくらいの強さか……。
でも俺は慣れないせいか制御できる感じがしないな。どのくらいの加減で跳べば思ったところに着地できるかもわからないし。
「突然よね? 原因は何なのかしら……と言ってもあれくらいしか思い当たらないけど」
ソニアの視線が、帽子で隠された俺の耳に向けられる。
サーシャもソニアの隣で頷いていた。
まあ……そう考えるのが妥当だよな。
犬耳が生えてから、妙に体が軽いと思うことはあった。
ネージュのタンバー神殿に向かったときなんかがそれだ。普通だったら息が切れる距離の上り坂を難なく走りきった。
「犬耳が生えた代償?」
「そう考えるのが自然ですよね」
俺は自分の体温で温まった石の首輪に触れて、盛大にため息をついた。
身体能力が上がったのはありがたいかもしれないけど、それ以上に不便が多すぎる!
やっぱりこれ、呪いだろ!
身体能力が上がっても俺が使える武器があるわけではなく、シミターは余っているとはいっても持ったことのない武器をいきなり操れるわけでもなく、「とりあえず逃げるのには困らない」という理由でその日の午後は俺とサーシャでオウルベア退治を続けた。
意外に役に立ったのは、石だ。
野球ボールくらいの大きさの石を見つける度に拾っておいて、オウルベアに思い切り投げつける。
それが顔面に命中しただけでオウルベアは仰け反り、さっくりとサーシャに退治されていた。
けれど、その日倒せたのは計6頭。
依頼達成には残り4頭のオウルベア退治が必要となる。
結局その日は坑道の入り口の真ん前に家を出して万が一の魔物の襲撃に備え、俺は早めに食事と入浴を済ませて犬になった。
「あっ!」
黒犬姿の俺を見て、サーシャが何か気付いたように目を丸くする。
「ジョーさん! 今からオウルベア退治に行きましょう! 今なら鼻が利くんですよね?」
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