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ネージュ編
37 霊感0の俺に見える幽霊は幽霊じゃなかった!!
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見取り図によると、現在地から少し行った場所に2階への階段がある。
コディさんは青い顔で上階を指さした。
「明らかに、上です。感知しきれないくらい凄い数です。ジョーくんは思いっきり覚悟するか、この階に残るかした方がいいかも。僕も行きたくないですけど」
「コディさん、なんてことを言うんですか! 俺をひとりでここに置いていくなんて!」
行きたくはないけど、ここにひとりで残るのは論外!
パニックを起こしてコディさんにしがみついた俺の肩を、アーノルドさんが叩いた。
「ジョー、さっき俺たちが倒したのは、幽霊と言う名の魔物だ。あれは人間の魂でも何でもない。死んだ人間がああなるわけじゃない。場所の瘴気が凝り固まって生み出された、『幽霊と言う名の魔物』なんだ」
「……幽霊と言う名の魔物?」
俺はアーノルドさんの言葉の意図がわからず、オウム返しに言葉を紡ぐ。
「そうだ。つまり、プリーストの『浄化』を弱点とするただの魔物。宙に浮いて透けてる、そういう生態のもの。例えば生前に罪を犯し、神の御許に赴くことも許されずに彷徨う魂とは、全くの別物なんだよ。ほーら、怖くない」
魔物としての幽霊と、霊は別のもの!?
つまりは、ただの魔物。
そ、それは…………いくらなんでも。
………………………………うん、目から鱗が落ちた。
「だ、だから俺にも見えるんだ……」
「ジョー、いくらなんでも、ふごっ」
何か言いかけたメリンダさんの口を、ギャレンさんが手で塞いでいた。そして、レヴィさんとサーシャも凄い勢いで俺の手を取って頷いている。
「そうだ、ジョーがああいうものが苦手と知っていたら事前に説明したんだけどな。すまなかった」
「アーノルドさんの言う通りですよ! 大丈夫! 私やソニアさんの攻撃も通用したのは見てくれましたよね?」
「う、うん、大丈夫な気がしてきた!」
「大丈夫大丈夫! じゃあ、さくっと上に行くぞ! 何かあったら俺やサーシャがジョーを守ってやる!」
「お、お兄ちゃあああん!!」
多分この時の俺は、精神年齢が10歳くらい逆行していたと思う……。
頼りになるお兄ちゃんことアーノルドさんにひしっと抱きついて、よしよしとされてしまった。
階段は神殿の偉容を誇るにふさわしく広く、全員が横並びで上がることができるほどだった。
階段を1段上がる毎に鳥肌が立つし、上の方から冷たい空気が降りてくるけど、大丈夫、大丈夫……。
そして、上の階の状況が見えるようになった時――。
嗚呼、そこには、幽霊という名の半透明の魔物がみっちりと詰まってゐた……。
「うっぎゃああああああああ!!」
絶叫する俺、武器を構えて突っ込んでいくサーシャとお兄ちゃん。俺を庇うように前に立つメリンダさん。
「誰もいない方向になら魔法打ってもいいわよね!?」
「この広さと高さなら大丈夫です!」
「いっくわよー! 《斬裂竜巻》!」
そして、制御不能の竜巻を起こすソニア!
俺が「ひぃぃぃい……」と震えている間に、ソニアの竜巻は衰えない吸引力で幽霊を巻き込んで暴走し始めた。
凄い、通販番組でよく見る掃除機並みに凄い!
ソニアの竜巻が通った後には何も残っていない。異様に天井の高さがある2階だけど、その上の方で半透明のものが竜巻に巻き込まれてグルグルと回っている。
……クラゲっぽい。
そう思ったとき、俺の恐怖心は少しだけ和らいだ。
「ソニア!? なにあれ、暴走しすぎよ!? せめて軌道くらい自分で制御できないの!?」
「できません!」
「そんなもの使っちゃ駄目よー! みんな、敵よりも竜巻に気を付けて!」
本当に無軌道にふらふらと進路を変えるソニアの竜巻に、メリンダさんの怒号が飛んだ。
竜巻に追われてアーノルドさんは幽霊と一緒に全力で逃げ回り、ついでのように周囲の幽霊を斬り伏せていく。
「ギャン!」
その悲鳴で気付いたけど、幽霊のせいで目立たないながらその場にはアヌビスも結構な数がいて、ソニアの竜巻に巻き込まれてズタズタにされながら悲痛な鳴き声を上げていた。
「あの《斬裂竜巻》はいつ消えるの!?」
「わかりません!」
「そんなもの使っちゃ駄目!! 今後使用禁止!」
危険極まりない《斬裂竜巻》は、とうとうメリンダさんからも使用禁止を言い渡されている。そしてソニアは地道に《旋風斬》で手近な敵を倒していた。何度もメリンダさんに怒られたからか、例の0距離魔法だ。
これも威力が凄くて、貫通するから一度魔法を使うだけで3体くらいの敵を倒している……。
「こう数が多いと、大変ですね! 古代竜より大変!」
サーシャは一撃で幽霊を消し去っているが、なにせ敵が多すぎる。メイスをブンブンと振り回し、広いフロアを駆け回っていた。
メリンダさんは正確なコントロールで《旋風斬》を打って、敵をソニアの竜巻の軌道上に追い詰めていく。
吸引力の衰えないただひとつの竜巻は、戦闘開始から約10分経った今でも、猛威を振るっていた……。
むやみやたらと広い空間ががらんとしたのは、どのくらい経った頃だったろうか。
竜巻は少し前に消え、その頃には敵のほとんどが消え去っていた。
幽霊は倒すと消えるし、アヌビスは少し経つと黒い砂になって崩れていく。
だから、全ての敵を片付けた今となっては、その場で動いているものは俺たちだけになっていた。
「すっきりしましたね!」
掃除が終わりました、のノリでサーシャが言う。
それにみんながうんうんと頷いてるから、過去のアーノルドパーティーの仲の良さが窺い知れるというものだ。
「ぎょええええ!!」
俺みたいな悲鳴が間近で聞こえて、何事かと思ったらコディさんが蒼白な顔で床の一部を示していた。
「あ、あ、あれ、あれが原因ですよ! それとタンバー様の像を見てください!」
階段からちょうど反対側に、それほど大きくはない、ちょうど人間の背丈ほどの像が建っていた。俺たちは慌ててそちらに向かい、そして絶句した。
初老の男性の姿をした神像の周囲には、動物の死骸がちらばっている。そして、その血で描かれたと覚しき魔法陣を目の前にした神像は血で汚されていた。
「これですよぉ、瘴気の元は! 神像がこんなに穢れていたら、神殿自体もおかしくなって仕方ないですよ」
もはやコディさんの声も半泣きだ。
「まさか霊界神タンバーの神像を媒介にして何らかの呪術を行うなんて……。呪いを掛けた人間も、掛けられた人間もただでは済まないわね」
メリンダさんの声は険しい。俺も全くその通りだと思う。
日本の感覚で言うと、お墓やお地蔵様にいたずらをするより酷いな。
「これ、片付けて神像を綺麗にしますね」
幽霊がいなければ、俺は別に動物の死骸も魔法陣も怖くない。
俺は散らばった動物の死骸をぱぱっと魔法収納空間へ入れた。帰り道でどこかの森にでも置いていこう。土に還るか、他の動物に食べられるか、それの方が余程自然だろうし。
そして、タンバー様の像の前で「失礼します」と一礼してから、神像に泉から汲んできた水をバシャバシャと掛けた。
汚れているところは布で擦る。気分は墓参りだ。
やっぱり、神様の像が血で汚れてるって良くないよな。
「ちょっと、ジョー!?」
俺の突然の行動に、ソニアが驚いて声を上げている。
「え? 俺おかしいことしてる?」
「一度ネージュのタンバー神殿に報告してからの方がいいんじゃない!?」
「でもこのままにして置くのは俺としては気分が良くないし、水なら大量に持ってるから」
血は乾いていて落とすのに苦労したけども、何度も水を掛けて根気よく擦ったら時間は掛かったけどもすっかり綺麗になった。
ついでに床の魔法陣もお湯を掛けて落としやすくしておいて、擦って消す。
そんな俺の姿を、メリンダさんとソニアとコディさんは唖然として見ていた。
「魔法陣を……いくら消せる素材で描かれてたからって、水を掛けて布で擦って消します?」
「あり得ない、あり得ないわ」
「でも、ほら、ジョーの元いた世界って魔法がないらしいから、常識が通用しないのよ」
「「ああー」」
……魔法陣って普通に消せるものじゃなかったのか。
でも、消せてるし。
「ジョーさん、手伝います」
「俺も手伝おう」
「よし、やるか」
サーシャとアーノルドさんとレヴィさんが手伝ってくれたので、そこからはスピードアップして、案外早く床も綺麗になった。
「ふー、すっきりした!」
汚れた水をまとめて収納し、乾いた布でタンバー様の像を丁寧に拭き直しながら、清々しい気分になる。
やっぱり、墓参りはこうでなくちゃな。
いや、墓参りじゃなかったけど。
こころなしか、神殿の中の空気も清められている気がする。
そして俺はタンバー様の足元に、黒い腕輪があることに気がついた。
「あれ、なんだこれ、さっきはなかった気がするけど……」
これも洗っておいた方がいいかなあと手に取った瞬間――。
「ジョーさん! そういうものをいきなり触っちゃ駄目です!」
サーシャの切羽詰まった声がしたときにはもう遅かった。
黒い腕輪は俺が触れた瞬間に消えて、首の周りに違和感を感じる。それは、冷たい石の感触。きっとタンバー様の像を造ったのと同じ素材の首輪が嵌まっているんだ。
――見なくてもわかる。手触りが一緒だから。
「ちょっと、ジョー! 何やってるの!?」
「えええ、なんですか、それ!!」
メリンダさんの今日何度目かわからない怒号。そして、コディさんの絶叫。
無言でソニアが差し出した手鏡を覗き込んで、俺は絶句した。
本来あった場所に耳はなく、俺の頭の上にはアヌビスと同じような黒い耳が生えていたのだった……。
コディさんは青い顔で上階を指さした。
「明らかに、上です。感知しきれないくらい凄い数です。ジョーくんは思いっきり覚悟するか、この階に残るかした方がいいかも。僕も行きたくないですけど」
「コディさん、なんてことを言うんですか! 俺をひとりでここに置いていくなんて!」
行きたくはないけど、ここにひとりで残るのは論外!
パニックを起こしてコディさんにしがみついた俺の肩を、アーノルドさんが叩いた。
「ジョー、さっき俺たちが倒したのは、幽霊と言う名の魔物だ。あれは人間の魂でも何でもない。死んだ人間がああなるわけじゃない。場所の瘴気が凝り固まって生み出された、『幽霊と言う名の魔物』なんだ」
「……幽霊と言う名の魔物?」
俺はアーノルドさんの言葉の意図がわからず、オウム返しに言葉を紡ぐ。
「そうだ。つまり、プリーストの『浄化』を弱点とするただの魔物。宙に浮いて透けてる、そういう生態のもの。例えば生前に罪を犯し、神の御許に赴くことも許されずに彷徨う魂とは、全くの別物なんだよ。ほーら、怖くない」
魔物としての幽霊と、霊は別のもの!?
つまりは、ただの魔物。
そ、それは…………いくらなんでも。
………………………………うん、目から鱗が落ちた。
「だ、だから俺にも見えるんだ……」
「ジョー、いくらなんでも、ふごっ」
何か言いかけたメリンダさんの口を、ギャレンさんが手で塞いでいた。そして、レヴィさんとサーシャも凄い勢いで俺の手を取って頷いている。
「そうだ、ジョーがああいうものが苦手と知っていたら事前に説明したんだけどな。すまなかった」
「アーノルドさんの言う通りですよ! 大丈夫! 私やソニアさんの攻撃も通用したのは見てくれましたよね?」
「う、うん、大丈夫な気がしてきた!」
「大丈夫大丈夫! じゃあ、さくっと上に行くぞ! 何かあったら俺やサーシャがジョーを守ってやる!」
「お、お兄ちゃあああん!!」
多分この時の俺は、精神年齢が10歳くらい逆行していたと思う……。
頼りになるお兄ちゃんことアーノルドさんにひしっと抱きついて、よしよしとされてしまった。
階段は神殿の偉容を誇るにふさわしく広く、全員が横並びで上がることができるほどだった。
階段を1段上がる毎に鳥肌が立つし、上の方から冷たい空気が降りてくるけど、大丈夫、大丈夫……。
そして、上の階の状況が見えるようになった時――。
嗚呼、そこには、幽霊という名の半透明の魔物がみっちりと詰まってゐた……。
「うっぎゃああああああああ!!」
絶叫する俺、武器を構えて突っ込んでいくサーシャとお兄ちゃん。俺を庇うように前に立つメリンダさん。
「誰もいない方向になら魔法打ってもいいわよね!?」
「この広さと高さなら大丈夫です!」
「いっくわよー! 《斬裂竜巻》!」
そして、制御不能の竜巻を起こすソニア!
俺が「ひぃぃぃい……」と震えている間に、ソニアの竜巻は衰えない吸引力で幽霊を巻き込んで暴走し始めた。
凄い、通販番組でよく見る掃除機並みに凄い!
ソニアの竜巻が通った後には何も残っていない。異様に天井の高さがある2階だけど、その上の方で半透明のものが竜巻に巻き込まれてグルグルと回っている。
……クラゲっぽい。
そう思ったとき、俺の恐怖心は少しだけ和らいだ。
「ソニア!? なにあれ、暴走しすぎよ!? せめて軌道くらい自分で制御できないの!?」
「できません!」
「そんなもの使っちゃ駄目よー! みんな、敵よりも竜巻に気を付けて!」
本当に無軌道にふらふらと進路を変えるソニアの竜巻に、メリンダさんの怒号が飛んだ。
竜巻に追われてアーノルドさんは幽霊と一緒に全力で逃げ回り、ついでのように周囲の幽霊を斬り伏せていく。
「ギャン!」
その悲鳴で気付いたけど、幽霊のせいで目立たないながらその場にはアヌビスも結構な数がいて、ソニアの竜巻に巻き込まれてズタズタにされながら悲痛な鳴き声を上げていた。
「あの《斬裂竜巻》はいつ消えるの!?」
「わかりません!」
「そんなもの使っちゃ駄目!! 今後使用禁止!」
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これも威力が凄くて、貫通するから一度魔法を使うだけで3体くらいの敵を倒している……。
「こう数が多いと、大変ですね! 古代竜より大変!」
サーシャは一撃で幽霊を消し去っているが、なにせ敵が多すぎる。メイスをブンブンと振り回し、広いフロアを駆け回っていた。
メリンダさんは正確なコントロールで《旋風斬》を打って、敵をソニアの竜巻の軌道上に追い詰めていく。
吸引力の衰えないただひとつの竜巻は、戦闘開始から約10分経った今でも、猛威を振るっていた……。
むやみやたらと広い空間ががらんとしたのは、どのくらい経った頃だったろうか。
竜巻は少し前に消え、その頃には敵のほとんどが消え去っていた。
幽霊は倒すと消えるし、アヌビスは少し経つと黒い砂になって崩れていく。
だから、全ての敵を片付けた今となっては、その場で動いているものは俺たちだけになっていた。
「すっきりしましたね!」
掃除が終わりました、のノリでサーシャが言う。
それにみんながうんうんと頷いてるから、過去のアーノルドパーティーの仲の良さが窺い知れるというものだ。
「ぎょええええ!!」
俺みたいな悲鳴が間近で聞こえて、何事かと思ったらコディさんが蒼白な顔で床の一部を示していた。
「あ、あ、あれ、あれが原因ですよ! それとタンバー様の像を見てください!」
階段からちょうど反対側に、それほど大きくはない、ちょうど人間の背丈ほどの像が建っていた。俺たちは慌ててそちらに向かい、そして絶句した。
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「これですよぉ、瘴気の元は! 神像がこんなに穢れていたら、神殿自体もおかしくなって仕方ないですよ」
もはやコディさんの声も半泣きだ。
「まさか霊界神タンバーの神像を媒介にして何らかの呪術を行うなんて……。呪いを掛けた人間も、掛けられた人間もただでは済まないわね」
メリンダさんの声は険しい。俺も全くその通りだと思う。
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「これ、片付けて神像を綺麗にしますね」
幽霊がいなければ、俺は別に動物の死骸も魔法陣も怖くない。
俺は散らばった動物の死骸をぱぱっと魔法収納空間へ入れた。帰り道でどこかの森にでも置いていこう。土に還るか、他の動物に食べられるか、それの方が余程自然だろうし。
そして、タンバー様の像の前で「失礼します」と一礼してから、神像に泉から汲んできた水をバシャバシャと掛けた。
汚れているところは布で擦る。気分は墓参りだ。
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「ちょっと、ジョー!?」
俺の突然の行動に、ソニアが驚いて声を上げている。
「え? 俺おかしいことしてる?」
「一度ネージュのタンバー神殿に報告してからの方がいいんじゃない!?」
「でもこのままにして置くのは俺としては気分が良くないし、水なら大量に持ってるから」
血は乾いていて落とすのに苦労したけども、何度も水を掛けて根気よく擦ったら時間は掛かったけどもすっかり綺麗になった。
ついでに床の魔法陣もお湯を掛けて落としやすくしておいて、擦って消す。
そんな俺の姿を、メリンダさんとソニアとコディさんは唖然として見ていた。
「魔法陣を……いくら消せる素材で描かれてたからって、水を掛けて布で擦って消します?」
「あり得ない、あり得ないわ」
「でも、ほら、ジョーの元いた世界って魔法がないらしいから、常識が通用しないのよ」
「「ああー」」
……魔法陣って普通に消せるものじゃなかったのか。
でも、消せてるし。
「ジョーさん、手伝います」
「俺も手伝おう」
「よし、やるか」
サーシャとアーノルドさんとレヴィさんが手伝ってくれたので、そこからはスピードアップして、案外早く床も綺麗になった。
「ふー、すっきりした!」
汚れた水をまとめて収納し、乾いた布でタンバー様の像を丁寧に拭き直しながら、清々しい気分になる。
やっぱり、墓参りはこうでなくちゃな。
いや、墓参りじゃなかったけど。
こころなしか、神殿の中の空気も清められている気がする。
そして俺はタンバー様の足元に、黒い腕輪があることに気がついた。
「あれ、なんだこれ、さっきはなかった気がするけど……」
これも洗っておいた方がいいかなあと手に取った瞬間――。
「ジョーさん! そういうものをいきなり触っちゃ駄目です!」
サーシャの切羽詰まった声がしたときにはもう遅かった。
黒い腕輪は俺が触れた瞬間に消えて、首の周りに違和感を感じる。それは、冷たい石の感触。きっとタンバー様の像を造ったのと同じ素材の首輪が嵌まっているんだ。
――見なくてもわかる。手触りが一緒だから。
「ちょっと、ジョー! 何やってるの!?」
「えええ、なんですか、それ!!」
メリンダさんの今日何度目かわからない怒号。そして、コディさんの絶叫。
無言でソニアが差し出した手鏡を覗き込んで、俺は絶句した。
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