殴り聖女の彼女と、異世界転移の俺

加藤伊織

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ネージュ編

20 麦粥革命!

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 ビーッ! ビーッ!
 
「火事です。火事です」
 
 ビーッ! ビーッ!
 
「火事です。火事です」

 鳴り響く警告音と、女性のアナウンス音声。
 俺はアニメを見ていたタブレットを放り出して、慌てて部屋を飛び出した。
 廊下に出ると微かにきな臭い。これは間違いなく煙の匂い。

「消火器……はキッチンの隅か。どこが火元だ?」

 火災報知器が鳴ったということは、火事は初期段階のはずだ。
 逃げなければという気持ちよりも、消火しなければという気持ちの方が強くて、俺は慌てながらも煙の濃い方へと向かった。
 タイミング良く、それはキッチンの方向でもあった。

 
 ビーッ! ビーッ!
 
「火事です。火事です」
 
 ビーッ! ビーッ!
 
「火事です。火事です」

 そのアナウンスが鳴り響く中――。

 キッチンで父が煙を盛大に立てながら何かをしてた。

「何やってんの!?」
「チーズをスモークしてる」
「は?」
「スモークチーズが食べたくなったけど、外が台風だからな……」

 見れば、煙の元は父の手元のフライパンだった。ちょっと傷が付いたりしてきてコーティングが剥げたのか、最近目玉焼きがくっつくって母が使わなくなったやつ。

「……もしかして、フライパンの上にチップ置いて、網乗せて?」
「そうだ。だから蓋をして換気扇回しても煙がなかなか凄くてな」
「火災報知器鳴ってるけど」
「煙に反応しただけだ。火事じゃない」
「火事です。火事です」

 父にツッコむように、いいタイミングでアナウンスが流れた。音量でかい! 警告だから当たり前なんだろうけど、
  
「いや、これ結構うるさいんだけど」
「気にするな、じよう。泰然自若であれ」
 
  いや、こんな音量でビービーいってて、煙出しながら悠然と燻製作ってる方がおかしいだろ。

「今日はカマンベール丸ごと一個燻製にしたぞ。これはな、中がとろっとしてうまいんだ」

 俺の方をやっと振り向いた父がニヤリと笑った。
 父はわかってるんだ。
 自分のマイペースさと、家族がたとえ文句を言っても結局それを許容してしまうことと、そして、何よりも。

 美味しいものの前では、人間はだいたい無力なのだ――。



「夢か……」

 目を覚まして見えたのは、見慣れた宿屋のくすんだ天井。
 自分の部屋の白い壁紙ではなかった。

 最近燻製のことばかり考えてたから、こんな夢を見たんだろうか。
 あれは母が出張中、ついでに兄が不在のときで、騒音の被害者は俺だけだった。
 帰宅した母が煙り臭くなったキッチンに気付き、しこたま父を叱っていたのもはっきりと覚えている。

 ただ、あの時父とふたりで半分こにして食べたカマンベールの燻製は、元の濃厚な味にスモークの風味がプラスされて、父の言う通りに中心部分がとろりと蕩けていて、確かに美味しかった。
 忘れられるはずがない。いろんな意味で。

「ジョーさん、どうしました?」

 ふたつのベッドの間の衝立の向こうから、サーシャの小さな声が聞こえた。
 うっかり俺が声を出したから目を覚ましてしまったのかもしれない。

「ごめん、起こしたね。前の世界にいたときの夢を見たんだ。あんまりはっきりしてたから、目が覚めてもちょっとぼーっとしちゃって」
「大丈夫ですか?」

 サーシャの声に気遣わしげな響きが混じる。
 突然切り離された故郷を思って泣く俺を、彼女は2回も見てきたから。
 優しいサーシャは、俺がまた涙を流してるんじゃないかと思って心配してるんだろう。 
 
  ――ただ、懐かしく思うだけです。

 いつかのサーシャの言葉が胸の中に蘇る。段々と、俺もあの時の彼女の気持ちに近づいてきたようだ。

「うん、大丈夫。父が燻製作ってた夢なんだ。懐かしかったけど――でも、それだけだよ」
「そうですか……」
「この頃燻製のことばっかり考えてたからだと思う。俺、ちょっとやりたいことがあるから起きるけど、サーシャはまだ寝てて平気だよ」
「……はい、わかりました。無理しないでくださいね」

 起きると言わずにまたごそごそと音がしたのは、毛布を被ったからだと思う。
 俺の邪魔をしないようにという気配りだろう。
 サーシャは、本当に天使のように優しい。


 俺は宿の人に挨拶をして、麦粥作りを始めた。
 今日の朝食として出す麦粥は、俺の試作を食べてもらえるようにと話をつけておいたのだ。試食だから、今日に限り無料。
 但し何かクレームがあったり「またあの麦粥が食べたい」と言われても、宿の責任じゃなくて俺が一方的にしたことなので、俺の方に直接どうぞということ。

 タマネギはみじん切り、ベーコンは食感が感じられるように小さめの角切り。
 熱した鍋でバターを使って具材を炒めて、タマネギが半透明になったくらいで牛乳をドンと投入。
 ふつふつとそれが煮立ったら塩と胡椒と削ったチーズを入れて味を調え、挽き割りになっている麦――つまりオートミールを入れて弱火にして煮込んだ。全体的にとろみが出たらできあがり。
 コンソメがあれば入れたいけどもそんな便利なものはないし、トウモロコシを入れたりアサリを入れてクラムチャウダー風にしてもいい。でもそれは今はない。
 ベーコンのうま味があるからこれでも充分美味しいはずだ。

「……よし」

 味見をして頷いた俺は出来上がった特製麦粥を小さい鍋に数人分取り分けると、鍋ごと宿の人に託した。
 取り分けたのは、レベッカさんやクエリーさんに試食してもらう分だ。


 朝食を食べに真っ先に降りてきたのは、サーシャとメリンダさんだった。そのすぐ後にアーノルドさんたちがやってくる。
 今朝の麦粥は俺のベーコン入りの特製だと知っていたから、全員が期待に満ちた表情を俺に向けていた。

 配膳は宿の方でやってくれる。いつもの椀に、いつもとは少し違う色の麦粥がたっぷりとよそわれていた。

「わあ……いい香り」

 牛乳の甘い香りと、ベーコンの香ばしい香り、そして微かに胡椒の香りも混じっている。
 目をキラキラとさせながら真っ先に反応したのはサーシャだった。

「いただきます!」
「いただきます」

 待ちきれませんという顔でサーシャがスプーンを手にする。続いてメリンダさんやレヴィさんが食べ始めた。
 俺は、ちょっとドキドキしながら同じテーブルにいる彼らの反応を見ていた。

「お、美味しいです!」
「麦粥……には違いないけど、麦粥というのは悪い気がするくらい違うわね!」

 トーンとテンションの上がったサーシャとメリンダさんの賛辞は素直に嬉しい!
 男性陣はもはや無言でひたすら食べていた。  
 これは、大成功と思っていいんだよな?

「俺的には結構美味しくできたと思うけど、どうかな」

 恐る恐る隣のサーシャに尋ねると、サーシャはスプーンを握ったままで、急に真面目な顔になって俺の顔をじっと見つめた。
  
「ジョーさん……ずっと私と一緒にいてくれるんですよね?」
「う、うん?」

 待て、俺は今かなり確かな手応えでサーシャを餌付けした気がする……。むしろそれ以上ではないな。
 複雑な心境だ……。

 他の宿泊客も今日だけは朝食が無料と聞いて俺の麦粥を食べ、朝とは思えない盛り上がりを見せてくれた。
 その後で宿屋から「これを毎朝売れないか」と聞かれたけど、「原価が全然違いますよ」と言ったら考え込んでいた。多分、後で原価計算はすることになるな。
 
 
 そして朝食の後、俺とサーシャはクエリーさんと一緒にレベッカさんの蜜蜂亭に向かった。
 クエリーさんからはレベッカさんに既に話をしてもらっていて、穏やかな笑顔を浮かべたレベッカさんが俺たちを迎えてくれた。

「おはよう。ルゴシから話は聞いてるわ。新しい料理を出す店を考えてるそうね」
「ジョーです、改めてよろしくお願いします。料理を持ってきたので試食していただけないでしょうか」

 蜜蜂亭は何回か来ていて、レベッカさんとはお互い初めましてではない。ただ、注文以外のことで会話を交わしたのは初めてだった。

 魔法収納空間から取り出した鍋はまだ熱い。俺はそれをコンロに置くと、器を借りて盛り付けようとして――そこでレベッカさんに身振りで止められた。

 俺が使おうとした器より一回り小さい、本当に味見用の器ふたつにレベッカさんが麦粥をよそう。彼女はそれにスプーンを添えて自分とクエリーさんの前に置いた。

「最初はちょっとだけ味見にしたいの。後でアレンジしたくなると思うのよね」
「なるほど、そうですね」

 ここで鍋の中身を使い切ってしまったら、アレンジするときにまた一から作り直すことになる。レベッカさんの言うことは的を得ていた。

 いただきますと言ってから早速麦粥をパクパクと口に運ぶクエリーさんと対照的に、レベッカさんはスプーンで器の中身をかき混ぜて何が入っているかをチェックしているようだった。
 それから慎重に一口食べて、小さく頷いている。

「牛乳とベーコンの風味がとても合ってるわね。こんな風味のベーコンは初めて食べたわ」
「はい、俺が自分で作りました。後でそれも切り分けますから、食べてみてください」
「あら、ジョーって記憶喪失で経歴が謎の空間魔法使いって聞いてたけど、意外に多芸なのね。面白いわー」

 俺は冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
 レベッカさんのその情報は、きっとこの店に来るギルド職員や他の冒険者から仕入れたんだろうな。
 この人って情報屋の側面でも持ってるんじゃないだろうか。

「素人料理とは思えないくらい美味しかったわ。でも、ちょっと足したい物があるの。いいかしら」
「はい、レベッカさんが思うようにしてもらって結構です」

 器の中身を食べきると、レベッカさんは水に浸した干しトウモロコシを持ってきた。

「1日経過させてちょうだい」

 あくまで笑顔で言われる一言。
 怖ぇ……。
 だって、俺が時間経過まで操作できる空間魔法使いだってことはまだ一部しか知らないはずだぞ!?

 俺の内心の動揺はあまり顔には出ない。俺は「わかりました」と表向きそれを平然と受け取って一日経過させたものを取り出した。レベッカさんは戻したトウモロコシを丹念に水切りして、麦粥に足して煮込み始める。
 そうか、トウモロコシ入れたいけど季節的にないなと思ってたんだけど、干したものならあるんだな……。盲点だった。
 そして、迷わずそれを足したレベッカさんはさすがだ。

 トウモロコシを足して再度煮込んだ麦粥は、上にパセリをみじん切りにしたものを散らして出された。
 さすが本職の料理人だ。見せ方もうまい。
 白い麦粥の中に、ピンク色のベーコンと黄色いトウモロコシ、そして上に緑色が添えられたことで、彩りが増して見栄えが格段にアップしている。

 トウモロコシは日本の物ほど甘くはなかったが、俺が最初にイメージしていたものに大幅に近づいたのは間違いなかった。

「ルゴシ、どう?」
「こりゃうまい! 俺はこれなら毎朝食えるな!」
「今回はタマネギとベーコンを使って作りましたけど、他の作り方もいくつかあります」
「凄いわね、今度教えてちょうだい。それで、この麦粥だけど、私の店の営業時間を早めれば、新しく店を出店しなくても出せるようになるけど。どう?」

 あくまで笑顔のレベッカさんは、凄い提案を持ちかけてきた。
 新規出店のリスクはゼロ。その代わり、蜜蜂亭の利益は大幅アップの可能性と言うことだ。

 まあ、俺は金儲けが目当てなわけじゃなくて、「そういう店があったら便利だろうな。自分も美味しいものが食べたいな」という経営ノープランの提案だったから……。

「本職のレベッカさんにお任せします。ベーコンの作り方も全部教えますので」
「おい、ジョーくん、太っ腹すぎるぞ!?」

 慌てたクエリーさんの声を聞きながら、微笑むレベッカさんに俺は軽く頭を下げた。
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