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ネージュ編
14 大規模討伐という名のイノシシ狩り
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大猪の大規模討伐は春に行われる。
繁殖期が春から夏にかけてであり、冬の間に「今年はヤバいぞ」というのがわかった時点で判断されるのだ。
近々依頼がかけられるというのは冒険者の間で噂になっていたので、大規模討伐に参加するつもりのある冒険者はネージュにとどまっていた。
大猪大規模討伐の参加条件は、冒険者ランクが星2以上であること。
定員は100名だそうだ。
聞いたときには「どんだけ猪大量発生してるんだ?」と驚いた。
狩り場が山であることと、人数が多い方が全体的に危険が減ること、それとアーノルドさんのところがわかりやすい例だけど、「5人パーティーでも全員が戦闘要員な訳ではない」ことがこの人数になる理由だそうだ。
100人の冒険者が参加しても、その内実際に戦闘をするのは多くて70人程度ということらしい。
理由を聞けば納得だ。
あまりにも話をしないのでレヴィさんはどういう人なのかと思っていたら、彼はスカウトなのだそうだ。つまり、今回のような依頼ではかなり重要な役割を持っている。
たまたま山の話になったら凄い盛り上がってしまって、それからはふたりでテントの改良について話し合ってたりしている。
俺が日本で使っていたタイプのテントがあれば、冒険者生活がもう少しは快適になるんだよな。
今のテント、本当に夜露や風をしのぐ程度のもので快適さが低くて……。今の時期はまだ朝晩が肌寒いから、ナイロンとかポリエステルの生地のものがあれば耐水性も高くて軽くて風も通さない快適なテントができるんだけど。
生憎、その辺の知識チートは俺にはない。
レヴィさんと「大規模討伐が終わったら真剣にテント改造しよう」と妙な約束をしてしまった。
変なフラグが立たないといいけど。
翌日、アーノルドさんたちと一緒に朝食を食べながら、そんな話をしたら。
「えっ……。ジョーならその気になればテントどころか家を一軒持ち歩けるでしょ」
メリンダさんのその一言で、彼女以外の全員が真顔になった。
家を、持ち歩く!
その発想はなかった!
目をまん丸にしたサーシャが思わずテーブルに手を付いて立ち上がっている。
プリーストらしく食事には毎回感謝を捧げている彼女らしからぬ行動に、どれだけ彼女が驚いたかがわかった。
「そう言われてみればそうですね!? 家ほどの設備はいらないですけど、しっかりした造りの建物があれば凄く快適になりますね! ジョーさん、朝食が終わったら私たちの家の発注に行きますよ! 大猪にぶつかられても平気なくらい頑丈なのを作ってもらいましょう!」
「えええ、い、家!? 俺とサーシャの?」
「そうですよ! あ、でも商隊の護衛とかをするときのことも考えて、10人くらい中に寝られる大きさだといいですね。今後アーノルドさんたちとご一緒させてもらう時にも便利ですよ」
「アッ、ハイ……お仕事のための家、だよね」
「だって私たち、土地は持ってませんから。むしろ都市の外で使うための家ですね」
若干「俺とサーシャの家」についての認識が食い違っていた……。
階段6段飛ばしくらいだなと思ったら、1段も上れてなかった。
冒険者パーティーって厄介だな……。いろいろ誤認するよ。
「ジョー、家を持ち歩けるようになっても、テント開発はするよな!?」
何故か必死の形相でレヴィさんがスプーンを握りしめながら俺を見つめてくる。普段口数が少ない人だけに、余計に訴求力がある。
「それはやります。せっかくいろいろ考えたんですし、他の冒険者にとっても便利なものになるはずですから」
「そうか……よかった」
俺は改めてレヴィさんに頷いてみせると、麦粥を急ぎ気味に口に運んだ。
最初麦粥と言われたときに「噂には聞いていたけど何なんだ?」と思ったら、簡単な塩味だけのオートミールだった。
正直、それほど美味しいものではない。宿としても冒険者としても朝は何かと忙しく、「作るのも食べるのも簡単でいい」という程度の理由で出される朝食だ。
ちなみに俺の家では、オートミールとは何故か異様なバリエーションを持った料理だった。
牛乳で煮込んで蜂蜜を入れた甘いものや、少し水分を多めに作ったクラムチャウダーに一緒に入れて煮込んだもの、ベーコンとみじん切りの玉ねぎとトウモロコシで作ったスープに入れたものなど。
とにかくだいたいのスープには合わせたし、母が作るオートミール入りのクッキーも俺の好物だった。
便秘がちで常にダイエットをしているタイプの母が、ダイエットのために生み出したメニューだということは割と最近知ったことだった……。
こっちの麦粥は質素すぎるから、今度レシピでも提案してみるか。
商人のクエリーさんならもしかすると飛びつくかもしれない。
朝食を掻き込んだ後、俺はサーシャに引きずられるように大工ギルドへと向かった。
土地がないけども家を建てて欲しいというとんでもなく矛盾した要望だったが、俺が空間魔法使いだということを明かすとあっさりと承諾された。
恐るべし、ファンタジー世界!
念のために中は2部屋で、石造りで頑丈なものを、と金貨を積みつつ注文する。その場で図面を引かれて棚やトイレなども付けることを提案され、12万マギルで契約完了。ベッドは別口で用意して、魔法収納空間に入れておいて必要なときだけ設置することを提案された。
慣れてる、慣れてるぞ、大工ギルド……。
土地がないのに家を建てられるのかと思ったら、ギルドの資材置き場を使って建ててくれるそうだ。
馬車を作るよりは簡単だと大工ジョーク的なことを言われ、俺は無理に頬を引き攣らせるようにして笑った。
ほとんど全部サーシャ任せで、俺は隣で時々頷くだけのお仕事でした……。
大規模討伐の目的地は、ネージュから徒歩で3日ほどの距離にあるウォカムという山岳地域。この前行ったイスワとは全く別の方向だ。
事前に30人ほどを動員して、先遣隊として追い込みなどをしてあるそうだ。狩りをするにはある程度範囲が狭まった方がいいから、わざと餌を置いたりして行動範囲を狭めているらしい。
キャンプ地となるガツリーという街は物凄く賑わっていた。街の規模的にはイスワより少し大きいくらいなのに、100人以上の冒険者とギルド職員を受け入れるのだ。それも、数年に一度の定期イベントでもある。
街の規模より明らかに多い宿屋は満員だし、食べ物を売る露店まで出ている。それどころか、お土産屋まで声を張って客寄せをしていて驚きだ。
――初詣のときの神社かな。
俺は思わずそんな感想を持ってしまった。
「サーシャ、これって治安悪くなったりしないのかな」
「ギルド職員が同伴してしますから、何か問題を起こしたら降格という恐ろしい措置がありますよ」
「そうか、星2以上だから実績もあるし、その分失うものもあるってことか」
「そういうことだと思います。それに、アーノルドさんが参加しているというのも知れ渡ってますから、街で悪事を働く命知らずはいないですね」
「ああ、『勇者』だから」
アーノルドさんは性癖はアレだけど、性格自体は気さくで面倒見がいいし、正義感も強い。
人々のために働くことこそが勇者の使命。その代わりに受けた崇敬が力になるのだと、俺はサーシャから説明を受けた。
そんなアーノルドさんと、「殴り聖女」の二つ名が付いてる品行方正プリーストのサーシャがいる状態で悪事を働くのは、死亡フラグを立てるようなものだ。
少なくとも、俺なら絶対しない。
そしてサーシャがアーノルドさんのパーティーを追放されたという話は広まっているのか、漏れ聞こえる会話にもそんな言葉が混じっていた。
ふたりで歩いているときも、時々俺に突き刺さる視線を感じる。
「くっそー、サーシャちゃんをスカウトするチャンスだったのになあ」
「あの新顔、空間魔法の使い手らしいぜ。うまいことやりやがって」
「ぐっ、どっちもパーティーに誘いたいくらいだが、ふたりで活動できるのにわざわざ俺たちのところに入ってくれるわけないよな」
そういうことだ。ふたりで活動できるのに他のパーティーに入ったりしたら取り分が減る。
それに、俺という冒険者実績ゼロの相手だからこそサーシャはパーティーを組んだのであって、既存のパーティーに入ったらアーノルドさんの悪評が立つと気を遣っているのだ。
いろいろ、あり得ない。彼らにとっては残念ながら。
冒険者が揃ってから、ギルドの職員によって配置が発表される。俺とサーシャはアーノルドさんとは別のパーティーだけども、主戦力という意味なのか最も大猪が多いと予想される中央部に配置された。
「討伐目標はおよそ100頭です! 倒した大猪には印を付けてください! 各パーティーのスカウト及びギルドで依頼したスカウトは横取りなどの不正がないかを確認しますので、くれぐれも不正をしようなどと思わないように!」
ギルド職員による念入りな注意が入る。俺は緑色に染めた羽を入れた袋をサーシャに手渡した。これは事前に俺たちで用意したもので、サーシャの印になるらしい。
ピュイー、と高い音で笛が鳴る、
それが、大規模討伐の開始の合図だった。
「ベネ・ディシティ・アッティンブート……」
あちこちから同じ呪文が聞こえる。プリーストの最初の役目はパーティーのメンバーに補助魔法を掛けることだ。それはさすがに俺もわかる。
「イナ・オミーネ・ディミーナ・ロン・ネリ・タ・モーリ!」
「イナ・オミーネ・ディアム・ロン・ネリ・テットゥーコ!」
コディさんが僅かに早く呪文を唱えきり、5人の身体が淡く光った。
その一瞬後で、サーシャの呪文が終わってサーシャの身体が更に輝く。
――あれ? 5人?
「コディさん、まさかサーシャにも補助魔法を掛けましたか?」
「はい。僕は今回は完全に後方待機ですし、アーノルドさんと、ギャレンさんと、メリンダさんと、レヴィさんと、サーシャさんに」
「サーシャも自分に補助魔法掛けてましたよ!?」
「じゃあ倍掛けですね。別々の人間の魔法なら重複効果が出るんですよ」
「倍じゃありません、6倍掛けです!」
慌てた俺の言葉に、コディさんは不思議そうに首を傾げた。
この人、サーシャがパーティー追放になった理由をちゃんと知らないのか!
確かにアーノルドさんだったら詳しい説明なんてしなさそうだけど。
「サーシャは補助魔法を他人に掛けることができないんです。唱えても全部自分に掛かるので、いつも5倍掛けになってアーノルドさんより強くなってしまうんですよ!」
「はあああぁぁぁぁぁぁ!? なんですと!?」
俺とコディさんが安全な位置でムンクの叫びみたいな顔になっている間に、サーシャは風のように駆け去って行った。
6倍掛けサーシャ、どうなってしまうんだ!?
繁殖期が春から夏にかけてであり、冬の間に「今年はヤバいぞ」というのがわかった時点で判断されるのだ。
近々依頼がかけられるというのは冒険者の間で噂になっていたので、大規模討伐に参加するつもりのある冒険者はネージュにとどまっていた。
大猪大規模討伐の参加条件は、冒険者ランクが星2以上であること。
定員は100名だそうだ。
聞いたときには「どんだけ猪大量発生してるんだ?」と驚いた。
狩り場が山であることと、人数が多い方が全体的に危険が減ること、それとアーノルドさんのところがわかりやすい例だけど、「5人パーティーでも全員が戦闘要員な訳ではない」ことがこの人数になる理由だそうだ。
100人の冒険者が参加しても、その内実際に戦闘をするのは多くて70人程度ということらしい。
理由を聞けば納得だ。
あまりにも話をしないのでレヴィさんはどういう人なのかと思っていたら、彼はスカウトなのだそうだ。つまり、今回のような依頼ではかなり重要な役割を持っている。
たまたま山の話になったら凄い盛り上がってしまって、それからはふたりでテントの改良について話し合ってたりしている。
俺が日本で使っていたタイプのテントがあれば、冒険者生活がもう少しは快適になるんだよな。
今のテント、本当に夜露や風をしのぐ程度のもので快適さが低くて……。今の時期はまだ朝晩が肌寒いから、ナイロンとかポリエステルの生地のものがあれば耐水性も高くて軽くて風も通さない快適なテントができるんだけど。
生憎、その辺の知識チートは俺にはない。
レヴィさんと「大規模討伐が終わったら真剣にテント改造しよう」と妙な約束をしてしまった。
変なフラグが立たないといいけど。
翌日、アーノルドさんたちと一緒に朝食を食べながら、そんな話をしたら。
「えっ……。ジョーならその気になればテントどころか家を一軒持ち歩けるでしょ」
メリンダさんのその一言で、彼女以外の全員が真顔になった。
家を、持ち歩く!
その発想はなかった!
目をまん丸にしたサーシャが思わずテーブルに手を付いて立ち上がっている。
プリーストらしく食事には毎回感謝を捧げている彼女らしからぬ行動に、どれだけ彼女が驚いたかがわかった。
「そう言われてみればそうですね!? 家ほどの設備はいらないですけど、しっかりした造りの建物があれば凄く快適になりますね! ジョーさん、朝食が終わったら私たちの家の発注に行きますよ! 大猪にぶつかられても平気なくらい頑丈なのを作ってもらいましょう!」
「えええ、い、家!? 俺とサーシャの?」
「そうですよ! あ、でも商隊の護衛とかをするときのことも考えて、10人くらい中に寝られる大きさだといいですね。今後アーノルドさんたちとご一緒させてもらう時にも便利ですよ」
「アッ、ハイ……お仕事のための家、だよね」
「だって私たち、土地は持ってませんから。むしろ都市の外で使うための家ですね」
若干「俺とサーシャの家」についての認識が食い違っていた……。
階段6段飛ばしくらいだなと思ったら、1段も上れてなかった。
冒険者パーティーって厄介だな……。いろいろ誤認するよ。
「ジョー、家を持ち歩けるようになっても、テント開発はするよな!?」
何故か必死の形相でレヴィさんがスプーンを握りしめながら俺を見つめてくる。普段口数が少ない人だけに、余計に訴求力がある。
「それはやります。せっかくいろいろ考えたんですし、他の冒険者にとっても便利なものになるはずですから」
「そうか……よかった」
俺は改めてレヴィさんに頷いてみせると、麦粥を急ぎ気味に口に運んだ。
最初麦粥と言われたときに「噂には聞いていたけど何なんだ?」と思ったら、簡単な塩味だけのオートミールだった。
正直、それほど美味しいものではない。宿としても冒険者としても朝は何かと忙しく、「作るのも食べるのも簡単でいい」という程度の理由で出される朝食だ。
ちなみに俺の家では、オートミールとは何故か異様なバリエーションを持った料理だった。
牛乳で煮込んで蜂蜜を入れた甘いものや、少し水分を多めに作ったクラムチャウダーに一緒に入れて煮込んだもの、ベーコンとみじん切りの玉ねぎとトウモロコシで作ったスープに入れたものなど。
とにかくだいたいのスープには合わせたし、母が作るオートミール入りのクッキーも俺の好物だった。
便秘がちで常にダイエットをしているタイプの母が、ダイエットのために生み出したメニューだということは割と最近知ったことだった……。
こっちの麦粥は質素すぎるから、今度レシピでも提案してみるか。
商人のクエリーさんならもしかすると飛びつくかもしれない。
朝食を掻き込んだ後、俺はサーシャに引きずられるように大工ギルドへと向かった。
土地がないけども家を建てて欲しいというとんでもなく矛盾した要望だったが、俺が空間魔法使いだということを明かすとあっさりと承諾された。
恐るべし、ファンタジー世界!
念のために中は2部屋で、石造りで頑丈なものを、と金貨を積みつつ注文する。その場で図面を引かれて棚やトイレなども付けることを提案され、12万マギルで契約完了。ベッドは別口で用意して、魔法収納空間に入れておいて必要なときだけ設置することを提案された。
慣れてる、慣れてるぞ、大工ギルド……。
土地がないのに家を建てられるのかと思ったら、ギルドの資材置き場を使って建ててくれるそうだ。
馬車を作るよりは簡単だと大工ジョーク的なことを言われ、俺は無理に頬を引き攣らせるようにして笑った。
ほとんど全部サーシャ任せで、俺は隣で時々頷くだけのお仕事でした……。
大規模討伐の目的地は、ネージュから徒歩で3日ほどの距離にあるウォカムという山岳地域。この前行ったイスワとは全く別の方向だ。
事前に30人ほどを動員して、先遣隊として追い込みなどをしてあるそうだ。狩りをするにはある程度範囲が狭まった方がいいから、わざと餌を置いたりして行動範囲を狭めているらしい。
キャンプ地となるガツリーという街は物凄く賑わっていた。街の規模的にはイスワより少し大きいくらいなのに、100人以上の冒険者とギルド職員を受け入れるのだ。それも、数年に一度の定期イベントでもある。
街の規模より明らかに多い宿屋は満員だし、食べ物を売る露店まで出ている。それどころか、お土産屋まで声を張って客寄せをしていて驚きだ。
――初詣のときの神社かな。
俺は思わずそんな感想を持ってしまった。
「サーシャ、これって治安悪くなったりしないのかな」
「ギルド職員が同伴してしますから、何か問題を起こしたら降格という恐ろしい措置がありますよ」
「そうか、星2以上だから実績もあるし、その分失うものもあるってことか」
「そういうことだと思います。それに、アーノルドさんが参加しているというのも知れ渡ってますから、街で悪事を働く命知らずはいないですね」
「ああ、『勇者』だから」
アーノルドさんは性癖はアレだけど、性格自体は気さくで面倒見がいいし、正義感も強い。
人々のために働くことこそが勇者の使命。その代わりに受けた崇敬が力になるのだと、俺はサーシャから説明を受けた。
そんなアーノルドさんと、「殴り聖女」の二つ名が付いてる品行方正プリーストのサーシャがいる状態で悪事を働くのは、死亡フラグを立てるようなものだ。
少なくとも、俺なら絶対しない。
そしてサーシャがアーノルドさんのパーティーを追放されたという話は広まっているのか、漏れ聞こえる会話にもそんな言葉が混じっていた。
ふたりで歩いているときも、時々俺に突き刺さる視線を感じる。
「くっそー、サーシャちゃんをスカウトするチャンスだったのになあ」
「あの新顔、空間魔法の使い手らしいぜ。うまいことやりやがって」
「ぐっ、どっちもパーティーに誘いたいくらいだが、ふたりで活動できるのにわざわざ俺たちのところに入ってくれるわけないよな」
そういうことだ。ふたりで活動できるのに他のパーティーに入ったりしたら取り分が減る。
それに、俺という冒険者実績ゼロの相手だからこそサーシャはパーティーを組んだのであって、既存のパーティーに入ったらアーノルドさんの悪評が立つと気を遣っているのだ。
いろいろ、あり得ない。彼らにとっては残念ながら。
冒険者が揃ってから、ギルドの職員によって配置が発表される。俺とサーシャはアーノルドさんとは別のパーティーだけども、主戦力という意味なのか最も大猪が多いと予想される中央部に配置された。
「討伐目標はおよそ100頭です! 倒した大猪には印を付けてください! 各パーティーのスカウト及びギルドで依頼したスカウトは横取りなどの不正がないかを確認しますので、くれぐれも不正をしようなどと思わないように!」
ギルド職員による念入りな注意が入る。俺は緑色に染めた羽を入れた袋をサーシャに手渡した。これは事前に俺たちで用意したもので、サーシャの印になるらしい。
ピュイー、と高い音で笛が鳴る、
それが、大規模討伐の開始の合図だった。
「ベネ・ディシティ・アッティンブート……」
あちこちから同じ呪文が聞こえる。プリーストの最初の役目はパーティーのメンバーに補助魔法を掛けることだ。それはさすがに俺もわかる。
「イナ・オミーネ・ディミーナ・ロン・ネリ・タ・モーリ!」
「イナ・オミーネ・ディアム・ロン・ネリ・テットゥーコ!」
コディさんが僅かに早く呪文を唱えきり、5人の身体が淡く光った。
その一瞬後で、サーシャの呪文が終わってサーシャの身体が更に輝く。
――あれ? 5人?
「コディさん、まさかサーシャにも補助魔法を掛けましたか?」
「はい。僕は今回は完全に後方待機ですし、アーノルドさんと、ギャレンさんと、メリンダさんと、レヴィさんと、サーシャさんに」
「サーシャも自分に補助魔法掛けてましたよ!?」
「じゃあ倍掛けですね。別々の人間の魔法なら重複効果が出るんですよ」
「倍じゃありません、6倍掛けです!」
慌てた俺の言葉に、コディさんは不思議そうに首を傾げた。
この人、サーシャがパーティー追放になった理由をちゃんと知らないのか!
確かにアーノルドさんだったら詳しい説明なんてしなさそうだけど。
「サーシャは補助魔法を他人に掛けることができないんです。唱えても全部自分に掛かるので、いつも5倍掛けになってアーノルドさんより強くなってしまうんですよ!」
「はあああぁぁぁぁぁぁ!? なんですと!?」
俺とコディさんが安全な位置でムンクの叫びみたいな顔になっている間に、サーシャは風のように駆け去って行った。
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