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ネージュ編
11 まさかの事態
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程良くアーノルドさんがクールダウンしたところで、酒場にサーシャがやってきた。
背中にひとつ背負い、手にひとつ新しい白銀の盾を持っていて、俺は少し驚いた。
「盾、ふたつ買ったんだ。念入りだね」
「片方はジョーさんのですよ。今度特訓しましょうね」
「特訓」
確かに、俺は武器を持つ度胸はないし、盾で身を守ることを考えないといけないんだろうな。
それでもサーシャの口からさらりと特訓なんていう言葉が出ると、かなり怖い。
その晩は、アーノルドさんのパーティー5人と俺たちでテーブルを囲み、賑やかな夕飯になった。
サーシャが以前と同じに親しく接することをみんな喜んでくれたし、アーノルドさんのパーティー唯一の女性であるメリンダさんは特に嬉しそうでサーシャと抱き合って再会を喜んでいた。
「紹介するよ。サーシャの新しいパーティーメンバーで、俺の弟のジョーくんだ!」
「だから、弟じゃないですってば」
テーブルを囲んで頼んだ料理が来るのを待つ間、アーノルドさんが俺のことを周囲に紹介する。俺はすぐさま否定したけども、それを見た他の人は一様に「ああ……」と残念そうな顔をしていた。
「また悪い癖が出たのね」
「お前、その見境無く弟と妹を増やすの、いい加減にやめろ」
「ジョーさんも『お兄ちゃんと呼んでくれ』って言われたんですか?」
「言われたけど断った」
「どうしてだ! どうして俺のこの親愛の気持ちが伝わらないんだ!」
アーノルドさんは顔を歪めて号泣していたけど、周囲は慣れっこなのか特に彼を慰めることがない。
その中で、ひとりだけひくひくと頬を引き攣らせて引いていたのは、ひょろりと背の高い俺より少し年上に見える青年だった。
「ゆ、勇者アーノルドがこんな愉快な人だったなんて。……いや、しかし、私はアーノルドさんを支持します! 我が神、言葉と友誼の神タ・モリに誓って、友達の輪は広げるべきなのです!」
「タ・モリに友達の輪」
なんだろう、凄く記憶の底の方からそのフレーズが久々に引っ張り出された気がする。
「紹介しよう。こいつがうちの新しいプリースト。名前はコディだ。自分で言った通り、タ・モリのプリーストだ」
強面のギャレンさんが、まだテーブルに伏しているアーノルドさんに代わって紹介してくれた。さっきちらっと聞いたけど、このギャレンさんがサーシャの盾に関する戦闘術の師匠らしい。
「コディです。よろしくお願いします。先日上位聖魔法を習得して冒険者活動を始めたばかりです」
「俺も今日登録したばかりなんです。同期ですね」
「へええ、そうなんですか! ジョーさんは魔術師に見えるけど、何魔法を?」
「空間魔法です」
「「「「空間魔法」」」」
ギャレンさん、メリンダさん、レヴィさん、コディさんの声が綺麗にシンクロした。
「えっ、えっ、凄いわね? でもサーシャと組むにはちょうどいいんじゃない? ひとりじゃ魔物を倒せても素材を持ち帰るのも苦労するでしょうし、空間魔法は戦術を覚えるととんでもなく強いって聞いたわ。戦ってるところを実際に見たことはないけど」
「おい、アーノルド、そろそろ復活して会話に加わってくれ。今度の大規模討伐、サーシャとジョーにも同行してもらったらどうだ?」
ギャレンさんが容赦なくアーノルドさんを揺すると、その言葉でアーノルドさんががばりと顔を上げた。
「そうだ! 俺たちが大量に倒しても持ち帰る方法がないから、サーシャとジョーくんが一緒なら心強いな。考えておいてくれ。――あ、大規模討伐っていうのは、魔物にもよるんだが数年に一度周期的に大繁殖することがあって、その被害を防いで調節するために近隣の冒険者に一斉に依頼を出してする討伐のことなんだ。
今回は大猪だから危険度はそれほどでもないから、極端に俺とサーシャで討伐数が変わることもない。たくさん倒してたくさん持ち帰れば、サーシャの評判と関係なく俺の評価も上がるだろう。だから、一緒に行ってもらえると助かる」
言ってることだけ聞いてるとクズっぽいけど、アーノルドさんは崇敬で強さが変わるからな……。自分の評判を気にしてしまうのは仕方ないだろう。
それに、サーシャが一緒にいても大丈夫だと判断してもらえるのは、俺にとってもほっっとする。
「サーシャ、どうする?」
「はい、是非ご一緒させてください! 大猪ならジョーさんの盾の特訓の成果を試すにもちょうどいいです!」
「待て、サーシャ早まるな。普通の人間がいきなり大猪を盾でいなせると思うな」
「そうよサーシャ、あなたいろいろ天才的だから感覚がおかしいのよ。それはちゃんと心しておいて」
すかさずギャレンさんとメリンダさんのストップが入った……。
やっぱりサーシャの感覚っておかしいんだ……。
「僕は20歳で上位聖魔法を習得しましたからね。様々な補助魔法や上位の回復魔法を操る上位聖魔法を習得していると冒険者としては有利ですし、星2スタートなんですよ。メリンダさんの属性魔法やジョーさんの空間魔法と違って、努力を重ねれば習得できるものですが……それでも、15歳で上位聖魔法を習得したというのは快挙なんですよ」
「はい! 凄く頑張りました!」
サーシャが誇らしげに胸を張る。そして、アーノルドさんがてれんと眉を下げた。
「そうなんだよー! 俺の妹は優秀なんだ!」
「すみません、妹じゃありません」
「アーノルドは黙ってて」
「ほんとに少し黙ってろ」
……きっとこれが、アーノルドさんのパーティーの日常だったんだろうな。
寡黙なレヴィさんは目を細めてやりとりを眺めていたし、俺とコディさんは思わず笑ってしまった。
その日酒場の目玉商品になっていたのは古代竜のステーキで、程良く噛み応えがあって噛みしめる毎に濃厚な肉のうま味が広がってくる、語彙がなくなるほど美味しいステーキだった。牛とも豚とも全く違って、どっちかというと鹿とかに近い。心配していた臭みもなくて、パクパクと食べ進んでしまう。
脂はあまり入っていないが、脂身の部分は弾力があって甘みすらある。きっと干し肉なんかにしたりしても美味しいんだろう。
「メリンダさんは風と水の2属性の魔法使いなんですよ。複数属性を持ってる魔法使いも凄く珍しいんです」
「でもそこそこいるわよ。空間魔法と比べられないわ。そうね、もう空間魔法と同じくらい珍しいっていったら、3属性魔法ね」
「そんなに少ないんですか」
俺はアーノルドさんとサーシャと事前に打ち合わせをして、ギルドで嘘の経歴を申告した「記憶喪失」を貫くことになっていた。
だから、この世界で一般的に知られているような事を説明してもらうことができる。
そして、テトゥーコ様にあの時提示された「4属性魔法」はやっぱりとんでもないチートだと言うことが判明した。
いや、いくらチートでも要らないけど。
俺は空間魔法が結構気に入っている。メリンダさんの言う通り、サーシャと組むにはちょうどいいから。
翌日、俺はアーノルドさんに連れられて再度冒険者ギルドを訪れていた。
「やあ、ヘイズって今何か仕事を受けていたかな」
昨日俺の対応をしてくれた女性職員にアーノルドさんが気さくに話しかける。
「アーノルドさん! ……と、サーシャさんの彼氏の」
「か、彼氏!?」
女性職員のじっとりとした視線が俺に向けられる。確かにあの時のサーシャの態度は嫉妬丸出しに見えたけど、彼氏と思われたのか……。
「ああ、構わない。サーシャとジョーくんは俺の公認だ」
「ちょっ……アーノルドさん、何をいい加減なことを言ってるんですか!」
「兄の俺が認めてるんだから何も問題ないだろぉぉぉ!」
「だから兄じゃないですってば!」
俺とアーノルドさんが揉めている間に、女性職員はさっさと書類を調べ、「ヘイズさんは今は何も受けていないはずです」と回答をくれた。
「ありがとう! じゃあ、ヘイズの家まで行くか。ちょっと遠いから無駄足にならないように先にこっちに足を運んだんだ」
「へえ、冒険者でも家を持ってる人もいるんですね」
「なかなかこだわりが強い人でな。空間魔法使いだから金には困らないし、落ち着いた拠点が欲しいんだろう」
そして俺はこの都市で俺以外にたったひとりの空間魔法使いだというヘイズさんに師事して、空間魔法を基礎から学ぶことになった。
ちなみに、受講料は50万マギルだった。どえらい高い……。でも空間魔法なんて特殊なものを習うのだから仕方ないのだろうか。
ヘイズさんは40ちょっと過ぎくらいの、落ち着いた男性だった。
こぢんまりとしながらも趣味のいい家に住んでいて、庭には綺麗に花が植えられている。奥さんと子供もいて、あまり冒険者という感じはしない。
「さて、空間魔法の基礎から確認しよう。亜空間を開く呪文と、収納する呪文は当然覚えているな? 古代竜を搬送してきたという話は私にも届いているから、これは久々に若手が現れたものだと期待していたんだよ。ははは、まさか師事してくるなんて思ってもみなかったが」
「あー、それなんですが、俺は無詠唱なんです」
「無詠唱!?」
ヘイズさんは思いっきり目を剥いた。見せた方が早いと思って、俺は見えないファスナーを開けてそこから大岩を出して見せた。
「…………とんでもないルーキーがいたもんだ」
がくりとヘイズさんの肩が落ちる。
「レベルが上がれば、次元を繋げて移動もできると聞いたんですが、どのくらい修行すればできるようになるんでしょうか?」
「空間移動!? あ、あれはほとんど伝説の域にあるもので、存在だけは伝えられているが……」
「そうなんですか」
今度は俺が肩を落とす番だった。どこでもドア、欲しかったなあ。
「しかし、無詠唱で空間魔法を発動できる相手に私が教えられることはない……。そうだな、理論なら女神テトゥーコの神殿に図書館が付属しているからそこへ行って本を読むといい。……受講料は返そう」
「は、え?」
なんと、僅か数分で空間魔法の師匠を失ってしまった!!
背中にひとつ背負い、手にひとつ新しい白銀の盾を持っていて、俺は少し驚いた。
「盾、ふたつ買ったんだ。念入りだね」
「片方はジョーさんのですよ。今度特訓しましょうね」
「特訓」
確かに、俺は武器を持つ度胸はないし、盾で身を守ることを考えないといけないんだろうな。
それでもサーシャの口からさらりと特訓なんていう言葉が出ると、かなり怖い。
その晩は、アーノルドさんのパーティー5人と俺たちでテーブルを囲み、賑やかな夕飯になった。
サーシャが以前と同じに親しく接することをみんな喜んでくれたし、アーノルドさんのパーティー唯一の女性であるメリンダさんは特に嬉しそうでサーシャと抱き合って再会を喜んでいた。
「紹介するよ。サーシャの新しいパーティーメンバーで、俺の弟のジョーくんだ!」
「だから、弟じゃないですってば」
テーブルを囲んで頼んだ料理が来るのを待つ間、アーノルドさんが俺のことを周囲に紹介する。俺はすぐさま否定したけども、それを見た他の人は一様に「ああ……」と残念そうな顔をしていた。
「また悪い癖が出たのね」
「お前、その見境無く弟と妹を増やすの、いい加減にやめろ」
「ジョーさんも『お兄ちゃんと呼んでくれ』って言われたんですか?」
「言われたけど断った」
「どうしてだ! どうして俺のこの親愛の気持ちが伝わらないんだ!」
アーノルドさんは顔を歪めて号泣していたけど、周囲は慣れっこなのか特に彼を慰めることがない。
その中で、ひとりだけひくひくと頬を引き攣らせて引いていたのは、ひょろりと背の高い俺より少し年上に見える青年だった。
「ゆ、勇者アーノルドがこんな愉快な人だったなんて。……いや、しかし、私はアーノルドさんを支持します! 我が神、言葉と友誼の神タ・モリに誓って、友達の輪は広げるべきなのです!」
「タ・モリに友達の輪」
なんだろう、凄く記憶の底の方からそのフレーズが久々に引っ張り出された気がする。
「紹介しよう。こいつがうちの新しいプリースト。名前はコディだ。自分で言った通り、タ・モリのプリーストだ」
強面のギャレンさんが、まだテーブルに伏しているアーノルドさんに代わって紹介してくれた。さっきちらっと聞いたけど、このギャレンさんがサーシャの盾に関する戦闘術の師匠らしい。
「コディです。よろしくお願いします。先日上位聖魔法を習得して冒険者活動を始めたばかりです」
「俺も今日登録したばかりなんです。同期ですね」
「へええ、そうなんですか! ジョーさんは魔術師に見えるけど、何魔法を?」
「空間魔法です」
「「「「空間魔法」」」」
ギャレンさん、メリンダさん、レヴィさん、コディさんの声が綺麗にシンクロした。
「えっ、えっ、凄いわね? でもサーシャと組むにはちょうどいいんじゃない? ひとりじゃ魔物を倒せても素材を持ち帰るのも苦労するでしょうし、空間魔法は戦術を覚えるととんでもなく強いって聞いたわ。戦ってるところを実際に見たことはないけど」
「おい、アーノルド、そろそろ復活して会話に加わってくれ。今度の大規模討伐、サーシャとジョーにも同行してもらったらどうだ?」
ギャレンさんが容赦なくアーノルドさんを揺すると、その言葉でアーノルドさんががばりと顔を上げた。
「そうだ! 俺たちが大量に倒しても持ち帰る方法がないから、サーシャとジョーくんが一緒なら心強いな。考えておいてくれ。――あ、大規模討伐っていうのは、魔物にもよるんだが数年に一度周期的に大繁殖することがあって、その被害を防いで調節するために近隣の冒険者に一斉に依頼を出してする討伐のことなんだ。
今回は大猪だから危険度はそれほどでもないから、極端に俺とサーシャで討伐数が変わることもない。たくさん倒してたくさん持ち帰れば、サーシャの評判と関係なく俺の評価も上がるだろう。だから、一緒に行ってもらえると助かる」
言ってることだけ聞いてるとクズっぽいけど、アーノルドさんは崇敬で強さが変わるからな……。自分の評判を気にしてしまうのは仕方ないだろう。
それに、サーシャが一緒にいても大丈夫だと判断してもらえるのは、俺にとってもほっっとする。
「サーシャ、どうする?」
「はい、是非ご一緒させてください! 大猪ならジョーさんの盾の特訓の成果を試すにもちょうどいいです!」
「待て、サーシャ早まるな。普通の人間がいきなり大猪を盾でいなせると思うな」
「そうよサーシャ、あなたいろいろ天才的だから感覚がおかしいのよ。それはちゃんと心しておいて」
すかさずギャレンさんとメリンダさんのストップが入った……。
やっぱりサーシャの感覚っておかしいんだ……。
「僕は20歳で上位聖魔法を習得しましたからね。様々な補助魔法や上位の回復魔法を操る上位聖魔法を習得していると冒険者としては有利ですし、星2スタートなんですよ。メリンダさんの属性魔法やジョーさんの空間魔法と違って、努力を重ねれば習得できるものですが……それでも、15歳で上位聖魔法を習得したというのは快挙なんですよ」
「はい! 凄く頑張りました!」
サーシャが誇らしげに胸を張る。そして、アーノルドさんがてれんと眉を下げた。
「そうなんだよー! 俺の妹は優秀なんだ!」
「すみません、妹じゃありません」
「アーノルドは黙ってて」
「ほんとに少し黙ってろ」
……きっとこれが、アーノルドさんのパーティーの日常だったんだろうな。
寡黙なレヴィさんは目を細めてやりとりを眺めていたし、俺とコディさんは思わず笑ってしまった。
その日酒場の目玉商品になっていたのは古代竜のステーキで、程良く噛み応えがあって噛みしめる毎に濃厚な肉のうま味が広がってくる、語彙がなくなるほど美味しいステーキだった。牛とも豚とも全く違って、どっちかというと鹿とかに近い。心配していた臭みもなくて、パクパクと食べ進んでしまう。
脂はあまり入っていないが、脂身の部分は弾力があって甘みすらある。きっと干し肉なんかにしたりしても美味しいんだろう。
「メリンダさんは風と水の2属性の魔法使いなんですよ。複数属性を持ってる魔法使いも凄く珍しいんです」
「でもそこそこいるわよ。空間魔法と比べられないわ。そうね、もう空間魔法と同じくらい珍しいっていったら、3属性魔法ね」
「そんなに少ないんですか」
俺はアーノルドさんとサーシャと事前に打ち合わせをして、ギルドで嘘の経歴を申告した「記憶喪失」を貫くことになっていた。
だから、この世界で一般的に知られているような事を説明してもらうことができる。
そして、テトゥーコ様にあの時提示された「4属性魔法」はやっぱりとんでもないチートだと言うことが判明した。
いや、いくらチートでも要らないけど。
俺は空間魔法が結構気に入っている。メリンダさんの言う通り、サーシャと組むにはちょうどいいから。
翌日、俺はアーノルドさんに連れられて再度冒険者ギルドを訪れていた。
「やあ、ヘイズって今何か仕事を受けていたかな」
昨日俺の対応をしてくれた女性職員にアーノルドさんが気さくに話しかける。
「アーノルドさん! ……と、サーシャさんの彼氏の」
「か、彼氏!?」
女性職員のじっとりとした視線が俺に向けられる。確かにあの時のサーシャの態度は嫉妬丸出しに見えたけど、彼氏と思われたのか……。
「ああ、構わない。サーシャとジョーくんは俺の公認だ」
「ちょっ……アーノルドさん、何をいい加減なことを言ってるんですか!」
「兄の俺が認めてるんだから何も問題ないだろぉぉぉ!」
「だから兄じゃないですってば!」
俺とアーノルドさんが揉めている間に、女性職員はさっさと書類を調べ、「ヘイズさんは今は何も受けていないはずです」と回答をくれた。
「ありがとう! じゃあ、ヘイズの家まで行くか。ちょっと遠いから無駄足にならないように先にこっちに足を運んだんだ」
「へえ、冒険者でも家を持ってる人もいるんですね」
「なかなかこだわりが強い人でな。空間魔法使いだから金には困らないし、落ち着いた拠点が欲しいんだろう」
そして俺はこの都市で俺以外にたったひとりの空間魔法使いだというヘイズさんに師事して、空間魔法を基礎から学ぶことになった。
ちなみに、受講料は50万マギルだった。どえらい高い……。でも空間魔法なんて特殊なものを習うのだから仕方ないのだろうか。
ヘイズさんは40ちょっと過ぎくらいの、落ち着いた男性だった。
こぢんまりとしながらも趣味のいい家に住んでいて、庭には綺麗に花が植えられている。奥さんと子供もいて、あまり冒険者という感じはしない。
「さて、空間魔法の基礎から確認しよう。亜空間を開く呪文と、収納する呪文は当然覚えているな? 古代竜を搬送してきたという話は私にも届いているから、これは久々に若手が現れたものだと期待していたんだよ。ははは、まさか師事してくるなんて思ってもみなかったが」
「あー、それなんですが、俺は無詠唱なんです」
「無詠唱!?」
ヘイズさんは思いっきり目を剥いた。見せた方が早いと思って、俺は見えないファスナーを開けてそこから大岩を出して見せた。
「…………とんでもないルーキーがいたもんだ」
がくりとヘイズさんの肩が落ちる。
「レベルが上がれば、次元を繋げて移動もできると聞いたんですが、どのくらい修行すればできるようになるんでしょうか?」
「空間移動!? あ、あれはほとんど伝説の域にあるもので、存在だけは伝えられているが……」
「そうなんですか」
今度は俺が肩を落とす番だった。どこでもドア、欲しかったなあ。
「しかし、無詠唱で空間魔法を発動できる相手に私が教えられることはない……。そうだな、理論なら女神テトゥーコの神殿に図書館が付属しているからそこへ行って本を読むといい。……受講料は返そう」
「は、え?」
なんと、僅か数分で空間魔法の師匠を失ってしまった!!
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