110 / 154
110 勇気ある者
しおりを挟む
「ひとりでも多くの人たちに石けんを使って貰うには、まず一番効果を実感しやすい高級なライン、そして同じように効果を肌身に感じられる労働者向けに作るのがよいと考えました。
家庭の中で稼ぎ手である人が使って『これはよい』と感じた物なら――そしてそれが手軽に手に取れる価格であるなら、それは家族も使う物になるでしょう。いずれは石けんのブランドのみを独立させて運用することも視野に入れております」
カモミールが話し終えると、マシューが侯爵に向かって礼をした。「僭越ながら」と前置きをして話し始める。
「マルセラ石けんには水とオリーブオイル以外は使ってはいけないという決まり事がございます。
マルセラ石けんを名乗らなければ、様々な副材料を入れることも可能です。例えばこの石けんですが、夏の労働者向けと言うことで、皮脂を落としやすくするクレイ以外に、ミントの成分を入れることを検討しております。
これから1リットルの油脂を石けんにいたしますが、それを3つに分け、ひとつには何も入れず、ひとつにはミントの精油を、最後のひとつにはメントールという成分のみが結晶化した物を砕いて混ぜる予定でございます。
うまく行けば、体を洗った後に清涼感を感じ、風呂上がりの暑さを緩和できる物になりまする」
「風呂上がりの暑さを緩和、と。それは面白い。石けんとは奥が深いものなのだな、今までは『必要な物』『使いにくいがこんなもの』と思って使っていたが、カモミール嬢の持ってきてくれた石けんを使ってから私も認識を新たにしたよ。
確かに、病気の予防としても入浴は必須の物であるし、様々な種類の中から自分に合った物を選べるならそれは良いことだろう。――ふむ、石けんのブランドのみを独立運用と言ったが、新しい工房用の土地などが必要になったら言いなさい。カールセンの中では厳しいかもしれないが、日帰りで通える近場でなら支援もできる」
「ありがとうございます。――ですが、わたくしの工房ばかりそのように目を掛けていただいて、他の工房との不公平感が出たりはいたしませんでしょうか」
都市外の土地と聞いて「その手があったか」とカモミールは思った。けれど、基本的に侯爵領の中で都市の外に勝手に建物を建てることはできず、侯爵の許可が要る。
それをしないと、街道を塞ぐ形で家を建て、通行料を取ろうとする不届き者などが現れるからだ。
石けん作り――特に冷製法は熟成の期間が長いので、作成してから出荷するまでの石けんの置き場が場所を食う。今までは屋根裏に置いてきたが、あまり作成数は増やせない。
そのために、人を選んで外注という方法も考えているのだが。
「現在この石けんは領内でしか作られていない。王都で購入した貴族が自領で手に入れるのは不可能だ。それは輸出品になり得るということだよ。マルセラ石けんならばどこでも手に入るし、実績があるから使い続ける人間も多いだろう。
けれど、この石けんの使い心地の良さを知ってしまったら、戻れるだろうか? 私としては戻れないと思う。ならば、今後の生産量は増やす一方になるだろう。この工房だけでは手狭だと思うので、将来を見越してこのような提案をさせて貰った。
後は、どうやってこの冷製法の石けんを広めるとっかかりを作るかだが」
侯爵は冷製法の石けんを領の推奨産業として扱うことも視野に入れているようだ。カモミールは急に話が大きくなって内心焦りを感じていたが、この工房だけでは手に余ると思えば石けん職人を雇い入れればいい話だ。
材料次第でマルセラ石けんと同等、もしくはそれ以上の利益を出すことも可能とキャリーが試算をしているし、石けんは消耗品だから手堅い商売である。
「まずは、当工房と取引のあるアイアランド鉱工商会の鉱夫寮に持ち込み、試供品を無償で使って貰うということを考えております」
「アイアランド鉱工商会にも話は通っておりまして、最初だけにせよ無料で石けんを置いてくれるならありがたい、との答えも貰っております」
キャリーがカモミールの言葉に補足した。その話はまだ聞いていなかったのでカモミールはキャリーの行動の速さに驚くばかりだった。確かに、福利厚生の一環として寮の風呂の石けんは商会が買って置いているので、無料で貰えるならとふたつ返事しそうである。
「なるほど。実際に使って貰って広めると言うことか。ならば、カールセン内の公営の浴場に置く許可も出そう。ただし、私が出すのは許可だけで、実際の石けんは工房の持ち出しになるからあまりやり過ぎないように」
思わずカモミールとキャリーとマシューは顔を見合わせた。共同浴場に置けるなら、告知さえすればこの石けんは広まるだろう。
全ての浴場に置く必要はない。数カ所選んで置けば、話を聞いた人間は興味があれば試しに来るだろう。その上で、既存のマルセラ石けんがいいというならば、それを選ぶのも自由なのだから。
「侯爵様のご厚意に感謝いたします。その際には事前にご連絡を差し上げることにいたします」
石けんに使う油の温度もちょうどよくなったので、そこからは実際に石けん作りを見てもらうこととなった。
先に皮膚に付いたり目に入ったりしては危険な薬品を扱うことを知らせ、長い手袋と眼鏡をしたテオが石けんを攪拌する。テオには本来必要ないのだが、これをしないのも不自然なのだ。
金色だったオイルが、薬品を入れるにつれて不透明になっていき、まるでカスタードクリームのようにとろりとしてくる。侯爵は少し離れた場所からそれを興味深そうに見ていた。
薬品が全て入ると、長い攪拌の時間になる。視察の時間中に型入れまで見せたいので、一番力があるテオが続けて攪拌をすることになっている。
「ここから攪拌で化学反応を進めて参ります。ですが、時間が掛かりますので侯爵様にはその間別の仕事をご覧いただきます」
テーブルの上に並んでいたボウルやメスカップは、既にキャリーが流しに移動している。洗うときも多少危険なので後で洗うつもりだ。
カモミールがテーブルに並べたのは、様々な精油と試香紙だ。これから香水の調香を見せるつもりである。
「現在ヴィアローズには男性向けの商品はございません。ですが、男性向けの香水は確実に需要がある商品ですので構想を練って参りました。本日行いますのは、ある程度方向性を決めてきたブレンドを、実際に試して香りを決定することでございます」
侯爵と執事が頷いている。以前練り香水を作って見せたこともあり、侯爵なら香水の作り方に興味を持って貰えると思ったのは正解だったようだ。
「当工房はジェンキンス侯爵家と縁が深い工房と自負しております。そして、この工房はかつてテオドール・フレーメが使った工房でもあります。
錬金術師として誤った道に進まないよう、そしてこの地に住む民として誇りを忘れないよう、新しい香水のメインの香りとしてタイムを使わせていただきます」
カモミールはタイムの精油を3枚の試香紙に垂らし、2枚を執事に渡した。彼はまず自分でその香りを確認し、安全を確認してから侯爵に渡した。
カモミールもタイムの香りを聞きながらこの香りの特徴について説明する。
「この香りは侯爵様にも馴染み深いものと存じます。若干甘みを感じる爽やかな草の香りで、緊張を和らげたり元気を出す心への作用がございます。香水としては最初に香るトップノートという部分に該当しますので、この香りに深みを持たせ、香水として長い時間で香りの変化を楽しめるような他の香りと組み合わせて参ります」
事前に選んでおいたいくつかの香りと、タイムの香りを合わせてみる。試香紙の下の方に精油の名前をメモし、上部に精油を垂らす。そしていくつかの試香紙を一緒に持って手で扇ぎ、香りを確かめた。
最初はレモンを入れていたが、香りが軽くなりすぎる。量次第だが、タイムが負ける気がした。一番最後に香るラストノートとしてベチパーというイネ科の植物の精油を入れていたが、これは単独で嗅ぐと「土の匂い……」と思うのに、ブレンドに使うとどっしりとした深みを与えられるので重宝する。
いくつかの組み合わせを侯爵と執事にも試してもらい、意見を貰いながら調節する。
ヴィアローズと言えばバラだが、今回は差別化を図るためにも使わない。
試行錯誤の末、小さなビーカーにカモミールはブレンドを完成させた。
結局悩みに悩んで、王都で買ってきた松の精油なども使い、少しだけグレープフルーツを入れたりもした。レモンよりもほろ苦い香りがするので、爽やかさと力強さを出したいと思ったカモミールのイメージに合ったのだ。
何をどれだけ入れたかは全てメモに残し、カモミールはアルコールで希釈してパルファムに仕上げるとそれを香水瓶に入れた。
「この地で戦った在りし日の勇敢な人々を讃えるために作りました。侯爵様、代々この地をお守りくださったご先祖を偲び、お受け取りくださいませ」
タイムの香水は侯爵に相応しいだろう。カモミールが香水瓶を差し出すと、侯爵はそれを直接受け取りながら目を見開いた。
「なんという……。香水ひとつに、そのような想いを込めることができるとは。
カモミール嬢、この香水は是非販売して欲しい。平和な時代を甘受する我々は、勇敢に戦った過去の人々を忘れてはいけないのだ。華やかさばかりに気を取られている今の貴族には、血なまぐさい過去があった事実を思い出して欲しいと常々思っていた。
その辺の説教は程ほどに抑えて、過去の勇者を讃える文を私が書いて署名した物を印刷して香水につけることにしよう」
元々販売するつもりで作った香水ではある。
けれど侯爵のお墨付きとなると付加価値が違う。思わぬ支援にカモミールが目を瞬かせていると、侯爵は少し苦い表情になる。
「今この地で、過去の戦争に思いを馳せられるのは、我がジェンキンス侯爵家の者以外にはおそらくカモミール嬢だけなのではないかと思う。そして、君が殊更にその事実を胸に刻んでいるのは、この工房を使う錬金術師だからだろう」
確かにそうかもしれない。けれどカモミールにとっては、それはテオのおかげだった。
家庭の中で稼ぎ手である人が使って『これはよい』と感じた物なら――そしてそれが手軽に手に取れる価格であるなら、それは家族も使う物になるでしょう。いずれは石けんのブランドのみを独立させて運用することも視野に入れております」
カモミールが話し終えると、マシューが侯爵に向かって礼をした。「僭越ながら」と前置きをして話し始める。
「マルセラ石けんには水とオリーブオイル以外は使ってはいけないという決まり事がございます。
マルセラ石けんを名乗らなければ、様々な副材料を入れることも可能です。例えばこの石けんですが、夏の労働者向けと言うことで、皮脂を落としやすくするクレイ以外に、ミントの成分を入れることを検討しております。
これから1リットルの油脂を石けんにいたしますが、それを3つに分け、ひとつには何も入れず、ひとつにはミントの精油を、最後のひとつにはメントールという成分のみが結晶化した物を砕いて混ぜる予定でございます。
うまく行けば、体を洗った後に清涼感を感じ、風呂上がりの暑さを緩和できる物になりまする」
「風呂上がりの暑さを緩和、と。それは面白い。石けんとは奥が深いものなのだな、今までは『必要な物』『使いにくいがこんなもの』と思って使っていたが、カモミール嬢の持ってきてくれた石けんを使ってから私も認識を新たにしたよ。
確かに、病気の予防としても入浴は必須の物であるし、様々な種類の中から自分に合った物を選べるならそれは良いことだろう。――ふむ、石けんのブランドのみを独立運用と言ったが、新しい工房用の土地などが必要になったら言いなさい。カールセンの中では厳しいかもしれないが、日帰りで通える近場でなら支援もできる」
「ありがとうございます。――ですが、わたくしの工房ばかりそのように目を掛けていただいて、他の工房との不公平感が出たりはいたしませんでしょうか」
都市外の土地と聞いて「その手があったか」とカモミールは思った。けれど、基本的に侯爵領の中で都市の外に勝手に建物を建てることはできず、侯爵の許可が要る。
それをしないと、街道を塞ぐ形で家を建て、通行料を取ろうとする不届き者などが現れるからだ。
石けん作り――特に冷製法は熟成の期間が長いので、作成してから出荷するまでの石けんの置き場が場所を食う。今までは屋根裏に置いてきたが、あまり作成数は増やせない。
そのために、人を選んで外注という方法も考えているのだが。
「現在この石けんは領内でしか作られていない。王都で購入した貴族が自領で手に入れるのは不可能だ。それは輸出品になり得るということだよ。マルセラ石けんならばどこでも手に入るし、実績があるから使い続ける人間も多いだろう。
けれど、この石けんの使い心地の良さを知ってしまったら、戻れるだろうか? 私としては戻れないと思う。ならば、今後の生産量は増やす一方になるだろう。この工房だけでは手狭だと思うので、将来を見越してこのような提案をさせて貰った。
後は、どうやってこの冷製法の石けんを広めるとっかかりを作るかだが」
侯爵は冷製法の石けんを領の推奨産業として扱うことも視野に入れているようだ。カモミールは急に話が大きくなって内心焦りを感じていたが、この工房だけでは手に余ると思えば石けん職人を雇い入れればいい話だ。
材料次第でマルセラ石けんと同等、もしくはそれ以上の利益を出すことも可能とキャリーが試算をしているし、石けんは消耗品だから手堅い商売である。
「まずは、当工房と取引のあるアイアランド鉱工商会の鉱夫寮に持ち込み、試供品を無償で使って貰うということを考えております」
「アイアランド鉱工商会にも話は通っておりまして、最初だけにせよ無料で石けんを置いてくれるならありがたい、との答えも貰っております」
キャリーがカモミールの言葉に補足した。その話はまだ聞いていなかったのでカモミールはキャリーの行動の速さに驚くばかりだった。確かに、福利厚生の一環として寮の風呂の石けんは商会が買って置いているので、無料で貰えるならとふたつ返事しそうである。
「なるほど。実際に使って貰って広めると言うことか。ならば、カールセン内の公営の浴場に置く許可も出そう。ただし、私が出すのは許可だけで、実際の石けんは工房の持ち出しになるからあまりやり過ぎないように」
思わずカモミールとキャリーとマシューは顔を見合わせた。共同浴場に置けるなら、告知さえすればこの石けんは広まるだろう。
全ての浴場に置く必要はない。数カ所選んで置けば、話を聞いた人間は興味があれば試しに来るだろう。その上で、既存のマルセラ石けんがいいというならば、それを選ぶのも自由なのだから。
「侯爵様のご厚意に感謝いたします。その際には事前にご連絡を差し上げることにいたします」
石けんに使う油の温度もちょうどよくなったので、そこからは実際に石けん作りを見てもらうこととなった。
先に皮膚に付いたり目に入ったりしては危険な薬品を扱うことを知らせ、長い手袋と眼鏡をしたテオが石けんを攪拌する。テオには本来必要ないのだが、これをしないのも不自然なのだ。
金色だったオイルが、薬品を入れるにつれて不透明になっていき、まるでカスタードクリームのようにとろりとしてくる。侯爵は少し離れた場所からそれを興味深そうに見ていた。
薬品が全て入ると、長い攪拌の時間になる。視察の時間中に型入れまで見せたいので、一番力があるテオが続けて攪拌をすることになっている。
「ここから攪拌で化学反応を進めて参ります。ですが、時間が掛かりますので侯爵様にはその間別の仕事をご覧いただきます」
テーブルの上に並んでいたボウルやメスカップは、既にキャリーが流しに移動している。洗うときも多少危険なので後で洗うつもりだ。
カモミールがテーブルに並べたのは、様々な精油と試香紙だ。これから香水の調香を見せるつもりである。
「現在ヴィアローズには男性向けの商品はございません。ですが、男性向けの香水は確実に需要がある商品ですので構想を練って参りました。本日行いますのは、ある程度方向性を決めてきたブレンドを、実際に試して香りを決定することでございます」
侯爵と執事が頷いている。以前練り香水を作って見せたこともあり、侯爵なら香水の作り方に興味を持って貰えると思ったのは正解だったようだ。
「当工房はジェンキンス侯爵家と縁が深い工房と自負しております。そして、この工房はかつてテオドール・フレーメが使った工房でもあります。
錬金術師として誤った道に進まないよう、そしてこの地に住む民として誇りを忘れないよう、新しい香水のメインの香りとしてタイムを使わせていただきます」
カモミールはタイムの精油を3枚の試香紙に垂らし、2枚を執事に渡した。彼はまず自分でその香りを確認し、安全を確認してから侯爵に渡した。
カモミールもタイムの香りを聞きながらこの香りの特徴について説明する。
「この香りは侯爵様にも馴染み深いものと存じます。若干甘みを感じる爽やかな草の香りで、緊張を和らげたり元気を出す心への作用がございます。香水としては最初に香るトップノートという部分に該当しますので、この香りに深みを持たせ、香水として長い時間で香りの変化を楽しめるような他の香りと組み合わせて参ります」
事前に選んでおいたいくつかの香りと、タイムの香りを合わせてみる。試香紙の下の方に精油の名前をメモし、上部に精油を垂らす。そしていくつかの試香紙を一緒に持って手で扇ぎ、香りを確かめた。
最初はレモンを入れていたが、香りが軽くなりすぎる。量次第だが、タイムが負ける気がした。一番最後に香るラストノートとしてベチパーというイネ科の植物の精油を入れていたが、これは単独で嗅ぐと「土の匂い……」と思うのに、ブレンドに使うとどっしりとした深みを与えられるので重宝する。
いくつかの組み合わせを侯爵と執事にも試してもらい、意見を貰いながら調節する。
ヴィアローズと言えばバラだが、今回は差別化を図るためにも使わない。
試行錯誤の末、小さなビーカーにカモミールはブレンドを完成させた。
結局悩みに悩んで、王都で買ってきた松の精油なども使い、少しだけグレープフルーツを入れたりもした。レモンよりもほろ苦い香りがするので、爽やかさと力強さを出したいと思ったカモミールのイメージに合ったのだ。
何をどれだけ入れたかは全てメモに残し、カモミールはアルコールで希釈してパルファムに仕上げるとそれを香水瓶に入れた。
「この地で戦った在りし日の勇敢な人々を讃えるために作りました。侯爵様、代々この地をお守りくださったご先祖を偲び、お受け取りくださいませ」
タイムの香水は侯爵に相応しいだろう。カモミールが香水瓶を差し出すと、侯爵はそれを直接受け取りながら目を見開いた。
「なんという……。香水ひとつに、そのような想いを込めることができるとは。
カモミール嬢、この香水は是非販売して欲しい。平和な時代を甘受する我々は、勇敢に戦った過去の人々を忘れてはいけないのだ。華やかさばかりに気を取られている今の貴族には、血なまぐさい過去があった事実を思い出して欲しいと常々思っていた。
その辺の説教は程ほどに抑えて、過去の勇者を讃える文を私が書いて署名した物を印刷して香水につけることにしよう」
元々販売するつもりで作った香水ではある。
けれど侯爵のお墨付きとなると付加価値が違う。思わぬ支援にカモミールが目を瞬かせていると、侯爵は少し苦い表情になる。
「今この地で、過去の戦争に思いを馳せられるのは、我がジェンキンス侯爵家の者以外にはおそらくカモミール嬢だけなのではないかと思う。そして、君が殊更にその事実を胸に刻んでいるのは、この工房を使う錬金術師だからだろう」
確かにそうかもしれない。けれどカモミールにとっては、それはテオのおかげだった。
20
お気に入りに追加
638
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~
玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。
彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。
そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。
過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。
それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。
非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。
無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。
巻き戻りファンタジー。
ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。
ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。
楽しんでくれたらうれしいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?
まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。
☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。
☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。
☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。
☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!
ちゃっぷ
ファンタジー
誰もが動物神の加護を得て、魔法を使ったり身体能力を向上させたり、動物を使役できる世界であまりにも異質で前例のない『蟲神』の加護を得た良家の娘・ハシャラ。
周りの人間はそんな加護を小さき生物の加護だと嘲笑し、気味が悪いと恐怖・侮蔑・軽蔑の視線を向け、家族はそんな主人公を家から追い出した。
お情けで譲渡された辺境の村の領地権を持ち、小さな屋敷に来たハシャラ。
薄暗く埃っぽい屋敷……絶望する彼女の前に、虫型の魔物が現れる。
悲鳴を上げ、気絶するハシャラ。
ここまでかと覚悟もしたけれど、次に目覚めたとき、彼女は最強の味方たちを手に入れていた。
そして味方たちと共に幸せな人生を目指し、貧しい領地と領民の正常化・健康化のために動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる