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65 侯爵邸での特訓・6
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侍女がやってきてカモミールとグリエルマには紅茶を、アナベルにはハーブティーを淹れて下がった。
「ではまず、お茶を飲む作法から。形から入ることになるけれども、形というのはとても重要です。思わぬ場でお茶を出されることがあっても、困らないように憶えましょう。さあ、どうぞ。ミルクとお砂糖を入れて召し上がれ」
目の前の紅茶を見て、カモミールは早速躓いていた。カップの持ち手が左側になっているのだ。これを持つにはどうしたらいいかがわからない。直接持ってぐるりと回転させて良いのか、ソーサーごと回転させるべきなのか悩んでしまう。
自分の無知を実感するのはこういうときだ。
「カモミール嬢、悩んでいるようね」
「……くだけた場では適当に済ませられますが、改まった場でこういった事態に遭遇したときのマナーを存じませんので……」
「ではアナベル様、復習ですよ。こういうときにはどうしたらいいかをカモミール嬢に教えて差し上げてください」
「はい、グリエルマせんせい」
アナベルはしっかりとした声で答え、砂糖をティースプーンの上に載せてハーブティーに沈め、更にミルクを入れた。ミルクが合わないハーブティーも多いが、今出されているのは講義に合わせたミルクが合うブレンドだろう。
「ティーカップのもちてが左に来ていることは、かくしきあるお茶会ではじつは多いのよ。もちてが右がわにあると、ティースプーンをとりあげにくいでしょう? そういう気づかいが、このかたちになっているの」
「なるほど……!」
アナベルはティースプーンをグルグルと回さずに前後に動かし、砂糖とミルクを混ぜ終わるとカップの向こう側に置いた。
カモミールは「どうだ、この状況から優雅にカップを持って見せろよ」という貴族流の嫌がらせなのかと思ったのだが、気遣いの結果らしい。理由を聞くと納得である。
ティースプーンを置いてからアナベルは時計回りにカップを動かし、持ち手を右にしてからそれをつまんで持ち上げる。姿勢正しく口元にカップを持ってきて傾ける仕草は、カモミールから見ても美しい所作だった。普段ジョッキの持ち手に親指以外を突っ込んで握っているカモミールとは根本から違う。
「マナーの基本は相手への思いやりです。そこを変に難しく考える必要はありません。あなたの前でカチャカチャと陶器のカップにスプーンをぶつけてかき混ぜている人がいたら不愉快になるでしょう? 周囲への気配りが、『スプーンで音を立てない』などのマナーへと変化しているのです。
気配りだからこそ、『ティースプーンを取りやすいように』と考えた人は持ち手を左側にして出しますし、『持ち手をつまみやすいように』と考えた人は右側にして出します。これは何が正解というのではなく、ただ気配りの方向性が違うだけなのです。
あとは、淑女のたしなみに限らず、背筋を常に伸ばすこと。
飲むときにはカップに口を持って行くのではなく、口元にカップを持っていって傾けるのです。アナベル様、カモミール嬢に説明ができるほどしっかり理解していらして偉いですよ。今日は100点です」
「ありがとうございます」
アナベルがカップを下ろして本当に嬉しそうに笑った。その様子から、100点を出すことなど滅多にない厳しい先生なのだとわかる。
カモミールもアナベルに従って、スプーンの上に砂糖を入れて紅茶に入れ、更にミルクを注いでから慎重にかき混ぜる。使い終わったティースプーンはカップの向こう側に置いて、指で押すだけでカップを半回転させてから持ち手をつまんだ。
簡単に見えたが、背筋を曲げないようにと気を付けながらやるとなかなか辛い。美しい姿勢を取り続けるには確かにレッスンが必要なようだった。
一口紅茶を口に含み、それが以前にも飲んだクイーン・アナスタシアであることを確認する。香りでだいたい気づいてはいたが、やはりこの紅茶はミルクを入れて飲むのが美味しいと再確認した。
「とても美味しいです」
カップを下ろして笑顔でグリエルマに向かって言うと、グリエルマが頷く。
「今はこの紅茶が流行しているのでお茶会ではミルクと砂糖を入れて飲む場面が多く、ティースプーンを使う機会が増えたので持ち手が左側にあることが余計に多くなっています。頭の片隅に入れておくといいでしょう。
そして、もてなしを受ける側として、褒め言葉をすぐに笑顔で言うのは大変いいことです。侯爵夫人からも伺っていたけれど、あなたの美点はその素直さね。けれど、素直であればいいというわけではありません。それが、礼儀作法が剣であり鎧である理由です。
お茶を飲みながらで結構よ。礼儀作法とは何のためにあるのかをまず考えてみましょうか。大人であるカモミール嬢はともかくとしてアナベル様には難しい話かもしれませんが、できるだけ考えてみてくださいね」
隣のアナベルが真剣な表情でこくりと頷く。
カモミールは「大人のカモミール嬢」と言われた以上、自分が何らかの答えを出さねばならないと必死に考えた。
「相手に失礼がないように、でしょうか?」
「何故失礼をしてはいけないのですか?」
絞り出した答えは、すぐにグリエルマの質問で跳ね返ってきた。
「そ、それは……ええと」
失礼にしてはいけない以上の動機が自分の中に思い当たらず、今度は自分が失礼に扱われたらどうなのかを考えてみる。思い出したのは、フローライトのブローチを買った宝飾店に入店したときの出来事だった。
「相手を不快にさせないため、なのではないかと思います」
「よろしいでしょう、まずその部分は間違っていません。相手を不快にさせないことで、どういったメリットがありますか?」
ひとつ答えると次々にその先が出てくる。カモミールは紅茶を飲むことで心を落ち着けるように気を付けながら、実際にそういった場面を具体的に想像して答えるしかなかった。
「交渉がスムーズに運んだり、悪い印象を与えなかったり……」
他にもあるかもしれないが、カモミールは語尾を濁して口ごもった。
ここでようやくカモミールへの課題が終わったらしい。グリエルマは二度頷くと、今度はカモミールへの質問はせずに説明を始めた。
「ええ、言い換えると『人間関係を円滑に進めることができる』ということです。そして、相手への敬意を示すのに、自らを下げることに意味はありません。自らの価値を認めた上で、相手を尊敬することは矛盾しないのですから。あなたの卑下癖をどうにかしなければならないのはこのためです。
そして、尊敬しうる相手とは生まれに寄るものではありません。生まれ持った地位だけにあぐらを掻いて人から敬意を得ようとする人間は、表面だけの礼儀の奥に嘲笑をされるでしょう。
どうですか? あなたにとって、努力もなく敬意を得ようとする人間とそれを内心嘲笑する人間は尊敬出来る相手ですか?」
「いいえ、出来ないと思います」
「それでも、そういった相手と接する機会ができたとき、あなたはどうします?」
「おそらくですが、表面上の礼儀でやり過ごそうとするかと」
「そうですね。それもまた礼儀作法の使い道のひとつ。最初に話した『人間関係を円滑に進めることができる』ことに含まれます。――はい、そこで『なるほどー』と驚いているのを簡単に表情に出すのはおやめなさい。礼儀作法と笑顔で大抵のことは乗り切れてしまうのですから。笑顔で躱す癖を付けなさい。
素直は美徳のひとつですが、交渉向きではありません。礼儀作法は人を敬う心の表し方であり、かつ、時には武器になるものだと心得ましょう。失礼な人にこそ礼儀を持って接しなさい。そうすれば、恥を掻くのは相手だけですからね。
それではアナベル様、いつもの心得を」
表情が出すぎることをグリエルマにも指摘され、カモミールは思わず背筋を伸ばした。
指名されたアナベルは、ゆっくりと、可愛らしい声で礼儀作法の心得を暗唱してみせる。
「ひとつ、あいてが話をしているときには、きちんと耳をかたむけること。
ふたつ、あいての話にとちゅうで口をはさまないこと。
みっつ、しょたいめんの人の名前はきちんとおぼえること。
よっつ、ひとをみくださないこと。
いつつ、じぶんに非があるときには、できるだけその場ですぐにあやまること」
「結構です。ただ暗唱するのではなく、言葉の意味をきちんと考えて心に刻み込んでくださいね。
さて、カモミール嬢、これは紙に書いて渡しますから明日までに完全に暗唱出来るように頭に叩き込んでくること。三つ目の『初対面の人の名前はきちんと憶えること』は社交界では特に重要ですね。仕事を依頼する場などでも重要でしょう。それだけ相手を軽んぜず、存在に重きを置いていますいう気持ちの顕れですね。
それと、テーブルマナーについても今日の晩餐に間に合う程度に教えるようにとのことですが、『背筋をまっすぐ伸ばし、他人を不快な気持ちにさせないこと』を常に心がけることです。
最初ですから、講義は一旦このくらいにしましょう」
グリエルマの言葉に内心胸をなで下ろしたカモミールだったが、アナベルが「とってもきびしい」と言った理由をすぐに思い知ることになった。
「お茶も飲み終わったことですし、歩き方や礼の仕方、所作についての実技を行います。カモミール嬢にはカーテシーが必要ないのが良かったですね。あれは基本的に貴族の女性の挨拶で、本来は王家への敬意を表すことから発祥した物です。ですから王族に会う予定のないカモミール嬢には不要というわけです。
先程私への挨拶でしたような、両手を合わせて腕を美しく見える角度で曲げ、頭を下げる一般的な礼でいいでしょう。それが最も美しく見えるように練習しますよ。――だから、気持ちをすぐに顔に出すのはおやめなさいと言ったでしょう。
美しい所作は相手への敬意を表すと共に、自分の隙を隠すことができるのですから、できて損はありません。実践あるのみ! あなたが何のためにそのドレスを着ているかを十分に思い知ってもらいます」
グリエルマは、やはり厳しい先生であったのだ。
「ではまず、お茶を飲む作法から。形から入ることになるけれども、形というのはとても重要です。思わぬ場でお茶を出されることがあっても、困らないように憶えましょう。さあ、どうぞ。ミルクとお砂糖を入れて召し上がれ」
目の前の紅茶を見て、カモミールは早速躓いていた。カップの持ち手が左側になっているのだ。これを持つにはどうしたらいいかがわからない。直接持ってぐるりと回転させて良いのか、ソーサーごと回転させるべきなのか悩んでしまう。
自分の無知を実感するのはこういうときだ。
「カモミール嬢、悩んでいるようね」
「……くだけた場では適当に済ませられますが、改まった場でこういった事態に遭遇したときのマナーを存じませんので……」
「ではアナベル様、復習ですよ。こういうときにはどうしたらいいかをカモミール嬢に教えて差し上げてください」
「はい、グリエルマせんせい」
アナベルはしっかりとした声で答え、砂糖をティースプーンの上に載せてハーブティーに沈め、更にミルクを入れた。ミルクが合わないハーブティーも多いが、今出されているのは講義に合わせたミルクが合うブレンドだろう。
「ティーカップのもちてが左に来ていることは、かくしきあるお茶会ではじつは多いのよ。もちてが右がわにあると、ティースプーンをとりあげにくいでしょう? そういう気づかいが、このかたちになっているの」
「なるほど……!」
アナベルはティースプーンをグルグルと回さずに前後に動かし、砂糖とミルクを混ぜ終わるとカップの向こう側に置いた。
カモミールは「どうだ、この状況から優雅にカップを持って見せろよ」という貴族流の嫌がらせなのかと思ったのだが、気遣いの結果らしい。理由を聞くと納得である。
ティースプーンを置いてからアナベルは時計回りにカップを動かし、持ち手を右にしてからそれをつまんで持ち上げる。姿勢正しく口元にカップを持ってきて傾ける仕草は、カモミールから見ても美しい所作だった。普段ジョッキの持ち手に親指以外を突っ込んで握っているカモミールとは根本から違う。
「マナーの基本は相手への思いやりです。そこを変に難しく考える必要はありません。あなたの前でカチャカチャと陶器のカップにスプーンをぶつけてかき混ぜている人がいたら不愉快になるでしょう? 周囲への気配りが、『スプーンで音を立てない』などのマナーへと変化しているのです。
気配りだからこそ、『ティースプーンを取りやすいように』と考えた人は持ち手を左側にして出しますし、『持ち手をつまみやすいように』と考えた人は右側にして出します。これは何が正解というのではなく、ただ気配りの方向性が違うだけなのです。
あとは、淑女のたしなみに限らず、背筋を常に伸ばすこと。
飲むときにはカップに口を持って行くのではなく、口元にカップを持っていって傾けるのです。アナベル様、カモミール嬢に説明ができるほどしっかり理解していらして偉いですよ。今日は100点です」
「ありがとうございます」
アナベルがカップを下ろして本当に嬉しそうに笑った。その様子から、100点を出すことなど滅多にない厳しい先生なのだとわかる。
カモミールもアナベルに従って、スプーンの上に砂糖を入れて紅茶に入れ、更にミルクを注いでから慎重にかき混ぜる。使い終わったティースプーンはカップの向こう側に置いて、指で押すだけでカップを半回転させてから持ち手をつまんだ。
簡単に見えたが、背筋を曲げないようにと気を付けながらやるとなかなか辛い。美しい姿勢を取り続けるには確かにレッスンが必要なようだった。
一口紅茶を口に含み、それが以前にも飲んだクイーン・アナスタシアであることを確認する。香りでだいたい気づいてはいたが、やはりこの紅茶はミルクを入れて飲むのが美味しいと再確認した。
「とても美味しいです」
カップを下ろして笑顔でグリエルマに向かって言うと、グリエルマが頷く。
「今はこの紅茶が流行しているのでお茶会ではミルクと砂糖を入れて飲む場面が多く、ティースプーンを使う機会が増えたので持ち手が左側にあることが余計に多くなっています。頭の片隅に入れておくといいでしょう。
そして、もてなしを受ける側として、褒め言葉をすぐに笑顔で言うのは大変いいことです。侯爵夫人からも伺っていたけれど、あなたの美点はその素直さね。けれど、素直であればいいというわけではありません。それが、礼儀作法が剣であり鎧である理由です。
お茶を飲みながらで結構よ。礼儀作法とは何のためにあるのかをまず考えてみましょうか。大人であるカモミール嬢はともかくとしてアナベル様には難しい話かもしれませんが、できるだけ考えてみてくださいね」
隣のアナベルが真剣な表情でこくりと頷く。
カモミールは「大人のカモミール嬢」と言われた以上、自分が何らかの答えを出さねばならないと必死に考えた。
「相手に失礼がないように、でしょうか?」
「何故失礼をしてはいけないのですか?」
絞り出した答えは、すぐにグリエルマの質問で跳ね返ってきた。
「そ、それは……ええと」
失礼にしてはいけない以上の動機が自分の中に思い当たらず、今度は自分が失礼に扱われたらどうなのかを考えてみる。思い出したのは、フローライトのブローチを買った宝飾店に入店したときの出来事だった。
「相手を不快にさせないため、なのではないかと思います」
「よろしいでしょう、まずその部分は間違っていません。相手を不快にさせないことで、どういったメリットがありますか?」
ひとつ答えると次々にその先が出てくる。カモミールは紅茶を飲むことで心を落ち着けるように気を付けながら、実際にそういった場面を具体的に想像して答えるしかなかった。
「交渉がスムーズに運んだり、悪い印象を与えなかったり……」
他にもあるかもしれないが、カモミールは語尾を濁して口ごもった。
ここでようやくカモミールへの課題が終わったらしい。グリエルマは二度頷くと、今度はカモミールへの質問はせずに説明を始めた。
「ええ、言い換えると『人間関係を円滑に進めることができる』ということです。そして、相手への敬意を示すのに、自らを下げることに意味はありません。自らの価値を認めた上で、相手を尊敬することは矛盾しないのですから。あなたの卑下癖をどうにかしなければならないのはこのためです。
そして、尊敬しうる相手とは生まれに寄るものではありません。生まれ持った地位だけにあぐらを掻いて人から敬意を得ようとする人間は、表面だけの礼儀の奥に嘲笑をされるでしょう。
どうですか? あなたにとって、努力もなく敬意を得ようとする人間とそれを内心嘲笑する人間は尊敬出来る相手ですか?」
「いいえ、出来ないと思います」
「それでも、そういった相手と接する機会ができたとき、あなたはどうします?」
「おそらくですが、表面上の礼儀でやり過ごそうとするかと」
「そうですね。それもまた礼儀作法の使い道のひとつ。最初に話した『人間関係を円滑に進めることができる』ことに含まれます。――はい、そこで『なるほどー』と驚いているのを簡単に表情に出すのはおやめなさい。礼儀作法と笑顔で大抵のことは乗り切れてしまうのですから。笑顔で躱す癖を付けなさい。
素直は美徳のひとつですが、交渉向きではありません。礼儀作法は人を敬う心の表し方であり、かつ、時には武器になるものだと心得ましょう。失礼な人にこそ礼儀を持って接しなさい。そうすれば、恥を掻くのは相手だけですからね。
それではアナベル様、いつもの心得を」
表情が出すぎることをグリエルマにも指摘され、カモミールは思わず背筋を伸ばした。
指名されたアナベルは、ゆっくりと、可愛らしい声で礼儀作法の心得を暗唱してみせる。
「ひとつ、あいてが話をしているときには、きちんと耳をかたむけること。
ふたつ、あいての話にとちゅうで口をはさまないこと。
みっつ、しょたいめんの人の名前はきちんとおぼえること。
よっつ、ひとをみくださないこと。
いつつ、じぶんに非があるときには、できるだけその場ですぐにあやまること」
「結構です。ただ暗唱するのではなく、言葉の意味をきちんと考えて心に刻み込んでくださいね。
さて、カモミール嬢、これは紙に書いて渡しますから明日までに完全に暗唱出来るように頭に叩き込んでくること。三つ目の『初対面の人の名前はきちんと憶えること』は社交界では特に重要ですね。仕事を依頼する場などでも重要でしょう。それだけ相手を軽んぜず、存在に重きを置いていますいう気持ちの顕れですね。
それと、テーブルマナーについても今日の晩餐に間に合う程度に教えるようにとのことですが、『背筋をまっすぐ伸ばし、他人を不快な気持ちにさせないこと』を常に心がけることです。
最初ですから、講義は一旦このくらいにしましょう」
グリエルマの言葉に内心胸をなで下ろしたカモミールだったが、アナベルが「とってもきびしい」と言った理由をすぐに思い知ることになった。
「お茶も飲み終わったことですし、歩き方や礼の仕方、所作についての実技を行います。カモミール嬢にはカーテシーが必要ないのが良かったですね。あれは基本的に貴族の女性の挨拶で、本来は王家への敬意を表すことから発祥した物です。ですから王族に会う予定のないカモミール嬢には不要というわけです。
先程私への挨拶でしたような、両手を合わせて腕を美しく見える角度で曲げ、頭を下げる一般的な礼でいいでしょう。それが最も美しく見えるように練習しますよ。――だから、気持ちをすぐに顔に出すのはおやめなさいと言ったでしょう。
美しい所作は相手への敬意を表すと共に、自分の隙を隠すことができるのですから、できて損はありません。実践あるのみ! あなたが何のためにそのドレスを着ているかを十分に思い知ってもらいます」
グリエルマは、やはり厳しい先生であったのだ。
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