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第五章 厳しい宿命と本当の気持ち

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「あら? 今日は仲良く一緒にご出勤? それともアルフレッドのほうは、まだ『ご出勤』する仕事が見つからなくて、ただのお見送りなのかしら?」



 先にアマンダの店に着いていたフィオナは、朝からなんとも辛辣な言葉で、エミリアと共に現れたアルフレッドを出迎えた。



「そう苛めるなよ、フィオナ……俺だってようやく今日、新しい仕事場の入団試験なんだからさ……」

「あらそう」

「ええっ? そうなの?」



 肩を竦めるアルフレッドに、フィオナと一緒にエミリアも驚きの目を向けた。

 アルフレッドは本当に困ったように苦笑する。



「エミリアにはさっきちょろっと言ったんだけどな……やっぱりちゃんと聞いてなかったか……」

「ご、ごめんなさい!」



 勢いよく頭を下げると、頭の上からアルフレッドの寛容な声が降ってくる。



「いいって。いいって……ま、俺の実力だと受かって当然。でも今日の本題は、俺の合格じゃないからな……アウレディオを騎士団に引きこむことだから」

「なんですって?」



 聞き捨てならないとばかりにエミリアは声を上げた。



 アルフレッドはニヤッと何かを企んでいるかのように笑い、しいっと人差し指を自分の唇に当てる。



「アウレディオには言わないでくれよ。あくまでも俺の付き添いってことで話してるんだから」



 コクコクと頷くエミリアに、それでよしとばかりに大真面目な顔で、アルフレッドは頷いた。



「あいつ、庭師見習いをやってるんだって? 学校卒業前の騎士団補講の模擬試合では優勝したってのに? どうして?」



 エミリアはすぐにアルフレッドに返事ができなかった。



 それについてはアウレディオ本人に聞いてみたこともあるが、

『小さな頃から庭師になりたかったから。それが俺の夢だから。お前だって知ってるだろ?』

 とあっさりと答えられた。



 そのよどみなさにかえって不自然さを感じながらも、エミリアにはそれ以上追求することは、やっぱりできなかった。



「わからない」



 力なく首をふるエミリアの栗色の頭を、アルフレッドはポンと叩いた。



「悪い。気にするな。エミリアを責めてるわけじゃないんだ。わからないんだったら……俺が今日、あいつの本音を引き出してみせるから」



 頼りがいのある笑顔を向けられ、エミリアの心はふっと軽くなった。



「面白そうね。私も見学しようかしら?」



 言うが早いか、フィオナは膝の上に広げていた今日のぶんの仕事を、すでに片づけ始めている。



「フ、フィオナ? 最近まとめてお休みしちゃったし……いきなり今日休むっていうのはさすがにアマンダさんだって怒ると思うんだけど……?」



 不安げに切り出したエミリアは、すぐうしろで響いた声に、飛び上がって驚いた。



「構わないよ。なんなら今日は店を閉めて、あたしもその試験とやらを見に行くから」



 いつの間に背後に立っていたのか、アマンダ婦人はすかさず店舗の入り口の扉に『本日店休日』の札を下げに動きだす。



「リンデンの街の貴公子が騎士団の試験を受けるなんて聞いたら、今日はもう仕事にならないね。そこの男前さん……素晴らしい情報をありがとう」



 女将とがっちりと握手を交わしたアルフレッドは、いかにも愉快そうだ。



「お役に立てたようで光栄です」



「さあ、だったら早く出発するよ。うるさいのがやってくる前に早く!」



 アマンダ婦人にせき立てられて、エミリアとフィオナとアルフレッドは店を出た。

 試合が行われるという城へ向かう。



「マチルダとミゼットも誘わなくてよかったのかな?」



 エミリアはふり返らずにはいられなかったが、アマンダ婦人は顔の前で大きく手を振った。



「いいんだよ。あの娘たちを連れてきちまったら、事あるごとにきゃあきゃあ悲鳴を上げて、かえってアウレディオの邪魔になっちまうだろ?」

「確かに」



 淡々と返すフィオナの言葉に、エミリアは心の中だけで同意した。

 それでも――。



(ごめんね、マチルダ。ミゼット!)



 あれほどアウレディオに入れあげて、その姿を一目見るために夕暮れの広場に足繁く通っている二人には、やっぱり申し訳なく思わずにはいられなかった。
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