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第八章 喜色の祝鐘
102:誓い3
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「ねえ千紗……まだ?」
再びドアの向こうからかけられた声に、私は慌ててふり返る。
「うん。あと少し……」
「もう! ……本当に急いでね?」
「うん」
介添え役をやってくれている美久ちゃんを騙し続けるのも、もうこれ以上は無理な気がする。
(どうしよう……そろそろ本当のことを言ったほうがいいかな……?)
心の中の葛藤を持て余し、何気なくもう一度窓の外へ目を向けた時、遠くに小さな人影が見えた。
私と同じように純白の衣裳に身を包んだ、スラッと背の高いその人は、普通に町中を歩いていたら目立って仕方がないはずなのに、そんなこと微塵も気にしていない。
少し悪い右足のせいで走ることはできないが、以前よりはあまり足をひきずらなくなった軽快な歩みで、こちらへ向かって真っ直ぐに歩いてくる。
春の陽射しは優しく、彼の淡い色の髪に光の輪を作る。
(まるで天使みたいだよ、紅君……)
ふとそういうふうに思ってから、私は慌てて首を横に振った。
(ううん。天使なんかじゃない……私の大切な人。だからまだまだ、天には連れていかないでください……これからもずっと……私の傍に居させてください……)
私の心の中の祈りが聞こえたかのように、紅君がこちらへ目を向けた。
「ちい!」
大きな声で私の名前を呼び、伸び上がるようにして手を振るから、私も振り返す。
「紅君!」
大好きなあの笑顔が、少しずつ近づいてきた。
再びドアの向こうからかけられた声に、私は慌ててふり返る。
「うん。あと少し……」
「もう! ……本当に急いでね?」
「うん」
介添え役をやってくれている美久ちゃんを騙し続けるのも、もうこれ以上は無理な気がする。
(どうしよう……そろそろ本当のことを言ったほうがいいかな……?)
心の中の葛藤を持て余し、何気なくもう一度窓の外へ目を向けた時、遠くに小さな人影が見えた。
私と同じように純白の衣裳に身を包んだ、スラッと背の高いその人は、普通に町中を歩いていたら目立って仕方がないはずなのに、そんなこと微塵も気にしていない。
少し悪い右足のせいで走ることはできないが、以前よりはあまり足をひきずらなくなった軽快な歩みで、こちらへ向かって真っ直ぐに歩いてくる。
春の陽射しは優しく、彼の淡い色の髪に光の輪を作る。
(まるで天使みたいだよ、紅君……)
ふとそういうふうに思ってから、私は慌てて首を横に振った。
(ううん。天使なんかじゃない……私の大切な人。だからまだまだ、天には連れていかないでください……これからもずっと……私の傍に居させてください……)
私の心の中の祈りが聞こえたかのように、紅君がこちらへ目を向けた。
「ちい!」
大きな声で私の名前を呼び、伸び上がるようにして手を振るから、私も振り返す。
「紅君!」
大好きなあの笑顔が、少しずつ近づいてきた。
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