101 / 103
第八章 喜色の祝鐘
101:誓い2
しおりを挟む
夜間学校を卒業したら、叔母たちの家を出て一人暮らしをするつもりだった私に、紅君が「一緒に暮らそう」と言ってくれたのは、卒業を三ヵ月後に控えたクリスマスの頃だった。
(えっ……紅君と一緒に?)
考えただけで緊張したのに、彼が次に告げたのは、もっと驚くようなことだった。
「結婚しよう、ちい。俺たち、本物の家族になろうよ……」
「えっ?」
どんな思いがけない言葉を聞かされた時よりも、本当に驚いた。
驚きすぎてとっさに返事ができず、おかげで紅君は何通りも言葉を重ねることになる。
「いや……結婚してください……かな? ずっと一緒にいようよ……とか?」
「…………」
黙りこむ私の顔を見ながら、それでも決して笑顔は崩さず、紅君はいく通りもの言葉で、私に自分の気持ちを伝えてくれようとする。
「俺のお嫁さんになってください! ……それとも……俺はちいのお婿さんになりたいです! のほうがいい?」
どこまでも楽しそうな笑顔のまま、紅君が問いかけるから、私も自然と笑顔になる。
なぜだか溢れた涙は、なかなか止まりそうになくて、泣き笑いの顔になる。
「俺は絶対ちいを幸せにする。そして、ちいが傍にいてくれれば、絶対に自分も幸せになる自信がある。だから結婚しよう……いい?」
結局、私が何も言葉を返さなくても、ただ頷くだけで気持ちを表現できるようにしてくれた。
そんな紅君の優しさに、自然な心配りに、小さな頃から憧れて、憧れて――。
いつかあんな人になれたらと、願ってやまなかった人が――大好きな人が――私に向かって手をさし伸べてくれる。
他の誰でもなくこの私を、真っ直ぐに望んでくれる。
嬉しかった。
現実だとはわかっていても、まさか夢ではないのかと、何度も何度も確認したいほど、嬉しかった。
「紅君……」
ようやく開いた口で、かすれ声のまま名前を呼んだら、いっそう笑われた。
これまでで一番と言ってもいいぐらいの、本当にとびきりの笑顔を向けられる。
「紅君が、私の家族になってくれるの?」
「うん」
「…………ありがとう……」
そのあとはもう、涙でむせてしまって、何も言えない。
ようやく言えた言葉が、迷いもなく彼が頷いてくれたことが、自分にとってどれほど大切だったのかと、私自身にも初めてわかった。
十二の春に私が失くしたものは、どれほど望んでも、もう二度と手に入らない。
――たった一人の家族だった母。
だからこそ、どこかで気持ちを入れ替え、諦めをつけ、背中を向け続けてきた事実。
――私には今、家族と呼べる人はいない。
叔父と叔母は、成人するまでの後見人になってくれているし、一緒に生活してもいるが、厳密に言えば私の『家族』ではない。
私は苗字も『長岡』のままだ。
母が亡くなったあの時から、この世にひとりぼっちになってしまった私にとって、紅君が新しい家族になってくれるのは、とても重要で、この上なく嬉しいことだった。
(えっ……紅君と一緒に?)
考えただけで緊張したのに、彼が次に告げたのは、もっと驚くようなことだった。
「結婚しよう、ちい。俺たち、本物の家族になろうよ……」
「えっ?」
どんな思いがけない言葉を聞かされた時よりも、本当に驚いた。
驚きすぎてとっさに返事ができず、おかげで紅君は何通りも言葉を重ねることになる。
「いや……結婚してください……かな? ずっと一緒にいようよ……とか?」
「…………」
黙りこむ私の顔を見ながら、それでも決して笑顔は崩さず、紅君はいく通りもの言葉で、私に自分の気持ちを伝えてくれようとする。
「俺のお嫁さんになってください! ……それとも……俺はちいのお婿さんになりたいです! のほうがいい?」
どこまでも楽しそうな笑顔のまま、紅君が問いかけるから、私も自然と笑顔になる。
なぜだか溢れた涙は、なかなか止まりそうになくて、泣き笑いの顔になる。
「俺は絶対ちいを幸せにする。そして、ちいが傍にいてくれれば、絶対に自分も幸せになる自信がある。だから結婚しよう……いい?」
結局、私が何も言葉を返さなくても、ただ頷くだけで気持ちを表現できるようにしてくれた。
そんな紅君の優しさに、自然な心配りに、小さな頃から憧れて、憧れて――。
いつかあんな人になれたらと、願ってやまなかった人が――大好きな人が――私に向かって手をさし伸べてくれる。
他の誰でもなくこの私を、真っ直ぐに望んでくれる。
嬉しかった。
現実だとはわかっていても、まさか夢ではないのかと、何度も何度も確認したいほど、嬉しかった。
「紅君……」
ようやく開いた口で、かすれ声のまま名前を呼んだら、いっそう笑われた。
これまでで一番と言ってもいいぐらいの、本当にとびきりの笑顔を向けられる。
「紅君が、私の家族になってくれるの?」
「うん」
「…………ありがとう……」
そのあとはもう、涙でむせてしまって、何も言えない。
ようやく言えた言葉が、迷いもなく彼が頷いてくれたことが、自分にとってどれほど大切だったのかと、私自身にも初めてわかった。
十二の春に私が失くしたものは、どれほど望んでも、もう二度と手に入らない。
――たった一人の家族だった母。
だからこそ、どこかで気持ちを入れ替え、諦めをつけ、背中を向け続けてきた事実。
――私には今、家族と呼べる人はいない。
叔父と叔母は、成人するまでの後見人になってくれているし、一緒に生活してもいるが、厳密に言えば私の『家族』ではない。
私は苗字も『長岡』のままだ。
母が亡くなったあの時から、この世にひとりぼっちになってしまった私にとって、紅君が新しい家族になってくれるのは、とても重要で、この上なく嬉しいことだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
大嫌いなキミに愛をささやく日
またり鈴春
児童書・童話
私には大嫌いな人がいる。
その人から、まさか告白されるなんて…!
「大嫌い・来ないで・触らないで」
どんなにヒドイ事を言っても諦めない、それが私の大嫌いな人。そう思っていたのに…
気づけば私たちは互いを必要とし、支え合っていた。
そして、初めての恋もたくさんの愛も、全部ぜんぶ――キミが教えてくれたんだ。
\初めての恋とたくさんの愛を知るピュアラブ物語/
僕の彼女はアイツの親友
みつ光男
ライト文芸
~僕は今日も授業中に
全く椅子をずらすことができない、
居眠りしたくても
少し後ろにすら移動させてもらえないんだ~
とある新設校で退屈な1年目を過ごした
ごくフツーの高校生、高村コウ。
高校2年の新学期が始まってから常に
コウの近くの席にいるのは
一言も口を聞いてくれない塩対応女子の煌子
彼女がコウに近づいた真の目的とは?
そしてある日の些細な出来事をきっかけに
少しずつ二人の距離が縮まるのだが
煌子の秘められた悪夢のような過去が再び幕を開けた時
二人の想いと裏腹にその距離が再び離れてゆく。
そして煌子を取り巻く二人の親友、
コウに仄かな思いを寄せる美月の想いは?
遠巻きに二人を見守る由里は果たして…どちらに?
恋愛と友情の狭間で揺れ動く
不器用な男女の恋の結末は
果たして何処へ向かうのやら?
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
名前が強いアテーシア
桃井すもも
恋愛
自邸の図書室で物語を読んでいたアテーシアは、至極納得がいってしまった。
道理で上手く行かなかった訳だ。仲良くなれなかった訳だ。
だって名前が強いもの。
アテーシア。これって神話に出てくる戦女神のアテーナだわ。
かち割られた父王の頭から甲冑纏って生まれ出た、女軍神アテーナだわ。
公爵令嬢アテーシアは、王国の王太子であるアンドリュー殿下の婚約者である。
十歳で婚約が結ばれて、二人は初見から上手く行かなかった。関係が発展せぬまま六年が経って、いよいよ二人は貴族学園に入学する。
アテーシアは思う。このまま進んで良いのだろうか。
女軍神の名を持つ名前が強いアテーシアの物語。
❇R15短編スタートです。長編なるかもしれません。R18なるかは微妙です。
❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。
❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる