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第七章 紅色の夕風
98:宝物1
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翔太君たちの来訪を受け、しばらくしてから目を覚ました紅君は、はじめのうちは記憶が混乱していたらしい。
ここがどこなのか、自分は何をしているのか、よくわからないままにベッドから起き上がり、部屋から抜け出し、歩き始めた足が思ったように動かなかったことで、さまざまなことを思い出したと語ってくれた。
「早くどこかへ行かなくちゃって、ずっと心に抱えていた思いが、火事の『希望の家』へ向かった時の思いだったんだってわかって……悔しかった……」
昔のように川沿いの土手に二人で並んで腰を下ろし、私たちはたくさんの話をした。
川に向かって時々、思い出したように小石を投げながら語る紅君が、どれほど悔しいかは、私にはよくわかる。
あの事故で、三日後に私が目を覚ました時には全てが終わっていたのと同じく、紅君にとっての『その時』も、もう六年も前に終わってしまっているのだ。
「今さらだってわかってても、どうしても園長先生に謝りたくって……近くの教会で懺悔させてもらったら、踏んぎりがついた。ちいに会う前にもう一人、どうしても俺には会わないといけない人がいた……」
「会わないといけない人?」
思いもかけない話に、私は首を傾げる。
紅君は頷いてから、隣に座る私へ顔を向けた。
もう沈みかけた夕陽が紅君の顔に影を作り、そのせいか、先ほどまでより悲しげな表情に見える。
「うん。ちいのお母さん……『約束守れなくてすいませんでした』って謝らないうちは、俺にはちいと会う資格がない気がした」
私ははっと息を呑んだ。
(じゃあ……紅君がこの街に来たわけは?)
「墓前で頭を下げてきた。そしてもう一度誓いを立ててきた。『今度こそ約束を守ります。ちいのことはこれから俺が守ります』って」
「紅君……」
肩に回した腕に力を入て、紅君が私を引き寄せるから、私はもう一度彼の胸に倒れこんだ。
ドキドキと、体全部が心臓になったかのように緊張している私と同じほど、紅君の鼓動も速い。
そのことがなおさら私をドキドキさせる。
「やっぱり俺にはちいしか見えないみたいだ……何度記憶を失くしたって、次に出逢ったら、もうその瞬間からちいのことしか考えられない……なんとかして笑顔を守りたくって、それしか頭にない……こんなの自分でも恐いくらいだよ……ちいは? ……俺が恐くない?」
「恐くなんかない!」
夢中で叫んでから、私ははっと紅君の顔を見上げた。
手を伸ばせばすぐに触れられるところにいてくれる人へ、そっと両手をさし伸べる。
「恐くないよ……何があったって、誰と出会ったって、紅君が忘れられなかったのは私だもの……遠い昔の約束をずっと大事にして、それだけを大切に生きてきたんだもの……記憶があるぶん、紅君のことをずっとしつこく諦めきれなかったのは、私のほうだよ……だから嬉しい……また会えて……また傍にいれて嬉しい……!」
ポロリと私の目から零れ落ちた涙を、紅君が指先でそっとすくう。
どちらからともなく頬を寄せ、何度も何度もキスをして、私たちは笑顔になった。
私を見つめる紅君の優しい笑顔に負けないほど、私も笑顔になった。
ここがどこなのか、自分は何をしているのか、よくわからないままにベッドから起き上がり、部屋から抜け出し、歩き始めた足が思ったように動かなかったことで、さまざまなことを思い出したと語ってくれた。
「早くどこかへ行かなくちゃって、ずっと心に抱えていた思いが、火事の『希望の家』へ向かった時の思いだったんだってわかって……悔しかった……」
昔のように川沿いの土手に二人で並んで腰を下ろし、私たちはたくさんの話をした。
川に向かって時々、思い出したように小石を投げながら語る紅君が、どれほど悔しいかは、私にはよくわかる。
あの事故で、三日後に私が目を覚ました時には全てが終わっていたのと同じく、紅君にとっての『その時』も、もう六年も前に終わってしまっているのだ。
「今さらだってわかってても、どうしても園長先生に謝りたくって……近くの教会で懺悔させてもらったら、踏んぎりがついた。ちいに会う前にもう一人、どうしても俺には会わないといけない人がいた……」
「会わないといけない人?」
思いもかけない話に、私は首を傾げる。
紅君は頷いてから、隣に座る私へ顔を向けた。
もう沈みかけた夕陽が紅君の顔に影を作り、そのせいか、先ほどまでより悲しげな表情に見える。
「うん。ちいのお母さん……『約束守れなくてすいませんでした』って謝らないうちは、俺にはちいと会う資格がない気がした」
私ははっと息を呑んだ。
(じゃあ……紅君がこの街に来たわけは?)
「墓前で頭を下げてきた。そしてもう一度誓いを立ててきた。『今度こそ約束を守ります。ちいのことはこれから俺が守ります』って」
「紅君……」
肩に回した腕に力を入て、紅君が私を引き寄せるから、私はもう一度彼の胸に倒れこんだ。
ドキドキと、体全部が心臓になったかのように緊張している私と同じほど、紅君の鼓動も速い。
そのことがなおさら私をドキドキさせる。
「やっぱり俺にはちいしか見えないみたいだ……何度記憶を失くしたって、次に出逢ったら、もうその瞬間からちいのことしか考えられない……なんとかして笑顔を守りたくって、それしか頭にない……こんなの自分でも恐いくらいだよ……ちいは? ……俺が恐くない?」
「恐くなんかない!」
夢中で叫んでから、私ははっと紅君の顔を見上げた。
手を伸ばせばすぐに触れられるところにいてくれる人へ、そっと両手をさし伸べる。
「恐くないよ……何があったって、誰と出会ったって、紅君が忘れられなかったのは私だもの……遠い昔の約束をずっと大事にして、それだけを大切に生きてきたんだもの……記憶があるぶん、紅君のことをずっとしつこく諦めきれなかったのは、私のほうだよ……だから嬉しい……また会えて……また傍にいれて嬉しい……!」
ポロリと私の目から零れ落ちた涙を、紅君が指先でそっとすくう。
どちらからともなく頬を寄せ、何度も何度もキスをして、私たちは笑顔になった。
私を見つめる紅君の優しい笑顔に負けないほど、私も笑顔になった。
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