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第七章 紅色の夕風
96:還る場所2
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昼過ぎに辿り着いた懐かしい街は、二ヶ月前に紅君と一緒に来た時と、何も変わっていなかった。
あの時は凍えそうに冷たい風が吹いていたのに、今は温かい春の風が吹いていることだけが違っている。
紅君と一緒に過ごした、一番思い出深い季節に、またこの道を歩くことになったのが、不思議な気もしたし、当然のようにも思えた。
真っ先に訪れた『希望の家』があった教会では、翔太君が私の姿を見て、ひどく驚いた。
「ちい姉ちゃん? どうしたの?」
その反応を見ただけで、ここには紅君が来ていないことがわかる。
「うん。ちょっと用があって……」
苦しまぎれの言い訳にも、翔太君は変な顔をせず、私を信頼しきった目で見つめる。
「ひょっとして……こう兄ちゃんと一緒? ……なんてことはないか……」
キョロキョロと私の周りに視線を廻らし、私が一人きりなことを確認すると、翔太君は少し照れたように頭を掻く。
「俺たちがお見舞いに行ったら、兄ちゃん、目を覚ますかもなんて……本当は思ってたんだ……そうならなくってごめん、姉ちゃん……」
「ううん! そんなこと気にしなくっていいの!」
みんなのおかげで紅君が起き上がったと、本当は言ってしまいたかった。
だができなかった。
紅君がどこにいるのかもわからない今の状況では、翔太君を心配させるだけだ。
それに――。
「また会いに行くから! 今度こそきっと目を覚ましてくれるよ、なっ!」
そう言って笑う翔太君が、もう一度紅君に会える保証はない。
(私だけじゃない……紅君のことを大切に思っている人はたくさんいる……その人たちをみんな置き去りに……いったいどこへ行っちゃったの? 紅君!)
これ以上話したら、平気な顔を作れなくなりそうで、私は急いで教会をあとにした。
「こう兄ちゃんが目を覚ますほうが先だったら、また二人でここに来てくれよなっ!」
笑顔で手を振る翔太君に別れを告げ、別の場所を目指した。
あの時は凍えそうに冷たい風が吹いていたのに、今は温かい春の風が吹いていることだけが違っている。
紅君と一緒に過ごした、一番思い出深い季節に、またこの道を歩くことになったのが、不思議な気もしたし、当然のようにも思えた。
真っ先に訪れた『希望の家』があった教会では、翔太君が私の姿を見て、ひどく驚いた。
「ちい姉ちゃん? どうしたの?」
その反応を見ただけで、ここには紅君が来ていないことがわかる。
「うん。ちょっと用があって……」
苦しまぎれの言い訳にも、翔太君は変な顔をせず、私を信頼しきった目で見つめる。
「ひょっとして……こう兄ちゃんと一緒? ……なんてことはないか……」
キョロキョロと私の周りに視線を廻らし、私が一人きりなことを確認すると、翔太君は少し照れたように頭を掻く。
「俺たちがお見舞いに行ったら、兄ちゃん、目を覚ますかもなんて……本当は思ってたんだ……そうならなくってごめん、姉ちゃん……」
「ううん! そんなこと気にしなくっていいの!」
みんなのおかげで紅君が起き上がったと、本当は言ってしまいたかった。
だができなかった。
紅君がどこにいるのかもわからない今の状況では、翔太君を心配させるだけだ。
それに――。
「また会いに行くから! 今度こそきっと目を覚ましてくれるよ、なっ!」
そう言って笑う翔太君が、もう一度紅君に会える保証はない。
(私だけじゃない……紅君のことを大切に思っている人はたくさんいる……その人たちをみんな置き去りに……いったいどこへ行っちゃったの? 紅君!)
これ以上話したら、平気な顔を作れなくなりそうで、私は急いで教会をあとにした。
「こう兄ちゃんが目を覚ますほうが先だったら、また二人でここに来てくれよなっ!」
笑顔で手を振る翔太君に別れを告げ、別の場所を目指した。
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