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第五章 輝色の聖夜

75:何度でも1

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 五年前のあの日、手に入れたと思った途端に、指の間から零れ落ちてしまった幸せを、やっと掌に握りしめたようなクリスマスだった。
 まるで夢のようで、現実だと思えず、暗い夜空から降る雪を見上げるばかりの私に、紅君が問いかける。

「寒くない?」

 少し外へ出たらすぐに店へ戻るつもりで、寒さのことなどまるで気にしていなかった自分の格好に、改めて気づいた。

 弁当屋の制服代わりのポロシャツに、薄い上着。
 雪の中を出歩くにはあまりにも軽装だった。

 紅君に気を遣わせないよう、すぐに「大丈夫だよ」と答えようとしたのに、それより先に彼は自分のコートを脱ぎ、私の肩へかけてしまう。
 身軽になった紅君は、軽く頭を左右に振り、髪に積もった雪を落としてから、私の手を引いて歩きだした。

「紅君! いいよ……紅君が風邪ひいちゃうよ」

 自分より薄着になってしまった彼にコートを返そうとする私を、そうはさせないというふうの笑顔で、紅君はふり返る。 

「平気だよ。全然気にならない……今なら俺、きっとなんだってできるよ……なんだって!」

 言葉と同時に、繋ぐ手にこめられた力が、その不思議な自信の源は私なのだと教えてくれる。 

「紅君……!」

 私も同じだ。
 一番欲しくて、一番大切で、それなのに諦めてずっと背中を向けていたこの手を、もう離さずにいられるのなら、なんでもできる。
 してみせる。

(でも……なんて答えたらいいんだろう? どう言ったら、私のこの想いが紅君に伝わる?)

 言葉で言い表せる範囲など、とてもわずかで、私の溢れんばかりの想いを伝えるには、どれほど重ねても足りない。

 だからずっと、こうして傍にいたい。
 背中を押してくれた蒼ちゃんの言葉そのままに、ただ紅君だけを見ていたい。 

 だが素直な感情だけで行動するには、私はあまりにも大きな秘密を、彼に対して抱えていた。
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