75 / 103
第五章 輝色の聖夜
75:何度でも1
しおりを挟む
五年前のあの日、手に入れたと思った途端に、指の間から零れ落ちてしまった幸せを、やっと掌に握りしめたようなクリスマスだった。
まるで夢のようで、現実だと思えず、暗い夜空から降る雪を見上げるばかりの私に、紅君が問いかける。
「寒くない?」
少し外へ出たらすぐに店へ戻るつもりで、寒さのことなどまるで気にしていなかった自分の格好に、改めて気づいた。
弁当屋の制服代わりのポロシャツに、薄い上着。
雪の中を出歩くにはあまりにも軽装だった。
紅君に気を遣わせないよう、すぐに「大丈夫だよ」と答えようとしたのに、それより先に彼は自分のコートを脱ぎ、私の肩へかけてしまう。
身軽になった紅君は、軽く頭を左右に振り、髪に積もった雪を落としてから、私の手を引いて歩きだした。
「紅君! いいよ……紅君が風邪ひいちゃうよ」
自分より薄着になってしまった彼にコートを返そうとする私を、そうはさせないというふうの笑顔で、紅君はふり返る。
「平気だよ。全然気にならない……今なら俺、きっとなんだってできるよ……なんだって!」
言葉と同時に、繋ぐ手にこめられた力が、その不思議な自信の源は私なのだと教えてくれる。
「紅君……!」
私も同じだ。
一番欲しくて、一番大切で、それなのに諦めてずっと背中を向けていたこの手を、もう離さずにいられるのなら、なんでもできる。
してみせる。
(でも……なんて答えたらいいんだろう? どう言ったら、私のこの想いが紅君に伝わる?)
言葉で言い表せる範囲など、とてもわずかで、私の溢れんばかりの想いを伝えるには、どれほど重ねても足りない。
だからずっと、こうして傍にいたい。
背中を押してくれた蒼ちゃんの言葉そのままに、ただ紅君だけを見ていたい。
だが素直な感情だけで行動するには、私はあまりにも大きな秘密を、彼に対して抱えていた。
まるで夢のようで、現実だと思えず、暗い夜空から降る雪を見上げるばかりの私に、紅君が問いかける。
「寒くない?」
少し外へ出たらすぐに店へ戻るつもりで、寒さのことなどまるで気にしていなかった自分の格好に、改めて気づいた。
弁当屋の制服代わりのポロシャツに、薄い上着。
雪の中を出歩くにはあまりにも軽装だった。
紅君に気を遣わせないよう、すぐに「大丈夫だよ」と答えようとしたのに、それより先に彼は自分のコートを脱ぎ、私の肩へかけてしまう。
身軽になった紅君は、軽く頭を左右に振り、髪に積もった雪を落としてから、私の手を引いて歩きだした。
「紅君! いいよ……紅君が風邪ひいちゃうよ」
自分より薄着になってしまった彼にコートを返そうとする私を、そうはさせないというふうの笑顔で、紅君はふり返る。
「平気だよ。全然気にならない……今なら俺、きっとなんだってできるよ……なんだって!」
言葉と同時に、繋ぐ手にこめられた力が、その不思議な自信の源は私なのだと教えてくれる。
「紅君……!」
私も同じだ。
一番欲しくて、一番大切で、それなのに諦めてずっと背中を向けていたこの手を、もう離さずにいられるのなら、なんでもできる。
してみせる。
(でも……なんて答えたらいいんだろう? どう言ったら、私のこの想いが紅君に伝わる?)
言葉で言い表せる範囲など、とてもわずかで、私の溢れんばかりの想いを伝えるには、どれほど重ねても足りない。
だからずっと、こうして傍にいたい。
背中を押してくれた蒼ちゃんの言葉そのままに、ただ紅君だけを見ていたい。
だが素直な感情だけで行動するには、私はあまりにも大きな秘密を、彼に対して抱えていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
ひとこま ~三千字以下の短編集~
花木 葵音
ライト文芸
三千字に満たないほんとに短い小説集。ほっこり。どきり。ヒヤリ。恋愛。青春。いろいろな作品をぜひ。気になったタイトルからどうぞ! すべて一話完結です。*ダークなのもあります。
悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません
藤原遊
恋愛
『運命をやり直す悪役令嬢は、やがて愛されすぎる』
「君がどんな道を選ぼうとも、俺は君を信じ続ける。」
処刑された悪役令嬢――それがリリアナ・ヴァレンシュタインの最期だった。
しかし、神の気まぐれで人生をやり直すチャンスを得た彼女は、自らの罪を悔い、穏やかに生きる道を選ぶ。修道女として婚約を解消する未来を望んだはずが、彼女の変化を見た周囲は「何が彼女をそこまで追い詰めたのか」と深く誤解し、過保護と溺愛を隠さなくなっていく。
「俺が守る。君が守りたいものすべてを、俺も守る。」
そんな中、婚約者のルシアン殿下もまた彼女を見守り続ける。冷静沈着な王太子だった彼は、いつしか彼女のために剣を振るい、共に未来を築きたいと願うようになっていた。
やがてリリアナは、王国を揺るがす陰謀に巻き込まれながらも、それを乗り越える力を得る。そして最後に殿下から告げられた言葉――。
「リリアナ、俺と結婚してくれ。」
「わたくしでよろしければ、喜んでお受けします。」
繰り返される困難を経て、彼女が辿り着いたのは溺愛たっぷりのハッピーエンドだった。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
あなたとの離縁を目指します
たろ
恋愛
いろんな夫婦の離縁にまつわる話を書きました。
ちょっと切ない夫婦の恋のお話。
離縁する夫婦……しない夫婦……のお話。
明るい離縁の話に暗い離縁のお話。
短編なのでよかったら読んでみてください。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる