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第五章 輝色の聖夜

72:冬の日の邂逅6

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「やっぱりおせっかいだったかな……ごめんね千紗……」

 真っ赤に泣き腫らした目で玄関の扉を叩いた私を、美久ちゃんは申し訳なさそうな顔で出迎えた。

 心の中に溜めこんだ悲しい思いを、一人で抱えていることが苦しく、私は美久ちゃんに、本当は紅君を子供の頃から知っていることと、紅君が私に関する記憶を二度も失くしてしまったことを打ち明けた。

「そうか……ごめん……」

 しゅんと肩を落とした美久ちゃんは、台所へ行ってミルクを温めると、それを持って私のすぐ隣に腰を下ろした。 

「記憶が戻りかけたらまた彼が倒れてしまいそうで……千紗が恐いって思う気持ちはわかるよ」

 膝を抱えて座りこんだままの私は、その膝の上に額を乗せ、美久ちゃんの話を聞く。

「自分と会わなければいいんだって……逃げようとする気持ちもわかる……でも……」

 突然変わった声音に、私はつられるように顔を上げた。
 美久ちゃんは手にしていたミルクの入ったカップを、すっと私へさし出した。 

「どんなに千紗が避けたって、結局今日みたいに会うでしょ? ……いくら逃げようとしたって、彼は千紗のことを少しずつ思い出すんでしょ? ……それって……」

 言葉を区切り、美久ちゃんは照れ臭そうに笑った。
 だがその瞳は、とても真剣だった。 

「なんだかもう『運命』みたいに私には思える……ちょっとうらやましいな」

(私と紅君の関係は、そんなにいいものじゃないよ!)

 いったんは口にしかけた言葉を、私は声に出せなかった。
 他の人にそういうふうに言ってもらい、嬉しい気持ちと恐い気持ちが渦巻く中に、紅君に「好きだ」と言われた時の、この上なく幸せな気持ちがあった。
 ずいぶんひさしぶりに、私はあの時の素直な感情を思い出した。 

『うん。俺も大好き! ちい!』

 そう言って、握りしめられた手の温かさ、柔らかさ。あの幸せを、五年ぶりに体の感覚として思い出した。
 
(紅君……!)

「運命なんじゃないかな……」

 ロマンチストな美久ちゃんによしよしと頭を撫でながら何度もそうくり返され、ぽろぽろと頬を伝って落ちる涙が止まらなかった。
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