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第五章 輝色の聖夜

70:冬の日の邂逅4

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 十一時が過ぎても男の子はまだ盛り上がっていたが、私の帰りの電車がなくならないうちに、女の子四人は先に帰ることにした。
 夜の校庭を歩いていると、校舎の別の場所からも、賑やかな声が聞こえてくる。
 私たち二年生ばかりでなく、一、三、四年生もパーティーをしていた。 

「ねえ千紗……本当に一年生のところに行かなくていいの?」

 夕方から何度も、さんざんくり返された同じ質問に、私は溜め息を吐きながら首を振った。

「いい」 
「えーっ……だってぇ……」

 それでも食い下がろうとする美久ちゃんを、若菜ちゃんがそっと手で制す。

「美久……いい加減にしなって……千紗も困ってるよ」
「だって…………」

 ぷうっと頬を膨らます美久ちゃんは、もしかすると本当に、自分が紅君に会いたいのかもしれない。
 そう思うと胸のどこかがチクリと痛むことは確かだったが、私は精一杯なんでもない顔を作り、美久ちゃんをふり返った。 

「行きたかったら美久ちゃんどうぞ。私は行かないけど……」
「なによぉ! 千紗の意地悪!」

 怒った美久ちゃんは、みんなを置いて早足で進んだが、ほんの少し前進しただけで、すぐに歩みを止めた。
 少し困ったように首を竦め、私をふり返る。

「千紗……」 

 何があったのかを説明されるまでもなく、私の目は、次の瞬間にはもうその人の姿を捉えていた。
 数人の友人たちに囲まれながら、数十メートル先を歩いている明るい色の髪。
 いったいどれぐらいぶりだろうと思っただけで、泣きだしそうになる自分を必死に抑える。

(ああ、本当に元気そうだ……よかった……笑ってる……)

 それだけを確認し、もうこれ以上は自分には許されないと背を向けた瞬間に、背後で美久ちゃんの大声が聞こえた。 

「ねえちょっと紅也君! 片桐紅也君!」

 ぎょっとしてふり向き、しまったと思った。
 訝しげにこちらを見た紅君と、ちょうど目があってしまった。

「あれ? ひょっとして……」

 自分の名前を呼んだ美久ちゃんではなく、そのうしろの私を見つめる紅君の表情が見る見る変わっていく。

(ダメだ……ダメ……!) 

 息をするのも苦しくなるほど頭の中ではくり返しているのに、よくわかっているつもりなのに、目を離せない。
 紅君から視線が逸らせない。

 そこには懐かしい笑顔があった。
 私のことを『ちい』と彼だけの呼び名で呼んでいてくれた頃の、あの大好きな笑顔があった。
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