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第一章 桜色の初恋
17:未来の約束3
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「約束……守ってないよね……?」
放課後、紅君と待ちあわせている土手へ向かおうとした私を呼び止めたのは、例の女の子たちだった。
いつかはこうなると思っていた。
それでも約束を破り、紅君の近くに居続けたのは私だ。
だから非難を受けるのは仕方がない。
「うん……ごめんなさい……」
潔く頭を下げたら、その上にバシャッと水をかけられた。
驚いて顔を上げ、女の子の一人が古いバケツを手にしていたので、その中に入っていた水をかけられたのだと理解する。
校舎裏の物置の近くに転がっていた、壊れかけの古いバケツ。
いったいいつからそこにあったのかわからないバケツの中の水は、腐ったような嫌な匂いがした。
「きったなーい」
くすくすと笑いながら鼻を摘む女の子たちの中で、中央にいる子だけが険しい表情を崩さない。
あの時、私に「もう紅也君には近づかない」という約束をさせた子。
今年は紅君と同じクラスになり、楽しそうに話している姿を何度も見かけたその子が、唇を噛みしめて私をじっと睨んでいた。
「なんで? ……なんで約束したのに守らないの?」
押し殺したような声で尋ねられて、返答に困る。
私の中でその答えはすでに出ている。
しかし紅君本人にもまだ告げていないこの想いを、先に他の人に言うことはできない。
「ごめんなさい……」
出せない言葉の代わりにもう一度謝った私の頬を、その子が叩いた。
「謝ってほしいわけじゃない!」
パアンと大きな音をさせて私の頬が鳴った瞬間、叩いたその子も周りの子たちもはっと息を呑んだ。
けれど、私は驚かなかった。
自分が叩かれることに、私は慣れていた。
それが他の女の子たちとはこんなに違うのだと知り、その事実のほうがよほどショックだった。
「ごめんなさい……でもあの約束は守れない……ほんの少しの時間でもいい。私はやっぱり紅君の傍にいたいから!」
きっぱりと宣言したのは、その子たちへ向けてなのか、それともそう遠くない未来に紅君との別れを準備された現実へなのか、自分でもわからない。
わからないけれど、これまでこれほど強く何かを願ったことなどなかった。
曲げられない。
どうしてもこの想いだけは譲れない。
「なに言ってんのよ!」
右側の子に思いっきり突き飛ばされ、物置にぶつかり、そのままそこに座りこんだ。
すぐに立ち上がることはできそうだったが、私は敢えてそうしなかった。
地面に額を擦りつけるようにして這いつくばり、女の子たちへ頭を下げた。
「ごめんなさい。紅君の傍にいさせて下さい。あとほんの少しでいいから……!」
鼻の奥がツンと痛くなる。
こみ上げる涙は、決してこの状況が悔しいからではない。
叩かれた頬も、突き飛ばされてぶつけた肩も、まったく痛みなどない。
もうあと少ししか紅君と一緒にいられないのだと知った胸の痛みに比べれば、何もかもがどうというほどではない。
「なんなのよ、あんた!」
かたくなな私の態度にますます怒った女の子たちが、土足で踏みつけても、口汚く罵っても、私は平気だった。
そんなことぐらいで紅君と一緒にいるのを許してもらえるのなら、どんな目に遭っても、私はそれでよかった。
放課後、紅君と待ちあわせている土手へ向かおうとした私を呼び止めたのは、例の女の子たちだった。
いつかはこうなると思っていた。
それでも約束を破り、紅君の近くに居続けたのは私だ。
だから非難を受けるのは仕方がない。
「うん……ごめんなさい……」
潔く頭を下げたら、その上にバシャッと水をかけられた。
驚いて顔を上げ、女の子の一人が古いバケツを手にしていたので、その中に入っていた水をかけられたのだと理解する。
校舎裏の物置の近くに転がっていた、壊れかけの古いバケツ。
いったいいつからそこにあったのかわからないバケツの中の水は、腐ったような嫌な匂いがした。
「きったなーい」
くすくすと笑いながら鼻を摘む女の子たちの中で、中央にいる子だけが険しい表情を崩さない。
あの時、私に「もう紅也君には近づかない」という約束をさせた子。
今年は紅君と同じクラスになり、楽しそうに話している姿を何度も見かけたその子が、唇を噛みしめて私をじっと睨んでいた。
「なんで? ……なんで約束したのに守らないの?」
押し殺したような声で尋ねられて、返答に困る。
私の中でその答えはすでに出ている。
しかし紅君本人にもまだ告げていないこの想いを、先に他の人に言うことはできない。
「ごめんなさい……」
出せない言葉の代わりにもう一度謝った私の頬を、その子が叩いた。
「謝ってほしいわけじゃない!」
パアンと大きな音をさせて私の頬が鳴った瞬間、叩いたその子も周りの子たちもはっと息を呑んだ。
けれど、私は驚かなかった。
自分が叩かれることに、私は慣れていた。
それが他の女の子たちとはこんなに違うのだと知り、その事実のほうがよほどショックだった。
「ごめんなさい……でもあの約束は守れない……ほんの少しの時間でもいい。私はやっぱり紅君の傍にいたいから!」
きっぱりと宣言したのは、その子たちへ向けてなのか、それともそう遠くない未来に紅君との別れを準備された現実へなのか、自分でもわからない。
わからないけれど、これまでこれほど強く何かを願ったことなどなかった。
曲げられない。
どうしてもこの想いだけは譲れない。
「なに言ってんのよ!」
右側の子に思いっきり突き飛ばされ、物置にぶつかり、そのままそこに座りこんだ。
すぐに立ち上がることはできそうだったが、私は敢えてそうしなかった。
地面に額を擦りつけるようにして這いつくばり、女の子たちへ頭を下げた。
「ごめんなさい。紅君の傍にいさせて下さい。あとほんの少しでいいから……!」
鼻の奥がツンと痛くなる。
こみ上げる涙は、決してこの状況が悔しいからではない。
叩かれた頬も、突き飛ばされてぶつけた肩も、まったく痛みなどない。
もうあと少ししか紅君と一緒にいられないのだと知った胸の痛みに比べれば、何もかもがどうというほどではない。
「なんなのよ、あんた!」
かたくなな私の態度にますます怒った女の子たちが、土足で踏みつけても、口汚く罵っても、私は平気だった。
そんなことぐらいで紅君と一緒にいるのを許してもらえるのなら、どんな目に遭っても、私はそれでよかった。
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