もう一度『初めまして』から始めよう

シェリンカ

文字の大きさ
上 下
63 / 77
6 夢見た未来

10

しおりを挟む
「お前が友だちになったっていう『成宮』のお嬢さんから、どこまで聞いてるかは知らないが……家督を継ぐことを放棄して、『成宮』と決別した叔父さんというのがいたとしたら、それが俺だ……『成宮』は、今はあの子の母親――俺の姉貴が継いでいる」
「そう……なんだ……」

 ここで私はとても重要なことに気がついた。
 父は、私が友だちになった『成宮のお嬢さん』を、今現在あのお屋敷で暮らしているらしい女の子のことだと持っているようだが、それは違う。
 私が友だちになったのは、『うてな』でこことは違う世界へ迷いこんで出会った、椿ちゃん――父の母だ。

 しかしそのまちがいを正すには、もういったいどこから説明しなければならないのかわからなくなるほど複雑で、その上そんな突拍子もない話を、信じてもらえる自信もない。
 ここは異を唱えず、とりあえず父と話を合わせておくことを選ぶ。

「特には、聞いてないけど……」
「そうか……」
 
 父は大きく息を吐き、椅子の背もたれに深く背中を預けた。
 花火を見上げ、その音に時々声をかき消されながら、話をしてくれる。

「俺と姉貴の上には兄貴がいて、『成宮』は当然その兄貴が継ぐものだと、周りも本人もまったく疑ってなかった。子供の頃から、俺たちとは別に英才教育を受けて、お前のお祖母ちゃんのお父さん――和奏から見たらひいお祖父ちゃんだな……その人から帝王学を叩きこまれて……頭のいい、優しい兄貴だったけど、まだ若いうちに亡くなったんだ……」

 父の家族の話など、これまで一度も聞いたことがなく、私は驚きの思いで目を見開く。

「そう……なの……」
「ああ。当然次は、次男の俺がって話になったけど、その頃にはもう俺はこの町にいなくて、和奏も生まれたばかりで、ここへ帰るっていう選択肢は選べなかった……それで姉貴が「だったら私が!」って継いだんだ。昔からしっかり者だし、人づきあいはいいし、却って和奏のひいお祖父ちゃんの代より、『成宮』は町への影響力と人脈を広げてるかもしれないな……」
「そうなんだ……」

 父の話によれば、あの椿ちゃんのお父さんから、椿ちゃんの娘に当たる人が家督を継いだということになる。
 だとすれば、椿ちゃんと誠さんはいったいどうしたのだろうと、私は不安になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

夏の日の時の段差

秋野 木星
ライト文芸
暑い夏の日に由紀恵は、亡くなったおばあちゃんの家を片付けに来た。 そこで不思議な時の段差に滑り込み、翻弄されることになる。 過去で出会った青年、未来で再会した友達。 おばあちゃんの思いと自分への気づき。 いくつもの時を超えながら、由紀恵は少しずつ自分の将来と向き合っていく。 由紀恵の未来は、そして恋の行方は? 家族、進路、恋愛を中心にしたちょっと不思議なお話です。 ※ 表紙は長岡更紗さんの作品です。 ※ この作品は小説家になろうからの転記です。

金字塔の夏

阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ナツキス -ずっとこうしていたかった-

帆希和華
ライト文芸
 紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。  嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。  ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。  大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。  そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。  なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。  夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。  ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。  高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。      17才の心に何を描いていくのだろう?  あの夏のキスのようにのリメイクです。  細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。  選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。   よろしくお願いします!  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

処理中です...