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6 夢見た未来
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その殊勝な顔を、誠さんがどう解釈したのかはわからないが、優しい声をかけられる。
「やっぱり無理だったか……こうなるかもしれないとは思ってたから、和奏ちゃんがそんな顔しないでよ」
それから前回と同じように、椿ちゃんへの想いをぽつぽつと語ってくれた。
「僕は『成宮』の遠縁で、そのせいもあって小さい頃から、あの家には時々出入りしてたんだ……椿の遊び相手として呼んでもらえていたのは、かろうじて『成宮』の血筋だってことと、椿と一番年が近かったから以外の理由はないだろうな……」
「そうなんですか?」
前回と同じ言葉を返しながらも、私は納得しない思いが大きい。
「ああ。何よりやっぱり『成宮』は特別だからね……その跡取りで一人娘の椿に、近づける者は厳選されるし、僕は運がよかったんだよ……」
誠さんの話を聞きながら我慢できず、つい本音が口から出てしまった。
「そんなことないと思います!」
「え……?」
驚いた顔の誠さんに、私は言葉をぶつける。
中には前回の彼の話から仕入れた情報も含まれていたが、細かなことにはもう目をつむることにした。
「誠さんはなんとか椿ちゃんとつりあう人間になろうと、猛勉強して都会の大学へ行ったんですよね? 来年の春には法律関係の仕事も始めるし、資格試験も受けるんですよね? だったら単なる運なんかじゃなく、これからの人生で椿ちゃんの隣にいるための努力を、精一杯やってる人です!」
私のすごい剣幕に、一瞬呆気に取られていた誠さんだったが、すぐに目を細めて笑い始めた。
「ははは、ありがとう……そんなふうに言ってもらえると嬉しいよ。誰に聞いたの? 椿?」
「う……はい……」
椿ちゃんのせいにしてしまってよかったのかという思いはあったが、他に答えようがなく、私は曖昧にごまかした。
「……だから、自分は今すぐではなくても近いうちに必ず、『成宮』のお嬢さまに見合う人間になるので! と宣言して誓いを立てれば……椿ちゃんのお父さんだって他に誰かを探すより、誠さんなら、きっと……」
話すうちに椿ちゃんのお父さんの迫力を思い出してしまい、私の言葉にはだんだん自信がなくなってきたのだが、逆に誠さんの表情は明るくなり始めた。
「許して……くださるかな?」
期待に満ちた目で見つめられると、それを裏切ることができず、私は頷くしかない。
「はい……きっと……」
最終的には申し訳なさに俯いてしまった私の頭を、誠さんは軽く撫でた。
「ありがとう、和奏ちゃん。勇気が出たよ」
そういうふうに扱われても、変に緊張したり驚いたりせずしっくりとくるのは、彼が自分の祖父なのだと知ってしまった今となっては、もう何の疑問もない。
「やっぱり無理だったか……こうなるかもしれないとは思ってたから、和奏ちゃんがそんな顔しないでよ」
それから前回と同じように、椿ちゃんへの想いをぽつぽつと語ってくれた。
「僕は『成宮』の遠縁で、そのせいもあって小さい頃から、あの家には時々出入りしてたんだ……椿の遊び相手として呼んでもらえていたのは、かろうじて『成宮』の血筋だってことと、椿と一番年が近かったから以外の理由はないだろうな……」
「そうなんですか?」
前回と同じ言葉を返しながらも、私は納得しない思いが大きい。
「ああ。何よりやっぱり『成宮』は特別だからね……その跡取りで一人娘の椿に、近づける者は厳選されるし、僕は運がよかったんだよ……」
誠さんの話を聞きながら我慢できず、つい本音が口から出てしまった。
「そんなことないと思います!」
「え……?」
驚いた顔の誠さんに、私は言葉をぶつける。
中には前回の彼の話から仕入れた情報も含まれていたが、細かなことにはもう目をつむることにした。
「誠さんはなんとか椿ちゃんとつりあう人間になろうと、猛勉強して都会の大学へ行ったんですよね? 来年の春には法律関係の仕事も始めるし、資格試験も受けるんですよね? だったら単なる運なんかじゃなく、これからの人生で椿ちゃんの隣にいるための努力を、精一杯やってる人です!」
私のすごい剣幕に、一瞬呆気に取られていた誠さんだったが、すぐに目を細めて笑い始めた。
「ははは、ありがとう……そんなふうに言ってもらえると嬉しいよ。誰に聞いたの? 椿?」
「う……はい……」
椿ちゃんのせいにしてしまってよかったのかという思いはあったが、他に答えようがなく、私は曖昧にごまかした。
「……だから、自分は今すぐではなくても近いうちに必ず、『成宮』のお嬢さまに見合う人間になるので! と宣言して誓いを立てれば……椿ちゃんのお父さんだって他に誰かを探すより、誠さんなら、きっと……」
話すうちに椿ちゃんのお父さんの迫力を思い出してしまい、私の言葉にはだんだん自信がなくなってきたのだが、逆に誠さんの表情は明るくなり始めた。
「許して……くださるかな?」
期待に満ちた目で見つめられると、それを裏切ることができず、私は頷くしかない。
「はい……きっと……」
最終的には申し訳なさに俯いてしまった私の頭を、誠さんは軽く撫でた。
「ありがとう、和奏ちゃん。勇気が出たよ」
そういうふうに扱われても、変に緊張したり驚いたりせずしっくりとくるのは、彼が自分の祖父なのだと知ってしまった今となっては、もう何の疑問もない。
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