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3 それぞれの思い
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しおりを挟む 母屋へ戻ると、縁側にもうハナちゃんの姿はなかった。
待っていると言われたわけでもなかったが、父といろんな話をした報告が果たせなかったことは残念だった。
(ハナちゃんのおかげだもんね……)
明日になるか明後日になるかは不明だが、また来てくれた時に話そうと心しながら、私は台所で西瓜の皮を片づけ、出かける準備をした。
(水筒と、タオルと、財布と、ペンケース……)
荷物が多くなりそうなので、必要なものを、昨日椿ちゃんと出かけた時のショルダーバッグから、リュックに詰め替える。
迷った末にスマホも、時計代わりと非常時の照明として持っていくことにした。
(電話としての機能は期待できないけど……まあいいか……)
履き慣れたスニーカーを履いて、帽子を被り、リュックを背負ってスケッチブックを抱える。
(出発!)
目的地は山の上のほうだと決めていた。
椿ちゃんと眺めたあの街全体を見下ろす光景を、父がくれたスケッチブックの一ページ目に描いておきたいと思った。
しかし――。
(そうだった……そうだったわ……)
父の仕事場兼住居の近くを通っている道は、地域の人たちからは『獣道』と呼ばれており、人が登る用のものではなかった。
頂上まで脇道もなければ、景色を眺めるような場所もない。
私が望んだように麓の町の風景を描きたければ、山の頂上にある髪振神社の上之社まで行くしかなかった。
(失敗したわ……)
どこか景色のいいところで絵が描きたいのなら、いったん麓まで下り、椿ちゃんが教えてくれた山の反対側から登る道を行くべきだったのだ。
そうすれば頂上まで行かなくても、休憩できる眺めのいい場所があったはずだ。
(仕方ない……今更もうひき返せないもの……)
かなり登ってきてしまった急斜面の道をふり返り、私はため息を吐く。
(次に山を登る時こそ、もう絶対にまちがえない!)
強く心しながら、私は息を切らせてその道を登り続けた。
待っていると言われたわけでもなかったが、父といろんな話をした報告が果たせなかったことは残念だった。
(ハナちゃんのおかげだもんね……)
明日になるか明後日になるかは不明だが、また来てくれた時に話そうと心しながら、私は台所で西瓜の皮を片づけ、出かける準備をした。
(水筒と、タオルと、財布と、ペンケース……)
荷物が多くなりそうなので、必要なものを、昨日椿ちゃんと出かけた時のショルダーバッグから、リュックに詰め替える。
迷った末にスマホも、時計代わりと非常時の照明として持っていくことにした。
(電話としての機能は期待できないけど……まあいいか……)
履き慣れたスニーカーを履いて、帽子を被り、リュックを背負ってスケッチブックを抱える。
(出発!)
目的地は山の上のほうだと決めていた。
椿ちゃんと眺めたあの街全体を見下ろす光景を、父がくれたスケッチブックの一ページ目に描いておきたいと思った。
しかし――。
(そうだった……そうだったわ……)
父の仕事場兼住居の近くを通っている道は、地域の人たちからは『獣道』と呼ばれており、人が登る用のものではなかった。
頂上まで脇道もなければ、景色を眺めるような場所もない。
私が望んだように麓の町の風景を描きたければ、山の頂上にある髪振神社の上之社まで行くしかなかった。
(失敗したわ……)
どこか景色のいいところで絵が描きたいのなら、いったん麓まで下り、椿ちゃんが教えてくれた山の反対側から登る道を行くべきだったのだ。
そうすれば頂上まで行かなくても、休憩できる眺めのいい場所があったはずだ。
(仕方ない……今更もうひき返せないもの……)
かなり登ってきてしまった急斜面の道をふり返り、私はため息を吐く。
(次に山を登る時こそ、もう絶対にまちがえない!)
強く心しながら、私は息を切らせてその道を登り続けた。
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