21 / 32
第五章
2
しおりを挟む
舞踏会の当日は、国内外から多くの招待客がヴェンダール城を訪れた。
リリーアが身代わりをしているコンスタンツェ姫も、客人の扱いなので、その様子を度々のぞきに行くマルグリットに、興奮気味に教えてもらうだけだが、招いた立場のアルノルト王子は、朝から多忙を極めているようだ。
謁見の間で、とある国の王族と顔合わせをしたかと思うと、次はまた別の国の人物を出迎えに、エントランスへ向かう。
王子の護衛であるフィオレンツィオも、それにずっと付き従っているようで、今日はリリーアのところへ顔を出すことはない。
「王宮はとても賑わっているのですが、ここはいつもより静かで……なんだか、寂しいですね」
「え?」
髪を梳ってくれているマルグリットに、突然話しかけられ、リリーアはどきりとした。
ちょうど、フィオレンツィオの訪れがないことを、そう感じていたところだったからだ。
「でも、夜の舞踏会では、嫌でも顔を合わせることになりますよ。私が姫様付きの侍女ではなく、デモネイラ王国の貴族の一人として出席するように、あちらも今夜は、グランディス王国の貴族の一人として出席されるでしょうから」
「ああ……そうね」
マルグリットの話しているのが、フィオレンツィオについてというよりドナテーノについてだと思い当たり、リリーアは自然と頬が緩む。
「マルグリットは、ドナテーノと踊るの?」
いつも喧嘩ばかりしているが、その様子を見ていると、二人が気の置けない間柄なことは確かなので、からかい気味に尋ねてみる。
すると、思っていた以上に大慌てで、否定された。
「ど、どうして私があの男と!?!? まあ、どうしてもと言うなら、考えてあげないこともありませんが……どうせあの性格では、他に踊ってくれるご令嬢もいないでしょうし!!」
マルグリットはあたふたと、手にしていた櫛を放り投げ、それを拾い直して力任せに握りしめる。
それを取り換えに隣室へ行くというので、リリーアも笑いをかみ殺しながら、ついて行った。
寝室の中央に置かれた大きなベッドの上には、リリーアとマルグリットが二人がかりで、朝からああでもないこうでもないと考えた、今宵の舞踏会用のドレスと装飾品が広げられている。
二人分なので、かなり煌びやかだ。
「姫様、私本当にこのドレスでいいでしょうか……? やっぱり、もっと地味なほうが……」
いつも自信満々にリリーアの世話を焼いているマルグリットが、自分のことになると弱気になるところが、可愛らしいと思いながら、リリーアは大きく頷く。
「その色で大丈夫よ。マルグリットの目の色ととても合っているもの……デモネイラにはこんなに綺麗なご令嬢が居るんだって、舞踏会でも噂の的になるわ」
リリーアに肯定され、ほっとしたらしいマルグリットが、いつものように強気になる。
「何をおっしゃっているんですか。今宵の主役は姫様ですよ! このドレスを着て盛装した姫様を見たら、妖精という呼び名は嘘じゃなかった、本当だったと、みんな驚きます。アルノルト殿下も、きっと惚れ直されますよ……よかったですね!」
「え? ……ええ」
そこでアルノルト王子の名前が出てきたことにどきりとしながら、リリーアはマルグリットがその違和感に気が付かないうちに、急いで頷いた。
盛装したリリーアを見て、驚いたように微笑みかけてくれるのは、リリーアの頭の中では王子ではなく、違う人物だったからだ。
(私ったら……何を考えているの……?)
面影を頭からふるい落とすように、何度もぶるぶると頭を左右に振る。
「どうされました?」
問いかけてくるマルグリットに「なんでもないの」と答えながら、実際はとても動揺していた。
リリーアが身代わりをしているコンスタンツェ姫も、客人の扱いなので、その様子を度々のぞきに行くマルグリットに、興奮気味に教えてもらうだけだが、招いた立場のアルノルト王子は、朝から多忙を極めているようだ。
謁見の間で、とある国の王族と顔合わせをしたかと思うと、次はまた別の国の人物を出迎えに、エントランスへ向かう。
王子の護衛であるフィオレンツィオも、それにずっと付き従っているようで、今日はリリーアのところへ顔を出すことはない。
「王宮はとても賑わっているのですが、ここはいつもより静かで……なんだか、寂しいですね」
「え?」
髪を梳ってくれているマルグリットに、突然話しかけられ、リリーアはどきりとした。
ちょうど、フィオレンツィオの訪れがないことを、そう感じていたところだったからだ。
「でも、夜の舞踏会では、嫌でも顔を合わせることになりますよ。私が姫様付きの侍女ではなく、デモネイラ王国の貴族の一人として出席するように、あちらも今夜は、グランディス王国の貴族の一人として出席されるでしょうから」
「ああ……そうね」
マルグリットの話しているのが、フィオレンツィオについてというよりドナテーノについてだと思い当たり、リリーアは自然と頬が緩む。
「マルグリットは、ドナテーノと踊るの?」
いつも喧嘩ばかりしているが、その様子を見ていると、二人が気の置けない間柄なことは確かなので、からかい気味に尋ねてみる。
すると、思っていた以上に大慌てで、否定された。
「ど、どうして私があの男と!?!? まあ、どうしてもと言うなら、考えてあげないこともありませんが……どうせあの性格では、他に踊ってくれるご令嬢もいないでしょうし!!」
マルグリットはあたふたと、手にしていた櫛を放り投げ、それを拾い直して力任せに握りしめる。
それを取り換えに隣室へ行くというので、リリーアも笑いをかみ殺しながら、ついて行った。
寝室の中央に置かれた大きなベッドの上には、リリーアとマルグリットが二人がかりで、朝からああでもないこうでもないと考えた、今宵の舞踏会用のドレスと装飾品が広げられている。
二人分なので、かなり煌びやかだ。
「姫様、私本当にこのドレスでいいでしょうか……? やっぱり、もっと地味なほうが……」
いつも自信満々にリリーアの世話を焼いているマルグリットが、自分のことになると弱気になるところが、可愛らしいと思いながら、リリーアは大きく頷く。
「その色で大丈夫よ。マルグリットの目の色ととても合っているもの……デモネイラにはこんなに綺麗なご令嬢が居るんだって、舞踏会でも噂の的になるわ」
リリーアに肯定され、ほっとしたらしいマルグリットが、いつものように強気になる。
「何をおっしゃっているんですか。今宵の主役は姫様ですよ! このドレスを着て盛装した姫様を見たら、妖精という呼び名は嘘じゃなかった、本当だったと、みんな驚きます。アルノルト殿下も、きっと惚れ直されますよ……よかったですね!」
「え? ……ええ」
そこでアルノルト王子の名前が出てきたことにどきりとしながら、リリーアはマルグリットがその違和感に気が付かないうちに、急いで頷いた。
盛装したリリーアを見て、驚いたように微笑みかけてくれるのは、リリーアの頭の中では王子ではなく、違う人物だったからだ。
(私ったら……何を考えているの……?)
面影を頭からふるい落とすように、何度もぶるぶると頭を左右に振る。
「どうされました?」
問いかけてくるマルグリットに「なんでもないの」と答えながら、実際はとても動揺していた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
国王陛下は仮面の下で笑う ~宮廷薬師がダメなら王妃になれ、ってどういうことですか~
佐崎咲
恋愛
若くして国王となったユーティス=レリアードは、愚王と呼ばれていた。
幼少の頃に毒を盛られた後遺症でネジが飛んだのだろうともっぱらの噂だった。
そんなユーティスが幼い頃縁のあった薬師の少女リリアの元を訪ねてくる。
用件は「信頼できるリリアに宮廷薬師として王宮に来てほしい」というもの。
だがリリアは毒と陰謀にまみれた王宮なんてまっぴらごめんだった。
「嫌。」の一言で断ったところ、重ねられたユーティスの言葉にリリアはカッとなり、思い切り引っぱたいてしまう。
しかしその衝撃によりユーティスは愚王の仮面を脱ぎ、再び賢王としての顔を町の人々に向ける。
リリアは知っていた。そのどちらも彼がかぶっている仮面に過ぎないことを。
だけど知らなかった。それら全てが彼の謀略であることを。
すべては、リリアを王妃にするためだった。
張り巡らされたユーティスの罠に搦めとられたリリアは、元ののんびりした生活に戻ることはできるのか。
========
本編完結しましたが、書ければ番外編など追加していく予定です。
なろうにも掲載していますが、構成など異なります。
最終章は、こちらではじれじれ編。
なろうは、一発殴りに行っての砂糖吐く激甘仕様(アイリーン無双入り)です。
どっちも書きたくてこうなりました……。
※無断転載・複写はお断りいたします。
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる