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20 神様のお守り
①
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翌日、山の上出張所を開店させるとすぐに、いつものように多香子さんがやってきた。
「瑞穂ちゃん、おはよー」
「おはようございます、多香子さん」
普段通りに荷物を受け取って、前回のぶんの領収書を渡して、帰っていこうとする多香子さんに、私は勇気を出して問いかけてみる。
「あの、多香子さん……昨日言ってた、夕方からのお手伝いって……」
途端、多香子さんが顔を輝かせて私の手を両手で握りしめた。
「やってくれるの? 瑞穂ちゃん!」
「いえ、あの……」
そうではなく、それはひょっとして『狭間の時間』の特別な宿泊客の受け入れの手伝いだったりするのだろうかと、訊ねてみたかっただけなのだが、いざとなるとなんと切り出したらいいのかわからない。
多香子さんがあやかしならば話は簡単だが、人間だった場合は、意味のわからない話をした上に、この場所には人間とあやかしが混在していると、いかにも胡散臭い話を真剣に語る怪しい奴だと認定されてしまう。
「すみません。即答は出来ないんですけど……」
仕方なくお茶を濁すと、「うんうん」と頷かれた。
「会社の就業規定もあるだろうし、まずは副業OKなのかを確かめるところからよね。うちはいつでも大歓迎だから、本当に考えておいて」
そう言うと、多香子さんは出張所のカウンターの隅においてあるパンフレットを一部取って、私に渡してくれた。
それは『梅の屋』のパンフレットで、見開きを開いてみた私に手を振り、多香子さんは出張所を出ていく。
「創業240年、御橋神社大鳥居前、『狭間温泉』の『梅の屋』をどうぞよろしくー!」
「狭間温泉!?」
多香子さんの言葉に驚いて、私はパンフレットを凝視した。
そこには確かに、この山の上の温泉集落を、『狭間温泉』と記されている。
(やっぱり多香子さんもそっち側の人じゃないのよー!)
パンフレットを掴む手に、力がこもらずにはいられなかった。
「瑞穂ちゃん、おはよー」
「おはようございます、多香子さん」
普段通りに荷物を受け取って、前回のぶんの領収書を渡して、帰っていこうとする多香子さんに、私は勇気を出して問いかけてみる。
「あの、多香子さん……昨日言ってた、夕方からのお手伝いって……」
途端、多香子さんが顔を輝かせて私の手を両手で握りしめた。
「やってくれるの? 瑞穂ちゃん!」
「いえ、あの……」
そうではなく、それはひょっとして『狭間の時間』の特別な宿泊客の受け入れの手伝いだったりするのだろうかと、訊ねてみたかっただけなのだが、いざとなるとなんと切り出したらいいのかわからない。
多香子さんがあやかしならば話は簡単だが、人間だった場合は、意味のわからない話をした上に、この場所には人間とあやかしが混在していると、いかにも胡散臭い話を真剣に語る怪しい奴だと認定されてしまう。
「すみません。即答は出来ないんですけど……」
仕方なくお茶を濁すと、「うんうん」と頷かれた。
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そう言うと、多香子さんは出張所のカウンターの隅においてあるパンフレットを一部取って、私に渡してくれた。
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「狭間温泉!?」
多香子さんの言葉に驚いて、私はパンフレットを凝視した。
そこには確かに、この山の上の温泉集落を、『狭間温泉』と記されている。
(やっぱり多香子さんもそっち側の人じゃないのよー!)
パンフレットを掴む手に、力がこもらずにはいられなかった。
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