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13 人間とあやかし

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「こうも続くと、本当に疲れが抜けきらない……」
「若いのに何言うちょるの、はははっ」

 宅配便の出張所で、伸びている私を笑っている千代さんのほうが、よほど若々しく見える時がある。

「千代さんって……何歳なんですか?」

 ある時訊ねてみると、「あらやだ、女の人に年を聞くなんてぇ」と言いながら教えてくれた。

「八十八? ん? 九だったけぇ? とにかく、もうすぐ九十よ」
「九十!?」

 年配だとは思っていたが、とてもそこまでには見えず、思わず私は叫んでしまった。

「もっと……田中のお爺ちゃんと同じくらいかと思ってました……」
「あらあら、嬉しいことを。庄吉さんは七十五じゃったけぇ? 十五歳も下じゃね」
「十五……」

 とてもそうは思えないともう一度言いかけて、私はどきりとした。
 確かに千代さんは九十近いとは思えない元気さだが、逆に田中さんが、七十代にしては年を取って感じられるのだ。

(腰を痛めたとかで、少し背が曲がってるし……足も少しひきずってるし……そういえば最近咳を……)

 ごほごほと咳きこむことが多くて、私が心配すると、少し前に風邪を引いてから咳だけ抜けない、他に症状はないから大丈夫だと笑っていた。

(大丈夫……かな……?)

 ご近所ともかなり距離があるような場所に、一人で住んでいる田中さんのことが心配になってくる。

(本当は、誰かと一緒に住むといいんだろうけど……)

 一瞬、豆太くんの顔が頭をよぎったが、私は首をぶるぶると左右に振って、それを追い払った。

(ダメ、ダメ、豆太くんと田中さんは住む世界が違うんだもの……)

 実際にあやかしであるクロとシロと同居している私は、ともすればその線引きがわからなくなる。
 一人住まいの田中さんと、その田中さんをあそこまで慕っている豆太くんが一緒に生活するというのは、それほどいけないことなのだろうか。

 シロに少し訊ねてみたが、しばらく沈黙した末に、「難しいと思う」という返事だった。
 おしゃべりな彼が、それだけしか答えないことにはかなり深い意味があるように感じたし、クロにはきっと否定されると思ったので、私がそれ以上深入りして、その問題を話題にすることはなかった。
 ただ、自分に出来るせめてものことをと、豆太くんの荷物を届ける時に、田中さんの様子をよく見ておくことは心がけた。

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