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13 人間とあやかし
⑤
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夕食時、丸い卓袱台を三人で囲んでクロが作ってくれた本格中華を食べながら、クロが何度も呟く。
「馬鹿か」
「…………っ」
そのたびに、何か言い返そうと私は口を開きかけるが、結局何も言えなくて、悔しまぎれに酢豚や棒棒鶏や餃子を口に詰めこむ。
(悔しいっ! でもそれにも増して美味しいっ!)
このままこの家に住んでいると、太ってしまうのではないかと危ぶみながら、すごい勢いで食事を続ける私に、シロが助け舟を出す。
「まあでも、お爺さんも豆太もとても喜んでくれてるしね」
その通りだと思いながらも、ちょうど炒飯を口いっぱいにほおばったばかりで声が出せず、私は代わりにうんうんと頷く。
クロはすっと冷たい目をシロへ向けた。
「一度や二度ならそれでよくても、続けているとどうなるか……わかるだろ?」
「それは……まあ……」
気まずそうに視線を伏せてしまったシロから私へと、クロは向き直る。
「瑞穂、昨日の配達に何時間かかった?」
車を運転していたのは往復四時間だが、田中さんの家でお茶をご馳走になったり、話をしたりしていた時間を含めて、私は答える。
「五時間……かな?」
「ガソリンはどれくらい減った?」
「山を登ったり下ったりしたから……満タンの半分くらいかな……」
実際はそれより少し多いくらい消費していたが、クロから訊ねられるうちに自分でもヒヤリとして、ごまかしてしまった。
(そうか……)
「善意だけで何度も続けるには、負担が大きい。見返りもない。だからこそ、宅配便っていう仕事が存在してるんだろ?」
「うん……」
それを仕事として賃金を貰いながら、無償で豆太くんと田中さんの荷物を運ぶことは確かに矛盾している。
それでも私は、期待に満ちた豆太くんの顔を、裏切る選択はできなかった。
「プロ失格だな……」
落ちこみながら唐揚げに箸を伸ばすと、ちょうど同じ唐揚げをクロも狙っていたらしく、同時に掴んでしまう。
きまり悪そうにそれを放して、ごほんと咳払いして、クロが小さく呟いた。
「だけど、気持ちはわかる……」
「え?」
思いがけない言葉に、ぽろっと私の箸から落ちた唐揚げを、横からシロがさらっていく。
「俺も」
ぱくりと唐揚げに嚙みついたシロを見て、上げた抗議の声がクロと重なった。
「「ああっ!」」
二人で顔を見あわせて、それぞれ大慌てで確保した残り少ない唐揚げを、自分の取り皿に取っておく。
そこまでの動きがクロとまったく同じで、私はそれまでの気落ちした気分も忘れて、思わず笑ってしまった。
見ればクロも、少し表情を柔らかくして、話はここでいったん終わりにして、食事のほうへ専念すると決めたようだ。
それからは少しリラックスして、三人で食事を続けた。
私の悪いところはちゃんと指摘しながらも、二人揃って「気持ちはわかる」と同意もしてくれたことが、とても嬉しかった。
「馬鹿か」
「…………っ」
そのたびに、何か言い返そうと私は口を開きかけるが、結局何も言えなくて、悔しまぎれに酢豚や棒棒鶏や餃子を口に詰めこむ。
(悔しいっ! でもそれにも増して美味しいっ!)
このままこの家に住んでいると、太ってしまうのではないかと危ぶみながら、すごい勢いで食事を続ける私に、シロが助け舟を出す。
「まあでも、お爺さんも豆太もとても喜んでくれてるしね」
その通りだと思いながらも、ちょうど炒飯を口いっぱいにほおばったばかりで声が出せず、私は代わりにうんうんと頷く。
クロはすっと冷たい目をシロへ向けた。
「一度や二度ならそれでよくても、続けているとどうなるか……わかるだろ?」
「それは……まあ……」
気まずそうに視線を伏せてしまったシロから私へと、クロは向き直る。
「瑞穂、昨日の配達に何時間かかった?」
車を運転していたのは往復四時間だが、田中さんの家でお茶をご馳走になったり、話をしたりしていた時間を含めて、私は答える。
「五時間……かな?」
「ガソリンはどれくらい減った?」
「山を登ったり下ったりしたから……満タンの半分くらいかな……」
実際はそれより少し多いくらい消費していたが、クロから訊ねられるうちに自分でもヒヤリとして、ごまかしてしまった。
(そうか……)
「善意だけで何度も続けるには、負担が大きい。見返りもない。だからこそ、宅配便っていう仕事が存在してるんだろ?」
「うん……」
それを仕事として賃金を貰いながら、無償で豆太くんと田中さんの荷物を運ぶことは確かに矛盾している。
それでも私は、期待に満ちた豆太くんの顔を、裏切る選択はできなかった。
「プロ失格だな……」
落ちこみながら唐揚げに箸を伸ばすと、ちょうど同じ唐揚げをクロも狙っていたらしく、同時に掴んでしまう。
きまり悪そうにそれを放して、ごほんと咳払いして、クロが小さく呟いた。
「だけど、気持ちはわかる……」
「え?」
思いがけない言葉に、ぽろっと私の箸から落ちた唐揚げを、横からシロがさらっていく。
「俺も」
ぱくりと唐揚げに嚙みついたシロを見て、上げた抗議の声がクロと重なった。
「「ああっ!」」
二人で顔を見あわせて、それぞれ大慌てで確保した残り少ない唐揚げを、自分の取り皿に取っておく。
そこまでの動きがクロとまったく同じで、私はそれまでの気落ちした気分も忘れて、思わず笑ってしまった。
見ればクロも、少し表情を柔らかくして、話はここでいったん終わりにして、食事のほうへ専念すると決めたようだ。
それからは少しリラックスして、三人で食事を続けた。
私の悪いところはちゃんと指摘しながらも、二人揃って「気持ちはわかる」と同意もしてくれたことが、とても嬉しかった。
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