上 下
45 / 77
13 人間とあやかし

しおりを挟む
 夕食時、丸い卓袱台を三人で囲んでクロが作ってくれた本格中華を食べながら、クロが何度も呟く。

「馬鹿か」
「…………っ」

 そのたびに、何か言い返そうと私は口を開きかけるが、結局何も言えなくて、悔しまぎれに酢豚や棒棒鶏や餃子を口に詰めこむ。

(悔しいっ! でもそれにも増して美味しいっ!)

 このままこの家に住んでいると、太ってしまうのではないかと危ぶみながら、すごい勢いで食事を続ける私に、シロが助け舟を出す。

「まあでも、お爺さんも豆太もとても喜んでくれてるしね」

 その通りだと思いながらも、ちょうど炒飯を口いっぱいにほおばったばかりで声が出せず、私は代わりにうんうんと頷く。

 クロはすっと冷たい目をシロへ向けた。

「一度や二度ならそれでよくても、続けているとどうなるか……わかるだろ?」
「それは……まあ……」

 気まずそうに視線を伏せてしまったシロから私へと、クロは向き直る。

「瑞穂、昨日の配達に何時間かかった?」

 車を運転していたのは往復四時間だが、田中さんの家でお茶をご馳走になったり、話をしたりしていた時間を含めて、私は答える。

「五時間……かな?」
「ガソリンはどれくらい減った?」
「山を登ったり下ったりしたから……満タンの半分くらいかな……」

 実際はそれより少し多いくらい消費していたが、クロから訊ねられるうちに自分でもヒヤリとして、ごまかしてしまった。

(そうか……)

「善意だけで何度も続けるには、負担が大きい。見返りもない。だからこそ、宅配便っていう仕事が存在してるんだろ?」
「うん……」

 それを仕事として賃金を貰いながら、無償で豆太くんと田中さんの荷物を運ぶことは確かに矛盾している。
 それでも私は、期待に満ちた豆太くんの顔を、裏切る選択はできなかった。

「プロ失格だな……」

 落ちこみながら唐揚げに箸を伸ばすと、ちょうど同じ唐揚げをクロも狙っていたらしく、同時に掴んでしまう。
 きまり悪そうにそれを放して、ごほんと咳払いして、クロが小さく呟いた。

「だけど、気持ちはわかる……」
「え?」

 思いがけない言葉に、ぽろっと私の箸から落ちた唐揚げを、横からシロがさらっていく。

「俺も」

 ぱくりと唐揚げに嚙みついたシロを見て、上げた抗議の声がクロと重なった。

「「ああっ!」」

 二人で顔を見あわせて、それぞれ大慌てで確保した残り少ない唐揚げを、自分の取り皿に取っておく。
 そこまでの動きがクロとまったく同じで、私はそれまでの気落ちした気分も忘れて、思わず笑ってしまった。

 見ればクロも、少し表情を柔らかくして、話はここでいったん終わりにして、食事のほうへ専念すると決めたようだ。

 それからは少しリラックスして、三人で食事を続けた。
 私の悪いところはちゃんと指摘しながらも、二人揃って「気持ちはわかる」と同意もしてくれたことが、とても嬉しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

Fox Tail 狐のいる喫茶店

雪本 風香
キャラ文芸
ーFox Tailー お金さえ出せば願いを叶えてくれる喫茶店。 でも、それだけでは入店することができません。 強い望みが……それこそ命をかけてまで叶えたいと願った時、それは目の前に現れる。 命を賭した望みなら、お狐様が必ず叶えてくれるでしょう。 貴方には命を捨ててまで叶えたい願いはありますか? エブリスタ様にも掲載しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神のぬいぐるみとムササビやもふもふがいました

なかじまあゆこ
キャラ文芸
高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神や不思議なムササビにあやかしがいました。 派遣で働いていた会社が突然倒産した。落ち込んでいた真歌(まか)は気晴らしに高尾山に登った。 パンの焼き上がる香りに引き寄せられ『ムササビカフェ食堂でごゆっくり』に入ると、 そこは、ちょっと不思議な店主とムササビやもふもふにそれからつくも神のぬいぐるみやあやかしのいるカフェ食堂でした。 その『ムササビカフェ食堂』で働くことになった真歌は……。 よろしくお願いします(^-^)/

処理中です...