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8 烏天狗の諫め
④
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「迷惑ばかりかけるな、能天気狐」
大きく翼を羽ばたかせて、地面の砂や小石を巻き上げ、ゆっくりと降りながら苛立たしげに吐き捨てたクロに、シロは笑顔で応戦する。
「小言が多いよ、はぐれ烏」
ふんとその言葉を鼻で笑ったクロは完全に地面に降り立ちはせず、少し浮いた状態で止まった。
私だけを先に腕から降ろす。
「ありがとうございました……」
私のお礼の言葉に返事はない。
クロは腕組みをして、そっぽを向いている。
「こいつは芦原瑞穂。ひさしぶりに狭間の宅配便屋に迷いこんだ人間だ。せっかくだからこちらの世界での仕事に使ってやろうと、今、試用中だ。ただ……それだけだ」
どうやら可哀そうなほど落ちこんでしまった綾音さんに、私の説明をしてあげたようだ。
(かなり語弊がありますけどね!?)
クロの言葉にはっと顔を上げた綾音さんが、少しほっとしたようだったので、言いたいことはあるが、私はもう口を挟まないことにした。
「えー、それを言っちゃったら、俺の計画がだいなしじゃーん」
不満の声を上げたシロは、クロから凍るような目を向けられる。
「知るか」
「ちぇっ」
シロが投げ返した下駄を履いたクロは、綾音さんが手渡してくれたもう片方も履いて、地面に降り立った。
背中の羽は、地面につきそうなほど大きい。
羽と、全身黒ずくめの装束がいつもの物と少し変わっていること以外は、人型の時とあまり変化がないようにも見える。
でも体の中で見えているのは目と手だけで、あとは全て闇に解けてしまいそうに黒い。
「あの……これからも、荷物を頼んだらシロさまが届けてくださいますか?」
おずおずと訊ねる綾音さんに、クロは目を向けはしないが、さっさと答える。
「それが俺たちの仕事だから、もちろんだ」
「ありがとうございます!」
「ちょっと!!」
嬉しそうに頭を下げてうきうきと蔵の中へ帰っていった綾音さんにも、すかさず抗議の声を上げたシロにも、クロが表情を変えることはなかった。
「配達が終わったんなら、買いものして帰るぞ」
「はいはい」
不満そうにクロのあとを追うシロは、私をふり返って訊ねる。
「瑞穂ちゃん、どっちと行く? 俺がいい? クロがいい?」
振り落とされないように掴まることにもすっかり慣れたシロの白い背中と、クロに抱きしめられていた感触を天秤にかけ、少し焦りを覚えながら私は答えた。
「シロくんがいいかな……」
「やっぱりそうだよねー」
嬉しそうに笑ったシロの背に揺られて、少し街中へ戻ったところにあるコンビニへ行った。
大きく翼を羽ばたかせて、地面の砂や小石を巻き上げ、ゆっくりと降りながら苛立たしげに吐き捨てたクロに、シロは笑顔で応戦する。
「小言が多いよ、はぐれ烏」
ふんとその言葉を鼻で笑ったクロは完全に地面に降り立ちはせず、少し浮いた状態で止まった。
私だけを先に腕から降ろす。
「ありがとうございました……」
私のお礼の言葉に返事はない。
クロは腕組みをして、そっぽを向いている。
「こいつは芦原瑞穂。ひさしぶりに狭間の宅配便屋に迷いこんだ人間だ。せっかくだからこちらの世界での仕事に使ってやろうと、今、試用中だ。ただ……それだけだ」
どうやら可哀そうなほど落ちこんでしまった綾音さんに、私の説明をしてあげたようだ。
(かなり語弊がありますけどね!?)
クロの言葉にはっと顔を上げた綾音さんが、少しほっとしたようだったので、言いたいことはあるが、私はもう口を挟まないことにした。
「えー、それを言っちゃったら、俺の計画がだいなしじゃーん」
不満の声を上げたシロは、クロから凍るような目を向けられる。
「知るか」
「ちぇっ」
シロが投げ返した下駄を履いたクロは、綾音さんが手渡してくれたもう片方も履いて、地面に降り立った。
背中の羽は、地面につきそうなほど大きい。
羽と、全身黒ずくめの装束がいつもの物と少し変わっていること以外は、人型の時とあまり変化がないようにも見える。
でも体の中で見えているのは目と手だけで、あとは全て闇に解けてしまいそうに黒い。
「あの……これからも、荷物を頼んだらシロさまが届けてくださいますか?」
おずおずと訊ねる綾音さんに、クロは目を向けはしないが、さっさと答える。
「それが俺たちの仕事だから、もちろんだ」
「ありがとうございます!」
「ちょっと!!」
嬉しそうに頭を下げてうきうきと蔵の中へ帰っていった綾音さんにも、すかさず抗議の声を上げたシロにも、クロが表情を変えることはなかった。
「配達が終わったんなら、買いものして帰るぞ」
「はいはい」
不満そうにクロのあとを追うシロは、私をふり返って訊ねる。
「瑞穂ちゃん、どっちと行く? 俺がいい? クロがいい?」
振り落とされないように掴まることにもすっかり慣れたシロの白い背中と、クロに抱きしめられていた感触を天秤にかけ、少し焦りを覚えながら私は答えた。
「シロくんがいいかな……」
「やっぱりそうだよねー」
嬉しそうに笑ったシロの背に揺られて、少し街中へ戻ったところにあるコンビニへ行った。
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