上 下
24 / 77
8 烏天狗の諫め

しおりを挟む
「迷惑ばかりかけるな、能天気狐」

 大きく翼を羽ばたかせて、地面の砂や小石を巻き上げ、ゆっくりと降りながら苛立たしげに吐き捨てたクロに、シロは笑顔で応戦する。

「小言が多いよ、はぐれ烏」
 
 ふんとその言葉を鼻で笑ったクロは完全に地面に降り立ちはせず、少し浮いた状態で止まった。
 私だけを先に腕から降ろす。

「ありがとうございました……」

 私のお礼の言葉に返事はない。
 クロは腕組みをして、そっぽを向いている。

「こいつは芦原瑞穂。ひさしぶりに狭間の宅配便屋に迷いこんだ人間だ。せっかくだからこちらの世界での仕事に使ってやろうと、今、試用中だ。ただ……それだけだ」

 どうやら可哀そうなほど落ちこんでしまった綾音さんに、私の説明をしてあげたようだ。

(かなり語弊がありますけどね!?)

 クロの言葉にはっと顔を上げた綾音さんが、少しほっとしたようだったので、言いたいことはあるが、私はもう口を挟まないことにした。

「えー、それを言っちゃったら、俺の計画がだいなしじゃーん」

 不満の声を上げたシロは、クロから凍るような目を向けられる。

「知るか」
「ちぇっ」

 シロが投げ返した下駄を履いたクロは、綾音さんが手渡してくれたもう片方も履いて、地面に降り立った。
 背中の羽は、地面につきそうなほど大きい。
 羽と、全身黒ずくめの装束がいつもの物と少し変わっていること以外は、人型の時とあまり変化がないようにも見える。
 でも体の中で見えているのは目と手だけで、あとは全て闇に解けてしまいそうに黒い。

「あの……これからも、荷物を頼んだらシロさまが届けてくださいますか?」

 おずおずと訊ねる綾音さんに、クロは目を向けはしないが、さっさと答える。

「それが俺たちの仕事だから、もちろんだ」

「ありがとうございます!」
「ちょっと!!」

 嬉しそうに頭を下げてうきうきと蔵の中へ帰っていった綾音さんにも、すかさず抗議の声を上げたシロにも、クロが表情を変えることはなかった。

「配達が終わったんなら、買いものして帰るぞ」
「はいはい」

 不満そうにクロのあとを追うシロは、私をふり返って訊ねる。

「瑞穂ちゃん、どっちと行く? 俺がいい? クロがいい?」

 振り落とされないように掴まることにもすっかり慣れたシロの白い背中と、クロに抱きしめられていた感触を天秤にかけ、少し焦りを覚えながら私は答えた。

「シロくんがいいかな……」
「やっぱりそうだよねー」

 嬉しそうに笑ったシロの背に揺られて、少し街中へ戻ったところにあるコンビニへ行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

仕合わせの行く先~ウンメイノスレチガイ~

国府知里
キャラ文芸
~風のように旅する少女とその姿を追う王子がすれ違い続ける物語~  ひょんなことから王国行事をアシストした旅の少女。もう一度会いたい王子はその行方を求めるが、なぜかすんでのところで毎回空振り。いつしか狩猟本能の火が灯り、是か非でも会えるまで追い続けることに。その足跡を追うごとに少女の数奇な運命が暴かれて……?果たしてこのふたり、再会したらどうなっちゃうの? ~数奇な運命に翻弄されて旅をする少女の仕合わせの行く先を追う少女向けファンタジー~

お江戸陰陽師あやし草紙─これはあやかしのしわざですか?─

石田空
キャラ文芸
時は江戸。日々暦をつくって生活している下っ端陰陽師の土御門史郎の元に、押しかけ弟子の椿がやってくる。女だてらに陰陽道を極めたいという椿に振り回されている史郎の元には、日々「もののけのしわざじゃないか」「あやかしのしわざじゃないか」という悩み事が持ち込まれる。 お人よしで直情型な椿にせかされながら、史郎は日々お悩み相談に精を出す。

君を愛さず、君に恋する

clover
キャラ文芸
人と話そうとしてこなかった利子倉りりは、唯一無二の友達、古川とよりの秘密を知ってしまう。その秘密とは、古川とよりが恋をした事で、それが百合であることだった。 元々、想像力豊かだったりりにとってとよりの話は世界で一番美しく、なによりも純粋に見えていた。いつしかりりは、その恋を自分のノートに書き記すことを始める。 その習慣は長く、それでいて儚く一時の感情として起伏する。 りりは自分の書き記してきたノートを見て、幸福感をもっと欲するようになり、とよりの恋に、自分の書き記した物語に堕ちていく……。 とよりの恋に悶々としていく中で、色々な感情が交錯していくラブストーリー。

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...