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第132話 道具
しおりを挟む結界術を操る三姉妹の長女ヒィロとの戦闘によってバアルは腕を吹き飛ばされてしまった。
「おっと、腕が取れてしまったか……」
バアルは吹き飛んだ腕を拾い上げる。
拾い上げた腕を観察するバアル。
(この断面、見えない剣で斬られでもしたか?いや、刃物の切断にしては不自然だ)
バアルは視力を調整し、服に使われている繊維の断面図をみていた。
(まるで元よりこの形だったかのような、綺麗すぎる断面だ……やはり)
「はは……!やった!やったぞ!私ならこの力を使いこなせる!」
泥が被った弓をみて笑うヒィロ。
「その遺物の力か」
バアルがそう言うとヒィロが頷く。
「いかにも、この稀なる遺物は私の結界術を進化させる!」
ヒィロが再び弓をつがえる。
「なるほど、結界か。見えないほどに薄くした結界を飛ばしているのか?」
バアルは目を凝らした。
相手が弦から手を離した瞬間にバアルは転移魔術で回避を試みる。
「ふん、完全に避けることはできんか」
バアルの足先がなくなっていた。
「なるほど結界を放っているわけではないな。指定した場所に結界を発生させたのか」
「流石だ、その通り。飛来する矢と違いこれは避けきるのは不可能!」
ヒィロが再び弓をつがえる。
「タネがわれた上で、尚弓をつがえるのはどうしてだ?貴様のルーティンか」
「そうだ、喰らえ!」
弦から手を離すヒィロ。
即座に転移するバアル、今度はバアルの片足が切り落とされていた。彼の足には魔術の防護が施されていた、しかし効果は無いようだ。
「ふむ、魔術の防壁も効かない、やはり物質の中に無理やり結界を発生させているのか、であればこの鮮やか過ぎる切り口にも納得がいく。言ってしまえば防御不可で回避も困難」
「ハハハ!私の技があの大領主に通用している!」
「ああ、そうだぞ、誇るが良い」
笑うヒィロに対してバアルは両手を広げ飛び上がる。
(私は他の二人ほど特殊な力があるわけじゃない、だが結界の練度なら!誰にも負けない!)
周囲を高速で飛行するバアルに狙いを定め、一撃一撃を放っていくヒィロ。
「我の動きにもついてくる、良い感知の精度だ、かなり研ぎ澄ませてあるな。結界の技術もそうだ。興味ぶかいな……観察対象として」
バアルはそう言って目を細めた。
その頃マリスは自身の胴体に空いた穴を再生させていた。
「魔術を変換して魔力に……いや、違うな。それには深い魔術への理解度と高度な魔力コントロールが必要だ。テメェのおつむにそんな上等なもんが詰まってないだろうし……」
「まだそんな口を叩くか!クリスタルバレット!」
フゥロが結晶を放つ。
「よっと……これは、結界か」
相手の攻撃を回避し、投射物を観察するマリス。
「ふぅーん……」
「なんだ?」
マリスはゆっくりとフゥロを見る。
「お前、その結界を使って私の魔術を魔力の段階まで戻したな?その槍か」
「うっ!」
槍を指さされたフゥロは半歩後ろに下がった。
「図星か、テメェが実は超賢い魔術師だった!ってよりはすんなり受け入れられるぜ。随分と良いおもちゃをママからもらったみたいだな。だがお前には過ぎたおもちゃみたいだ、なってねぇな使い方が」
とマリスはニヤリと笑った。
「は!なんとでも言え!お前はそんなおもちゃに殺されるんだ!」
とフゥロは槍を構える。
「来いよ!道具もろくすっぽ使いこなせねぇド三流!超一流を教えてやる!」
マリスも槍を構えて笑う。
一方その頃、フォルサイトはミィロに怒涛の勢いで攻撃を仕掛けていた。
「無駄だ!無駄だ!いくら攻撃を振ろうが、私には届かん!」
しかし、その攻撃はいずれもミィロに当たる気配がない。
「確かに、当たる未来が中々見えないですね」
攻撃を避けきったミィロは後方に飛び退く。
「それだけじゃないぞ!」
「斬れ味も増しましたね」
フォルサイトの身体に無数の裂傷が現れる。
「どうだ!この刃の前では自慢の肉体も紙切れ同然!そして貴様は私に攻撃を当てられない!」
フォルサイトの上空に高速移動し、対の刃を彼女に突き立てるミィロ。
「おっと」
攻撃を交わそうとするフォルサイト。
しかし剣の軌道が大きく動き、回避行動をとった彼女を捉える。
フォルサイトの腹部に剣が突き刺さった。
すぐさま彼女は腹筋に力を入れ、ミィロに反撃しようとする。
「無駄だ!」
しかしミィロの剣は泥となり、するりと抜けてしまう。
「なるほど……この不自然な軌道から察するに、剣があなたの行動を補助していると言うことですか。いや補助どころか完全に主導権を渡してますね」
フォルサイトは態勢を立て直す。
「もう気づいたのか、さすが経験が豊富なだけあるな。この二振りは【千眼の対刀】、こいつは私を無敵にしてくれる!相手の攻撃は絶対回避!こっちの攻撃は絶対命中!私に誰も勝てっこないんだ!はっはっは!理不尽極まりない最高の力だ!」
ミィロが高らかに豪語する。
「誰もですか、あなたの上の姉妹もですか?」
フォルサイトの話を聞いて鼻で笑うミィロ。
「は!当たり前だ!あんな二人にこの能力を超えられるわけがない!私が最強なんだ!」
ミィロの顔にある複数の目が釣り上がる。
「そうだあいつら、ほんの少し私よりも先に生まれたからって偉そうにしやがって!テメェらの後はあの2人だ!グロリアが死んだ今、頂点に立つのはこの私だ!ハハハ……!やったぞ、こいつがあれば!私は上に行ける!」
「そうですか……はぁ、残念です。あなたも結局はそうなるのですか」
フォルサイトはため息をつき自身の眼に手を伸ばす。
「ん?なんだ?今更泣き落としか?」
「泣くですか、確かに泣きたいぐらいですよ。この落胆の感情は」
ミィロに冷ややかな目線を送り、彼女は伸ばした手で瞳を掴み、そのまま砕いた。
「な!てめぇ何をして……!?」
「貴女にお見せしましょう、物に使われているようでは頂点になど立てないという事を……そして本当の理不尽を」
フォルサイトはどこか冷たさを感じる声で告げた。
「貴様を倒せば……ははは!バアル・ゼブル!残りの部下も!」
肩で息をしながらヒィロは笑う。
バアル程の実力を持ってしても、防御無視の結界攻撃を防ぐ方法はなく、彼は何度も身体を分断されては再生を繰り返していた。
「ん?ひょっとして貴様、我が3人の中で一番戦闘能力が高いと思っているのか?」
そんな彼は身体を再生させながらヒィロに質問した。
「え?それはそうだろ、貴様がリーダーなら……」
ため息をつくバアル。
「はぁ、全く。これだから野蛮な集団は。武力だけで組織を率いれると本気で信じているのか?浅はか、そんなもので他を率いられるのは一時だけだ」
バアルは落ち着いた様子で話す。
「確かに我の実力はそこらの者には引けを取らないだろう。しかし、あの二人と自身の戦闘能力を客観的に比較して、我が上だと考えた事は一度もない」
「な……!」
ヒィロは目を見開く。
「組織を率いるものに必要なのは配下の者を適切に機能させる能力であり、武力は二の次だ。断言してやろう、あの二人は私よりも強いぞ」
と言ってバアルは服を正す。
「このまま貴様が回復できない単位にまで切り刻んでやる!」
ヒィロが弓をつがえ、結界を発生させようとする。
するとバアルが手を前にすっと出した。
「え……?」
次の瞬間弓を持つヒィロの腕が斬り飛ばされていた。
「悪いが、ここまでだ」
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