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第120話 選手交代

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 タケミとマートル姫は無限増殖の能力を持つ聖騎士、ファッジと交戦していた。
 見る見るうちに周囲を埋め尽くすほどに増えていくファッジたち。

「どこまで増えるんだ?」
「何やら最初よりも再生速度が速くなっていますね。あなたの影響ですか?」
 マートル姫は自分達の背後に斬撃を飛ばす。

 岩の物陰から何者かが飛び出した。

「おっと、ハイオークは鼻が利くのね」
 飛び出して来た者は女神だ、彼女はファッジたちの近くに降り立つ。

「オーバー様」
 ファッジたちは女神に向かい膝をつく。

「あいつの女神か」
「あの者が魔法で増殖の能力を底上げしているようですね」
 一目見れば魔法の仕組みが分かるマートル姫、彼女はオーバーという女神から得た情報をタケミに伝える。

「そんじゃあアイツぶっ飛ばせば良いのか」

 タケミが女神の方を向くと突然巨大な爆発が起きた。
 爆発地点は彼らから遠かったがその衝撃は凄まじく、タケミとマートル姫以外の者達がよろめく。

「大丈夫かマートル?」
「タケミ様が心配してくださっている!?は、はいぃ、大丈夫ですわ」
 隣に立っていたマートル姫に声をかけるタケミ、マートルは顔を一瞬伏せて笑顔で返事をした。

「なんだ今の?」
 タケミは周囲を見渡す。

「ネラ様です」
 すると彼らの上空から答えが降って来た。二人は声の方を見上げる。

「あなたは確か……」
「あ!フォルサイト!」

 上空からゆっくりとフォルサイトが降りて来た。

「ネラか」
「タケミ様、どうぞ行ってくださいませ」

「……うん、行って来るありがとう」
 マートル姫の好意を受け取り、タケミはその場を離れる。

「では私が僭越ながらタケミ殿に代わって」

「どうも、改めまして、グランドオーク族のマートルと申しますわ」
「マートル殿、闘技場ではあまりご挨拶できませんでしたね。バアル・ゼブル様に仕えています、フォルサイトと申します。改めましてよろしくお願いします」
 二人はお互いに丁寧にお辞儀をする。

「ちっ、一番の手柄が逃げたか」
 ファッジたちは去ったタケミを見てそう言った。

「私達なんかよりも手柄みたいですね」
 フォルサイトの言葉にマートル姫は呆れたように首を振る。

「レディーを前に失礼ですわね」
「ふふっそうですね。姫もいるというのに、礼儀に欠いた方たちです」
 

 一方その頃、タケミと同様にネラの元へ駆けつけようとしている者がいた。

「あはは!貴女様の魔力を間近で見られる、夢見心地です!」
「なんでもいいけどそこどいて!私はネラの所に行きたいの!」
 ユイはミディカに足止めされていた。

「なぜですか!あんな死神、裏切り者なんて放っておきましょう!一度裏切ったものは2度目も裏切りますよ!私達の所に戻って来てください!」
 ミディカは嬉々とした表情で彼女に語り掛ける。
 
「悪いけど私はあなた達の事はどうしても好きになれないの!あんな化物を作って平然と戦いに乗り出してくる所とかね!」

 ユイの発言に対してミディカは笑う。

「何をいまさら!これをはじめたのは貴女様だ!貴女様が別の世界から魂を召喚し、肉体を与え、使役する技術を生み出した!つまりこの世界初の勇者を貴女様は作り出した!私たちがこれ程の兵力を用いることが出来たのは全て貴女様のお陰だ!貴女様がこの女神率いる軍勢を生み出したのです!」

「私は私の罪を理解している。だけど勝手に人の研究持ち出して、勝手に持ち上げて免罪符にしないでよね」
 ミディカの話に対してユイは首を振る。

「素晴らしい……、その精神性、確かに!私達があの軍を作りだした、その場に貴女様はいなかった。ならば!ならば貴女様がこの軍に加われば更なる軍を生み出せる!ああ!そうじゃないですか!やはり貴女様は倒されるべき存在ではない!私共とともにこの世界を統べる軍を作り出すべきだ!」
 既に自分の世界に入り込んでいるミディカ。

「はぁ、何言っても無駄だね」
 呆れるユイ。

「私は天より使われしもの!貴女様をお迎えにあがりました!」
「あー!もう!本当にいや!」
 ユイが声を上げると空から大型の円盾が降って来た。 

「なんだ?」
 ミディカは下がる。

「割って入ってすみません」
「おっすユイさん、選手交代だ」
 上空からアスタムとクレイピオスが降りて来た。

「ん?確か貴様らはバアル・ゼブルの所にいた獣人か。ふん!獣人がなんのようだ?私の実験体にでも志願しに来たか?」
 ミディカは二人を見て鼻で笑う。

「ふぅーん、おまえって口を開く度に喧嘩を売り歩くタイプだろ」
「ユイさん!どうぞ行ってください!ここは僕たちに!」
 クレイピオスとアスタムは、交戦中だったユイとミディカの間に入る。

「本当にありがとう!気を付けてね」
 ユイは二人の肩を軽く叩き、飛んでその場を去って行く。

 飛び去るユイを確認し、クレイピオスがミディカに話しかけた。

「おい!あの幾つもの獣を継ぎ足したような気色の悪い動物。あれに何を使った?」
 もうすでにイライラしている様子のクレイピオス。

「うん?まあ色々だな。魔獣は勿論、しくじった下級女神どもを使わせて貰う事もあった……そうだ!貴様ら獣人はまだ試してないな!貴様らを捕らえた後にサンプルをいただくとするか」
 ミディカの性格をよく表した言葉が並べられる。

「あって間もないのに生涯に出会った嫌いな奴ランキング一位になったぜ」
「まったくの同意見だね」
 クレイピオスとアスタムは呆れた様子で武器をミディカに向けた。

「なるべく暴れてくれるなよ、サンプルは完全な状態が望ましいからな!」

 ミディカは二人に襲い掛かる。

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