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第113話 最後の戦いへ

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 朝、タケミはベッドに座り、手に持ったお守りを見つめていた。

「……」
 彼の部屋の扉をユイがノックする。

「タケミー!ご飯だよ!あれ、それって」
「ああ、ダイゲンのじいさんから貰ったお守り」
 扉を開けたユイにタケミはそのお守りを見せた。

「大事に持ってるんだ」
「お守りだからな」

 その時、外から悲鳴が。

「何者だ貴様!」
「きゃー!私はただのしがない旅商人ですー!」
 ベロニカの声ともう一人、聞き覚えのある賑やかな声がした。

「あいつは」
「あ、ウェルズさん!」
 タケミとユイが外に出ると、ベロニカに掴み上げられているウェルズがいた。

「どうも!ご無沙汰しております」
 掴まれた状態でウェルズが帽子をヒョイと持ち上げ挨拶する。

「お知り合いでしたか。これはご無礼を」
「いえいえ、怪しまれるのは慣れっこですから。どうかお気になさらずに」
 ゆっくりとウェルズを下ろすベロニカ。

 ウェルズは家に案内され席につく。

「それで何か用か?」
 ネラが尋ねた。

 ウェルズは帽子を外す、この時だけ彼はいつもの賑やかな笑顔をやめた。

「はい、実はダイゲン様が亡くられました」
「なに!」
「そんなダイゲンちゃんが」
 皆が驚く中でただ一人、タケミだけは落ち着いた様子で聞いていた。

「……」

「グリーディという女神が率いる軍との戦闘で、彼は全ての敵を倒した後に、眠るように旅立たれましたよ」
 ウェルズの話を聞いてネラが口を開く。

「きっとここに攻めてくる軍だったんだろうな」
「どうして?」
 ユイがネラに聞く。

「軍っていうぐらいだからな、勇者や他の女神もいるだろう。それだけの連中がかたまって行動しているのに魔力探知に引っかからない。奇襲を仕掛けようとしてたんだろ?」

「ネラ様のご推察のとおりです。場所はこの近くの雪山です」
 ウェルズはゆっくりと頷いた。

「守ってくれたんだな」
 タケミはお守りに手を当てた。


 ウェルズから話を聞き、皆は朝食を取った。ダイゲンを明るく見送るため酒が振る舞われた。

 朝食終えて、部屋にはネラ、ユイ、そしてテルーが残っていた。

「なぁ、気づいてるか?」
「ええ、懐かしい感じがしたわね」
 ネラの言葉にテルーが頷く。

「アルタ・モリス……」
「ユイも流石に思い出したか」

 ユイも朧気ながらその名前を口にする。

いくつかは分からないが彼女の前世の記憶、そこに優しく微笑むアルタ・モリスの姿があった。

「うん、すごい良い人だった」

「稽古相手だった。アイツが死んじまうとはな」

「ダイゲンちゃんと最後に会えて良かったわ」
 皆はため息をつく。

「グロリアのやつ、どこに隠れてたんだ?島に襲撃した時はそんな気配はなかった」

「そもそもあの子が捕まっていたのが不思議ね」
 ネラとテルーが考えこむ。


「みなさんいますかー!」
 また外から声が。

 タケミが外に出ると、そこにはアスタムがいた。
「アスタムかどうした?」
 
「お騒がせして申し訳ありません……どうしても皆様にお伝えしておきたいことが」
 アスタムは全力で走ってきたのか息を切らしていた。

「女神達がついに動き始めました!」
「動いたって」
 タケミが眉間にシワを寄せる。

「魔神軍に宣戦布告を!つい先程の話です」


 
 アスタムがタケミ達の元を訪れる少し前。

「グリーディめ、兵を使って良いといったが使いすぎだ!あの見栄っ張りの大馬鹿者が!」

「そう目くじらたてるなミディカ」

「ですがグロリア様!あの者のせいでアルタ・モリスが!あれは1番の出来だったのに!」
 グロリアは何やら準備をしており、その後ろでミディカが怒っていた。

「確かに単体の戦闘力なら1番だ。しかし不安定さが目立ったな」

「うっ……最後は失った自我を取り戻していましたね。なぜだ……」
 顎に手を当て考えこむミディカ。

「とにかく喜ぶべきはグリーディのあの姿だ。貴様の作った秘薬は成功という訳だな」

「もちろん成功ですとも。私の自信作ですから。もうすでに量産し勇者たちに配備する分は用意できております」
 ミディカは得意げにそう報告した。

「グロリア様、お時間です」
 部下にそう言われグロリアは歩き始める。

「分かった」
 扉を開け外に出るとそこには大勢の勇者と女神たちが並んでいた。

「皆、待たせた」
 彼女を見て息を飲むもの、憧れのため息を漏らすもの、色々いたが皆は静粛に彼女の言葉に意識を向けた。

「永きに渡り、私達は勇者達と共に魔神軍と戦ってきた。戦いの中で大事なものを失った者達もいることだろう。だがそれも今日までだ!」
 グロリアは手を挙げた。

「これより魔神王の居城へと攻め込む!」
 彼女の言葉に驚く女神達と勇者たち。

「魔神王の居城!?」
「本当にいたんだ!」

「ああ、確かに苦労した。だが優秀な諸君のおかげでヤツを見つけ出した!」
 掲げた手を強く握りしめるグロリア。

「今までにない戦いになるだろう!しかし、諸君らと新たなる刃があれば必ずや、この戦いを制することができる!これは必然である!」

 彼女の後ろにある扉から鎧を着た者たちが現れる。他の勇者達に比べて装飾の凝った装備を身に纏っていた。

「この者たちは過酷な試練を乗り越えた選ばれし者達だ!聖騎士だ!」

「聖騎士は特別な祝福を得ており、私達女神に限りなく近い存在となっている。エリクサーを使わずとも最大限の能力を発揮できる」
 ミディカが聖騎士たちの前に立ち説明する。

「当然、皆もこの新たなエリクサーを使えば無類の力を発揮する事ができる!」
 
 彼女の部下が勇者達に瓶を渡す。

「そしてここにいる、上級女神の勇者達にはハイエリクサーを支給する」
 
 その上級女神の勇者の中にイサムも入っていた。

(こんな危険なものを……みんな喜んでもらってる、正常じゃないよ)


「さぁ参ろうか!悪しき王を討ち!私達はこの世界を統治するのだ!」

 グロリアの言葉に勇者や女神達が歓声を上げた。

 最後の戦いが始まろうとしていた。
 
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