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第108話 血煙と雪
しおりを挟む奇襲を仕掛けようとしていたグリーディ達の元にダイゲンが現れた。
彼が振るうその刃は瞬く間に女神達を斬り伏せていく。
「あの男をなんとしてもここで殺すんだ!」
女神達はダイゲンに武器を向ける。
「魔法は使わないのかい?」
「ぐっ!」
相手が苦い顔をすると、まるでそれが見えているかのようにダイゲンは笑った。
「使えねぇよな、魔法なんて使ったらオオエドにいるあの人たちにバレちまうからなぁ。そうなったらこんな寒い所でわざわざ薪を使って火を起こしてる意味がなくなるもんな」
女神と勇者達は攻撃を仕掛けた。衣服に攻撃は擦れどもダイゲンの身体には届かない、
「ほれほれ、もっと気張らんと死んじまうぞ」
ダイゲンは雪山に生い茂っていた竹藪の中に入っていた。
「クソォッ!」
「逃がすか!」
勇者と女神が連携のとれた攻撃を行う、片方は槍を突き出し、もう片方は剣をふるった。
ダイゲンはボロボロになった上着を相手に投げつけ、相手の視界を遮る。咄嗟の出来事に対応出来なかった二人の攻撃は空振り、互いの武器がぶつかってしまう、大きな隙を晒した。
二人は一太刀でその首を斬られた。一本の赤い筋が首に走り、溺れたような声を上げ二人は倒れた。
突如ダイゲンの背後から槍が突き出される。
「おっと」
彼はそれを避けた。すぐに振り向くが彼の感覚になんの反応もない。
「へぇ、面白い能力を持ってるんだなぁ」
ダイゲンはその布を巻き付けた顔で周囲を少し見回す、当然これは実際に見てる訳ではない、見ているフリだ。
周囲には誰もいない、女神達は遠くから様子を伺ってはいたがまだ攻撃の間合いではない、先の攻撃は他の者が行ったのだ。
「私の能力はこの世界から完全に姿を消すことだ、この状態の私は姿はおろか、音、匂い、魔力、気配すらも消すことが出来るのだ」
「わざわざご説明してくれるとは、随分と自身があるんだな」
何も無い空間からする声に言い返すダイゲン。
「貴様は失った視力を補う為に研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚等を活用することで常人よりも俊敏に動けているようだが。それもこの能力の前では無力だ」
「何でも良いが、次の一撃でオイラを仕留めねぇと、お前さん死ぬぜ?」
ダイゲンの言葉に女神は笑って返す。
「見えぬ私をどう斬るというのだッ!」
次の瞬間、相手は背後に現れ槍を突き出した。
(取ったッ!!)
槍が彼の背中を捉える寸前、ダイゲンは振り向き槍を防いだ。
「なに!?だったらもう一度……」
刀が槍に食い込んでいく。
「聞えなかったのかい?」
ダイゲンは相手の槍をそのまま垂直に斬り裂いた、槍を握りしめていた相手の手もろとも。
「あ、ああッ……!」
ダイゲンはそのまま斬り上げる。相手は鮮血と肉体から噴き出る炎に包まれながら白い地面に沈む。
「次の一撃で仕留めそこねたら死んじまうぜって」
「貴様よくも同胞を!!」
次に迫って来たのは刀を持った女神だった。
「へぇ、アンタは刀を使うのかい?楽しみだねぇ」
ダイゲンは相手に背を向けながらそう言う。
「私は女神の中で随一の剣術使い、貴様には負けん!」
相手は勇み足で彼に近寄る。
「随分と大きく出たな、女神で一番だって?」
彼は笑う。
「覚悟ッ!!」
相手が振るう刀をダイゲンは躱した。だったが彼の腕に一筋、太刀傷が走る。
「おや、おかしいね、避けたはずなんだが」
彼は腕から流れる血を指で拭った。
「貴様ではこの剣は見切れんッ!」
「"見切れない"なんて面白い冗談だ」
再び相手は斬りつけてくる。
今度は後方に下がりながら相手の攻撃を避けるダイゲン。すると彼の耳に妙な音が聞こえて来た。
それはまるで複数の刀が同時に、一切ズレることなく振られているような音だ。
「なるほどねぇ」
彼は呟く。
相手は彼に休む暇を与えないように斬りかかる。
「なんだ、凄い剣術って言ってた割にはただの小童の遊びじゃねぇか」
ダイゲンが相手の刀を弾き、同時に何かを躱す動作をした。
(この刀の能力に気づいた!?たったこの間で)
「見えない刀が出るのかい?それも今アンタが握ってる刀とは違う場所から攻撃が来るね」
「そうだ、この刀は別の世界の私が振るった斬撃をこの世界に具現化させるものだ。具現化された刃を目視することは出来ない」
女神は刀を構える。
「先程はまぐれで避けれたな、この刀の生み出す軌道は私でさえ完全に把握する事ができない。次は捉えるぞ」
「やってみなよ」
「この!」
ダイゲンは斬りかかる相手の一撃を受け流し、見えない別世界の刃すらも躱しきって見せた。
彼はすれ違い際に相手の背中を斬る。右肩から左腰へ赤い線が走った。
「最強の剣士が聞いて呆れるな、そんな玩具に頼るなんてよ」
相手は炎とともに消えた。
「あいつの刀が厄介だ」
「お任せを」
次に現れたのは女神と勇者たち、勇者の1人がダイゲンの刀を魔法で奪った。
「おや?刀が転移されちまったね。手癖の悪い小僧がいるね」
「刀のない貴様なら!」
女神と勇者達が彼に一斉攻撃をしかける。
「そう上手く行くと良いんだが」
ダイゲンは相手の攻撃を躱す。
「逃げるだけでは勝てないぞジジィ!」
「だけじゃないさ」
相手の1人が剣を振りかざそうとする、そのとき違和感を覚える。
腕が異様に軽いのだ。
「え?」
それもそのはず、彼の腕はもうそこには無かった。
「手癖が悪いのはオイラもでね」
ダイゲンの手にはその者が持っていた剣が。
「こいつも悪くないが、やっぱりオイラの相方が一番いいね」
彼は自身の刀を盗んだ者に顔を向ける。
「ひっ!」
「そこにいるのかい、待ってな」
刀を盗んだものは逃げ出そうとし、彼に背を向けた。
「がぁ……!」
直後、その者の胸から剣が飛び出す。ダイゲンが後ろからその者の背中目掛け剣を投げたのだ。
「盗人ならもっと逃げ足を鍛えておくべきだったな」
ダイゲンはそう言って倒れていく相手から刀を取り戻し、相手にトドメを刺した。
「なんてことだ……」
グリーディが駆けつけた時には既に周囲の雪は赤黒く染まり、ダイゲンだけがそこに立っていた。
「ちくしょう……ちくしょうッ!折角の計画が!」
「随分と遅い到着で。暇つぶしをしていたつもりだったが、いやぁ、どいつこいつも話にならなくてね。もう全部斬っちまった」
ダイゲンが彼女にそう言う。
「ようやく会えたな、あの時の借りを返させてもらうぜ」
「く、そうは行くか!こうなったら」
彼女は懐から魔石を取りだす。
「お、お待ちください!」
彼女のその手を隣にいた部下が掴む。
「うるさい!!ここまでの兵力を失ったんだぞ!たった一人の、あんな老いぼれに!ここで仕留めねば私たちに明日はないんだぞ!」
焦燥にかられた彼女は部下を押しのけ、魔石に魔力を込める。
「我が呼びかけに応えよ!アルタ・モリス!」
地面に投げられた魔石から光のゲートが現れた。
ダイゲンはグリーディの言葉に驚いていた。
「なんだって……?」
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