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第107話 赤雪に舞う
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降り積もる雪の中、女神達は陣を敷いていた。
「寒い……おい、早く焚火を増設するんだ!」
毛皮などに厚着をしている男が周りの者に命令している。
「全く、こんな寒い山奥に陣を構えなくても良いんじゃないかぁ?」
その横に震えながら寄ってくる別の者。
「相手はたったの数人らしいが、なんせあの天界に潜り込んで大暴れしたらしいぜ」
「みたいだな、だからってこの人数は多すぎじゃねぇか」
二人が丘の上にいくとその眼下には無数の灯りが、それらは全て勇者や女神達だった。忙しく働いており、あるものは焚火を用意し、ある者は武器の手入れ等をしている。
「それだけじゃない、魔力を使うと感づかれるからってこんな原始的な方法で暖を取らねばならいってさ」
男は毛皮をはためかせて言った。
「もうそろそろ私たちの順番だよ」
他の者が来てそんな事を話しかける。
「おう、ん?なんか居ねぇか?あそこ」
焚き火の影に何かがいることに気づく男。
「グリーディ様、どうして一斉に兵力を送らないのですか?」
グリーディの前にかしずく者が尋ねた。
「連中は一人ひとりが殲滅力に長けている。これだけの数でも下手にまとまれば一気にやられかねないからな」
彼女は椅子に座り込んでいる。
「だがそんな奴等でも無限に体力がある訳じゃない。集中力だっていつか切れてくる筈だ、それまで兵を一定間隔で送りつける、連中の調子が落ちて来たら私たち本隊物量で押しつぶす」
彼女はそう言ってニヤリと笑う。
「聞けばカヅチ・タケミ、プロエはフウマの里に向ったようだ。つまりオオエドには死神、イトウ・ユイ、テルー、それとグランドオークの姫と付き人だ」
「連中は強力だ。だがこのとっておきで潰してみせるさ」
「問題はグランドオークですね」
「ああ、連中には手を焼くことになるだろう。だがとっておきは1つだけじゃない」
グリーディはそんな事を言って優雅な食事をしていた。
すると彼女の視線を惹きつけるように大きな光がちらつく。それは大きく燃え盛る焚火だった。
「うん?どうした、あそこまで燃やす必要はないだろう。寒いのはわかるが感づかれては意味がない」
彼女は食事を中断し立ち上がる。
部下がその場所に駆けつけると周囲の積もった雪を解かす炎が茫々と燃え盛っていたる、そしてその前に一人の人影があった。
「おい、貴様……」
その人影に呼びかけようとすると足に何かが当たる。
下をみるとそれは斬られた女神だった。
「ッ!こ、これは?」
「た、助け……!」
斬られ倒れていた女神が消滅する。
焚火の放つ強い光に目が行っていたが周囲を見渡す、するとそこら中に血の滲んだ雪があった、肉体は既に消え去っていたがその跡からここにいた者たちが皆殺された事が分かる。
「き、貴様何者だ!!!」
取り乱す女神と勇者達、すぐに武器を構えた。
「こんな寒い夜にいい焚き火があったから暖をとってたんだよ。いやぁにしてもいい夜だね」
人影が話を始める。
その男はダイゲンだった。
「敵か、他の者はどこだ!!」
女神が問いかける。
「テメェ等斬るのには、この老いぼれで十分だよ」
「貴様!」
敵は彼の周囲を囲み、そして一斉に攻撃を仕掛けた。
「外した!?この人数の一斉攻撃を、やるな!」
攻撃を空かされた勇者たちは再度ダイゲンに振り向こうとする。
「あ……れ?」
勇者たちはバタバタと斬り崩れ地面に落ちた。
「な?オイラ一人で十分だろ?」
ダイゲンは仕込み杖を構える。
グリーディの元に非常に慌てた様子の男が駆け寄ってくる。
「た、大変です!敵襲です!」
慌ててグリーディに報告する男。
「何だと!?どうやってここを!誰だ……死神か?それともテルーか?転移魔術を使えるとしたらあとはイトウ・ユイか?」
「いえ、初めてみる相手です、老人の男で目に布を巻き付けているようで」
勇者が答える。
「目に布を巻き付けた男……まさか!」
彼女はそう言って自身のテントの奥に向かい、重厚な箱を取り出す。その箱に魔力を込めると箱に取り付けられた鍵がパズルのように動き出した。
「念の為だ」
彼女は開いた箱から何かを取り出し懐に忍ばせる。
迫りくる敵をダイゲンは斬る。
その太刀筋は見えず、いつ刀を抜き、いつ収めたのか分からない程の剣速、相手は自身がどうなったかも分らぬまま地面へと崩れ落ちていく。
「くそ!なんなんだアイツ!」
たじろぐ勇者と女神達。
「いけいけ!!」
女神に指示され突撃する勇者達、彼らは半狂乱とも言える形相で襲い掛かる。
(死に物狂いってか?よっぽど女神が怖えみたいだな)
ダイゲンはそんな事を考えながら相手を斬り伏せていく。
「そろそろ、後ろで暇そうにしてるお前らが出てきても良いんじゃねぇか?」
後ろで構えていた女神達にそう言い放つダイゲン。
何人かは攻撃に参加してはいたが基本は勇者ばかりを先行させていた、だがそれでは彼には全く歯が立たない。
見かねた女神達の応援が駆けつけた。
「ようやく本気になってくれたかい」
女神達が武器を構える。
「何なんだあの男は、これほどの数を一瞬で、魔術を使っているわけでもなく、転生させられた者でもない」
女神達は彼を囲むように展開する。
「とにかく、ここで対処しないとマズイ事になる」
そんな彼女らをダイゲンは眺めるようにその目元に布がまかれた顔を向ける。
「昔に比べ随分と増えたもんだ」
彼は杖を女神達に向けた。まるで数えるように、その杖は正確に相手一人一人の方向を指している。
彼女たちがそこに向かうと佇むダイゲンに女神達が飛び掛かっている所だった。
斬りかかって来た者たちに対し彼は攻撃を紙一重で躱し、斬る。
極限まで精錬された動きは刀で防ぐ事すら無駄とし、これを徹底して省かれていた。体捌きを持って相手の攻撃を間一髪の所ですり抜けて行く。
目にもとまらぬ速さで刀を抜くと刃は一瞬月明かりを反射し煌めき、次の瞬間には相手を斬り裂く。
「な、なんて奴だ、目が見えないだけでなく、魔力の探知も使っている様子はないと言うのに!」
「それにあの刀は何なんだ!私達が回復できないなんて!」
仕込み杖を見て恐れる女神達。
本来女神というのは常に天界から魔力を供給されているため傷を負ってもその瞬間から再生する為、実質不死身の肉体を持っている。だがネラや一部の者が持つ武器はそんな彼女らを殺すことが出来るのだ、正に神殺しの武器である。
次に攻撃を仕掛けたのは剣をもった女神だった。
「ハアアッ!!!」
声を上げて斬りかかる、二振りの剣で斬撃を放つ。
だがこの攻撃を最後に彼女の腕はその体から離れて行ってしまう。
「……ッ!?!」
それに驚いていると気づけば自分は何故か首のない自分の体を眺めていた。
「あ、あれ、私……?」
その言葉を最後に相手の肉体は燃え上がり消える。
その刀身は黒く、月光を淡く反射していた。
「あ、あの黒い刀!もしかして【鬼神】か?!」
女神達の間ではまことしやかにこんな話があった。勇者でも、魔神族でも、ましてや女神でもない、そんな奴が私たちの仲間を何人も殺しており、現場を遠目でみていた勇者が言うには【鬼神】がいたという話だ。
ダイゲンは刀を構える。
「懐かしいねぇ、その呼び名、最近じゃあそう呼ばれることも無かったからな」
彼は女神達に向けて声を上げる。
「いつもは心優しい商人のジジィだが、今夜限りは鬼神となろう」
「何人もこの牙から逃れられると思うなよ」
赤く黒く染まった雪を彼の刀が淡く照らしていた。
「寒い……おい、早く焚火を増設するんだ!」
毛皮などに厚着をしている男が周りの者に命令している。
「全く、こんな寒い山奥に陣を構えなくても良いんじゃないかぁ?」
その横に震えながら寄ってくる別の者。
「相手はたったの数人らしいが、なんせあの天界に潜り込んで大暴れしたらしいぜ」
「みたいだな、だからってこの人数は多すぎじゃねぇか」
二人が丘の上にいくとその眼下には無数の灯りが、それらは全て勇者や女神達だった。忙しく働いており、あるものは焚火を用意し、ある者は武器の手入れ等をしている。
「それだけじゃない、魔力を使うと感づかれるからってこんな原始的な方法で暖を取らねばならいってさ」
男は毛皮をはためかせて言った。
「もうそろそろ私たちの順番だよ」
他の者が来てそんな事を話しかける。
「おう、ん?なんか居ねぇか?あそこ」
焚き火の影に何かがいることに気づく男。
「グリーディ様、どうして一斉に兵力を送らないのですか?」
グリーディの前にかしずく者が尋ねた。
「連中は一人ひとりが殲滅力に長けている。これだけの数でも下手にまとまれば一気にやられかねないからな」
彼女は椅子に座り込んでいる。
「だがそんな奴等でも無限に体力がある訳じゃない。集中力だっていつか切れてくる筈だ、それまで兵を一定間隔で送りつける、連中の調子が落ちて来たら私たち本隊物量で押しつぶす」
彼女はそう言ってニヤリと笑う。
「聞けばカヅチ・タケミ、プロエはフウマの里に向ったようだ。つまりオオエドには死神、イトウ・ユイ、テルー、それとグランドオークの姫と付き人だ」
「連中は強力だ。だがこのとっておきで潰してみせるさ」
「問題はグランドオークですね」
「ああ、連中には手を焼くことになるだろう。だがとっておきは1つだけじゃない」
グリーディはそんな事を言って優雅な食事をしていた。
すると彼女の視線を惹きつけるように大きな光がちらつく。それは大きく燃え盛る焚火だった。
「うん?どうした、あそこまで燃やす必要はないだろう。寒いのはわかるが感づかれては意味がない」
彼女は食事を中断し立ち上がる。
部下がその場所に駆けつけると周囲の積もった雪を解かす炎が茫々と燃え盛っていたる、そしてその前に一人の人影があった。
「おい、貴様……」
その人影に呼びかけようとすると足に何かが当たる。
下をみるとそれは斬られた女神だった。
「ッ!こ、これは?」
「た、助け……!」
斬られ倒れていた女神が消滅する。
焚火の放つ強い光に目が行っていたが周囲を見渡す、するとそこら中に血の滲んだ雪があった、肉体は既に消え去っていたがその跡からここにいた者たちが皆殺された事が分かる。
「き、貴様何者だ!!!」
取り乱す女神と勇者達、すぐに武器を構えた。
「こんな寒い夜にいい焚き火があったから暖をとってたんだよ。いやぁにしてもいい夜だね」
人影が話を始める。
その男はダイゲンだった。
「敵か、他の者はどこだ!!」
女神が問いかける。
「テメェ等斬るのには、この老いぼれで十分だよ」
「貴様!」
敵は彼の周囲を囲み、そして一斉に攻撃を仕掛けた。
「外した!?この人数の一斉攻撃を、やるな!」
攻撃を空かされた勇者たちは再度ダイゲンに振り向こうとする。
「あ……れ?」
勇者たちはバタバタと斬り崩れ地面に落ちた。
「な?オイラ一人で十分だろ?」
ダイゲンは仕込み杖を構える。
グリーディの元に非常に慌てた様子の男が駆け寄ってくる。
「た、大変です!敵襲です!」
慌ててグリーディに報告する男。
「何だと!?どうやってここを!誰だ……死神か?それともテルーか?転移魔術を使えるとしたらあとはイトウ・ユイか?」
「いえ、初めてみる相手です、老人の男で目に布を巻き付けているようで」
勇者が答える。
「目に布を巻き付けた男……まさか!」
彼女はそう言って自身のテントの奥に向かい、重厚な箱を取り出す。その箱に魔力を込めると箱に取り付けられた鍵がパズルのように動き出した。
「念の為だ」
彼女は開いた箱から何かを取り出し懐に忍ばせる。
迫りくる敵をダイゲンは斬る。
その太刀筋は見えず、いつ刀を抜き、いつ収めたのか分からない程の剣速、相手は自身がどうなったかも分らぬまま地面へと崩れ落ちていく。
「くそ!なんなんだアイツ!」
たじろぐ勇者と女神達。
「いけいけ!!」
女神に指示され突撃する勇者達、彼らは半狂乱とも言える形相で襲い掛かる。
(死に物狂いってか?よっぽど女神が怖えみたいだな)
ダイゲンはそんな事を考えながら相手を斬り伏せていく。
「そろそろ、後ろで暇そうにしてるお前らが出てきても良いんじゃねぇか?」
後ろで構えていた女神達にそう言い放つダイゲン。
何人かは攻撃に参加してはいたが基本は勇者ばかりを先行させていた、だがそれでは彼には全く歯が立たない。
見かねた女神達の応援が駆けつけた。
「ようやく本気になってくれたかい」
女神達が武器を構える。
「何なんだあの男は、これほどの数を一瞬で、魔術を使っているわけでもなく、転生させられた者でもない」
女神達は彼を囲むように展開する。
「とにかく、ここで対処しないとマズイ事になる」
そんな彼女らをダイゲンは眺めるようにその目元に布がまかれた顔を向ける。
「昔に比べ随分と増えたもんだ」
彼は杖を女神達に向けた。まるで数えるように、その杖は正確に相手一人一人の方向を指している。
彼女たちがそこに向かうと佇むダイゲンに女神達が飛び掛かっている所だった。
斬りかかって来た者たちに対し彼は攻撃を紙一重で躱し、斬る。
極限まで精錬された動きは刀で防ぐ事すら無駄とし、これを徹底して省かれていた。体捌きを持って相手の攻撃を間一髪の所ですり抜けて行く。
目にもとまらぬ速さで刀を抜くと刃は一瞬月明かりを反射し煌めき、次の瞬間には相手を斬り裂く。
「な、なんて奴だ、目が見えないだけでなく、魔力の探知も使っている様子はないと言うのに!」
「それにあの刀は何なんだ!私達が回復できないなんて!」
仕込み杖を見て恐れる女神達。
本来女神というのは常に天界から魔力を供給されているため傷を負ってもその瞬間から再生する為、実質不死身の肉体を持っている。だがネラや一部の者が持つ武器はそんな彼女らを殺すことが出来るのだ、正に神殺しの武器である。
次に攻撃を仕掛けたのは剣をもった女神だった。
「ハアアッ!!!」
声を上げて斬りかかる、二振りの剣で斬撃を放つ。
だがこの攻撃を最後に彼女の腕はその体から離れて行ってしまう。
「……ッ!?!」
それに驚いていると気づけば自分は何故か首のない自分の体を眺めていた。
「あ、あれ、私……?」
その言葉を最後に相手の肉体は燃え上がり消える。
その刀身は黒く、月光を淡く反射していた。
「あ、あの黒い刀!もしかして【鬼神】か?!」
女神達の間ではまことしやかにこんな話があった。勇者でも、魔神族でも、ましてや女神でもない、そんな奴が私たちの仲間を何人も殺しており、現場を遠目でみていた勇者が言うには【鬼神】がいたという話だ。
ダイゲンは刀を構える。
「懐かしいねぇ、その呼び名、最近じゃあそう呼ばれることも無かったからな」
彼は女神達に向けて声を上げる。
「いつもは心優しい商人のジジィだが、今夜限りは鬼神となろう」
「何人もこの牙から逃れられると思うなよ」
赤く黒く染まった雪を彼の刀が淡く照らしていた。
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