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第103話 忍の里

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 忍の里付近を訪れたタケミ達。

「この先にある山周辺が里だ。結界があるから私達はここまでだ」

「サンキュー!」
「本当に速いんだな。何か特別な鍛錬を?」
 クレイピオスとアスタムの背中から降りるタケミとプロエ。

「魔力を脚に込めて強化してるぐらいだ。あとはほら、私達の足はお前らと違うからな、踵はあまりつけずに走るんだ」

「なるほど、おれ達が俊敏なフットワークをするために踵を浮かせる。それを走りの時にもか」
 クレイピオスやアスタムの足を興味深そうに観察するプロエ。

「踵を浮かせて走り回るかー、思ったより難しいな。思わず踵つけちまう。でも確かに、足のバネを上手く使えてる感じがするな」
 タケミも踵を浮かせて走り回る。


 クレイピオスは走り回るタケミの手足をみる。
「にしても、お前のその手足どうしたんだ?前と色が違うな。イメチェンか?」

「まあな、一回ぶっ壊した所に新しいのを貰ったんだ。でそれを今使いこなせるように特訓中」

「てことは満足に使いこなせねぇのか?出発前に死神も言ってたが、よくそんな身体で行こうと思ったな」

「おれの問題を解決するまで相手が待ってくれる訳じゃねぇからな」
 走り回りながらタケミはそう答えた。

「お前って年齢の割に達観してるよな」
「そうか?」
 

「ガウ!」
「おう、これくらいどうってことねぇ。にしてもお前は随分とスペシャルなんだな」
 クロを撫でるクレイピオス。

「お二人さん」
 クレイピオスは踵を浮かせて走って回る2人に呼びかける。

「そろそろ行くか」
「よし、行くぞ!」
「ガウ!」

「お気をつけて」
「私達はここで待っていてやる。お前らの存在は臭いで分かるから、死んだら置いてくからな」

「次は死なねぇように気をつけるさ」
「次は?」
 クレイピオスとアスタムが首をかしげる。

「じゃあ!」
 タケミ達は山のなかに入っていく。



「さて、どうするタケミ。一応聞くが作戦とかあるのか?」
「さっきからカシンの匂いがする、それと血の臭いも。その方向に突き進む」

「そうだな、俺達の接近は気づかれているだろうからな。変に回り込むよりも最短ルートを選ぶのか最善だな」
「ガウ!」

「しゃ!行くぜ!」
 タケミ達は里の外壁に目掛け突撃していく。

「何んだアイツら?!」

「「そらぁッ!」」
 壁の外に配備されている忍ごと壁を殴り飛ばすタケミとプロエ。

「敵襲です、ゲゾウ様!」
「なぜわざわざ攻めて来た?いやしかし好都合か、総員ただちに対処しろ」
 ゲゾウ達も動き出す。


「拳はまだまだだが!」
 タケミは相手の刀を腕で防ぐ。
 
「刀が欠けた!なんだこの硬さは?!」
「おらっ!」
 タケミは思いっきり相手に頭突きを食らわせた。

「これが忍、素晴らしい身のこなしだ」
 複数の忍からの攻撃を全て躱すプロエ。

「当たらない!?……ッ!」
 次の瞬間、忍は側頭部を殴られ地面に倒れる。

「だがまだ詰められるな」

「こいつら武器の1つも持たずに!」
「いやその認識は危険だ、一人は標的のカヅチ・タケミ、これまで数々の相手に素手で戦ってきた男。そしてもう一人はあの拳闘王だ。丸腰だからと侮るな!」

 周囲の忍にそう呼びかけるリーダー格の忍。

「え?」
 呼びかけの直後に彼は身体を斬り裂かれてしまう。

「RRRRッ!」
 クロが背後から稲光を纏った爪で襲ったのだ。

「な、なんだ?あの虎は!」

「報告にあったか?あんな虎」
「無かった、何なんだあの虎、いつからいた!?」
 クロに驚く忍達だがすぐにクロに襲い掛かる。

「風術、太刀風!」
「火術、炎上網」
 忍はクロに向かって忍術を行使する。

 しかしクロは斬り裂く風も周囲を焼き尽くす炎も薙ぎ払い、相手を切り裂いた。

「GRRR!!」
「馬鹿な!奴の魔力を利用できないだと!?」
「どうなっているんだ?」
 

「やるなぁ、クロ」

「感心している場合じゃないぞ。敵の数が多い」
「分かってる!」
 タケミとプロエも迫りくる敵を倒していく。

「ほらよ!」
 手を握りしめ、ハンマーのように相手を殴りつけるタケミ。それだけでも装備ごと相手の肉体を叩き砕くのには十分なようだ。

「悪くねぇが、いつものと違うから違和感あるな」

「おい、ズルをするな、ちゃんと突きで倒すんだ」
「はーい」
 プロエに注意され、次に来た相手に何度も拳を撃ち込み倒すタケミ。

「その拳の硬さなら威力が低くても数でどうとでもなるだろ」
「そうだけど、おれはもっと思いっきりぶん殴りたいんだよッ!」

「なら早くその腕を使えるようにするんだな。足の方はだいぶ使えてるようだし、すぐだろ?」

 相手を倒しながらプロエがそう言う。

「簡単に言ってくれるね」
「他人事だからな」



「あの建物、多分地下にいるぞ!クロは外で見張っててくれ」
「ガウ!」

 敵を倒しながらカシンの匂いを辿るタケミは先に目的の建物に入る。

「カシンーーー!」
 タケミは地下牢にいるカシンを見つける。

「あ、檻か、ふんー!ダメだ腕にまだ力入んねぇ。プロエさんお願いします!」
「はいはい」
 プロエはさっと檻をこじ開け、カシンが繋がれている鎖を殴り壊す。

「タケミさん……?どうして……!それにプロエさんも?」
「自分で決めた道を進むことにしたんだろ?その背中を押したのはおれだ。自分の発言には責任を持たねぇとな」
 タケミはカシンに手を貸して起こす。

「俺は弟子の付き添いだ。にしても酷い怪我だ」
 プロエはカシンの怪我をみてそう言った。

「地獄でした。でも自分が選んだからか、まだ今までよりはマシな気分です。マシな地獄でした」
 カシンは笑って見せる。

「ははは!そうか、なら行くぞ」


 3人は上へと戻る。

「おお、さっきは気付かなかったけどすげぇ立派な像があるな」
 上に戻ったタケミは大きな像の前で立ち止まる。

「不動明王と呼ばれるお方です、ここの初代頭領が自らの手で岩を切り出して作ったものです」

「へぇ、今のおれと同じ色だ」
 タケミは自分の腕と不動明王の像を見比べる。

青黒しょうこくという色みたいです」
「へぇー」

 像を見上げるタケミ、不動明王はその力強い表情でタケミを睨んでいるように見える。大きさだけではない迫力があった。


「さて、どうするか」
「逃げましょうと行きたいですが、忍はしつこいですからね。どこまでも追って来ますし、平気で寝首をかきます」
 プロエにそう話すカシン。

「じゃあここで二度とおれ達に会いたいと思えねぇようにしてやれば良いんだな」

「ええ」
「もうひと暴れだな」
「よーしゃ!もうひと暴れして、やる……ぜ」
 タケミが突然倒れる。

「タケミ、どうしたタケミ!」
「まずい、一旦こちらへ!」
「クロも一旦戻れ!」
 外にいるクロを呼び戻すプロエ。


 倒れたタケミの額に触れるカシン。

「熱!なんて熱だ、人が出せる熱ですかこれ」
「魂の拒絶反応だ。だが今までで1番酷いぞ」
 タケミは高熱を出していた。

「さっきの頭突きが悪かったかな……頭もめっちゃいてぇ」
「冗談を言ってる場合か、にしても急に来たな。もしかしたら手足が体に適応する最終段階なのかもしれない」
 うっすらと目を開け笑うタケミを見てプロエはそう話す。

「クロがタケミを外に運んで、私と君だけで連中を片付けるか」

「かなり厳しいですね。外にいた忍たち、その中には僕がはじめて見る者がいました。恐らくは暗殺ギルドに属して無いフリーの殺し屋。タケミさんの暗殺はゲゾウにとっても人生最大の大仕事、そこに呼び込むということは相当の実力者です」

「だがやるしかない」
 プロエがそう言うと頷くカシン。

「僕に考えがあります。プロエさんはクロさんと共にここでタケミさんを守ってください」
 立ち上がるカシン、まだ傷は応急処置程度で動くのは危険だ。

「その傷であの数を相手にするのか」

「はい、むしろ一人のほうが都合がようのです。これから行う術はどこまで影響するか分からないものでして。なにせ実戦で使用するのは初めてなので」

「死ぬなよ」
「もちろん、みなさんに貰った命ですから」

「わりぃな……カシン助けに来たのに」
「十分助けられてますから、少し休んでてください」

 腰の仮面を地面におくカシン。

「それに、自分の発言には責任を持つもの、ですよね。では行ってきます」
 カシンは外に出る。

 外には既に多くの敵が待ち構えていた。
 その中心に彼を閉じ込めていたゲゾウがいた。

「カシンか、死にぞこないの鼠が何をする」

「ゲゾウ、年を重ねている割に物を知らないんですね。窮鼠は猫を噛みますよ」
「ふん、鼠一匹でどうこうなる戦況ではない」

 カシンは構える。

「ならせいぜいその【鼠一匹】に嚙み殺されないようお気を付けて」
 両手の指を特殊な形に組み、印と呼ばれるものを形成するカシン。

「秘術、七宝天の陣」

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