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第102話 囚われたカシン
しおりを挟む山の奥、その更に奥、霧に包まれた場所に忍の里がある。
この里の存在どころか忍の存在すらも、この世界の人間には殆ど知られていない。知る者がいたとしても噂や伝承上の存在としか思っていない。
「ゲゾウ様、カヅチ・タケミは生存していました。しかし戦闘の負傷が原因か手足がまともに機能しておりませんでした」
「なるほど、具体的にどれ程のものだった?」
ゲゾウと呼ばれる男が報告した者に尋ねた。
「転げて逃げ回るのが精一杯といった様子で、腕を利用した戦闘はまだまだ実戦段階には至っていないようです」
「はっはっは、これはまたとない好機だな。奴の機能が回復するよりも先に仕留める。総員に伝達だ、明日の夜、総攻撃を仕掛ける。奴の周りには他にも厄介なのがいるからな、十全の準備をしておくんだ」
「畏まりました」
部下はそう言って下がる。
ゲゾウは地下牢に向かう。
「全く、暗殺ギルドの長とは思えぬ様だな、カシン」
「ゲゾウ……殿」
酷く痛めつけられたカシンが鎖につながれていた。
「貴様は二度も依頼をしくじった、1度目は良い、相手の戦力を見れば致し方ないものだ。だが2度目だ、貴様は依頼を放棄した」
檻の中にいるカシンに向かってそう言い放つゲゾウ。
「あの男に何か吹き込まれたか?くだらん、貴様は刃だ、刃はただ振られたように相手を斬れば良い」
「……」
カシンは黙っている。
「使えん道具は本来なら即処分だが、貴様は特別だ。長の立場にありながらその責を放棄した。故に苦しんでもらうぞまずはあの男を貴様の目の前で殺してやろう」
「ははは」
弱々しい声だがカシンは笑ってみせた。
「何がおかしい?」
「それってカヅチ・タケミをここに連れてくるって事ですよね。あなた達にそんな事が出来ますかね。ましてや殺すなんて」
カシンは笑いながら話す。
「柄にもなく挑発か、やはり貴様は変わったな」
ゲゾウはそう言い残し、地下牢の前から去って行く。
(タケミさん……まともに戦えないって、本当なんだろうか。それほどの闘いを、本当だとしたら)
「誰かと思えば黒兎と白狼の姉弟か」
「よう死神とユイ、タケミはいるか」
「どうもネラさんにユイさん」
朝のテルー宅に黒い騎士のクレイピオスと白い騎士のアスタムが訪れ、外に出て来たネラとユイに挨拶をした。
「どうしたんだ」
「あの忍者の人が、カシンって人が」
「捕まったみたいだ」
ネラにそう伝える二人の手には手紙があった。
「捕まった?何で」
「彼は任務を放棄したみたいでな。彼がそれを宣言したらその瞬間に何処かに転送されてしまったみたいだ。リベリオって女神から手紙をもらった」
クレイピオスは手紙をみながらそう答える。
「忍か、確かそういう呪詛があるってきくな。忍にとって任務は絶対、力足らずで遂行できぬことはあれども途中放棄などありえない。故に途中放棄した忍は里に監禁され、処刑されるらしい。口封じも兼ねてる呪いだな」
「忍、厄介な相手だね」
ネラとユイはそう言うと、二人をみる。
「でもそれをなんでお前らが、つーか手紙って」
「リベリオさんと知り合いなの?」
「いや、知り合いじゃない。リペリオって上級女神なんだろ?アイツが直接ここに来たら女神側にこの場所がバレちまうからってな」
「そこで僕たちに連絡が来たんです」
姉弟は手紙を受け取った理由を話す。
「何冷静に言ってんだ、助けねぇと」
「タケミ聞いてたのか、一応理由を聞いておこうか」
その場に現れたタケミに尋ねるネラ。
「アイツはきっとおれ達を殺すのは筋が通らねえって思ったんだ。生きたいように生きるように教えたのはおれだ。アイツはその生き方を選んだ、そして捕まったんだ、おれの責任だ」
「その手足でか?お前まだプロエとの修行全然終わってないだろうが」
ネラは彼の手足を指さす。
「先に言っておくが私達は案内は出来るけど里には入れねぇ」
クレイピオスがそう言うとタケミは彼女の方を向く。
「なんで?」
「忍たちがいる里の周囲には結界がありまして、それが魔神族の侵入を防ぐんです。バアル様やマリス様なら難なくその結界を敗れるのでしょうが、僕たちでは」
アスタムが理由を説明をした。
「因みに私もダメだ。結界は私達も弾く、まあ結界がどうにかなっても連中の使う忍術が面倒だしな」
「忍術?」
「あの人たちの術は周囲の魔力を吸収する性質がある。だから膨大な魔力を持つ者が側にいるだけでその効力は増すの」
ユイが忍術について話す。
「それこそここにいる全員が行ったら相手の忍術がどの規模になっちまうのか想像できねぇ」
ネラの話を聞き、二人がついていけない理由を理解し頷くタケミ。
「なるほど。魔力が強い奴がいればいる程に技の威力が上がるのか、すげぇな」
マートル姫やベロニカ、そしてプロエにダマトも会話に合流する。
「カシンを助けるっていうのなら魔力が比較的すくない奴が行くしかない。でないと持ち込んだ魔力を利用されてカシンごと吹き飛ばされるかもしれねぇからな」
「それでは私達が行くのもあまり良くはないのですね」
「うーむ、可能ならば助太刀したいところですが……」
ネラに言われ、マートル姫とベロニカは残念そうにする。
二人なら実力面では問題無いにしてもやはり魔力を逆手に利用されてしまうのが厄介だ。
「ならば俺がタケミについていこう」
「良いのか?」
「弟子が実戦での鍛錬をするというのに、師が眠りこけている訳にもいかんだろう」
こうしてプロエは共に行く事が決定した。
「がう!」
「クロはいけんのか?」
「クロも大丈夫そうだな。こいつは特別枠だ」
ネラはタケミに撫でられるクロを見てそう言う。
「さっそく行くか?」
「頼む!」
「それじゃあ背中に乗ってくれ。クロは追いついてこれるな」
「がう!」
クレイピオスの背中にタケミが乗り、アスタムの背中にプロエが乗る。
「しっかり掴まっておけよ!黒兎と白狼特急が発車するぜ!」
地面を勢いよく蹴り、皆はその場を飛び出していく。
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