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第96話 灰色の霧と共に

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 ゲートを通りテルーの元に戻って来たタケミと少女。
 先にゲートを取っていたネラとユイは椅子に座っている。

「おかえりなさいませ、タケミ様」
 帰って来たタケミを出迎えるマートル姫。

「マートルただいま。ちょうど黒夜叉も解除されたな。ちょっと休んでいいか?」

「テルー様、どこか横になれる場所は」
 マートル姫はテルーに休める場所はあるか尋ねた。

「奥にいくつか部屋を用意してるわ、ネラちゃんも少し休みなさい」
「しょうがねぇ、分かったよ」
 タケミはマートルに、ネラはユイに支えられ部屋に向う。クロもその後ろについて行く。


 部屋に入り、ネラをベッドに寝かすユイ。

「ネラ……私ね」
「記憶戻ったんだろ?」
 横たわるネラがそう言う。

「分かるんだ」
「ミディカに一服盛られたな」
 ネラにそう言われて頷くユイ。


 ミディカと対峙している際にユイは違和感を覚えた。

「う……なに?頭が?」

「ようやく効きましたか。流石です、この空間には薬品を霧状にして散布していたのです。無味無臭だから分からなかったでしょう?当然魔力の満ちたこの空間では薬品に混ざった魔力程度は正確に感知できないでしょうね」
 
 ユイの様子を観察するミディカ。

「なるほど、貴女様にはこれぐらいの薬量でなければ効かないと。この量は私達ですら致死量を超えている量です」

「この映像はなに、頭の中に……!」
「その薬は死神の呪いに対抗するために作ったものです。ですがまだ奴が封じた記憶を呼び起こす程度の効力しかないので未完の作品ではありますが」

 頭を抑えるユイ、視界が大きくゆらつき気分が悪くなる。

「それでは私はここで失礼させて頂きます。またいつか必ずお会いしましょう」
 そう言い残してミディカの幻影は姿を消した。


「記憶を取り戻す薬ってね、それを食らった隙に逃げられちゃった」
 ため息交じりにそう話すユイ。

「怒んねえのか?」
「なに対して?」

「お前の記憶を私が封じてたのに決まってるだろ」
「そういう契約だったんでしょ?あの時ネラは呪いの条件とか言ってたっけ?」

 ユイはネラと出会った、あの黒と紫のペンキをぶちまけたような空間での出来事を思い出す。

「そうだったかな。まあなんだ、これから色々と思い出すだろうけど……何かあったら言えよ」

「うん、そうするよ。はぁー私もヘトヘト、体力というよりは頭が疲れたよ。ちょっと横失礼するね。よっと」

 ユイはネラの隣に寝転ぶ。

「タケミ、大丈夫かな」
「……」
 二人は天井を見つめていた。


「タケミ様、さあこちらに」
 マートル姫はタケミをベッドに座らせる。
 部屋の入口でクロが横になっている。

「ありがとうマートル」

「あの女神たちの本拠地に攻め込み、無事に帰って来られるとは、加えてあの女神見習いの子達も救出するとは流石ですわ」

「……おれらがやろうとしたんじゃない。イチが、おれの友達がそれを提案したんだ。ああ、イチってのはな……」

 タケミはイチとの話をマートル姫にした。その間彼女はただ静かに微笑んだり頷くだけで口を挟む事なく聞いていた。

「イチを置いてきちまった、外に出て一緒に旅しようって約束したのに……」

 タケミは握りしめた右手を自分の額に押し付ける。彼の手は震えていた。

「私はその方にお会いしたことはありませんが、その方にとって施設を抜け出し、タケミ様と共に敵を倒したり一緒に逃げ遅れた子を探したり、全て素敵な旅だったのではないかと思います」

 マートル姫はゆっくりとタケミを抱き寄せた。

「今はゆっくりお休みください。お目覚めになりましたらお声をかけてください。お食事を用意しますので」

「ありがとう……」
 ベッドに横たわりタケミは眠りについた。



「さて、あなた達はどうしようかね」

「わー猫さんだ、わたしはじめてみたー」
 テルーの耳などを触る女神見習いたち。

 猫のような外見をしているテルーを珍しがっている。

 テルーはバアルとダイゲンに目を向けた。

「なんだ?」
「ん?」

「あなた達に預けるのはちょっとね」
 テルーがそう言うとダイゲンが笑う。

「ハッハ、ちげぇねえ。オイラの場合は寧ろ面倒を見てもらう事になるだろうしな」

「場所であれば我が館がある。あそこなら女神共も手を出せんだろう。最近は空けている事が増えているから、手入れをする者が欲しかったのだ」

「それならそこも使わせてもらおうかね。ここと館を繋げば良いかね」
 テルーはバアルの提案を受け入れた。



 ネラは何かの気配を感じ取り跳び起きる。
「……ッ!」

「死神……」
 起き上がると部屋の中に灰色の霧が発生し、そこから何者かが現れた。

「お前は!」
 その姿をみて目を見開くネラ。

「え?誰!?」
 ユイも跳び起きる。

「久しぶりだな、そしてご機嫌よう」
 霧から現れた手から灰色の弾丸が放たれる。

「ネラ!」
 ユイが魔法の防壁を展開した。

「ダメだユイ!」

「無意味だ。我が呪いからは逃れられん」
「な……にこれ?」
 灰色の弾丸はユイの防壁を通り抜け、彼女の身体を撃ち抜いた。

 ユイはその場で倒れる。

「さて、次はお前だ」
「しまった……!」
 
 
 物音を聞きつけてタケミが部屋にやって来た。

「お前2人に何をしやがんだ!」
 倒れているネラとユイを目撃し、相手を睨みつけるタケミ。

「この死神に転生された者か」
 相手はタケミの方を向く、その者の顔は灰色の霧に覆われていた。

「その2人には呪いをかけておいた。次に朝日が登る時にこいつらは死ぬ」
「随分な呪いだな。おれには使わないでいてくれるのか?」
 タケミが構える。

「これは特定のものに使用する目的で編み出したものだ。貴様に使った所で効果はない。そもそも貴様にはこういった類は効きにくいだろうしな」

「貴様は不死王か」
「この空間にこれるとはネラちゃんとの繋がりを利用したんだね」
 部屋にバアルとテルーも現れる。

「皮肉な事にもな、テルー・バースタ」
 
「二人を殺させねぇぞ!」
 タケミがその不死王と呼ばれる者に怒鳴った。

「そんなに助けたいか、ならばこの魔石を使い俺の城に来るがいい。魔石を砕けば城に来られる。しかし貴様だけだ」

「我ら相手では分が悪いとの判断かな?」

「本当にそう考えた訳ではないだろうに、無駄な挑発を。状況を理解しているからこそ貴様らは俺を襲えんのだろうが」
 バアルの挑発に対し返す不死王。

「おい転生者よ、この者たちに話を聞くと良い。それでもなお挑むというのなら、その時は受けて立とう」
 そう言って不死王は姿を消した。



「まだ疲れが残ってるとはいえ2人が一瞬で」
「単純な戦闘でやられた訳では無いからな」
 タケミは倒れたユイとネラを担ぎ上げてベッドに寝かせる。

「バアル、アイツのこと知ってるのか?」
「そこまで親しい仲ではないがな。奴は大領主だ」

「なるほどね、魔神族か」
 タケミがそう言うとバアルは首を横に振った。

「少し違うな、あいつは今でこそ魔神軍だが、元々は転生者、彼を連れてきたのは」
「ネラか……でも今はそのネラを殺そうとしてる。あいつと何かあったのか」

「恐らくな。この呪い、独自に生みだしたものだ。どんな術であれ独自に生み出すというのは並大抵の事ではない。ましてや死神に通用する呪いとくれば尚更だ。尋常ではない恨みでもあるのだろう」

 ネラ達の様子をみるバアル。

「アイツの名前は」
「不死王、それしか知らぬ、その名の通り不死の力を死神によって与えられた」

 バアルはタケミの質問に答える。

「不死の能力なんて上級女神どころか主神にすら与えられる能力ではないわ。ネラちゃんにしか与えられない力よ」

 テルーも話を付け加える。

「彼はその力で一時期は王国を築いた。でも彼の周りの人間がその力を恐れて反乱したのよ。与えられた力が巨大すぎたのね」
 

 タケミは魔石を拾う。

「この魔石を使えって言ってたな」

「待ってタケミちゃん、不死の能力は本物よ!」
「やつは魔力の扱いにも長けている、実力は間違いないぞ」
 テルーとバアルがタケミを止めようとする。

「皆が手を出さなかった時点でわかってるよ。中途半端な攻撃じゃあいつに効かねぇ、でも全力を出せば周りの皆に被害がでる。だから攻撃しなかったんだろ?」

 タケミが魔石を見詰めていると、ネラが起き上がる。

「タケミ……!やめろ!」
「ネラちゃん……」
 苦しそうに話す彼女を支えるテルー。

「アイツは流石に相手が悪過ぎる。お前が行けば3人共倒れだぞ!」
「何らしくねぇこと言ってんだ、病人は寝て待ってろよ」
 ネラに視線を合わせるように肩膝をつき、タケミは笑ってそう言った。

(イチ、またすげぇ挑戦が出来そうだぜ)


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