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第81話 限界値

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『第2ラウンド終ぅ~~~了ッです!』

『このラウンドも挑戦者タケミ、惜しくもプロエ選手に届かず!でもナイスファイトでしたね!』
ゴングがなり、セコンドの所に戻るタケミとプロエ。


「テメェ何考えてんだタケミ!またずっと殴られっぱなしじゃねぇか!」
戻ると早々にネラが彼を怒鳴った。

「はぁ、はぁ、ちょっと感覚が掴めてきたんだよ」
「は?何の?」
「あいつの拳への対処法だ……」
タケミは現時点で出せる最善策をネラに伝えた。

「バカか!お前これ以上ボロボロになるぞ!」
「いつもの事だろ?」
そういうタケミの肩を掴むネラ。

「タケミ……もしその身体の能力を期待してるならやめろ、私がお前にやったその身体は……」
「わかってるよ。おれの身体だ、だからこそここで勝ちてぇんだ。こんぐらいなんてことはしねぇと勝てねぇ」
タケミはそういって笑ってみせた。

「すまない……」
「おいおい、なんで謝るんだよ」

インターバル終了のゴングが鳴る。

「おっと、それじゃあいってくるわ」
タケミが立ち上がり中央に向かって歩き始めた。

「……」
ネラはただ黙って彼の背中を見送る事しか出来なかった。

『さあ、それでは第3ラウンド開始ッ!』
ゴングが鳴り、タケミとプロエが衝突する。


「奴の肉体はすでに成長の限界に到達している」
バアルの言葉を信じることができないユイは首を振った。

「そんな訳ないよ!ねぇ、マートル姫!ベロニカさんも!タケミと1週間戦ったんでしょ?今のタケミみてどう思う?」
ユイはマートル姫とベロニカに聞いた。

「え、ええ……まさにバアル・ゼブル様が仰る通りですわ。あの時のタケミ様と肉体的な強さは変わっていません。あの時は戦いの中でもドンドン成長されていたのに」

「もしかしたら我々の試練の間に限界値に到達されたのかもしれません。正確には言い切れませんが、何せあの時の私達は、その、冷静さを欠いておりましので」

「そんな……」
マートル姫とベロニカの発言を聞いて愕然とするユイ。

「死神もこれ程の成長を予想してなかっただろう。初期の肉体的強度や本来持つはずだった魔力すらも代償にし、成長性のみに特化させて作った肉体。その限界値に奴は到達した」
「……」
バアルが話している間、フォルサイトは黙っていた。

「無限に成長することなど出来んのだ、それが物質である限りな。その上限に到達できる者が少ないだけで必ず限界とはあるものだ」
バアルはタケミを見ながらそういった。

「この事はプロエも把握していると考えた方がいい。同じような道を辿っている者だからな」



「行くぞっ!」
「わざわざ言わなくても分かる!」
タケミが拳を繰り出し、当然プロエはこれにカウンターを合わせる。

「ッ!」
しかしタケミは止まらなかった。

「バカな!プロエのカウンターを食らって止まらないだと!?」
カテナ・ベラードやその部下が驚く。

(あの挑戦者、ヒットの寸前に動きを止めてカウンターのタイミングをずらした!)
ダマトは何が起きたかすぐに理解した。

(これでどうだ!)
タケミは拳を放つ。

「ッ!」
放たれた拳がプロエの顔面に命中した。相手はそのまま回転し始める。

「やった!」
ユイがガッツポーズを取る。

(なんだ?当たったのに感触が弱い!)
そう思った直後、タケミの側頭部を強烈な衝撃が襲う。

「ッ!?」
彼は転倒した。

「なにあれ?!」
「打撃の際に全身を捻り、その衝撃を回転に変換しダメージ軽減させたのです」
「せっかく当てたのに!」
フォルサイトの解説を聞いて頭を抑えるユイ。

「当ててもこうなるってか……そりゃそうか。当たったら即終了、なワケねぇよな。当たった時の手もあるわけだ」
起き上がるタケミ。

「でも当てられた!今度はクリーンヒットさせてやるからな!」
攻撃を繰り出すタケミ、その途中で彼は再び攻撃を止め、相手のカウンタータイミングをずらそうと試みる。

「攻撃を中断するか良い考えだ、しかし……」
プロエは高速のステップインで距離を詰め、タケミの顔面を打ち抜いた。あの速い一撃だ。

「そんなのは一度見れば分かる」
しかしタケミは倒れず踏みとどまる。

「やっぱり一回しか通用しねぇか。でも……」
タケミが拳を握りしめる。

「避けれねぇなら受けきるまでだ!」

「そうきたか!」
プロエは両腕でタケミの攻撃をガードした。

「攻撃を見切る事を止め、その集中を攻撃に回したか。桁違いなタフネスがあるからこそできる選択だ。だとしてもそうそう選べる手ではない」
タケミの選択に関心するダマト。

「ガードされちまったが分かった」
「みたいだな」
ガードを解くプロエ。

「あんたとっておきの一撃を連続で使うのはしんどいんだろ?最初の方におれがやった連続攻撃は全部カウンターしてきたのに、今のはしなかった。あの一撃なら打てたはずなのに」

「流石だな、当たりだよ」
拍手するプロエ。


「拳は見えねぇが戦い方がようやく見えて来たぜ!」
「受けても突き進む作戦か!だったら存分に打たせてもらうぞ!」

 攻撃を仕掛けるタケミ、プロエから連続でカウンターをもらうがそれでも彼は退かずに攻撃を続ける。

(今だ!)
相手のカウンターに合わせて更にもう一歩タケミは踏み込む。

(あれはプロエが見せたステップイン!)
ダマトがタケミの動きをみて驚く。

「ここだァッ!」
タケミの攻撃が胴体に命中する。

「っ!」
「今度は回転できねぇだろ!」
胴体ど真ん中に命中し、後方に大きく押し出されるプロエ。

「……見た目通り恐ろしい一撃だ」
プロエは殴られた部位を抑える。鍛え上げられた腹筋と言えど効いているようだ。

「ふぅーーーッ、ハァッハァッ!ようし!」
口から大量の蒸気を吐き出しながらガッツポーズを取るタケミ。

 タケミはここに来てようやく手応えのある一撃を与えられた。しかしこれまでのダメージ、身体にかかっている負担は相当なものであった。

「私からのダメージよりも戦闘法から来る負担のが辛そうだな」

「あんたのパンチが効いてるからだよ」
蒸気混じりの荒い息を吐くタケミ。

(あの戦闘法は肉体に無理を強いる事で一時的に瞬発力を底上げするもの。故にプロエは攻撃の一瞬にだけ発動し負担を抑えている。それを試合中使いつづけるとは)
ダマトは改めてタケミに関心していた。

「君の力の使い方、最初はその使い方はどうかと思ったが。今ではそれが君に適した戦闘スタイルだと理解したよ」

「みんなはやめとけって言うけどな」
タケミは笑って言った。

「親しいものなら尚のことだ、そんな命を過剰に削る闘い方なんて、とな。私もよく言われたもんだ」
プロエも笑った。

「自身の肉体の限界を超えた力を引き出す戦法に身体を慣らしていく。それが君の方針なわけだ。戦闘というのは一瞬だ、その一瞬に相手を潰せればそれでOKということか」

「そういう事、おれの身体は鍛えれば鍛える程めちゃくちゃ成長するんだ。血管や心臓もけっこう鍛えたぜ。何度も死にかけたけど」
タケミの言葉を聞いて頷くプロエ。

「だから君はそんな若い年齢で自分の肉体の成長限界に到達したのか」
プロエの言葉をきいてタケミが頭をかく。

「やっぱ、バレてたか」
「君の先の発言が正しいなら君の身体は闘技大会中も成長しているはずだろ?それこそこの闘いの最中でも成長してるはずだ」
バレていたが別に驚くべき事ではないとタケミは思った。

「パンチだけでなく頭も鋭いね」

「私も経験したからな。肉体の成長限界に到達し、どれほどの鍛錬を積んでも肉体はこれ以上に育たなかった。だから考案したんだ、君で言う赤鬼を」
プロエは構えを解く、それと同時にゴングが鳴った。

「君の焦りの原因も分かった」
「焦り……ね」

『第3ラウンドもここで終了です!挑戦者タケミの一撃が決まりましたね!ここから調子を取り戻せるのか!次のラウンドに期待しましょう!』


「どうかね、彼の戦い方は」
バアルは隣に座ったカシンに話しかける。

「分かりません、なぜあそこまでするのか。確かに有効打は打てましたが、その……」
「それまでが危険すぎる?」
バアルの言葉に頷くカシン。

「はい」

「でも君は食い入るように見ているがな」
「え……まあ、そうですね」

「つまり君は、あの男の無謀とも言える闘い方に何かを見出しているということだ」
「見出している?」
バアルが小さく笑う。

「あいつらと同じだ、君の場合は何かを学ぼうという気持ちが強そうだがな」
彼はそう言って横にいる者達に目を向ける。

「はぁー!1ラウンド毎に息が止まりそうになるよ。むちゃくちゃな闘い方して、避けられないから食らうって意味わかんないよ」
ユイがマリスに寄りかかっていた。

「確かにな、あいつひょっとして心底明るい自滅希望者じゃねぇのか?」
「マリスさん失礼ですよ、タケミ殿は考えあってあの闘い方をされているのですから」
マリスとフォルサイトがそんな話をしている。

「あれ、姉さん牛乳飲んでどうしたの」
「今度あいつと頭突き勝負した時に備えてんだ。ほらお前も飲め!」
一緒に牛乳を飲むクレイピオスとアスタム。

「殴られても止まらずに立ち向かうその闘志、素晴らしいですわ。あのまっすぐと私に向かって来てくださった時の事を思い出さずにはいられません」
「ええ、本来は身体の心配をするべきなのでしょうが……確かにあれは良いものですね……私もあの時手合わせしておけば良かった」
マートル姫とベロニカは見惚れていた。

「あなたもですか?」
「我か?そうだな、確かに奴の戦い方には興味があるのは間違いない。部下には絶対に勧めん戦い方だがな」
バアルはカシンの質問に答えた。

(この人は一体何を考えているのだろうか、元魔神軍で敵対してたはずなのに。さっきもそうだ、元同じ軍の相手に……読めない人だ)
カシンはそんな事を考え、闘技場に再び目を向ける。

「カヅチ・タケミさん……やっぱりめちゃくちゃな人だ。でも……」
セコンドにいるタケミはまたネラに何か言われている。

「楽しそうだなぁ」
ついカシンはそんな事を呟いた。

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