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第75話 マリス先生の授業、白狼は棄権したい
しおりを挟む第三試合はマリス対ユイの師弟対決となった。
試合の主導権はマリスが握り、ユイは押されている。
「ふふふ、マリスさん楽しそうですね」
「あいつ魔法抜きでも強いんだなー」
闘うマリスをみてタケミがそんな感想を言った。
「魔法抜きというよりはマリスさんは魔力コントロールを極めたお方、魔法とその他の境界が極めて希薄なんです」
「魔法とその他?どんな事もマリスにとっては魔法と一緒って事か?」
タケミの質問に対し少し考えるフォルサイト。
「うーん、なんと言いましょうか。どんな行動にも魔法クラスの複雑な魔力コントロールを組み込む事が出来るのです」
「?」
「つまりどんなものも魔法と一緒というよりは、魔法が彼女にとっては呼吸するのと同じぐらい当たり前の行動、と言ったほうがいいでしょうね」
「おー!そういう事かすげえな!」
フォルサイトの説明を聞いて納得するタケミ。
「タケミは魔力感知とか全然できないんだったな」
闘いを終えたクレイピオスがやってきた。
「あ、ピオスおつかれ」
「おう、サンドバッグ蹴っただけだけどな、つまんない闘いだった。次の闘いはそうならないよな?」
「奇遇だな、おれも同じこと考えてた」
「へぇ言うじゃねぇか」
二人は見合って笑う。
クレイピオスは闘っているマリスに目を向ける。
「マリス様だ!あの方の打撃って痛いんだよなー」
「え?ピオスでもか?」
「マリス様の打撃は普通では無いんです、先ほどフォルサイト様が仰られてた魔力コントロールの話がここで関わってくるのですが……」
後ろからアスタムが話す。
「魔力による身体能力の強化はちゃんと出来ているがそれは基本中の基本だ」
攻撃をしかけながらマリスは授業を始めた。
「その魔力を利用すればッ!」
「っぐ!」
ユイはマリスの前蹴りを両腕でガードした。
その直後、彼女は腹部を押さえ膝をついてしまう。
「う……!ガードしたのに、なんで?この痛みさっきと一緒だ」
「打撃と同時に魔力を打ち込んだ。深く刺さるような一撃だろ?」
蹴りの姿勢からゆっくりと立ちの姿勢に戻るマリス。
「そう!あれあれ!あの攻撃が痛いんだよなー」
「へぇーそうなんだ」
魔力を感知できないタケミからは普通の蹴りにしか見えないが、かなり利くようだ。
「あの攻撃は防いだ所で、その内側にまでダメージが及ぶためあまり防御の意味がないのです。内蔵や神経を直接攻撃されるような感覚で、かなりキツイんですよ」
アスタムが腹をさすってそう話す。
彼もあの蹴りを喰らった事があるようだ。
「あれフォル様も出来ますよね!」
「マリスさん程ではありませんが」
クレイピオスが目を輝かせてそう言う。
「フォルサイトが覚える必要ある?」
「ただの知的好奇心です、使う事はあまりないですね」
「だろうな」
タケミとフォルサイトがやり取りをしていると、ユイが立ち上がった。
「さっきのって……」
ユイは転移魔法を使い、マリスの背後を取った。
「こんな感じですか!」
マリスの背中に肘を叩き込むユイ。
「おおーそうそうそんな感じ、でも足元注意」
「しまった!」
ユイの足元の地面が沼になり、足がとられてしまう。
彼女はすぐにその沼から飛び出す。
「魔力のコントロールに意識向けすぎ。ユイの特性上、常に体内の魔力量が増え続けてるから難しいだろうけどさ。もっと無意識にできるようにならないとな」
飛び上がったユイの目の前に現れるマリス。
「え?」
「本日の授業はここまで」
そう言ってマリスは指でユイの額を弾いた。
魔力込みのデコピンをくらい、ユイは気を失う。
「よっと、まだまだだな」
マリスはユイを空中でキャッチして着地。
『イトウ・ユイ選手気絶により戦闘続行不可能!』
係りの者が実況席に向かって手を振り、これをみたウェルズがゴングを鳴らした。
『第三試合、勝者はレクス・マリス!』
「あらら、圧勝だな」
拍手するタケミ。
「ユイ殿は常に周囲から魔力を集めていますからね。魔力コントロールが他の者よりずっと難しいのです。かなりの集中力を必要としているかと」
「対してマリスは呼吸レベルで魔力コントロールしてるからほぼ無意識なのか」
「今回はそこを突かれたということですね」
フォルサイトはアスタムに近づいた。
「次は私達ですねアスタム」
「そ、そうですね……お手柔らかにってあれ!?フォルサイト様!?もういない」
『さあお次は第一回戦の最終試合!第四試合でございます!今回も非常に興味深い対戦カード!今回は魔神軍同士の戦い!それでは選手の紹介行きましょー!』
湧きたつ観客たちの声を聴き、ウェルズが闘技場に手を向ける。
『身長190㎝、体重75kg、白狼の騎士!アスタァァァァムッ!』
「あれ?75ってお前また痩せたな!筋トレしろ筋トレ!」
「いたっもう!これから戦うんだから蹴らないでよ姉さん!」
ゲートが開きアスタムが入ってくる。
「おお、今度は白い狼の獣人だぞ」
「獣人なんて初めてみたが、美しいなあの毛並み」
観客も彼に興味深々のようだ。
(大会のルールで鎧はダメだからしょうがないけど、なれないなぁ……)
『対するは!身長220㎝、体重150kg、一目族の末裔!フォォォォルサイトッ!』
「一目族だって!?本当にいたのか」
「ヒュー!みてみろあの肉体、まるで鋼のようだ!」
入場してきたフォルサイトに今度は注目が向けられる。
「こういう場で闘うのも案外悪くないかもですねぇ」
フォルサイトが観客席に手を振りながら闘技場中央に向かう。
(はぁ、始まってしまう。正直棄権したい)
「ダメですよ」
「ギクッ!」
身体をビクッとさせるアスタム。
「棄権なんて許しませんからね、アスタムさん」
「で、ですよね」
改めて構えるアスタム。
『第四試合、開始ィィィィィィッ!』
試合開始のゴングが鳴る。
「私が相手ですから、あなたは思う存分、本気で来てください。白炎の力も使って貰って構いませんよ。あ、でも観客は巻き込まないように」
「畏まりましたッ!」
両腕から白炎を放ち、アスタムが仕掛ける。
『アスタム選手が飛び出した!彼の両腕から出ているのは白い炎でしょうか?!』
「そうそう、それでよいのですよ」
アスタムの攻撃を受けながら話すフォルサイト。
「それでは私も!」
フォルサイトは拳を振る。
「ちょっ、フォルサイト様!?」
ギリギリで飛んで避けたアスタム、しかしその余波で吹き飛ばされてしまう。
『おおっと!フォルサイト選手の空振った一撃で突風が吹き荒れ、闘技場の床が割れてしまった!!』
「おっと、これはちょっとやり過ぎですか。後で強度を上げてもらいましょう」
そう呟くとフォルサイトはアスタムに再度攻撃を仕掛ける。
(一撃、一撃が繰り出される度に死の予感が!)
文字通り必死に避けるアスタム。
「はぁ、はぁ」
「逃げてばかりでは勝てませんよ?」
フォルサイトはそう言ってほほ笑む。
「一応先程から攻撃してるんですが、だったら!」
白炎を纏った蹴りを放つアスタム。
「なるほど、以前より火力が増しましたね」
フォルサイトは蹴りを受け止め、彼の足を掴み地面に叩きつけた。
「があ……!!」
「少し手の皮が焼けちゃいました」
手の平の皮膚再生させるフォルサイト。
(今できる最大火力で!)
飛び下がりながら息を思いっきり吸うアスタム。
「白炎の息吹ッ!」
彼はフォルサイト正面を覆い尽くす程の炎を吐き出す。
「おお、綺麗ですね。では私も、はぁふぅー」
フォルサイトも息を吹く。
彼女が一呼吸が生み出した突風で炎が押し戻されてしまう。
「そ、そんな!一息で!?」
驚いたアスタムの背後にフォルサイトが現れる。
「中々良い炎でしたよ」
「しまった!」
振り向き攻撃を仕掛けようとするがフォルサイトの方が早かった。
アスタムは頭を掴まれる。
「今回はこれぐらいにしておきますか」
フォルサイトはアスタムの頭を一振り。
脳を揺らされたアスタムは気を失った。
『アスタム選手気絶により戦闘不能!第四試合の勝者はフォルサイト選手ッ!』
ウェルズが試合終了のゴングを鳴らす。
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