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第64話 ご覧のとおり丸腰です

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温泉街オオエドで見つけた秘湯。
そこで彼らは忍者の襲撃にあった。

どうやら忍者の標的はタケミらしい、タケミと一対一で闘う為にネラとユイを先にいかせた。

温泉をあがり、先の部屋へと向かったユイ達。

「ネラ……これって」

【こちらのクリームを身体にお塗りください】
という看板の下に手のひらサイズの瓶があった。
中には真っ白なクリームが入っている。

「保湿クリームだ!気が利くねぇ」
「なんか随分と甘ったるい匂いしないか?」
ユイとネラはそれを身体に塗る。

「他にもボトルがある」

【こちらをおかけください】
小さい看板と共に複数の瓶が部屋の隅においてある事に気付いたユイ。

「塩、ごま風味、胡椒風味、味噌風味……」
「あれそれって」

瓶を手に持ったユイが固まる。

「た、タケミーー!やっぱりここヤバいかも!」

彼女達が入って来た扉を開けるユイ。

しかしそこには彼女達が入っていた温泉はなく、別の部屋があるだけだった。

「部屋が続いてる、露天風呂のはずなのに」
「やっぱり普通の小屋じゃなかったか」

扉をしめるとネラが何かに気付く。

「おい、私達の武器が!」
「無くなってる!今の一瞬で?!」

すると部屋の外を何者かが走る物音がし始める。

「何かいる!」
「ご覧の通り丸腰にしてやったから、もう隠れる必要がねぇってことか?甘く見られたもんだな、なあユイ!」

周囲に睨みをきかしネラが声を張り上げる。

「あ、このクリーム甘い」
「おい、台無しだよ」


一方その頃タケミと忍者。

「なんだこのナイフ?変わった形だな、ああクナイってやつだ!そんなとこまで忍者なのか徹底してるな!忍法とかあんのか見せてくれよ!」

相手が投げたクナイを手に取ってみたタケミはそう言う。

(なに!?我ら秘伝の忍法を知っているだと!?やはり侮れない相手!)

「ならばお望み通り!忍法、野太刀風!」

忍者は刀を素早く振ると風と共に相手を切り裂く刃が放たれる。

その攻撃を受けるタケミ、だが彼の肉体に傷は無い。

「野太刀風で傷すら付かないなんて!どんな身体をしてるんですか!」

「ほらそんなもんじゃねぇだろ!もっと本気だしてみせろよ!」
タケミが相手を煽る。

(なんですかこの人?さっきから、なんで僕に本気を出させようと?訳が分からない。無理だ、もう僕じゃどうにもできない)

「ごめん姉さん。僕はこの人を殺せそうにないよ」
そう言って忍者は仮面を取り出し、顔に付ける。

すると体付きがみるみる内に変わっていく、仮面で顔は見えないが体付きからして女性だろうか。

(なんだ、匂いが変わった?)

次の瞬間、忍者はタケミの目の前に現れ刀を振った。

タケミは即座に後ろに下がる。

「っと、避けきれなかったか」

タケミの胸を横切るように傷が現れる。

「へぇその仮面つけるだけでそんな変わるのか?強くなるのは羨ましいけど、別人になるのはちょっとなぁ」

(姿形が変わるのは見たことあるけど、匂いまで変わるなんて初めてだ。本当に全くの別人になっちまった、面白いな)

先ほどとは明らかに身のこなしが違う相手に興味を持つタケミ。

「おわらせる」
忍者はそう呟くと両手で印を結び始める。

「お、忍者っぽい」

「禁術 苦蘇」
相手は手のひらから赤い鎖のようなものを放つ。

鎖はタケミの腕に絡みつく。
直後タケミの全身に激痛が走る。

「貴様の、身体に刻まれた苦痛を、再び」
「へぇ、じゃあ傷はなく痛いだけか。なら問題ねぇな」

タケミは赤鬼を発動、一気に忍者に近づき拳を振り下ろす。

「ッ!!」
飛び退く忍者、空振ったタケミの拳が温泉の床を砕く。

「皮膚も血管も筋肉も骨も神経も傷がついてねぇ。だったら、ただの思い込みだこんなもん」
タケミは飛び退いた忍者に瞬時に接近し、追撃を叩き込んだ。


地面に倒れた忍者は気付けば元の体つきに戻っていた。

「仮面が壊れると元に戻るのか。変わった奴だな」

「なんで、なんであの技を食らって平然としていられるんですか……?呼び起こされた痛みで精神が保たれる筈はないのに」

そう呟く忍者。

「あ、意識あんのか」
「まさか姉さんでもダメだなんて。ごめんなさい、街の皆さんの無念を晴らせずに」

仰向けになり空を見上げる忍者。

「街?おれ達は確かに色んなところと喧嘩してるけど街を襲ったことはねぇぞ……ねぇよな?」

「なに?忘れたんですか、街に魔獣をけしかけて滅茶苦茶にしたことを!」

忍者の発言に首を傾げるタケミ。

「魔獣?」
「え?いやだから魔獣ですよ!ここから離れた街!あのオスティウムと流れ者の街の近くにある!」

うーん、と唸るタケミ。
そして思い出す。

「ああ!あの街か!奴隷達がいた所だ!」
「奴隷!?なんの話をしてるんですか?」

タケミはその街で起きた事を忍者に伝えた。

「な、なんと……その街では奴隷商売が行われていて。貴方はその人達を助けたんですね。そして魔獣に襲われたのは奴隷商売をしている者たちと」

「ああ、まあそんな感じだ。だって連中子どもだろうが容赦ないんだぜ?そんなの見て見ぬふりできるかよ」

「確かに、よく考えれば依頼主はあの領地とは関係がない人物だった。そんな彼がわざわざ僕を雇って殺しをするなんておかしいと気づくべきだった。くっ!僕はなんて事を!」

そう言うと忍者はタケミに向かって土下座をする。

「そんな素晴らしい人にも関わらず僕は殺そうとして!いや、まあ全然手も足も出せませんでしたが、それでも殺そうとしてしまった!なんということを!申し訳ありませんッ!!」

「さっきから凄い勢いで自己否定してんな。まあいいや誤解だったみたいだし。ちょっと温泉壊しちまったが、先行くわじゃあな」

タケミはそう言って扉を開ける。



「あああ、許してぇ」

扉の先では大きい猫が服を着たユイに顎を撫でられていた。

「この猫ちゃんめ!人の物盗もうとして!」
「顎下やめてぇ」

よく見れば大きい猫ではなく猫の獣人だ。

「何してんだお前ら。というかその猫は?」

一方でネラは他の猫の獣人たちを正座させていた。

「ほら、話せ。嘘ついたら分かるからな」
「ヒィ!勿論話します!私達は盗賊ギルドの者でして、ここに来た旅行客の衣服や装飾品、それに武器なんかも頂いてるんです!」

怯えた獣人は洗いざらい話し始める。

「で、でも裸で外に放り出す訳にも行かないのでほら!浴衣ご用意してますので!」
相手は浴衣を広げてアピールする。

「じゃああのクリームや塩は?」
ユイが瓶を指さす。

「クリームはお風呂後のスキンケアで。あの塩はここの源泉から作った物でして、調味料として非常に重宝されてて。え?身体に塗る!?そんな訳無いでしょ!お好きなだけお持ち帰り下さいって意味であそこに置いてたんですよ!」

「紛らわしいわ!」
ネラが近くにいた者を殴る。

「イタッ殴られた!?とりあえず謝っとこ、スンマセン!」

頭に手を当てるネラ。

「はぁ、盗賊ギルドって事はお前もいんだろ?ババア!出てこいよ」
「うふふ、ネラちゃん元気そうでなにより」

そう答える者はいつの間にかユイの頭に乗っていた。

非常に小柄で猫の獣人、というよりは二足歩行になった猫そのものの姿形をしている。

「いつの間に?!あ、猫ちゃんのいい匂い!」

「どうも、タケミくんにユイちゃん」

ユイの頭の上からぴょんっと飛び降りる

「私はテルー・バースタ、キュートな占いばあちゃんよ。どうぞよろしくね」

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