上 下
59 / 123

第58話 原始の炎

しおりを挟む

キングとクイーンが加わり、グロトとネリア攻略に挑むユイ達。

「行くぞ!」
「おう!」
キングとクイーンがグロトとネリアに飛びかかる。

「よし、私も始めよう。”怨敵悪鬼、我が神より与えられた原初の炎によって取り除かん……”」

二人が攻撃を仕掛けたのを見て、ユイが呪文を詠唱し始めた。

「なんだ!?こいつら急に動きが」
「右からくるよ!ああ、次は左!」
「うるせぇな!口出すくらいならもっとちゃんと教えろ!」
「しょうがないでしょ!すばしっこいんだから!」

周囲を駆け回り攻撃を仕掛けるキングとクイーン。
相手は動きに反応できていないようだ。


(本当だ、コイツら魔力はとんでもないが魔法を使う様子はない)

(1つの身体に2つの意識が入って役割分担してるんだってな。行動してからは速いが、動き始めまでが遅い)

「ああ!もう鬱陶しい!これならどうだ!」
グロトとネリアは身体を広げてキングとクイーンを一気に呑み込もうとする。

「ハハハ!!観てるか!母さんに父さん!お前らを喰った俺たちはこんなにも力を付けたんだ!」

「このまま街ごとのみ込んでやろうよ!」
二人は一気に身体の面積を広げていく。

「まずい!!」
「逃げらんねぇッ!」

「かの者をここへ!」
ユイがそう言うとキングとクイーンはユイの側に転移する。

「これは転移魔法か?」
「助かった」

「二人ともありがとう魔力の準備は完了した、あとは!」
杖を正面に構えるユイ。

「これが神より与えられし原始の炎ッ!その威光をみよ!」
最後の詠唱を終えるユイ。

「ヤバイ!ネリア!防御態勢だ!くる奴は全部喰らうぞ!」
「わかってるよ!」
グロトとネリアは身体を球体状にする。

「無駄だよ、これから撃つのは古代の魔法」

ユイが杖を掲げると相手の足元に魔法陣が発生する。それと同時に相手の周囲を囲うように魔法の壁が展開される。

「塵1つだって残らない!プリミティーヴァ・フラマッ!」

ユイが放った原始の炎、その光は目を開けていられない程の強烈で、あまりの熱に魔法の壁越しでもその身が燃えそうだった。

グロトとネリアは悲鳴すら上げる事なく、消滅した。


炎が消えてその場に巨大な縦穴だけが残っていた。

「圧巻だな……」
「どこまで深いんだこの穴、底がみえねぇ」
キングとクイーンは穴を覗き込む。

「ふう、やっぱりこの魔法コントロールが難しいなぁ。もっと練習しないと、この杖も流石にキツイみたいだね、連発は無理そうかな」

杖がまだ熱を持っているのか、少し赤く発光していた。

「おお、凄い音だったねぇ。何があったんだい?」
「あ!ダイゲンさん!」
フラフラと酔っぱらった足取りでダイゲンが現れた。

「確かそっちにもう1人スライム族の人が向かったはずですが。大丈夫でした?」
「ああ、そいつならあー、死んじまったよ、オイラが斬っちまった」

「商人のじいさんか?よく生きてたな」
「うわ、酒くさっどんだけ飲んでんだよ」
キングとクイーンもダイゲンの側に行く。

「二人とも、ダイゲンさんを安全な所まで連れてってもらえる?私はまだ残ってる敵の方に向かうから」

ユイがダイゲンの肩に手を添えてそういう。

「え?なんだい、オイラも闘えるよ?ひっく、ズバンズバンってやってやろうじゃねぇか、おっとっと」
ふらつくダイゲンの手をキングとクイーンが掴む。

「分かったら、ほらじいさん俺たちが一緒に行くから」
「じゃあ私達は行くがユイ、気を付けろよ。それとありがとうな」

「え?むしろこっちが感謝だよ、古代魔法は集中力すごい使うから二人がその隙を作ってくれないと撃てなかったし。それじゃあ行くね!」

そう言ってユイは飛んでその場を去って行った。



その頃タケミと青年風の外見のガツ。
「そら!」
「うお!へへ、そんな瓦礫じゃ倒せないぜ」
タケミは瓦礫を殴り飛ばして攻撃していた。

「うーんどうするかな。身体に触れたら食われちまうしな、ひょっとしておれとお前らって相性最悪?」
周囲の捕食された岩などの跡を見てそういうタケミ。

「そうかもな!俺たちスライム族、特に俺たちからしたら素手しか使わないタケミは格好の相手だな。でもそれでここまで生き残ってるんだから大したもんだ」
ガツが頷いてそう話す。

「触れたらダメか、そうだ!触れたとしても食われるより早く身体から手を離せば良いんじゃねぇか!」
タケミは身体から蒸気を吹き出し始める。

「おお、なんだそれ!」
赤鬼を発動したタケミをみて興味深そうにするガツ。

「すぐに分かる、さっ!」
「ぐお!!?」
タケミはガツに拳を叩き込む。

「さあ、これで……ってあれ?うわ、くっついてる!このダメだったか!」
しかし拳の先には相手の身体が一部付着していた。

「なるほど、身体に触れる時間を最小限にするってか。単純だが良い作戦だ」

「もっと早く、もっとだ」
タケミは赤鬼の出力を引き上げる。

「行くぞ!」
次の一撃を相手に打ち込む。

打ち終わったすぐに自分の拳をみる。
今度は何も拳についていなかった。

「お!今度は食われてない!」
「やるじゃねぇか」
殴られた箇所をもとに戻しながらガツが言う。

「でもなんか手応えが違ったような」

(このタケミってやつ気付いてないのか。今拳はおれに触れて無かった。それなのにおれは殴り飛ばされた。どういう事だ!?)
いま起きた事を理解しようとするガツ。

しかしその前にタケミが近づく。

「感覚を忘れない内に!」
タケミが拳を突き出す。

「避けさせてもらうぜ!」
ガツは後ろに跳び下がる。

しかしその直後。
ガツの胴体が大きくへこみ、彼は後方に吹き飛ばされる。

「なにぃッ!?」

「え?」
タケミも予想外の出来事に驚いていた。

「すげぇ!あんなに離れてたのに、見たか今の!」
自分の拳を見てからガツに話しかけるタケミ。

「見たどころか食らったんだよこっちは!」
「新しい1手が出来たな!そらッ!」
離れた場所から拳を突き出すタケミ。

ガツはこの時ようやく、何が起きているのか見ることが出来た。

タケミの拳から空気の塊が射出された。

(拳を繰り出した衝撃を飛ばしてるのか?この男の一部を喰って分かったが、コイツは魔力が殆どない!普通なら動けられることすらおかしいぐらいだ。それなのにこれ程の戦闘力!)

「良いな!お前を喰らえば俺はもっと強くなれそうだ!」
「やってみろッ!!」
タケミとガツは互いに笑みを浮かべ、見合って構える。



一方その頃ネラとグラトニーナーの戦い。

「クソ!!なんだテメェのその黒い炎は!喰えねぇし消せねぇ!それにその鎌自体も!なんで斬られた先の身体が動かせない!」

スライム女帝のグラトニーナ・レッカーマウルはたじろいでいた。

「うるせぇ奴だ、ゼリーらしくさっさと溶けて消えちまえ」
「僕たちは無敵の種族なのに!僕はその女帝なのに!」

黒い炎がついた部分を削ぎ落すグラトニーナ。

ネラの黒い刃を持つ鎌と彼女が放つ炎はどちらもスライム族にとっては天敵のようだ。

「テメェら、なんでこんな山に来た?」
「お前なんかの質問に答える義理なんて無いぞ!」
正面と背後からグラトニーナが変形させた身体が襲う。

「効かねぇよ」
正面の攻撃を鎌で斬り裂き、後方から来たのを炎で吹き飛ばした。

「よくも僕の身体を……遠くに飛ばしてくれたな。それにどさくさに紛れて僕にも炎をつけやがって!でも……上手く行った」
そう言うと燃えた状態でグラトニーナは肩を震わせ笑い始める。

「何笑ってんだ?」
「僕らの身体には無数の魔力核が散らばっている、僕らにとってそれ一つ一つがお前ら劣等種でいう心臓に当たるんだ」

うすら笑いを浮かべながら話すグラトニーナ。

「それがなんだ?」

「その中でも僕は他の奴よりも沢山喰っててね、僕だけの特性があるんだ。今僕がここで、ここにある体を失ったらどうなると思う?それで僕はおしまいか?違うよ」

この言葉を聞いたネラは目を見開く。
「まさか!」

「そうだ!お前がさっき飛ばしてくれた僕の身体!次の僕の基準はそっちに移るんだ!炎にやられた所はすぐに分離させた!鎌で斬られてなくてよかったよ」

ニヤリと嫌な笑顔を見せつけるグラトニーナ。

「っ!」
「クックック!テメェが強くて助かった!だが燃やされた事は忘れねぇ!次にあった時はテメェを喰ってやる!なるべく苦しむようじっくりな!」

そう言うと燃えていたグラトニーナは自身の身体を崩壊させる。

「あの方向、やっぱり連中の狙いは!」


山頂に蠢く半透明の液体、それが形を変えグラトニーナの姿になる。

「やったぞ!成功だ!やっぱり僕は運がいい、それに頭も良くて可愛く美しい!」

一通り自画自賛した彼女は目の前にあるものに目を向ける。

「そしてこれが連中が言ってた魔石か。すごい!なんて巨大さだこんなのは見たことない!これを喰らえば僕は、真の女帝になれる!クックック」

笑いが抑えられない様子のグラトニーナ。

「グラトニーナ・レッカーマウル様が全てを喰らってやるぞ!!」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢は勝利する!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:153

こんな愛ならいらない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:234

転生したら幼女だったので取り敢えず”運”極振りでお願いします。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:417

シーン・グラムーンがハンデを乗り越えて幸せになる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:25

妖戦刀義

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:242pt お気に入り:1

処理中です...