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第53話 良いトレーニングだった

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グランドオークの里を襲撃して来た勇者達、それを迎え撃つタケミ達。

そんな彼は一人の勇者を背中に乗せ、鎖で相手を固定させていた。
相手は仲間ではない、敵だ。

(背中に乗せたコイツの攻撃に対してずっと治癒力を使い続ければ、おれの治癒力が鍛えられる。それもありがたい事に体の内側を治す力がトレーニング出来る!これでおれの内蔵や血管はもっと出力を上げた赤鬼に耐えられるようになる!そうすればあの状態にももっとなりやすくなるはず!)

タケミは赤鬼状態の強化、そして更なる強化状態の再現性向上を狙い、相手の攻撃を自分の鍛錬に利用しているのだ。

「なんなのコイツ!?私の能力で内臓を直接攻撃してるのに!もう内臓はボロボロの筈なのに!なんでこんな動けるの!?なんなのよ!」
背中の勇者は短刀を取り出しそこに魔力を込め、タケミの背中に突き立てた。

しかしそんなものは彼の肉体には通用することなく、弾かれてしまい短刀はどこかへ飛んで行った。彼女はただ手を痛めただけだった。

「何やってんだテメェッ!!」
「ヒィッ!!」
タケミに凄まれた勇者は固まる。

「それが一番の武器じゃねぇだろが!!お前の能力で、全力で、必死で!おれを討ち取りにこい!こいつら全員倒し終わったらその次はお前の番だからな」

そう言ってタケミは背中の勇者を一睨みし、再び他の者に攻撃を始めた。

「ハァッ……ハァッ!!」
相手はもう自分に出来るのはそれしかないと悟り、何も言い返さずに懐から瓶を1本取り出した。

その瓶を一気に飲み干し、再びタケミの背中に手を当てる。

「おお!さっきよりもずっとダメージがあるぞ!その調子だ!」
「フゥ―ッ!フゥー!」

タケミは再び吐血した、しかしその吊り上がった口角は下がらない。

「なんなんだよこの男!あいつの能力で内臓はもうぐちゃぐちゃになってる筈だろ!?なんで生きてんだよ!!」

「知らねぇよ!クソッ!オークだけかと思ったのに、おい!エリクサー持ってる奴はさっさと使っちまえ!出し惜しみしてる場合はねぇぞ!」

勇者達は狼狽えながらも退かずに薬品の入った瓶を取り出し、続々と飲み始める。

「へぇ、それがエリクサーか。べはっ、おっとわりぃ血吐いちまった。そんなもんあるなら最初から使えよな」

タケミはときどき口から血を吐き出しつつも勇者達を相手にして行く。


背中の勇者は瞬く間に減っていく味方には目を向けないようにしていた。しかしその悲鳴が嫌でも耳に刺さる。

「嫌だ、嫌だ、嫌だッ!!」
彼女はそれをかき消すように叫び、エリクサーをもう一本飲み干した。

(もうこれで1日の許容量限界、本来は一本目の接種から6時間は間を空けて飲まないといけないけど。これが反動をギリ回避できる範囲!これで一気に片付ける!)

しかし、彼女の思惑通りにはならなかった。ついに彼女を除いた正面部隊のラスト1人がタケミの拳で倒れた。

「あ、ああ!なんで……」

「さて、終わったな。よし」
そう言ってタケミは背中にいる勇者を下した。

勇者はもうこの時ろくに抵抗すらしなくなっていた。

彼女を下した後にタケミは背中を触った、妙に湿っている。

「おしっこちびっちゃうのは別に勝手だけどよ、人の背中でそれすんなよな。戦ってる間背中から匂いがして仕方なかったんだぞ、この服借りものだし」

勇者は地面に下ろされてから後ずさりする、腰が抜けているのか立ち上がらず手で体を引きずった。

「な、なんでよぉ、なんでオーク達の味方なんてするの!」
「またその質問か、うーん……愛してるから、だとおれ自身は思う。ここの姫様に愛してるって言われた時、すげぇ温かい感じがした。初めてだった、身体の内側から火が噴き出そうな感覚は何度もあった、強い奴と闘う時だ。でもそれとは違う、もっと優しい……」

そう言ってタケミは少し黙る。

「まだ自分でも上手く説明できないけど、少なくともここの人たちはもうおれにとって大切な人たちだ。だからこの里を守りたいと思う、これで良いか?」



「お前が二本目のエリクサー飲んでからイイ感じだった。良いトレーニングになった、ありがとな」

タケミは彼女の前でしゃがむ。

「でも気になる事が一つある、なんでまだエリクサーあるのに飲まねぇんだ?」
「へ……?」

タケミは相手が付けているポーチに手を伸ばす。
そこにはまだ2本のエリクサーが入っていた。

「ほら、まだ残ってるじゃねぇか。2本で無理そうなら3本4本って飲むんじぇねぇの?最初の2本目はそんな感じで飲んでたよな?」

「……そ、それは、1日の限界が2本までだから。3本目以降は体への負担が極端に大きくなって、1日魔力がまったく使えなくなるとか、下手したら死んじゃうとか」

「ふぅん、なるほどねぇ。これっておれも飲んだら強くなるのか?」
タケミは瓶を振ってそう聞いた。

「分からない、多分……魔力が少なすぎて大して効果ないと思う。それは魔力を、魔力核の出力を無理やり引き上げて、女神様からの加護の力を強める為のものだから」
「そうなのか、これってどっかで買えるもんなのか?みんな持ってたけど」

勇者はタケミの質問を聞いてビクッと体を跳ねさせた。

「そ、それは……」
彼女は明らかに動揺している。

「ほおー、そんなに言いたくないのか、つまり普通に売ってるものじゃねぇって事だな。誰かが作ってそれを直接お前らに渡したとかだろ」

「ハァッハァッ!」
相手の息が荒くなっていく。
すると彼女は突然周囲を落ち着かない様子で見渡したかと思うと、急に頭をおさえる。

「ち、違うんです!!私は情報なんて漏らしてません!!」
「別のは漏らしたけどな、どうしたんだ急に?」

恐怖のあまり錯乱したのかと思ったが、どうやらそうじゃないようだ。
誰かと話しているように見える。

「信じてください!コイツ、コイツが勝手に言ってるだけです!ま、待っててください今、残りのエリクサーを飲んで……!ああ、待ってください!そんな!」

振るえた手でエリクサーを取り出そうとした勇者、しかし手に取ったエリクサーが突然発火し、灰へと変わる。それと同時に勇者の顔に大きな亀裂が入り始めた。

「だめ、そんな、エリクサーが……」
そう言うと勇者の頭部が炸裂した。

「あらら」

吹き飛んだ頭と体が灰になっていく勇者を見届け、タケミは里の中に戻った。


里の中に戻るとホットチョコとディープパープルが先に戻って来ていた。

「おう!そっちも終わってのか!」

「あ!タケミちゃーんってえ!?なんか血だらけじゃない?」
ホットチョコが血だらけのタケミに駆け寄る。

「でも内臓が凄い強くなってるねぇ、なんかしてたんだぁ」
ディープパープルは指で作った輪っかを通してタケミをみていた。




「タケミ様ぁぁぁぁッッ!!」
食料調達から帰ったマートル姫、タケミを見るや否や飛びつく。

「申し訳ありません!まさか勇者たちが里に攻め込んで来るとは!!その対応をタケミ様にやらせてしまうなんて!!」

そんな姫の後ろではホットチョコとディープパープルが正座をさせられていた。

「こうならんよう、お前らを残していたのに!!」

「すみませーん」
「反省してますぅ」

ベロニカから叱られる二人は目線をそらしてそういった。

「気にすんなよ、おれはここの花婿なんだろ?じゃあおれにも大切な場所だろ」

「た、タケミ様!!」
顔を真っ赤にするマートル姫。

他の者も顔を赤くしていた。

「ひゅー、今の言葉滾るわー」
「そういうの自然にできちゃうのズルいよねぇ」

「で、では結婚式はまたタケミ殿の旅が終わってからとして、とりあえず本日は花婿を歓迎する会という事で!」

ベロニカは手を叩いて他の者たちに準備をさせた。



明るい光で照らされた真っ白な部屋。

その部屋には上位女神のミディカがいた。

彼女の後ろには別の女神が膝をついていた。
「ミディカ様、勇者達は全滅です……」
「分かっている、秘薬はどうした」

ミディカはいくつか液体の入った便をテーブルの上に並べて何かを観察していた。

「それも回収できず」
顔を上げずに報告する女神。

「まあ……そんな所か」
「ミディカ様!!」
すると別の女神が慌てた様子で部屋に入ってきた。

「ノックぐらいしなさい、なんのよう」
「オスティウムが……!!」

報告を聞いて表情を険しくするミディカ。

「まったく、どうしてこう面倒ごとは続くのか」

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