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第46話 グランドオークのおもてなし
しおりを挟むグランドオークの里、その里は山奥の秘境とも言える場所にあった。
そんな里にある最も大きな建物、この建物には玉座の間と呼ばれる場所があった。本来は煌びやかな装飾などが施されている立派な場所だ。ここには普段グランドオークの長であり姫のマートルという者がおり、その側近や近衛兵がいる場所。
しかし今は天井が破壊され、室内のランタンは灯りを失っていた。部屋を照らすのは窓と天井の大穴から差し込む夕日のみ。
その状況を作った原因であるタケミは部屋にある玉座の上にいた。
「うん?あ、もしかしてここの人?天井壊しちまって、すまん!」
呆気にとられるマートル姫と姫の側近ベロニカに玉座の上で頭を下げるタケミ。
「貴様勇者か?女神達が仕向けた刺客か?」
ベロニカが構える。
「いやいや!違うよ!」
「そうは言ってもこの状況、空から急襲してきたとしか思えないが?」
ベロニカが何もない空間から槍を取り出す。
「やめなさい、ベロニカ。女神軍の者でないのはみれば分かるでしょ」
ベロニカの後ろからマートル姫が止める。
「あなた……空からいらっしゃいましたが」
「ああ、ここ数日ずっと飛んでたんだよ」
タケミがそう言うと彼の腹がなる。
「そうですか……でしたら相当お腹が空いていらっしゃるでしょう。ベロニカ、食事の用意を。こちらの方はお客様よ、丁重にもてなしなさい」
「え!良いのか!?」
タケミが食事というワードに食いつく。
「マートルと申します。空からのお客様、よろしければお名前を頂戴しても?」
マートル姫は前に出て、着ている毛皮のドレスの裾を軽くつまみ上げ、挨拶をした。
「ああ、タケミ、カヅチ・タケミだ!」
「ではカヅチ・タケミ様。お食事の用意が出来るまでしばしお待ち下さいませ。うちの者が腕によりをかけて作らせて頂きますので。ここでお休み頂いても構いませんよ。それでは私達は晩餐の用意を始めるように皆に伝えて来ますので」
マートル姫は再び会釈するとベロニカを連れて部屋を出ていった。
「姫!?良いのですか?あのものを一人にして、しかも玉座の間に!」
「あら、貴女も予感がしなかった?あのカヅチ・タケミ様、今までの者とは全く違いますわ。あの方なら【合格】できるかもしれませんわ」
姫は嬉々として皆に料理を用意するように呼びかける。彼女の様子を見た者たちは、その者が一体何者か、どこから来たのか、などそんな事は聞かなかった。ただ姫の表情をみて【とんでもない奴が来た】と確信したのだ。
焚き付けられた彼女達はあっという間に食事の用意を済ませた。
「うわぁ!すっげぇ量!それにどれも旨そうだな!」
タケミの目の前には大量の食事が並べられていた。
「随分お腹が空いているようですから。角ばった形式などは気にせずにどうぞ、お召し上がりください」
マートルがそう言ってほほ笑む。
言われるや否やタケミは両手を合わせる。
「いっただきまーす!あれ、みんなは食べないのか?」
「皆先ほど食事をとったばかりで、ですがそうですね、私もご一緒いたしますわ」
タケミの正面向かい側に座るマートル。
「こちらの食材は全て山で捉えたものですの。このお肉もとっても美味しいですわよ、是非ご堪能下さいませ」
マートルはそう言って自分の皿とタケミの皿に肉料理を盛りつけさせた。
骨付き肉にソースがかけられている、肉の香ばしい匂いとソースの香りがタケミの鼻をくすぐる。
「おー!旨そう、頂きます!」
(まずは毒の試練……この毒に気付くか毒に耐え抜くか、気付いている感じはない)
ベロニカがタケミを観察している。
警戒する様子もなくタケミはその肉にかぶりついた。
「うま!ジューシーだけど脂身がさっぱりしてるな!食べやすい、けどなんかやみつきになるな!手が止まらねぇ!」
タケミは次から次へと食事を手に取る。
「おお!」
思わず感嘆の声を口に出すグランドオークたち。
その者達に黙るようにと鋭い視線を送るベロニカ。
(最初の毒は突破。これだけでもここ数十年はなかった話。毒で苦しむ様子は一切ない。にしてもこの男、なぜか異常なまでに魔力が少ない。なのにこの生命力はなんだ?まるで圧倒的な大自然を目の前にしているようだ)
嬉々として料理を食べる彼をみてベロニカも内心興味津々のようだ。
「では、こちらも如何ですか?この村とっておきの一品です」
別の料理を持ってこさせたマートル姫。
(試練に用いるもので最も強力な毒が入ったスープ。私達には薬のようなものだけど、適応出来なければ即死、どうかこの試練も乗り越えてくださいませ)
姫が鍋から皿によそいタケミに渡す。
料理はスープだった。大口サイズにカットされた肉と魚に野菜がゴロゴロと入っている、なんともワイルドな一品。
「おー!これも美味そう!頂きます!」
タケミはスプーンを使いスープをすくい上げる。
グランドオークの娘たちは彼の行動に目を向けずにはいられなかった。
それは姫も同じだ。
スープがタケミの口に運ばれる。
「んーーー!美味いな!!少しピリ辛なんだな!入ってる具材にトロみのあるスープが絡んで美味い!さっきのあっさり系といい、これも好きな味だ!おかわり貰っても良いかな?」
彼はあっという間に猛毒スープを、鍋の分も含め飲み干した。
「な……」
これにはベロニカも驚きを隠せなかった。
「プハー!って……あ、あれ?」
タケミは彼女達の視線に気づく。
「あ!行儀がちょっと悪かったかな。悪いな、おれテーブルマナーとか全然学んで来なくて。不快にさせたんなら謝るよ」
彼がそういうと、突然ベロニカが席を立つ。
そして座っているユキチカの側にやってきた。
(やっば、めっちゃ怒ってる?)
そう思った直後、彼の視界からベロニカが消えた。
「え?」
「是非!我々の試練を受けて頂けませんか!!」
すると視界の外から声が。
目線を落とすタケミ。
そこにはベロニカが土下座をしていた。
「え?!なんで土下座なんてしてんだ!?」
突然の事に驚くタケミ。
「実は、勝手ながら既に試練を始めさせて頂いていたのです」
「は?あ、ああ、料理の毒のことか?」
戸惑いながらもそう返すタケミにグランドオーク達はどよめく。
「なんと、既に看破されておりましたか!」
「いや、まあ毒なのは分かったけど。それ以外は美味そうな料理だったし。あれくらいの毒なら大丈夫だし……それになんか食べたらどんどん体に力が湧いてくる感じがしてさ」
彼の発言に再び彼女たちは驚く。
「毒と分かっていて食べるとは」
「いや、それよりも力が湧いてくるって!」
「ええ、適応したんだわ!」
何やら落ち着かない空気になる。
「まあ、試練か良いよ。受けて欲しいんだろ?やらせてもらうよ!試練は最近よくやってるからなー」
タケミは笑顔でそう答えた。
「なんと爽やかな!」
ベロニカが頬を染める。
「で、では皆のもの試練の用意を!それと試練の担当は誰に……」
ベロニカがそういうと皆が一斉に手を挙げる。
「ベロニカ様!私やっりまーす!」
「ベロニカ様ぁ、私もやりたぁい」
皆が我こそはと名乗り出る。
「こっ、こら!はしたないぞ!姫様もいらっしゃると言うのに……!」
押し寄せる希望者を落ち着かせようとするベロニカ。
すると突然、目の前の騒ぎが冷水を打ったように止んだ。ベロニカは振り向く。
「私も立候補しますわ」
マートル姫が静かに手を上げ、一歩一歩とタケミに向かっていく。
「え!?ひ、姫自らですか?流石にそれは……」
マートル姫を止めようとするベロニカ、しかし姫に伸ばした手が止まる。
(触れられないッ!)
いま触れたら確実に無事では済まない。
それほどの強烈な何かをベロニカは感じ取った。
ベロニカはグランドオークの姫、マートルの側近。それは里で随一の実力を認められた者にのみ与えられる地位である。
そんなベロニカがいま全身の細胞から送られた危険信号により固まっていた。
「ごめんなさいね、皆。でももうこれ以上辛抱ならないみたい、私」
笑みを浮かべるマートル姫にグランドオーク達は背筋をピンと伸ばした。
「やっぱり一番強いのは君か」
タケミがマートルの前に立つ。
「皆、試練の準備を。こちらのカヅチ・タケミ様と私に相応しい、とびっきりの舞台を用意してくださる?」
グランドオークが仕掛ける、最大の試練が始まろうとしていた。
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