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第37話 大領主様の品定め
しおりを挟む戦闘を終えたタケミたち、ボロボロの彼らをなぜか倒されたはずのバアル・ゼブル達が運んでいた。
バアル達に運ばれたまま皆が集まる。
「え、これってどういう事だ?」
タケミが事態を理解できずに首を傾げる。
「あのー私を、外に出してくれませんか」
布にくるまれているユイ、恐らく彼女のローブにくるまれていたのだろう。
包まれたまま話すユイはようやっとマリスに放り出され解放される。
「いてて、あれ、傷治ってる」
ユイの腹に空いていた穴が何事も無かったかのように塞がっていた。
「治しといたんだよ。まったく、こいつ私に一撃かます為に腹で槍を受けたんだぞ。バカだよなーはっはっは」
「でもそれでやられたんですよね?」
フォルサイトの発言で笑いが止まるマリス。
「それでいうとこいつも散々だったぞ。無茶なドーピングを連続で使用し、途中で全身の血管が損傷して血を噴き出して止まったんだ。最後には両拳は砕け、筋肉もズタボロ。全く貴様らはいつもそうなのか?」
バアルは浮かせていたタケミを地面におろしてそう言った。
「でも治ってる。治してくれたのか?」
「まあな、酷い損傷ではあったが、我にかかれば造作もない」
それを聞いたフォルサイトは未だに抱きかかえているネラに微笑みかける。
「すみませんね、私はお二人のように治癒魔法をそこまで知らないもので」
「余計なお世話だ!それに私には肉体的な損傷はないしな。だからいい加減下ろせっつーの!」
ネラがフォルサイトの顔を蹴ってその腕の中からとび出る。
3人は地面に転がり、顔を見合わせる。
「ひっでぇやられようだったみたいだな」
ネラがニヤリと二人の顔を見て言う。
彼らは治して貰ったとは言え完全に無傷の状態まで、という訳ではない。致命傷になるようなものだけを直して貰ったようだ。
「そういうネラだって、なんか凄いやつれてるよ、相当疲れたんじゃない?」
「人の事言えねぇな、つーかユイもだいぶ”無茶”したみたいだな」
「う、そ、それは……」
「まったく、みんな仲良く死にぞこないか」
3人は笑った。
「で、お前らの目的はなんだ?」
寝っ転がったまま、立っている魔神たちの顔を見上げてネラが言う。
「ふむ、その質問に対して答えるなら……品定めの試験といった所だ」
「品定め?言っておくが魔神軍には入らねぇぞ」
バアルの発言に対してネラがそう返す。
「安心しろ、貴様らのようなものを飼いならす、なんて無駄の多すぎる事はせん」
「つまり皆さんはそのままやりたい事をやって貰えれば大丈夫ってことです」
「女神連中を減らせるからってか」
ネラの発言にマリスが頷く。
「そうだ、連中は数だけはいっちょ前に多いからな」
「加えて連中は最近妙に活動的になってきている。今までも我が城下町や館に攻め入ってこようとする者はいた。しかしいずれもが少人数だった、今回のように大規模な軍団を率いて来るという事は無かった」
マリスとバアルが答える。
「これは【主神】が先導していると考えるのが自然だ。貴様らが暴れて回ればそのうち連中も姿を現すだろう。当然我々の戦力でも女神を殲滅する事は可能だ、しかし使えるものは使う主義でな」
「ふーん、【主神】ね。それで?そんなたいそうな主義をお持ちのバアル・ゼブル様の品定めの結果は?」
「そう持ち上げるな、結果は合格だ。誇ってよいぞ、我々の実力は魔神軍でも指折りだ。そんな我々と対峙して生き残ったのだからな。今後も自身を磨き上げ、この世をかき乱してくれたまえ」
バアルはそう言って軽い拍手をした。
「でもそれで良いの?私達は魔神軍とも戦う事もあると思うけど」
ユイがそう言う。
「別に、好きにしたらいい。現にお前らはソウトゥースを倒したが別に恨んでなんかいない。お前らに負けたのならそれはそうなるべくして起きた事だ。ソウトゥースなんて戦いが食後の甘いお菓子よりも好きな奴だ、最高の最後を迎えられたと思う。だから気にするな、邪魔する奴は誰であろうとぶっ倒しちまえばいい」
マリスがそう答える。
「まあ、そういう事だ。次に貴様らが向かうのは、港街のマリンネか。あそこは良い、魚介類は勿論だが航路による貿易も盛んで様々な土地の食材が揃う場所だ。存分に楽しむと良い」
そう言ってバアルはタケミ達に背を向ける、するとどこからともなく豪華な馬車が現れる。馬を操るものどころか車を引く馬すらいない、しかしその馬車は彼の前に停まりその大きな扉を開く。
「それではな、くれぐれも簡単にくたばってくれるなよ」
バアルはその中に乗り込む。
「それでは皆様、またお会いしましょうね!」
フォルサイトもそれに続く。
「おいユイ、その……これ」
ユイの前で立ち止まったマリスは分厚い本を取り出す。
その本は帯が巻き付いており、帯には鍵穴がついていた。
「え、これは?」
ユイがそういうとマリスはその本をユイに押し付ける。
「んっやる、それは所有者の魔力を流さないと開かないけど、お前の魔力で開くようにしておいたから」
ユイが言われた通りに本に魔力を流してみる。
すると帯がひとりでに解け、本が開く。
中は見た事が無い文字や幾何学的な図形など様々なものが記載されていた。
「不思議な文字、みたことないのに部分的に読めるものもある……」
「古代魔法について書かれている、使われているのは古い魔法の言語だ」
そう言われるとユイは本を抱きしめて笑顔になる。
「すごい!こんな凄い本くれるの!?」
「ま、まあな、私はもう読み倒して内容ぜんぶ頭に入ってるしな。だがその言語は特殊で魔力の扱いに長けた奴にしか読めない。それぐらいスラスラと読めるようになって貰わねぇとな。まがいなりにも私を倒したんだから」
するとユイは本を脇に抱えて姿勢を正す。
「分かりましたマリス先生!」
「先生……?ふふふん、まあ良いだろう。私の事を先生と呼ぶことを許可するぞ」
マリスは嬉しい気持ちを外に出そうしないでいるが、その表情とゆれる尻尾でまるわかりだ。
「あ、そうだ先生ならこの日誌読める?ちょっと変わった商人から貰ったものなんだけど内容があんまり読めなくて」
ユイはウェルズから貰った日誌を取り出す。
「うーん?変な文字だな、確かに妙な力を帯びているようにも思えるけど、なんだこれ?妙なもんを貰ったな、だけどまあそれもそのうち読めるようになるんじゃないか。知らねぇけど」
「そうかなぁ」
二人は日誌を覗き込む。
「それじゃあ私も行くから、精進しろよ」
そう言ってマリスも馬車に乗り込んだ。
馬車は動き出し、空へと昇って行く。
「なんかどんどん凄いことになってくな」
「私たちも気を引き締めないと」
タケミとユイはゼブルたちを乗せた馬車を見送ってそう言った。
「いやぁ!良い物を見させて頂きました!!これは未来永劫私の記憶に留まる事でしょう!!!」
ウェルズが後ろからひょっこりと現れた。
「あ、ウェルズ」
「完全に忘れてた」
タケミとネラがそう言うとウェルズは大きくのけぞった。
「あーん!もう皆さま酷い!!でもそういう率直な所好きですよ!!みなさまお疲れの様ですし、まずはお食事でもいかがでしょうか?」
ウェルズは鞄から折りたたみ式の机といすを取り出す。
そして食料の入った袋を取り出した。
「え、でもそれって……」
「ああ、ご心配なく!食料は先ほど仕入れたものでして呪われていませんから。ご安心ください」
不安そうな顔をするユイに対してウェルズはそう答えた。
「ああ、強いて言えば、机とテーブルは利用する際に気を付けて下さいね。テーブルマナーを守らないとその度に寿命をもってかれますから」
「あ、私達じべたで良いです」
「本当お前へんな物ばっか持ってるな~」
「良いからさっさとメシにしようぜ、久々に腹減った~」
ユイが地面に座り込んだので同じように座るタケミとネラ。
「よろしいのですか?そうだこの超優しいテーブルマナー講座の本などは」
「「「いらない」」」
三人はきっぱりと断った。
「あらら」
こうしてタケミ達は大領主バアル達による品定めの試験を終えたのだった。
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