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第29話 絶望的な力の差をみせてやろう
しおりを挟む激しくぶつかり合う槍と杖の音。
魔法使いレクス・マリスは身の丈よりも長い槍を振るいユイを攻め立てた。
「そらそら!!」
「プロークルッ!」
ユイは相手の攻撃をかいくぐって稲光を放つ。
相手はそれを軽々と避ける。
「さっきから雷ばっかり、ビリビリとうっとうしい!」
「グッ!!」
横からの薙ぎ払いを避けきれずに杖でガードするユイ。
しかしその衝撃は凄まじく、勢いよく飛ばされてしまう。
(まったく、あんな小柄なのにヘビーな攻撃……魔力の流れ読んで攻撃を予知したいけど、それすらも毎回ズラして来る!)
転がり体勢を立て直すユイ。起き上がった彼女の目の前に、相手の槍が迫る。
「なに休んでんだ!」
「あぶな!」
辛うじて串刺しを回避する。
「フルグル・グラディウス!!」
回避しつつ、ユイは複数の雷の剣を発生させ放った。
「魔法の名前を言ったり詠唱を口にするのは自分の中で魔法の完成形をより強くイメージするためだ」
マリスは槍を軽く振ると槍の先端から稲光が発生、飛んできた剣を打ち消した。
「無言で魔法を発動させるのは、例えれば手癖で文字を書くようなもんだ。そして詠唱したり魔法の名前を言うのは、手本をなぞったり下書きしてから書くようなもんだ。つまり、お前が丁寧にイメージして放った魔法よりも、私が手癖で出した魔法の方が上ってことなんだよ」
槍をクルッと一回転させてマリスはユイを睨む。
「お前と私じゃあ魔法を扱うものとしての格が違い過ぎる。諦めな」
「いや!」
力強く返答するユイ。
「ふうん、じゃあその意志をへし折ってやる。降参はいつでも受け付けるからよ」
マリスは槍を地面に突き立てる、すると地面から水の渦が発生。
ユイは飛び下がる。
「うわぁ……これは結構やばい?」
「大海に呑まれろ、魔力開放ッ!!」
少しばかり時を遡って、ネラとフォルサイト。
ネラは黒紫の煙を周囲に漂わせていた。
「オラァッ!!」
瞬きほどの間でフォルサイトに接近、そして鎌を連撃を叩き込む。
「随分と速くなりましたね!目で追うのがやっとですよ!!」
フォルサイトは攻撃を弾き、また自身からも攻撃を仕掛けていく。
(こいつ!この状態の私に追いついてこれんのかよ!未来視が出来るとは言え見えてもそれに体が追い付かねぇと意味が無い。コイツはそれが出来るんだ……!)
「これならどうだ!!デス・リッパーッ!!」
鎌が黒紫の煙を纏う、高速回転しながらフォルサイトに斬りかかる。
「おっと!」
腕でそれを防ぐフォルサイト。
「追加だッ!!」
一振り目の鎌が当たると二振り目を重ねる。
鎌を包んでいた煙が刃となって、フォルサイトの腕を切り落とした。
「おやまぁ」
切り落とされた腕を見てフォルサイトはそう言った。
「ふふふ、腕が切り落とされるなんて、久しぶりですね」
「いや、お前ら腕が切り落とされる事に対しての反応なんなんだよ!!ソウトゥースもそうだったけどよ!」
「ふふ、いや久しぶりなので嬉しくなってしまって、すみません。さあ、お次はどこを斬るおつもりで?」
「首に決まってるだろうッ!」
ネラは瞬時にフォルサイトの背後をとっていた。
「ですよね」
「ッ!!」
鎌を振り上げたネラだったが、彼女は攻撃を中止して飛び退いた。
「おや?折角背後を取れたのに勿体無い」
振り向くフォルサイト、切り落とされたはずの彼女の腕はいつの間にか生えていた。
(もう再生したのかよ。今攻めていたら確実にやられてたな……)
「まだまだ楽しみは続きそう。それなら、もっと楽しめるようにしましょうか」
フォルサイトは嬉しそうに話す。
すると二人は凄まじい魔力を感じ取った。
「この魔力……もしかして!」
「マリスさんも随分と楽しまれてますね。では私もお見せしましょう」
フォルサイトを中心に大気が振動し始める。
「魔力開放です」
「その姿が、魔力開放?」
腕で雨を凌ぎながらマリスを見るユイ。
彼女の周囲には目を開けるのもやっとな程の豪雨がその場に降り注ぐ。
ユイの視線の先にいるマリスの姿が大きく変わっていた。
マリスに王冠のような角が現れ、腕にサメのような大きなヒレが現れる。
姿だけではない、放たれる魔力も別物のようだ。
「そうだ、私達みたいな膨大な魔力を持つ者は意図せず周囲環境へ多大な影響を与える。それを抑えるために普段は色々と制限かけてんだ。それを開放するのが【魔力開放】。ソウトゥースは見せなかっただろ?アイツは魔力よりもフィジカルタイプだったからな」
「これがあなた本来の魔力……」
今まで出会ったことのない、いや想像した事すらないスケールの魔力。それを目の前にしてユイは、ただ圧倒されていた。
「さて、絶望的な実力の差ってやつを見せてやろう」
槍を構えるマリス。
「マーテル・オムニウム!!」
彼女の足元から大量の水が出現、あっという間に見上げる程の大波となる。
「うっそ……」
大波はユイごと周囲を飲み込んだ。
天候の変化はここだけでは無かった。タケミの場所でも同様の事が起きていた。
空が暗くなり雷雨が降り注ぎ始める。
「魔力……解放」
タケミの目でも見える程の強力な魔力のうねりがバアルを包む。
その魔力が散ると中から、姿が大きく変わったバアルが現れる。
大きな二対の翼が生え、指先はまるでナイフのような見た目に変形、触角のような角が生えて、肌の部分は外殻で覆われていた。
「本気モードか?上等だ!!」
蒸気を上げたタケミが殴りかかる。
「その赤くなった肌に蒸気。血流速度を上げ、体温を上昇させているのか。それにより大量の酸素を全身に行き渡らせ運動能力を引き上げる。随分と面白い戦闘方法を思いつくな。魔力を使わずそのように自身の能力を向上させるとは」
バアルは軽々とかわしてみせる。
先ほどより明らかにスピードが上がっている。
一方タケミは攻撃をするたびに全身の傷から血が噴き出している。
「しかし裂傷に酷く弱い、傷をふさぐにも血流が速すぎて止血すらままなん。加えて大量の酸素が必要なのだろう、息が随分と上がっているぞ。当然体力の消耗も著しいのではないか?」
「ご心配どうも!!」
タケミは攻撃を繰り出したが、またしても当たらない。
「ほら、くっきりと肩の筋肉の筋が見えているぞ、先ほどは見えなかったのに。もう皮下脂肪をそれだけ消費したという訳だ」
タケミの背後にまわりそう話すバアル。
「ふん!」
振り向き様に拳を振るがそれも当たらず。
行動する度にタケミは大量に出血するだけだった。
「魔力が原材料とはいえ、肉体構造は人の身体と同じ、体にかかる負担は計り知れないのではないか?」
「オラァッ!!」
タケミが拳を振るうとそれを避け、通り過ぎ様に彼の全身に無数の切り傷を与える。
「がはっ!!クソ!」
バアルの手には愛銃カラムが。この銃も見た目が変わり、銃身にナイフのようなものが出現していた。
「言っておくが我々の魔力解放は貴様のドーピングとは違うぞ」
全身傷だらけになったタケミを見てバアルはそう話す。
「貴様は様々なものを犠牲にしてその力を発揮している。いわば本来の力以上を無理に引き出している。だが我々はこれが本来の姿なのだ」
タケミは笑ってみせた。
「ふん、お前に言われなくても、こっちはその覚悟でここに立ってんだよ」
彼がそう言うと、体から噴き出る蒸気の量が急増する。
「ほお、更に負荷を上げるか」
「さっきので足りねぇのなら、テメェをぶっ倒せるまで引き上げるまでだ!」
「見上げた志だな。そんな貴様に敬意を表し、叩き潰してやろう」
闘いは更に激化していく。
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