26 / 122
第25話 ツギハギスーツと老人商人
しおりを挟む荒野のど真ん中、そこで何やら商人の馬車たちが立ち止まっていた。
「いやー!どうかお助けをー!あ、このセリフ一度言ってみたかったんです!!1つ夢叶いましたねぇ!バケットリストにチェックつけときましょ」
随分と騒がしいツギハギのスーツを着た男がいた。
彼は剣を向けられているというのにも関わらず、悠長にポケットからメモ帳を取り出して何か書き込んでいる。
「うるせえ!良いから早く持ってるもん全部出せ!!ぜぇぜぇ……」
「あらら??随分とおつかれですね?そうだ!そんなあなたにピッタリの商品がありますよ!これかつて勇猛果敢な軍人が疲労をふっ飛ばすために飲用したという、素敵なお酒です!如何です?今なら命乞い割引でお安くしときますよ?因みに商品名は、疲労がポンっと無くなるのでヒロポ……」
鞄から一本の酒瓶を取り出して話す男。
「うるせぇ!黙って勇者様の言うことをきけ!」
剣を振り上げて脅す、この男は勇者のようだ。
随分とボロボロな様子で恰好だけでなくかなり疲弊している様子。
「ええ?!お気に召しませんか?あま~いお酒ですよ?」
「へぇ、お前さんら勇者なのかい?」
1人の老人が彼らに話かける。
彼の名前はダイゲン、最初の街でタケミ達が旅の装備などを揃えた商店のご老人だ。
「なんだジジィ!ごちゃごちゃと……」
勇者がダイゲンに剣を向ける。
ダイゲンが杖に右手を添えようとするが、それを止めた。
すると次の瞬間、ダイゲンの前に立っていた男は地面に叩きつけられた。
「おー、じぃちゃんじゃねえか!」
タケミだ。彼が後ろから男の殴り倒したのだ。
「その声、タケミのダンナかい?こりゃあ助かったねぇ」
(じぃちゃん、一瞬だけすげぇ殺気出してたな。思わず力込めすぎた、小突くくらいだったのに頭潰しちまった)
何ともなかったように笑うダイゲンを見てタケミはそう思った。
「おー!ダイゲンのじじぃ!」
「ダイゲンさんだ!」
後ろからネラとユイも合流する。
「あら?あらららら!?貴方様は!!そちらの方も!!いやはやこんな所で再開できるとは!!カヅチ・タケミ様!」
「だ、誰だあんた?」
突然近づいて来るツギハギのスーツを着た男に驚く一行。
「あららー!私としたことが、自己紹介を忘れてしまうとは!わたくし、旅人のウェルズと名乗らせて頂いております!趣味で商いもしております!以後お見知りおきを!」
ウェルズと名乗った男は被っている帽子を外してお辞儀をした。
「にしてもキングとクイーンにお会いできるとは、身に余る光栄ですね!」
「キングとクイーン?ああ、声どっかで聞いたと思ったら、あの時のやたらテンション高い実況の人?」
ユイは闘技場で実況をしていた声を思い出す。
「そーです!大正解ー!素晴らしい!!最近の神々は手厳しい方ばかりですが、あなたのような方もいらっしゃるのですね!思わずおめめがキラキラしちゃいます!イトウ・ユイ様!」
「あ、ああ、そうですか。どうも」
本当に目を輝かせて感動しているウェルズに会釈するユイ。
タケミ達はダイゲンたちと一緒に馬車に乗り移動する事になった。
「この馬車どこに向かってるんだ?」
「大領主バアル・ゼブルが治めるこの領土の首都でさぁ」
ダイゲンがタケミの質問に答える。
「おーとうとう本丸に乗り込むわけだな!」
タケミは嬉しそうに意気込む。
「でしたらこれからの旅に備えてなにか商品見ていかれます!?」
グイッと身を乗り出して満面のスマイルを見せるウェルズ。
タケミ達の返答もまたず、彼は革製鞄の中をゴソゴソと漁り始める。
「まずはこちら!先程の方にはお気に召さなかったのですが、甘くて美味しいお酒です!疲れも吹っ飛びますよー!」
酒瓶を取り出してタケミに見せるウェルズ。
「酒はいい、臭いし」
「あらま、ではこちらは如何です?真珠のネックレスです!!こんな大粒な真珠とても珍しいんですよー」
今度は美しいネックレスを取り出してみせる。
「へぇ、たしかに綺麗かも!」
ユイが少し興味を示す。
「でしょー?ですがこちら扱いには十分お気をつけ下さい。こちら女性がおもちになるぶんには問題ないのですか、男性が持つととんでもない災いが降り注ぐと言われておりまして」
笑みを崩さずにそう話す、がその内容はとても素晴らしいものだった。
「めっちゃ危険物!!あれ?あなた男性じゃないの?持ってて大丈夫なの?」
「ははは!わたくし、このような物を集めるのが趣味でして!不思議と呪いの品物というのは沢山持ってると打ち消し合うみたいですね!!だから呪いの品をお持ちになる際は1つなんてケチケチしちゃあいけません、思いっきり集めちゃいましょう!」
軽快に笑うウェルズ。
「それに男か女なんて大した問題ではございませんよ!所詮2つに1つ、コイントスの結果でしか無いのですから、大事なのはその後の生き方です!」
「はっはっは!面白いでしょう?ウェルズの旦那はあっしも商いしているもんですから、その方が持っている品が興味深くてね。何か良い物があるかもしれませんぜ」
ダイゲンが笑ってそう言った。
なるほど、確かに商人からしたら面白い商品なのかもしれない。
「いや、さすがに呪いはちょっと。ひょっとしてそのお酒も……」
「御名答!!酒の悪魔に取り憑かれた男は睡眠を忘れ、食事も忘れ、酒を求めるようになりました。次第に彼は酒を求めて人々を襲うようになり、家族も友人も手にかけてしまいました。最後は酔って川に落ちてしまい、そのまま溺れてしまいました」
およよと涙ぐむ、がすぐにパァッと表情を明るくして瓶を取り出す。
「で!その時彼の懐に入っていたと言われるのがこのお酒です!」
「いや、いらないよ!」
ユイが身を引いて拒否した。
「あらら、そうですか?あ!良いものがあります!本はお好きですか?」
「え?まあ、本は読むけど」
もう彼が出す物に一切の信用がないようで、若干引き気味のユイ。
「ではこちらは如何です?」
鞄から革張りの本を取り出し、ユイに渡す。
「へえ、ぱっと見普通の本だけど。このカバーに使われてる革、滑らかだけど、なんの革?」
やけに滑らかな革の表紙、それを撫でる。
「人ですけど?」
反射的に本を投げ返すユイ。
「うわああ!!ああ、ごめんなさい投げちゃった」
「ははは!大丈夫ですよ!こちらの本は外も中も人を素材にして作られているのです!内容としては多種多様な禁忌の術に関してですね!まあ、その内容をみると発狂して自殺したり、本に食べられたりしてしまうのですが」
「けっ、結構です。本当にそういうものばっかりなんだ」
首をブンブン振ってユイは遠慮する。
「この子達は全て他の商品にはないユニークな物語があるでしょう?わたくしはそれに惹かれてやまないのです!これももしかしたら呪いなのかもしれませんね!」
「そういうのがない商品はないの?」
この言葉を聞いて笑うウェルズ。
「ハッハッハ!ご冗談を!この世に物語のない品物なんてありはしませんよ」
ひとしきり笑った後にウェルズは何かを思いついたように手をポンっと叩く。
「ふぅむ、そうだ!ではこれなら!これならお気に召して頂けるかと思いますよ!」
そう言って今度は別の書物をとりだした。
「日誌です」
「これには、その……どんな物語が?」
恐る恐る聞いてみる。
「その日誌に今までのような呪いはありません」
ウェルズは笑顔のまま渡す。
「強いて言えばわたくしと友人の物語でしょうか。彼は旅人で様々な世界を見てきたと言います。ただ彼が言うには、おれは旅は好きだがこんな遠くに来れるなんて思ってなかったと。それは彼がこの世界を旅し日々起きた事を書き留めたものです」
「いいの?大事なものなんじゃ」
そう言われ頷くウェルズ。
「ええ、ですが大事なのはその物自体ではないのです。その日誌を書いた彼と私の関係性、その思い出なのです。その日誌は私よりもあなた様が持っている方がよいでしょう。ですから是非あなたに!」
「そう……この世界を旅した人の日誌なら何か役に立つ情報があるかもだし。じゃあ買います!」
「まいどありがとうございます!そちらはお近づきの印に、サービスです!今後とも是非!」
ウェルズは帽子を軽く上げてお辞儀をした。
一行はこの一風変わった商人たちとバアル・ゼブルが治める首都へと向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる