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第24話 喰い合いっこ

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奴隷達がいる施設へと突撃したタケミ達。
敵をなぎ倒しながら進むタケミの前に一頭の虎の魔獣が現れた。

黒々としたその体毛に真っ白の牙が煌めく。
その真っ白な牙には一筋の赤い線が垂れている。

タケミの血だ。

「喰い合いっこしようぜ!」
歯をガチッガチとならすタケミ。

「グルルッ!!」

魔獣はタケミをみて唸る。相手は相当腹をすかせている、もう目の前の獲物を仕留めて食べる事しか考えることが出来ない。

自身の牙に雷を纏わせる魔獣。

「おー!かっこいいな、それ!よっしゃ!」
タケミは拳を構えることなく突撃する。

そのまま相手にタックルをかます。

虎の魔獣は吹き飛ばされるが空中で身を翻し着地し、タケミに短剣のような爪を向ける。

タケミはすぐさま、両腕でガード。

「すげぇ切れ味。ギリギリ腕切り落とされずにすんだな。あっぶねぇ」
両腕から血がドバっと出始める。

「へえ、脚にも雷の奴出せるのか」
虎の魔獣はその大木の幹のような4本脚に雷を纏っていた。

「うちのベイビーを突き飛ばした!?なんて野郎だッ!だがあれだけ本気になっているベイビーは初めてみたぜ!やっちまえベイビー!それがテメェの役目だ!」

ジェイルも興奮気味にこちらの戦いを見ている。

「なんか、外野がうるせえが、こうも簡単に身体に傷付けられるなんて……やっぱおもしれぇなッ!」

虎の魔獣が噛み付いたかと思えばタケミが噛み付き返す。

「ペッ、お前の毛すげぇな。ひと噛みじゃあ肉まで届かねぇ、お互いもっとしっかり噛まねぇとな!」

「ガルルッ!」

虎の魔獣が飛びかかる。
タケミもこれを真似るように両手足で地面を蹴って飛び掛かる、先程からタケミは拳を使った戦い方はせず、魔獣と同じ動きをしていた。


一切お互いに退かない、ただ相手に食らいつき、その肉を喰らう為の戦い。

その最中、虎の魔獣はタケミの左肩に噛み付く。
短剣のような牙が深く突き刺さった。

「へっ、じゃあこっちも!頂きまーす!」

タケミも相手の自分を抑えていた右前脚に噛み付く。今度はしっかり肉を捉える。

「~~~~ッッ!!!」
虎の魔獣は口を開け、タケミを離してしまう。

タケミはそのまま右前脚の肉を食い千切った。

「んぐ、んぐ、結構歯応えあるな。んーごちそうさん、中々美味いぜ」

そう言って噛んだ肉を飲み込んだ彼は、自分の噛まれた肩を触る。

「腹減ってるのによぉ、離しちゃぁダメだろー。あのまま食い千切れば肩か、あるいは腕一本丸々お前のものになったかもしれねぇのに」

「うちのベイビーとあれだけ対峙してまだあそこまで動けるなんて。アイツは魔神かなんかなのか?」

ジェイルが上からこの2頭の戦いをみてそう言った。

「GAAAAOッッ!!!」
虎の魔獣が大音量で咆哮。

すると雷の鎧が現れ、その黒々とした身体を覆っていく。

「おいおい、なんだよあれ、見たことねぇぞ。そんな事できたのか!?流石、俺のベイビーだぜ!さぁやっちまいな!!」

「相変わらずうるせぇな。言われなくてもやるってーの。な?」
騒いでいるジェイルを見上げるタケミ。

「さぁ、やろう。今度は喰えるかな?」
「グルルルッッ!」

両獣が見合う。


「ははは!スゲェぜ!奴隷相手じゃこんなおもしれぇのは観れなかった!やはり食物の連鎖は素晴らしい!これこそが最高の命の営みだ!食って食われてこその生命だ!!」
上からその様子をみていたジェイルが興奮していた。

「おい、この変態野郎」
そこに不意に彼を呼ぶ声。

彼は振り向くと股間に強烈な衝撃が走る。

「……っが!?ぐっ……」

「おー、クリティカルだ」
そこにはネラが立っていた。

彼女の蹴りを急所に受けたジェイルは倒れたままうずくまる。

「お前で最後だ。魔獣はタケミにビビって檻に入ってるし、部下も全員倒されてる。お前のボスについて話な、どうしてここでこんな商売をしてんだ?」

ネラがジェイルの髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。

「俺たちのボスはカテナ・ベラートだ」

「やっぱりバアル・ゼブルじゃねぇのか」
彼女の言葉に頷くジェイル。

「ここは身寄りのねぇ連中を集めて売ってたのさ。どうせ行く宛もねぇ連中さ。それを売って幾らかの魔石にしてたんだよ。ここのベイビーちゃん達に餌をやるには量がいるからな、あいつの元が一番稼げるから俺はここで働いてたんだよ」

「奴隷とかはだいぶ昔に禁止にした筈だろ?テメェ等のボスのボスがな」

「はは、だからなんだ?どんなご時世でも行く宛のねぇ奴、身寄りのねぇ奴はいるもんさ。そいつらを有効活用してやってるんだ」

ジェイルはそう言って笑う。

「あっそ。じゃあテメェも有効活用してやるよ」
ネラは相手の髪を掴んだまま引きずり、下へと投げた。

「お、なんか落ちてきたぞ」
上からドチャッと落ちてきたジェイルをみてタケミがそういう。

ジェイルにゆっくりと近づく虎の魔獣。

「ああ、ベイビーちゃん。俺をいたわってくれるのかい?」
近づいてきた虎の魔獣に手を伸ばすジェイル。

「グルルッ!」

その手に目もくれず、虎の魔獣はジェイルの首に喰らいついた。

「あああ、そうか、お腹空いてたもんなぁ。残さず食べてくれよ」


「よっと」
「お、ネラだ」
上から降りてきたネラ。

「タケミー!こんな所まで来てたんだー……って何その肩の傷!!それ以外にも傷だらけだし!ちょっと今降りるから待ってて!!!」

ユイが上からタケミを見るや否や怒って降りてきた。

「ユイもおっす!」
「おっすじゃない!うわ、めっちゃ喰ってるじゃん。こわっ」
降りて来たユイはジェイルを召し上がっている虎の魔獣をみて少しひいた。

「飼い主を喰うとか中々非情だなぁ」
「ちげーよ、動物ってのはめちゃくちゃ合理的だ。さっきまでは目の前に捕食対象がおれしかいなかったけど、もっと弱った奴が落ちて来たからな、そっちの方が食べやすいと考えたんだ」

そう言ってタケミはため息をつく。

「はぁ~あ、あれじゃあもう喰い合いっこしてくれねぇな」

「何言ってんの。こんな怪我して、ほら止血するからみせて」
「なぁ、止血ってどうやってんだ?」
「ん?これぐらいなら血管同士を繋げたり、あるいは血管をしめて先にまわりの修復をしたりするかな。まあ本で読んだ内容だけど」
「ほーん」

肩を治して貰ったタケミ、彼の元に虎の魔獣がやってくる。

「お!なんだ?まだ喰い足りねぇのか?いいぜ、再開するか!って、うん?なんだその袋?」
虎の魔獣はタケミの前にドサッと袋を置いた。

袋の紐がほどけ中身が見える。
魔石だ、かなり大ぶりなものがいくつも入ってた。

「くれんのか?」
虎の魔獣はタケミの足元にすりよってくる。

「え、今日からおれがお前のボスって?まあいいけどよ。つーかお前、怪我もう治ってるのかすげぇな」
すり寄って来た魔獣の頭を撫でるタケミ。


タケミ達は奴隷たちを解放し、その施設の外に出る。

「本当にありがとうございました!家族とこうしてまた自由になれるなんて」

「あれ、そう言えばあんたら家族なのか、身寄りがないって感じじゃないのか」
ネラが首をかしげる。

「ええ、これから故郷に帰ろうかと」

「ふうん。ま、いっか、もうこんな連中に捕まるなよ。次は助けてやれるか分かんねぇからな」

「はい!」
「ありがとうおねえちゃん!」

ネラ達が話しているとタケミが馬車と馬を連れて来た。

「よし、これで移動手段を確保っと。あとは……」
彼は口笛をならす。

これに呼応するように施設内から魔獣たちが続々と出て来た。

「うわー!!ま、魔獣ッ!!」
元奴隷たちが怯える。

「よーし、お前ら!この人たちの旅が安全に行えるように守ってくれ!」

魔獣たちはひと吠えして馬車の周りに並ぶ。

「これで大丈夫だろ!」
「す、すごい、あの凶暴な魔獣たちがあんなにも従順に……」

魔獣たちの中には子どもたちに撫でまわされているのもいたが、特に抵抗もせず静かにしていた。

「動物さんモフモフ―!」

「あ、それとこれ」
タケミは近くにいた大人に魔石の入った袋を渡す。

「こんなに……!!?」
「ああ、魔獣たちのボスがくれたんだ。おれらはもう結構これあるから。旅には魔石必要だろ?食糧に使ったり、食料に使ったり、あとは……ごはんに使ったり」

「全部食いもんじゃねぇか」
ネラが呆れた様子で言う。


「それじゃあ元気でなー!」

「ありがとー!お兄ちゃん、おねえちゃーん達!」
人々を乗せた馬車は動き始めた。

「あれ?さっきの黒い虎の魔獣は?」
「ああ、アイツは……」
タケミが見上げるとそこには虎の魔獣が。

「お前も行ってくれるんだよな!また会おうなー!」
コクンと魔獣は頷くと馬車についていく。
どうやら後方から見守ってくれるようだ。

「私達は行く当てがありませんので、この街でやり直そうと思います。幸い仕事をする為の道具や施設はありますから」
「それじゃあ今日からここはあんたら自由人の街だな!こんな大変な経験をしたんだ、きっとあんたらならずっといい街を作れるさ」

タケミはそう言って笑う。

「ええ、きっとやってみせますよ。あなたのお陰でこんな頼もしい用心棒も出来ましたから!」

魔獣たちが吠えて返事をする。

「そっか、それじゃあおれたちも次の目的地目指して行くか!」
「どうかお達者で!」

こうしてタケミ達はこの奴隷の街を後にした。

後にこの街は奴隷だった者達によって再建された街として、「自由の街」と呼ばれ、最も栄えている街の一つとして名を知られるようになった。
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