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5th フェーズ 決
No.125 完璧な作戦
しおりを挟むチャールズと戦うシャーロットとチザキ。
「クソ……有効な攻撃はできずじまい」
「当たらなくなってきた」
二人の攻撃が徐々に通用しなくなってきたのだ。
「君らが合流するのが遅すぎた。ガーディアンは既に君たちの戦闘能力に関するデータを収集済みだ。ガーディアンは君たちの次にとる行動を予測して先手を取るだろう。もう君たちは詰みの状態にいるのだ」
チャールズは冷たい視線を二人に向ける。
「なるほどね」
「チザキさん、大丈夫?」
「……うん」
チザキとシャーロットは見つめ合い、頷いた。
「だが意外だった、ガーディアンの装甲すら侵食する微生物か。興味深い、次の改良項目が決まったな」
チャールズは端末を操作し、次の改良リストというページを開く。
「研究に協力したんだからギャラもらえる?」
「確かに、ならばこちら側について貰わないとな。振り込む為の口座などの情報も必要だ、あとでヴァ―リに打診するぞ」
そう言って手を差しだすチャールズ。
「交渉決裂ッ!」
「やはりな」
シャーロットはチャールズに向けて発砲する。
シャーロットが放った弾丸にチザキの血をコーティングさせる。相手の装甲を侵食する弾丸が出来上がった。
しかしガーディアンたちはその銃弾を避ける。
「くらえッ!」
銃弾を避けたガーディアンたちに対してチザキが追撃を仕掛けた。血の鞭を作り出し、全体に向けて攻撃を振るう。
ガーディアンたちは彼女の攻撃を避けていく。
(よし!良いぞ!そのまま行けば!)
ガーディアンのうち1体の背後から銃弾が迫る。先ほど避けられた銃弾だ。避けられた後に跳弾し、ガーディアンの背後を取ったのだ。
「……」
しかしガーディアンはチザキの攻撃を避けながら銃弾を撃ち落とした。
「くっ!」
「その連携もガーディアンは予測済みだ」
「データをもとに私達の次の行動を計算して予測するんだよね……」
「その通りだ」
チャールズは何やら手元の端末を操作しながら話す。
どうやら次の改良のための図案を作成しているようだ、もうすでに彼の中でこの戦いは終わったものになっているのだろう。
「だったら、その予測の大前提を覆せばいいだけ」
「何?」
チャールズの手が止まる。
「チザキさん!」
「分かった!」
シャーロットはアーマーから飛び出し、チザキは彼女の首に噛みついた。
「なるほどそう来たか!」
チャールズは端末を閉じた。
「アンタは厄介だ、ここでかならず倒す!どんな犠牲をはらっても!」
シャーロットはこの言葉を放って倒れた。チザキは彼女の血の殆どを吸いだした。
「ガーディアンが予測に使用する計算式、その前提は対象が戦闘に勝利しようとすること、より具体的に言えば生き残ろうとする事だ。生存しているあらゆる生命が持つ絶対的な前提、その前提を覆す……」
「ガァアアァッ!」
チザキは大量の血を全身から噴出させ、無数の刃に変形させる。
それはまるで波のようだった。
「死をもいとわぬ作戦、自爆覚悟の攻撃か!」
ガーディアンが回避しようとした、だがチザキが生み出した無数の刃の間を潜り抜ける事は出来なかった。
刃は相手の防御も関係なく切り裂いた。
「ガーディアンを一撃かッ!」
(チザキ・アキナの攻撃範囲から考えるに、使用している血の量は奴にとっても致命的なはず。私もろとも道連れにするつもりか?)
刃の波からチザキが飛び出し、チャールズに襲い掛かる。
「オマエモダァァッ!」
チザキの一撃により体を引き裂かれるチャールズ。
倒れていたチャールズはゆっくりと起き上がる。
「随分とひどくやられた。しかし、そちらの燃料切れが先に来たか」
「はぁ、はぁ……」
彼の前にチザキが倒れている。
「悪くない……作戦だった。この身体も相当な額の研究費と時間を注いで作ったんだがな、他の連中との戦闘は不可能か」
チャールズは周囲を見渡す。
「はぁ、この部屋もそうだ、特別製で他より頑丈に作られていたのに。酷い有様だな」
彼は再びチザキに目線を向ける。
すると彼は、チザキの腕に管が付いている事に気づく。
管の先には輸血パックがあった。
「輸血パック?それは既に毒に汚染されている、ここに来て自決か?」
チザキは倒れながらも汚染された輸血パックから血を吸っていた。
「……ッ!」
倒れながらもチザキはチャールズを睨む。
「そんな訳じゃないよな」
チャールズは自身の身体から銃を取り出す。
次の瞬間、チャールズの側面から銃弾が撃ち込まれた。
「……そうか、ようやく分かった。なるほど、まったく私とした事が」
銃弾を喰らい倒れるチャールズ、彼は銃弾が飛んで来た方向に目を向ける。
「少量ずつ毒入りの血を摂取し、耐性を得たのか。きわめて基本的、ワクチンなどと同じ仕組み。まさかあの特製毒でそれをするなんてな」
チャールズはシャーロットに目を向ける。
酷い顔色のシャーロットが寝たままの姿勢で銃を構えていた。
「取り込んだ血液から毒を排除し、その血をシャーロットに渡したのか」
「その……とおり」
辛そうに返事するシャーロット。
「だがその作戦でチザキ・アキナは継続的に毒を摂取する事になる。いくら抗体を作れるとは言え身体への負担が消える訳ではない。現に彼女はかなりきつそうだぞ」
「これぐらい、ヘーキ、ヘーキ」
チザキは息を切らしながらそう言い返した。
「シャーロット、貴様の回復だってそうだ、血液が戻った所で即座に元どおりとはいかんだろう」
「そのとおりだよ、我ながらよく今の当てられたと思う。正直めっちゃ気持ち悪い、起き上がれる気しないし」
シャーロットも依然として顔色が非常に悪い。
「自爆覚悟で、その成功率も滅茶苦茶、酷い作戦だ」
チャールズは笑った。
「それが私の考えた完璧な作戦……どーよ」
シャーロットは笑って返した。
彼女らの激しい戦闘に耐えられなかったのだろう、部屋の至る所から音をたて崩壊し始めた。
「これは再建築だな」
チャールズは部屋の様子を見てそう言った。
「ここから、出なきゃ……!」
するとシャーロットの上にある天井が崩壊した。
彼女に目掛け天井の瓦礫が落下する。
「シャーロットッ!」
チザキはシャーロットを助けようとする、しかしまだ毒の影響で体が思うように動かせない。
それはシャーロットも同様だ。まだ血液が体に戻りきっていない。
瓦礫が床に騒音を立て衝突し、煙と破片をまき散らした。
「シャーロット!シャーロットォッ!」
チザキは声を上げた。
「あ、ああ、チザキさん、聞こえるよ……でもなんで?」
シャーロットは落下してきた瓦礫の側に倒れていた。
動けない筈のシャーロット、なぜ彼女が瓦礫から逃れられたのか。
その答えはすぐに分かった。
「え……そんな、なんで?!」
シャーロットの目の前には瓦礫の下敷きになったチャールズがいた。
「それはお前をここから押し出したからだろう」
チャールズは平然と話す。
「そうじゃなくて!なんで私を助けたの!」
「うーん、それの答えだが。うーん、ろくな答えが見つからないんだ」
首をかしげるチャールズ。
「気づいたらこうなっていた。お前は私の敵だ、このまま瓦礫の下敷きになれば生存率は極めて低い、チザキも毒によって動けない……私は残りのエネルギーを使い身体を修復し戦線に戻る。全てが上手く行く。なのになぜだ?」
チャールズはシャーロットを見る。
「お前をみるまで子どもがいる事すら知らなかった、世間で言えば最低の父親だ、なのに情が湧いた?これは興味深い、バグのようなものか?私の完璧を揺るがすとは」
彼はシャーロットの顔をよく見た。
「にしても……本当によく似ているな」
「え?誰に?」
「お前の母親だ、決まっているだろう」
再び部屋の至る所から音がする。
「ではな」
チャールズがそう言うと半壊したガーディアン達が動き出す。
「え?!」
「なに?」
ガーディアンはシャーロットとチザキを抱えて外に連れ出した。
「……まって!」
シャーロットは小さくなっていくチャールズに手を伸ばす。
(まだこの世界には興味深い事が満ちている。素晴らしい!完璧な世界だ)
チャールズは瓦礫の向こうに去って行くシャーロットたちを眺めながら微笑んだ。
シャーロットとチザキが外に出た瞬間、部屋は崩壊した。
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