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5th フェーズ 決
No.120 見送る者たち
しおりを挟む一人部屋にいるブルズアイ。
彼女は物音に反応する、音は通気口内部からだ。
「この感じ……」
通気口からチザキが飛び出してきた。
「チザキ?こっぴどくやられたね」
彼女の様子を見てブルズアイがそういった。
「血が飲めてないの?」
「……うん」
チザキの返事は弱々しい。
「なるほど、ここが私の出番か」
「え」
ブルズアイはアーマーを外し、首筋をみせた。
「私の血を使ってよ」
「ダメ」
チザキは首を横にふった。
「なんで?」
「ブルズアイ、死んじゃう」
彼女は答える。
「そうだね、今の君が回復するのに必要な量の血を持って行かれたら私は助からないだろうね」
「でもあなたは生き残る。このままだと私達二人とも死んじゃうかもしれない。助けなんて呼んでないし、というか呼んで来てもらった所で足手まといになるのは明白だ」
「0になるか1で踏みとどまるか、選択の余地なんてない」
「ほら、私の血を」
「あなたはシャーロットちゃんを助けたいんでしょ。いま彼女は仲間と分断されて一人、貴女が助けに行ってあげて」
「さぁどうか私の血を役にだてて」
チザキはブルズアイの首すじに噛みつく。
その時ブルズアイはまるで愛しい人にするかのようにチザキを抱きしめた。
血を飲み始めると、チザキの中にある記憶が湧き上がった。
「……!」
初めての経験だった。
チザキは身に覚えのない場所に立っていた、彼女の目の前には花束を持った娘が太陽のように明るい笑顔で立っていた。
「お母さん!お誕生日おめでとう!」
「……ありがとう」
チザキの口から不意にそんな感謝の言葉が。
「……っ!」
気づけばチザキは涙を流していた。
「温かい……花束、あの子は、誰?」
「花束か、チザキはどうやら血と一緒に記憶も引き継いでくれるみたいだね」
泣くチザキの頭をブルズアイは撫でる。
「良かった、渡せたのがそれで。私にとって一番の宝物だよ」
冷たくなっていくブルズアイ、
「みんなを頼んだよ……あの子達を……」
チザキを抱きしめたままブルズアイは眠るように最後を迎えた。
「すみません、せっかくお会いできたのに」
「毒が結構回ってきているね」
倒れたリリィの様子をみるイヴ。
「イヴ様!」
「ごめんよ、力になってあげたいけど、ここまで進行した毒を元に戻す術はない。ソウルパッチも今は手元にないからね」
ウルルにそう言って首を振るイヴ。
「大丈夫です……覚悟はもとより出来ております」
毒のせいで苦しそうに話すヒメヅカ。
「ただ、最後に一つよろしいですか……」
ヒメヅカは2人を見上げた。
イヴとウルルはリリィを運ぶ、すると前から同じようにキリサメがヒメヅカを運んで現れた。
「ああ、良かった来てくれたんだね」
「ふふ、同じことを考えてくれたんですね。嬉しいです」
運ばれている2人は見合って笑う。
「リリィも……!」
キリサメがリリィの状態を見て話す。
リリィもヒメヅカも顔色がかなり悪くなってきている。
「キリサメ、悪いんだけど私達2人を、送ってくれないかな?」
リリィはキリサメに優しく語りかける。
「え……」
「毒で苦しむ彼女を見たくないんだ、なんてね。アイツに射たれた毒で殺されるぐらいなら君の刀で送って貰えた方がマシだなって」
ニコッと笑って見せるリリィ。
「でも……」
「キリサメさん、私達はここまでです」
ヒメヅカもキリサメに頭を下げた。
「でもこれは依頼じゃない。報酬は払えない、だから君は受けなくても大丈夫だ」
リリィは変わらず優しい口調で語りかける。
「……やる」
キリサメは頷いた。
「ありがとう」
「感謝します」
リリィとヒメヅカは地面に横になった。
「イヴ様、お会いできて光栄です」
「最後までお供できずに申し訳ありません」
「ありがとう、君たちに出会えて良かった」
イヴはリリィとヒメヅカを優しく撫でた。
「ウルルちゃん、色々と面倒をかけたね」
「私もご迷惑をおかけしました。最後まで愛する者の為に戦う、あなたの姿には尊敬してしまいます」
「どうかお気になさらずに、私はお二人共を許しておりますから。どうか安らかに」
ウルルも二人に別れを告げた。
リリィは残された力でヒメヅカを抱き寄せた。
「こんなに君を抱きしめるのは久しぶりだ」
「ええ、そうですね」
ヒメヅカはリリィの顔を撫でた。
「お二人共行って下さい。時間を取らせてしまった、急がないと」
リリィがイヴとウルルにそう伝えるが、2人は首を横に振った。
「もう少しおります」
「私もここにいます」
イヴとウルルの言葉を聞き、リリィは静かに頷いた。
「……キリサメ、頼む。あ、どっちから刺そうか。背中からで見えないのちょっと怖いな」
「では私側からお願いします」
「最後までごめんね」
「気にしないで下さい」
キリサメは言われた通り、ヒメヅカの背中から刀を突き刺した。
「んー、刺されるのは想像よりも、ビックリするもんだね」
「流石の私も心臓を刺されるのは初めてですから。ですが毒のお陰で痛みがそこまでありませんね」
二人は刺された状態で笑っていた。
「それじゃあ、行こう、二人も」
「そうだね」
「かしこまりました」
キリサメは刀を引き抜き、イヴとウルルの手を引っ張ってその場を去って行く。
去った彼女達を見送るリリィとヒメヅカ。
「行っちゃった、気を使わせちゃったみたいだね」
「あのキリサメが気遣いを……人は変わるものですね」
「というよりはあれが根っこなんじゃない?彼女は優しい子だと思うよ」
リリィは微笑んでそう言った。
「本当に私たちは人に恵まれていますね」
「そうだね」
二人は微笑みながら、互いに微笑み合いながら静かに息を引き取った。
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