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4th フェーズ 奪
No.76 アルファとシータ
しおりを挟むウルティメイト社の代表取締役であるヴァ―リ・ジョーンズ。
彼はオニツノ達に光る立方体をみせた。
ユキチカがそれを持っており、彼はそれを求めているようだ。
「エデンの果実、それが新たな世界への鍵となる」
するとコウノが部屋に入って来た。
「検査が終わりました……」
「どうだったベータ?」
コウノは首を振る。
「それが、目当ての物はありませんでした」
「ふむ、そうか。あわよくばこのまま回収といきたかったが」
頷くヴァ―リ・ジョーンズ、目当ての物がなく落胆している様子はない。
「彼をここに」
「畏まりました」
車いすに乗せられユキチカが運ばれる。
(なんで車いすなんや、乗せろ言われたんやろな)
彼の身体の構造的に絶対にいらないだろうに、車いすに乗る彼を見てオニツノはそんな事を考えた。
「鬼丸ユキチカくん、あれに見覚えはあるよね」
ヴァ―リ・ジョーンズはユキチカの目線に会うように視線を合わせる。
「うん?」
「あれはどこにあるのかな?」
モニターに映る立方体を指さすヴァ―リ・ジョーンズ。
「知らなーい」
「噓はよくない、君は知っているはずだ」
顔をそっぽ向けるユキチカ。
するとユキチカはヴァ―リ・ジョーンズ。に向かって手を差し出す。
「返して」
「……返して?」
オニツノが首をかしげる。
ため息をついて首を振るヴァ―リ・ジョーンズ。
「はぁ、そうか。おっとそろそろ場所を移そうか」
ヴァーリは皆にそう伝えて移動の準備を整え、車両に乗り込む。他のものは別の車両に乗り移動する。移動中の車内でヴァーリに通知が入る。
「ふん、やはりな」
彼は端末を操作した。
「急に移動ってどういうことや?」
オニツノは同じ車両にのった者達に話しかける。
すると遠くの空が明るくなった、彼女たちが先程までいた施設の方向だ。
その後車の窓が割れそうな程の爆音と衝撃が訪れる。
「な、なんやあれ!」
「ヴァーリ様……施設爆破した」
「はぁッ!?」
オニツノは隣に座っているキリサメに向かって声を上げた。
キリサメは耳を両手で塞ぐ。
「何者かが施設の場所を突き止め領地に侵入したのでしょう」
運転をしながらコウノが答えた。
「確かにウルティメイトにしたらあの程度の施設はどうとでもなる、とは言えこんな贅沢に使い捨てるとは……。彼にそれほどの価値があるという事ですね」
助手席に座っているヒメヅカがそういうとキリサメが彼女の肩を叩く。
「ヒメヅカ、席かわって。なんで私、こいつの隣?いやだ、うるさい」
「絶対に嫌です」
キッパリ断るヒメヅカ。
(きっとジーナちゃん達や)
オニツノは気にすることなく外を眺めた。
「遅かったか……まあそう簡単に行かんよな」
燃え盛る施設の前でキビたちが立っていた。
「逃げるだけでなく爆破するなんて」
「それだけ相手が必死ってことだよね」
ジーナとシャーロットは落ち着いた様子だ。
「元より利用価値の低い施設を選んでいたのかもしれません。ですがウルティメイト社と言えども無数にそのような施設があるわけではありません」
ウルルも冷静にそう話す。
「にしても流石はストレングスだ」
「こんなに早く居場所を突き止めるなんて」
キビとジーナは周囲を見渡しながらそう話す。
ユキチカ達は次の施設に到着した。
ついたらヴァ―リ・ジョーンズはどこかに行ってしまい、他の者は広い部屋に来ていた。
「こうなんども何度も車を乗り換えるとホンマ目が回りそうや」
ソファにドカッと座り込むオニツノ。
他の者もソファに座る。
次の施設でもユキチカは同様に部屋に連れていかれる。
「ユキチカくん今日はもう寝ましょう。部屋に案内します」
「はーい、おやすみーオニツノ、ヒメヅカ、キリサメー」
ユキチカは3人に手を振ってコウノについていく。
「はぁ、開放されるのはまだ先みたいですね」
「勘弁してくれやホンマに。しんどいわ」
ヒメヅカとオニツノはソファでうなだれている。
「おつかれ様です、お飲み物はいかがですか?」
「お酒もご用意しております」
そんな二人のもとに見知らぬ二人の女性が現れた。
「なんや、アンドロイドか?」
オニツノがそう言うと、二人はお辞儀をした。
「アンドロイドではありません、ヴァーリ様直属の部下のアルファと言います」
「同じくシータと申します」
まったく同じ服装で同じトーンの声。
アルファはショートの赤髪、シータはショートの青髪。まるで色で識別できるようにキレイにそこだけ色が別れていた。
「ベータお久しぶりです」
「元気そうで何よりです、ベータ」
二人は部屋に入ってきたコウノへ挨拶した。
「え、ええ、二人は随分変わったね」
戸惑った様子のコウノ。
「皆さん本日はお疲れ様でした。お部屋を御用しておりますのでそちらでお休みください。シャワー室は部屋の側にありますので」
「へーい」
「はぁ、とりあえず今日の所は大人しく寝ときますかね」
オニツノとヒメヅカは休むことにし、各々割り当てられた部屋に向かった。
「部屋が隣同士、まあ良いですけど」
「文句ばっかり言ってたら嫌われんで。ああ、もう嫌われもんか」
「……ッ!シャワー室は、あそこですか」
眉をピクっと動かし反応するヒメヅカだが、オニツノの発言を無視する。
「ふーん」
「……」
二人は一斉に走り出した。
「なんや!お前汗かいてないからまだシャワー浴びんでええやろ!風呂前に運動でもしたらどないや?室内に籠ってばかりやと太んで!」
「近寄らないでください、汗臭い!あなたの後なんて絶対に嫌です!あと私は毎朝トレーニングをしていますし体調管理は万全です!」
肩で押し合いながらシャワー室に向かった。
二人は同時に服を脱ぎ、並んでシャワー室に入る。
「ワシのが早かったな」
「寝ぼけてるんですか?私の方が早くシャワー室入ったじゃないですか」
残ったコウノとキリサメはアルファとシータ共にテーブルを囲んでいる。
「アルファ、シータ、はじめまして。3人、知り合いだったんだ」
キリサメはアルファとシータに距離を詰めてそういった。
「ええ、ヴァーリ様に救われ。同じ学校へ行き共に訓練を行いました」
アルファが起伏のない声でそう答えた。
「にしても二人とも本当に見違えたね。昔はもっと活発じゃなかった?いつの間にそんな大人びた感じになったの?」
コウノの発言に二人は首をかしげた。
「私達は昔からこうでしたよ?そんなことより二人共、ヴァーリ様が必要とされたときに準備不足だったとならないよう、休まれては?」
シータにそう言われ、コウノは二人への強烈な違和感を抱えながら部屋に向かう。
「それじゃあキリサメさん、おやすみなさい」
「うん」
シャワーを浴び、部屋のベットで横になる。
その間ずっとコウノはアルファとシータの事を考えていた。
アルファは明るく気さくで皆の中で姉的存在だった。シータは器用で優しかった、何をさせても一番覚えがよく色々と教えてくれた。
しかし、今のアルファとシータはまるで同じプログラムを施されたアンドロイドのように無機質で、人格というものを感じさせない。これ程の変わりっぷりだと言うのに彼女達はまるでそれを意に介さない。
(最後に会ったのはキビ先輩の元で働く前、まだ5年も経ってないのに。あれではウルルさんの方が人間らしい……いや、何を考えているんだろ……)
思考が目まぐるしく頭の中を駆け巡る。まる騒々しい動物みたいだ。
頭の中に現れたその動物を落ち着かせるためにシャワーでも浴びようとコウノは部屋を出る。
「あ」
更衣室に入るとそこにはアルファとシータがいた。
「どうもベータ、あなたは既にシャワーを浴びたと思いましたが」
「何か思い悩むことがあるのですか?気分転換にシャワーや入浴をする傾向があなたにはありますからね」
「ええ……その……鬼丸ユキチカ、彼のことで色々と」
流石に二人の事で悩んでいると言い出せず、咄嗟に嘘をついてしまうコウノ。
彼女が嘘をついた事に罪悪感を覚えてしまう。
アルファとシータが服を脱ぐ。
自身もシャワーを浴びるために服を脱ごうとするコウノ。
するとコウノは何かに気づく。
「え?二人ともその背中……どうしたの?」
コウノは驚き、目を見開く。
二人の背中には正方形の手術痕があった。
まるであて布をそこに縫い付けたような、痛々しいものだった。
「背中?ああ、これですか。良いでしょう?ヴァーリ様と同じ傷跡なんですよ」
シータはそういう。
「傷ってどうみたっておかしいじゃないですか!一体何があったんですか?」
コウノはそう言って二人の肩を揺する。だがまるで動じない二人。
「安心してください、あなたも時期にこの傷跡を授かりますよ」
「……!?」
二人の肩から手を離し、コウノは更衣室を飛び出す。
(なんなのあの傷跡、あれで二人は変わったの?)
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