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3rdフェーズ 散
No.71 デウス・エクス・マキナ
しおりを挟むアンジェラが幼い頃、彼女はずっと母親と共に研究室にいた。
「お母さん何してるの?」
「うーん?この前描いた設計図じゃ上手く行かなかったから、新しいのを描いてるのよー」
母親は常に何かに向かっていた、作業台か、モニターか。
そんな忙しそうな母親だったが、アンジェラと話す時は可能な限り彼女の方をみて話すようにしてくれていた。
「失敗しちゃったの?だいじょーぶ?」
「だいじょーぶ!失敗はね、お母さんに新しい事を教えてくれるのよ、だからぜーんぜん、むしろヤッター!ってなるの」
アンジェラに向かって明るい笑顔を浮かべながら話す母親。
「失敗なのに?」
「そうよ、人はね失敗から学ぶ事が出来るの」
人は失敗から学ぶ事が出来る、これは母親の好きな言葉であった。
「プライスさん!」
「……ッ!!」
倒れたプライスを呼ぶジーナの声で、アンジェラの意識が現在に戻って来た。
「ああ!!な、なんで!?」
動揺するアンジェラ。
プライスは肩から出血していた。
「アンジェラちゃん、銃を使った事は?」
「え……?な、無いけど」
「貸してもらえるかな?」
シャーロットは動揺するアンジェラに近づいて銃を貸してもらう。
「弾はよし、安全装置よし。ジーナ!」
「分かった、私はコイツで、シャロは2人と一緒に先に進んで!」
ジーナは近くにあった金属製の手すりをへし折り、即席の武器を作った。
「じゃあその前に」
銃を構えるシャーロット。
(見た感じ相手は最新型のウルルに武装を施したタイプ。武装は全て後付のもの、基本スペックは変わらないのなら)
シャーロットが数回連続で発砲、アンドロイドの脚関節を撃ち抜いた。
「よし!ジーナ、そのアンドロイド達は武器をくっつけただけで他のアンドロイドと耐久性は変わらないよ!」
「オッケーシャロ!」
ジーナはそう言って倒れたアンドロイドの頭部を破壊した。
「アンジェラちゃん、ここで一番安全な所は?」
「え、えっと……こっち!」
アンジェラが指さす方向にシャーロットはプライスと共に進む。
「プライスさん大丈夫ですか?!」
「撃たれるって痛いってよりは熱いんだね。でも自分で歩けるから大丈夫かな」
先に進むとそこは仮想現実装置とウルルがいる部屋だった。
「ウルル!」
「シャロ様!?先程の音は一体?」
シャーロットは銃を机に置き、プライスを近くの椅子に座らせる。
「後で説明するから!」
ウルルの拘束具を外そうとするシャーロット。
「だめ……ッ!ウルルちゃんは……行かせないッ!」
「ちょっと今それしちゃうの?」
アンジェラに背後から銃を突き付けられるシャーロット。
「アンジェラちゃん、もうやめようよ、君のお母さんもこんな事望んでいない。ここはひとまず」
「指図しないで!そうやって母親づらして!そういう所がムカつくのよ!本当の親でもない癖に!あんたなんかここで、ここで、そのまま……!」
震えた声を上げながら、アンジェラは銃をプライスに向ける。
「待ちなさいッ!」
「ウルル……?」
ウルルが怒鳴った。
「今なんと言おうとしたのですか?心に思ってなくとも、そんな言葉を使ってはいけません。ましてやこれだけ無償の愛を向けてくれるような方に!」
「ウルルちゃんも黙ってて!あなたに何が分かるの!?」
アンジェラはウルルの方を振り向く。
「その方のアンジェラさんを思う気持ちは見れば分かります。肩に怪我を負いながらも、その対処よりもアンジェラさんを優先している事から明らかです。そんな方、世界を探してもめったに会えない、本当に大事な存在なんですよ!」
「そ、そんな、そんな事言われたって……」
自身の考えが整理できないのか、アンジェラは言葉に詰まる。
するとその部屋に全力疾走するジーナが飛び込んで来た。
「ジーナ!?」
「はあ、はあ、お取り込み中だった?ごめん。でもちょっと面倒な事になってね」
そう言って振り向くジーナ。
「うわヤバ!みんな伏せて!」
皆が伏せた直後、扉を破壊して何かが侵入してきた。
「ターゲット確認、他敵性存在を多数確認、いずれも排除します」
侵入して来たのは3m程はありそうなアンドロイドだった。
「何あれ!?」
「少し遅れてやってきた敵の大将だよ」
「プライスさん、アンジェラさん!早くこちらに!」
ウルルが二人を連れて物陰に向かう。
「さーて、どうしますかこれは」
「あの装甲、アンジェラちゃんの銃も通用しないね」
ジーナとシャーロットがアンドロイドを見上げる。
「敵性存在の排除を開始します、レーザー砲発射準備」
アンドロイドが両腕を地面に突き刺し、胴体部分を展開する。
「ああもう!」
「流石に無理かも!」
ジーナ達も攻撃するものの全くビクともしない。
「あーあー!とりゃ!」
もうダメかと思われたその時、ユキチカが現れた。
彼は現れると同時にアンドロイドを蹴り飛ばした。
「みんなだいじょーぶ?」
「ふう、遅いよ大将」
「本当にね、流石に今のはギリギリだった」
「ごめーん」
ジーナとシャーロットに謝るユキチカ。
「発射準備中断されました、敵性存在は未だあり、再度発射準備を行った後に一斉排除します」
蹴り飛ばされたアンドロイドが起き上がる。
「まだ動くのね、シャロ、ユキチカ!どうする?」
「中枢の位置は身体の中心にあるんだけど装甲が頑丈過ぎて!」
「うーん、じゃあレーザーでビューン!でもエネルギーが足りないな」
3人の話が次の手を考えている。
「エネルギー……、アンジェラさん!発電機はもう稼働してますか?」
「してるけど、どうして?」
アンジェラの返答を聞いてウルルは頷く。
「ユキチカ様!」
「オッケー!」
ユキチカがウルルの元に来る。
「これ設備と接続させて、シャロ、ジーナ、ぼく目に使ってるエネルギーも使っちゃうから代わりに狙って」
そういってユキチカは体からコードを出してウルルに渡す。
「了解!」
シャーロットとジーナもユキチカの元に行く。
「あの時よりエネルギーは少ないからー」
ユキチカは両腕を変形させる。
シャーロットとジーナが変形し砲身となった腕をウルルが寝かされていた台に設置。
狙いを定めて二人で固定する。
「よし!狙ったよ!」
「そんじゃよろしく!」
シャーロットとジーナから合図を貰ったユキチカは施設のエネルギーを一点に集中させる。
「発射ー!」
集中させたエネルギーをレーザーとして放った。
アンドロイドの中心をレーザーが貫く、これによりアンドロイドのは機能を停止した。
「ふぃー、けふっ」
口から煙を吐くユキチカ。
「なんとか、なったね……」
ここでプライスが倒れてしまう。
「プライスさん!」
皆が彼女に駆け寄った。
「ああ……!死んじゃだめ!お母さん!」
「やった、初めてお母さんって呼んでもらえた……へへへ」
プライスが笑う。
「今救急車を手配しました、大丈夫です必ず助けます」
「ウルルちゃん……」
アンジェラがウルルをみると、ウルルも彼女の顔を見る。
「大切な友達のお母さまですから、絶対に助けます。私たち従者アンドロイドにはご主人様が怪我をされた際に応急処置が出来る機能が備わっています」
ウルルの腕が展開し、手当てに必要な道具が出て来る。
「当然私はそのあたりも改造されているので、では始めます」
「助かったよ。医者はなんとも無いって、まさかあの場で縫合までしちゃうなんてね。君のご主人様が麻酔を持ち合わせていたのにも驚いたけど」
病院のベッドで横になっているプライスがそう言う。
「良かったねー」
ユキチカがアンジェラにそう言う。
「う、うん」
「アンジェラさん、ほら」
ウルルがそっとアンジェラの背中を押す。
「その、守ってくれてありがとう、プライス……おか、お母さん」
「おいで」
ベッドの上をポンポンと叩くプライス。
アンジェラがベッドの上に座るとプライスが端末を取り出した。
「日誌は研究の事ばかりだったでしょ?彼女って昔からそうでね、公私混合させないためにプライベートな日記も作ってたの」
画面にびっしりと文字が書いてあった。
「そこにはアンジェラちゃんの事しか書いてなかったよ」
「……!」
アンジェラはその画面を見て、目を見開く。
「そこまで貴女を愛した彼女の代わりになれるのか、自信が無かった。きっと私も無意識に距離を作ってたんだろうね。だから家から出る時も別々だった。別荘もね、貴女が喜ぶと思って買ったつもりだったけど。もしかしたら自信が無いのを物で埋めようとしてたのかも」
そう言ってプライスはアンジェラの肩に手を置く。
「ごめんね、こんな情けない私が母代わりで」
謝るプライスをアンジェラは強く抱きしめた。
「ううん、ありがとう……」
「こちらこそありがとう。もっと早く、出来ればこんな危険なことになる前に話せば良かった。でもしょうがない、人間は失敗から学ぶことが出来るからね」
プライスはアンジェラに腕を回し抱きしめた。
「でも銃を持ってたのは関心しないぞー」
「えー、それはもう怒らないって言ってたじゃん」
二人は抱きしめあいながら笑う。
「一件落着!」
「だね」
「はぁ、今回も中々刺激的だった」
ユキチカ、ジーナそしてシャーロットが二人を見てそう言った。
「……これがデウス・エクス・マキナというものでしょうか」
ウルルはユキチカを見てそう呟いた。
「?」
ユキチカは首を傾げた。
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