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3rdフェーズ 散

No.68 司祭さまは元代表

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ジーナが司祭と話をしている間、ウルルとシャーロットはジーナを待っていた。

「ごめんちょっとトイレ」
「畏ま、じゃなくてうん、分かった」
「ふふ、慣れて来たね」

シャーロットがその場を離れて少しすると、ウルルの元に一人の少女が現れた。

「ねぇ、あなた!お母さまが来るまで私と遊んでくれない?」
ウルルの手を掴み、明るい笑顔を見せる少女。

「え?ああ、すみませんちょっと人を待ってて」
(この方もここの信仰者なのでしょうか?それともご家族と一緒に来られた方?)

「じゃあその方も後で呼ぶわ、こっちこっち!」
少女はウルルの手を引っ張っていく。

「わ、分かりました。私はウルルと申します、あなたは?」
「私アンジェラ!よろしくねウルルちゃん!」

ウルルはアンジェラと名乗る少女と共に教会にある庭で遊んでいた。

「あなた他の子と全然ちがう!面白いわね!」
「ははは、私もどうしてかは分からないんですよ」

「へぇ~そうなんだ、私あなたの事好きになっちゃった」
「っ、それはありがとうございます」
アンジェラに抱き着かれたウルルは照れながら答えた。

その時シャーロットが元の場所に戻っていた。

「ごめん、ちょっと混んでて。ってあれ、ウルル?ウルルー!どこだろう。ジーナは大丈夫みたいだけど、聞き込みでもしてるのかな」



「私は元ハウンド代表だ」

そう話すのは教団デウス・エクス・マキナの司祭だった。

「代表って?!だって代表はヒメヅカじゃ」

「そこまで知ってるのか。まいった、君は本当に色々と知っているようね。そう私はそのヒメヅカの先代のプライスだ」

プライスはそう言って壁にもたれかかる。

「私は自分の会社からつまみ出され、そっからこの教団に放り込まれた」
「じゃあ全然こことは関係ないんですか?」

「そう、ここに連れてこられるまで教団の存在すら知らなかったよ、テレビとかでは前から有名だったみたいだけど。でも連中の命令には逆らえない」

彼女は自分の携帯端末からテレビを流しながらそう言った。

「この教団はなんなんですか?」

「もともとは若者をターゲットに活動していてね。仮想現実で男性とコミュニケーションを取って実際に会った時に備えよう的な宣伝文句を言ってたんだ」

「それって宗教?」

「仮想現実を実現してくれるのがAIだからね。そのAI様を強く信仰すればその仮想現実への切符が得られるんだ。それまでに高い金を積んでね。密かに若者の間で大人気に、それの始まりが10年くらい前だ」

「それで?」

「だがその仮想現実に依存する者が続出した。当然だよね、現実よりなんでも思い通りになる仮想現実の方が楽だ、人間は腐敗すると分かっていても楽な道は魅力的に見えてしまうもんだ」

頭を振ってそう言うプライス。

「その技術に目をつけた連中がいてね、色々と手を使ってここを傘下にいれたんだ」
「ウルティメイトですね」

「……あー、今のはうまく聞き取れなかった事にしておこう。とにかくそれ以来ここはまともになった。過剰な金銭関係の要求とかはしていない。仮想現実に入るための装置も撤去された」

プライスは懐からゆっくりと一冊の冊子を取り出す。

「ただ経典の内容が結構過激だったり難しい内容だったので私が大体を書き換えた。これが一番大変な仕事だったよ」

(ああ、この人があの話考えたんだ)
演目の内容を思い出しながらジーナは質問を続ける。

「あなたはどうしてここに?」
「ある企業に出資を渋った」

「それだけ?随分とケチな会社もいるもんですね」
「連中が気にしてるのは金じゃない。信用だよ」

手を振ってそういうプライス。

「信用?」
「信仰心と言ったほうがこの格好には合うかな?金はその信仰心を数値化したものだ。払わないや支払う金額を減らすというのは信仰心が減ったと見なされる」

「私は連中が危険だと思った、だから出資額を減らす、というか取引をやめようとしたんだ。勿論大口取引のお得意様だったが、先数年の利益の為に死ぬまで地獄を見るのはごめんだからね」

プライスは肩をすくめる。

「今の私は自分の会社を盗られ、食事は全て出前、勿論連中の息がかかった店からのみ。移動は全て運転手つきの車、運転手は週ごとに変わる」

「なんでそんな事までして」
「見せしめだろう。1人の人生を好き勝手出来るぞっていうね」

プライスはゆっくり歩いて部屋の隅から何かを持ち出す。
非常に大きいバッグ、旅行で使ったら二泊三日ぐらいの荷物なら入りそうだ。

「ほらこのでっかいバッグ、何が入ってると思う?私の顔がプリントされたTシャツ、信者に売れるってさ。バカにしてくれちゃって、なんだってこんな訳分からん格好した自分の写真がデカデカとのったTシャツを!ああもう信じらんない!ああごめんね取り乱して、聖職者の癖に信じらんないなんてさ」

バッグを軽く蹴るプライス。

「いえ、気にしないでください。無理もないですよ。でもなんでウルティメイトはハウンドとそこまで繋がろうと?」

「だからその名前は……もういいか。第一の目的、これはすぐに分かることだろうが情報の為」

「そしてもう1つ、兵器の実験場としての利用だ」


少し時は戻ってウルルと少女アンジェラ。
アンジェラは帰るようでウルルはその見送りに車のそばまで来ていた。

「ねぇ、ウルルちゃん」
「なんでしょうか」

「ありがとう」
そう言ってアンジェラはウルルにキスをした。

「ふふ、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むウルル。

「やっぱり素敵、貴女の笑顔。本当に人間と見分けがつかないわ」
「え……」
ウルルの表情から微笑みが途端に消え失せる。


「ジーナ!」
シャーロットが司祭の部屋の扉を勢いよく開けて入って来た。

「どうしたのシャロ?」
「ああ!もうなんだビックリしたな!君たちは一体どれだけ私の寿命を縮めてくれるんだ!心臓マッサージしとこ」

急に入って来たシャーロットに驚くプライス。
ジーナもシャーロットの様子から何かが起きた事を察した。

「外の見張りは?」
「あー、向こうでボヤ騒ぎが起きてるって言ってどかせました」

「なるほど、間違いなく君は彼女の友達だね。二人のことを大好きになりそうだ」
目をぐるりと回してそう言うプライス。

「それよりもウルルがいないの!散々探し回ったけど全然見当たらなくって。発信機も途中から反応がなくなって!ユキチカも分からないって」
「どうしよ、探さないと!」

「ちょっと待って」
ジーナとシャーロットが部屋を飛び出そうとするのをプライスが止めた。

「なんですか?早く友達を探しに行かないと!」

「その友達探し手伝うよ」
プライスの言葉で動きが止まる二人。

「いつもならワイドショーを死んだ目で眺める業務をしている時間だが。こっちのが面白そうだ。そのドア閉めて」

シャーロットは扉を閉める。

司祭は自分のデスクに座り、机の中の端末を取り出す。
拳を鳴らして端末を操作し始めるプライス。

「時折するんだ、暇だから」
「この施設の監視システムに侵入したんだ、効率的で綺麗」
シャーロットはプライスの手際に見惚れていた。

「へぇーこういうの詳しいんだ。元々は私が開発したシステムだからね」
「え?!」
「ああ、言いそびれてた。この人元ハウンドの代表」

プライスの端末に一つの映像が出る。

そこには少女と手をつなぎ歩くウルルの姿が。

「マズイな。この子か……」
プライスは少女にズームインする。

「彼女は?」
ジーナが少女を見て言った。

「アンジェラ、私の娘だ」

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