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3rdフェーズ 散
No.64 応接室で一杯
しおりを挟む彼女がキビに見せたのはユキチカの家を警備しているケイの画像だった。
キビもユキチカの家に行くたびに会っていたので、その顔はよく覚えていた。
「なるほど、その人か」
シャーロット達もインファマス刑務所以来、色々と調べていたようだ。
「その警備の人に頼んで来たって事ね」
「学校の先生も普段ユキチカ君がお世話になってる方々のお仕事ならーってとんとん拍子で話がすすんで」
そう話すとシャーロットはため息をつく。
「ここに来れたのは良いんですけど私達はあくまで学生の職業体験という事で。殆ど奥に入れないんですよ、なのでこれを使う事ができなくて、コロちゃんを使おうとも思ったのですが監視設備が凄くて」
「まあ警護会社だし」
キビが一瞬周囲に目を向ける。
「あ、ここは大丈夫です。トイレは流石に何も置いてないみたいで一通りみてまわったんですけど」
「尚更ここで鉢合わせたのはラッキーだった」
「はい、ここの通風孔からコロちゃんとか送れないかなーっと思ったんですけどそれもちょっと無理そうで」
シャーロットの話をきいて受け取った装置をみる。
「じゃあこれを使って私がなるべく奥に行けば良いってことね。具体的にはどこら辺にあるかとか分かる?」
「こういうのでセオリーなのは地下とか、一般の職員もあまり入らないような場所だと思います。これから会社の人と商談したりとかすると思うんですけど、なるべく偉い人と会わせて貰えるようにしてもらってください」
「分かった。これの使い方は?」
「ここから小さいロボットが出てそれが直接セキュリティに関する設備に接続します。残ったボタンの方から電波がでてそれで操作します。ただここまで小型なんで電波は半径8メートルぐらいがせいぜいだと思います。私に連絡してくれたらそこからは私が動かして情報を抜き取れるので」
「じゃあ私は最深部のセキュリティを扱っていそうな場所か扱っていそうな人物にこれを引っ付ければ良いんだな」
「そうです」
これほどの広さがある施設にて半径8m以内に目的のものを捉える必要がある。その事を理解したキビは装置を内ポケットにしまった。
「分かった。こっちのほうが私が持ってきた物よりずっと使える。それじゃあ終わったら連絡するから。流石に他の生徒がいるから大丈夫だとは思うけど気を付けてね」
キビはシャーロットの肩を叩いてそういった。
「はい、キビさんも」
2人はそう言って別々のタイミングで化粧室を出た。
キビは職員に案内され、応接室に入る。
「いやぁすみません、待たせてしまってね。にしても凄いですね!ここに来るまでも監視カメラとか色々ありましたがどれも最新ピッカピカだ!」
そういってキビは席につく。
「で、どうだった?スズキ」
秘書のスズキであるコウノに話しかけるキビ。
「ええ、とても素晴らしい設備です。是非こちらにお願いすべきかと」
「うん、どうやらうちの敏腕秘書が口説き落とされたようだ。決まりだな」
手をパンッと叩いてそういうキビ。
「そうですか!誠にありがとうございます!」
担当のマモルが嬉しそうな顔をする。
「そうだ、ここの責任者の方って今いらっしゃいますかね?今後のご挨拶をさせて頂きたいのですが」
「畏まりました。ただいま確認してまいりますね」
そういって相手は少しの間部屋を出ていく。
「ここからどうするんですか」
「それは任せておけ。心強い助っ人にあってね、さっさと終わらせて帰るぞ。慣れないスーツでそろそろ肩が凝ってきた」
2人が話していると、扉をノックする音が。
「失礼いたします」
「どうぞ」
扉を開け、マモルともう一人別の者が挨拶をして入室してきた。
その者は茶髪の長い髪を後頭部で結び、スリムなパンツスタイルのスーツを着た女性だった。
「どうも、ヒメヅカ・アヤメと申します」
「「ッ!!」」
相手の名前を聞いた2人に緊張が走る。
(こいつってジーナちゃん達が言ってたウルティメイトのトップの秘書じゃなかったのか?)
キビはすぐにユキチカ達から聞いた話を思い出す。
(どうしてこの人が?!)
コウノも一見穏やかに見えるがその内心はかなり動揺していた。
「モモ様、この度は弊社にお越しくださり誠にありがとうございます」
ヒメヅカが名刺入れを内ポケットから取り出しキビに向かって差し出す。
「いやぁ、これ程の大企業をこんな美人なお方が引っ張っているとは。それにお若いのに、将来は益々有望ですね」
ヒメヅカも予め用意していた名刺を取り出し渡した。
名刺交換終えたキビは、握手を求めた。それに応えるヒメヅカ。
「最近ここの代表になったばかりですので」
「なるほど、若い方が活躍できる環境、素晴らしいですね」
握手をしながらヒメヅカの肩を軽く叩くキビ。
握手を終えると2人は席につく。
「最終的な契約は後日で大丈夫ですか?一応うちの社員にも伝えておかないと」
「ええ、勿論です」
席について話すキビは少しわざとらしく自分の身体を触り、何かを探しているふりをする。
「すみません、ちょっとペンをお借りできませんか?」
「え?ええ、どうぞ」
ヒメヅカは自分が持っていたペンを渡す。
「ちょっと覚書をね。秘書に任せればいいって思われるかもしれませんが、こうやって書いて記憶しようとするのが脳に良いみたいでね。えーっとハウンドさんに連絡すると」
キビは何か適当にメモに書き込んでいく。
「ありがとうございます!これでばっちり」
ペンをヒメヅカの前に置くキビ。
「ここの警備設備は見て回られましたか?」
「ああ、そう言えばまだった、だよね?」
ヒメヅカが話を切り出した。
質問されたキビはコウノに尋ねる。
「はい、まだ詳細までは」
コウノの言葉を聞いたヒメヅカは頷き、マモルの方をみた。
「ではマモルさん、こちらの秘書の方にご案内をお願いできますか?これから弊社のサービスをご利用くださるお客様に改めて。私はモモ様とお話を」
「畏まりました、ではスズキ様どうぞこちらに」
そう言ってマモルはキビと共に応接室を出ていく。
2人が部屋から出ていくのを見届けて、ヒメヅカは懐から小さい銀色のボトルを取り出す。
「さて、どうです一杯?」
「なるほど、そう言う事ですか」
銀の小さい器をテーブルに置くヒメヅカ。
「代表とは言え仕事中ですから。これは内密に、まだここに来たばかりで自分のオフィスにお酒も持ち込めなくて」
「はは、息抜きは大事ですからね」
銀の器から溢れるギリギリまで酒を注ぐヒメヅカ。
「ハーブティーにウオッカを混ぜたものです。これが好きで落ち着くんですよ」
器を手に取るヒメヅカ、キビも手に取る。
「それでは、この出会いに乾杯」
「乾杯、頂きます」
ヒメヅカとキビは同時に酒を飲んだ。
「素敵な飲みっぷりですね。ささ、どうぞ」
そう言ってヒメヅカはもう一杯注ぐ。
「おお、これはどうも。そちらのも空じゃないですか、注がせてください」
注がれた酒を一口で飲み、銀のボトルを持つ。
「先輩に注がれるなんて少し恐縮ですが、よろしくお願いします」
「先輩だなんてそんな……」
笑いながらキビが両手で銀のボトルを持ち、ヒメヅカの前に置かれた銀の器に注ぐ。
すると次の瞬間、キビは突然身体を後ろにそらした。
その直後に風切り音が。
「おや?そんなものを取り出して、酒のアテにリンゴでも剝いてくれるんですか?ここはサービス精神旺盛ですね」
見るとヒメヅカはナイフを取り出していた。
どうやらキビが酒を注ぐ為に近づいたタイミングでそのナイフを振るったらしい。
「まさかこんな所にまで忍び込んで来るとは。大丈夫ですか?警察の方が身分を偽るなんて」
「潜入捜査だ」
そう言ってキビは銀の瓶に直接口をつけて酒を飲む。
「非番なのに仕事熱心ですね」
ナイフが反射する鈍い光がヒメヅカの顔を照らした。
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