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2nd フェーズ 集

No.35 男とメイドとライオン

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ブルジョという富豪の家で働く事になったユキチカ達。
どうやらブルジョはユキチカが男という事に気付いていたようだ。

「あれ?」
「流石にわかるよ、今まで大勢の女性に出会ってきたからね。にしても驚いたよ、まさか男性に会えるなんてね」

ブルジョはそういう。
彼は最初から分かっていた。

「なんだ、全部わかってたんだ」
「はっはっは!他のメイドは気づいていないと思うけど、ヴィクトリアも気付いていると思うよ。彼女は特別鋭いからね」

「私が君を雇ったのは決して君の外見が癖に刺さったという訳ではないよ、本当だよ」
「まあ君がどうしてうちに来たのかは興味があるけど、きっといろいろと状況があるんだろうね」

ブルジョはそう言って自分でティーポットを傾けてお茶をカップにそそぐ。

「僕には友人なんてものは中々できなかった。でも君は不思議だな、君と一緒に来た子たちが君を見る目、なんだろう違うんだよね」

「目?」

「互いに信頼しているんだろうね。僕にとってのヴィクトリアがそうかな?彼女は幼い頃からの顔なじみでね」
ブルジョは嬉しそうに話す。

「彼女は僕にちゃんと意見を言ってくれるんだ。他のみんなは僕が言った事は全て通しちゃってね、それも良いかもしれないけど人と話しているという感覚がわかないんだ。対話というよりは一方通行な、なんというか僕が言葉を発したらその物が現れるような。でも彼女は僕がわがままを言うとちゃんと注意をするんだ」

「僕もウルルによく𠮟られるよ」
「はっはっは!そうかい、どんなことで?」
興味深そうにユキチカの方を見るブルジョ

「夜にケーキをたくさん食べようとすると、あとは勝手に外出したり、ちょっぴり爆発させたり、近所を停電にさせたりとか。いろいろ」
「本当に君は色々やるんだね!ますます気に入ったよ」
そういって愉快そうに笑うブルジョ。

「ご主人様はなんで叱られたの?」

「ああ、私の場合はそうだな。君ほど大それた理由じゃないけど、好き嫌いをしたり、それこそ夜こっそりケーキやアイスなんかを食べようとしてバレた時だね。あとは……」
ブルジョは一瞬間を置いた。


「あとは、ペットの事かな。ライオンのレオルっていう子がいてね、僕の側にいてくれた唯一の家族さ」

「おー!僕といっしょ!」

「へぇ、そうなのかい?良いよね、そういう存在って。僕が物心ついた時からもうずっと一緒でね。ごはんの時も寝るときも、あの子は僕よりも成長が早くてね、子どもの頃は羨ましいがってたなぁ」

ブルジョは自身の机の引き出しから写真たてを取り出す。

「レオル?かっこいい!」
「ふっふっふ、そうだろ?強く美しかった」

写真にはメスのライオンとその隣に並ぶ少年が映っていた。

「今はどこにいるの?」
「お空の上さ、今はもう側にいないんだ」
ブルジョは物悲しげにそう言った。

「お空の上かー!良いところだね!だって僕の家にいる、おばあちゃんや他の皆が言ってたよ!私達は地面の底の底にあるジゴクって所に行くことになるって。悪い子だったからって。お空の上に行けるなら良い子だったんだね!」

「そうか、そうだね!とってもいい子だったよ」

目元を拭い、ブルジョは笑った。


その頃ジーナとシャーロットは掃除をしていた。
すると1つの肖像画が目をひく。
決して大きくはないサイズの肖像画、そこにはブルジョとライオンが描かれていた。

「これは……」

「それはレオル、ブルジョ様が幼き頃に飼われていた雌ライオンです」
「ッ!!」

彼女の後ろからヴィクトリアが話しかけてきた。
思わずビクッとするシャーロット。

「もうここまで掃除が済んだのですね、聞いていた通り。丁寧にかつ迅速に、相当集中して掃除をしてくれているのですね、素晴らしいです」

「ありがとうございます!それで、このライオンちゃん、レオルちゃんとご主人様はとても仲が良いんですね」

「ええ、二人はいつも一緒でした。よくご主人様がレオルを過剰に甘やかそうとするので注意してましたね」
(へぇー、ヴィクトリアさんはそんな時からブルジョの元にいたんだ)

話を聞きながらそう考えるシャーロット。

「あれ、だとしたらこの絵画は本物を見て描いたものじゃないんですか?だってライオンの寿命って十数年ですよね?ご主人様は今とあまり変わらない感じですけど」

シャーロットがそう言うとヴィクトリアが頷く。

「ええ、それは彼女の誕生日にかかれたものです。レオルは……寿命ではなく殺されてしまったのです」

「え……」
「なんで……」
そう言って静まるジーナとシャーロット。

「ブルジョ様が16歳の誕生日の時、レオルも同じく誕生日でした、ライオンの寿命で考えるともう高齢です。そんなレオルとブルジョ様が誕生日パーティーの裏で遊んでいたんです。私もそこにいました」

ヴィクトリアの表情が暗くなる。

「遊びとはいえ相手はかなりの大きさの肉食獣。軽くじゃれついた際に誤ってブルジョ様に傷を負わせてしまったのです。きっと力加減を間違えたのでしょう……」

「そ、それで?」

「それが他の者にバレてしまい、レオルは連れていかれる事に。当然ブルジョ様はそれを必死で止めました、私も一緒に。もうその時何と言っていたか覚えていません、とにかく必死でレオルに落ち度がない事を訴えました」

俯くヴィクトリア。

「大人たちは一切私達の言葉に耳を貸さず、結局レオルは連れていかれ殺処分となりました……」

ヴィクトリアは俯くとジーナとシャーロットをみる。

「彼はこの時に自分が無力だと思ったみたいです。男というだけで国がチヤホヤしてくれる、そう思っていたけど、その時彼の意見を聞く者はいませんでした。あくまで国が管理する対象のもの」

そう言う彼女の顔は酷く苦しそうな顔だった。

「でもあなた達のお友達は随分と違うのですね。あのような男性がいるなんて」
ヴィクトリアの言葉に固まるジーナとシャーロット。

不意のタイミングで言われた事に動揺する二人。
「……え?」
「……今なんて」

「ふふっ流石に今回はイーナさんも動揺しましたね。一目見て分かりましたよ」
小さく笑うヴィクトリア。

「やっぱり無理があったか」
「い、色々とバレすぎじゃない?」

二人はこれからどうなるのだろうと思考を巡らせる。

「そんな警戒しなくていいですよ。何か事情があるのでしょう、あなた達が悪い人じゃないのも分かっていますから。まあユキちゃんに関しては色々と伺いたい事はありますが。外出許可とかここでの就労はちゃんと報告されているのかとか」

「す、すみません!迷惑はかけないので!」
「ご、ごめんなさい!」
頭を下げる二人。

「やめてください!ただ気になっただけなので!もし必要ならブルジョ様にそこら辺の手回しをしてもらうので。そもそも雇ったのは彼なので」

「いいんですか?」
「よかった~このまま警察に突き出されるのかと思った」

二人は顔を見合わせてホッとする。

こうしてなんとか残る事が出来たユキチカ達は、メイドとしての二日目を終えた。



「面白い子達を雇いましたね。まさか男性もいるとは」
「あ、やっぱり気付いた?ユキちゃん、面白いよー色々な事知ってるし話し相手として最高だよ」
ブルジョとヴィクトリアは部屋で食後のお茶を飲んでいた。

お茶と言っても少しだけお酒が入っている、ちょっぴり大人なお茶だ。

「これが友達って奴なのかな、ヴィクトリア以外の友達なんていつぶりだろうかね」
嬉しそうにそう言ってお茶を飲むブルジョ。

「ふぅーこのウィスキー結構来るね」

「ブルジョ様はお酒強くないんですから呑み過ぎないように」
「逆に君はザルだもんな、顔色一つ変わらないし酔ってる所誰も見た事ないもんね」

そう話していると、突然窓ガラスが割れた。

窓ガラスを飛び散らしながら何者かが部屋に現れる。

「一体なんだ!」
「ブルジョ様!早くこちらに!」

ランプに照らされる侵入者は、機械音を響かせブルジョに飛び掛かった。
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