35 / 135
2nd フェーズ 集
No.35 男とメイドとライオン
しおりを挟むブルジョという富豪の家で働く事になったユキチカ達。
どうやらブルジョはユキチカが男という事に気付いていたようだ。
「あれ?」
「流石にわかるよ、今まで大勢の女性に出会ってきたからね。にしても驚いたよ、まさか男性に会えるなんてね」
ブルジョはそういう。
彼は最初から分かっていた。
「なんだ、全部わかってたんだ」
「はっはっは!他のメイドは気づいていないと思うけど、ヴィクトリアも気付いていると思うよ。彼女は特別鋭いからね」
「私が君を雇ったのは決して君の外見が癖に刺さったという訳ではないよ、本当だよ」
「まあ君がどうしてうちに来たのかは興味があるけど、きっといろいろと状況があるんだろうね」
ブルジョはそう言って自分でティーポットを傾けてお茶をカップにそそぐ。
「僕には友人なんてものは中々できなかった。でも君は不思議だな、君と一緒に来た子たちが君を見る目、なんだろう違うんだよね」
「目?」
「互いに信頼しているんだろうね。僕にとってのヴィクトリアがそうかな?彼女は幼い頃からの顔なじみでね」
ブルジョは嬉しそうに話す。
「彼女は僕にちゃんと意見を言ってくれるんだ。他のみんなは僕が言った事は全て通しちゃってね、それも良いかもしれないけど人と話しているという感覚がわかないんだ。対話というよりは一方通行な、なんというか僕が言葉を発したらその物が現れるような。でも彼女は僕がわがままを言うとちゃんと注意をするんだ」
「僕もウルルによく𠮟られるよ」
「はっはっは!そうかい、どんなことで?」
興味深そうにユキチカの方を見るブルジョ
「夜にケーキをたくさん食べようとすると、あとは勝手に外出したり、ちょっぴり爆発させたり、近所を停電にさせたりとか。いろいろ」
「本当に君は色々やるんだね!ますます気に入ったよ」
そういって愉快そうに笑うブルジョ。
「ご主人様はなんで叱られたの?」
「ああ、私の場合はそうだな。君ほど大それた理由じゃないけど、好き嫌いをしたり、それこそ夜こっそりケーキやアイスなんかを食べようとしてバレた時だね。あとは……」
ブルジョは一瞬間を置いた。
「あとは、ペットの事かな。ライオンのレオルっていう子がいてね、僕の側にいてくれた唯一の家族さ」
「おー!僕といっしょ!」
「へぇ、そうなのかい?良いよね、そういう存在って。僕が物心ついた時からもうずっと一緒でね。ごはんの時も寝るときも、あの子は僕よりも成長が早くてね、子どもの頃は羨ましいがってたなぁ」
ブルジョは自身の机の引き出しから写真たてを取り出す。
「レオル?かっこいい!」
「ふっふっふ、そうだろ?強く美しかった」
写真にはメスのライオンとその隣に並ぶ少年が映っていた。
「今はどこにいるの?」
「お空の上さ、今はもう側にいないんだ」
ブルジョは物悲しげにそう言った。
「お空の上かー!良いところだね!だって僕の家にいる、おばあちゃんや他の皆が言ってたよ!私達は地面の底の底にあるジゴクって所に行くことになるって。悪い子だったからって。お空の上に行けるなら良い子だったんだね!」
「そうか、そうだね!とってもいい子だったよ」
目元を拭い、ブルジョは笑った。
その頃ジーナとシャーロットは掃除をしていた。
すると1つの肖像画が目をひく。
決して大きくはないサイズの肖像画、そこにはブルジョとライオンが描かれていた。
「これは……」
「それはレオル、ブルジョ様が幼き頃に飼われていた雌ライオンです」
「ッ!!」
彼女の後ろからヴィクトリアが話しかけてきた。
思わずビクッとするシャーロット。
「もうここまで掃除が済んだのですね、聞いていた通り。丁寧にかつ迅速に、相当集中して掃除をしてくれているのですね、素晴らしいです」
「ありがとうございます!それで、このライオンちゃん、レオルちゃんとご主人様はとても仲が良いんですね」
「ええ、二人はいつも一緒でした。よくご主人様がレオルを過剰に甘やかそうとするので注意してましたね」
(へぇー、ヴィクトリアさんはそんな時からブルジョの元にいたんだ)
話を聞きながらそう考えるシャーロット。
「あれ、だとしたらこの絵画は本物を見て描いたものじゃないんですか?だってライオンの寿命って十数年ですよね?ご主人様は今とあまり変わらない感じですけど」
シャーロットがそう言うとヴィクトリアが頷く。
「ええ、それは彼女の誕生日にかかれたものです。レオルは……寿命ではなく殺されてしまったのです」
「え……」
「なんで……」
そう言って静まるジーナとシャーロット。
「ブルジョ様が16歳の誕生日の時、レオルも同じく誕生日でした、ライオンの寿命で考えるともう高齢です。そんなレオルとブルジョ様が誕生日パーティーの裏で遊んでいたんです。私もそこにいました」
ヴィクトリアの表情が暗くなる。
「遊びとはいえ相手はかなりの大きさの肉食獣。軽くじゃれついた際に誤ってブルジョ様に傷を負わせてしまったのです。きっと力加減を間違えたのでしょう……」
「そ、それで?」
「それが他の者にバレてしまい、レオルは連れていかれる事に。当然ブルジョ様はそれを必死で止めました、私も一緒に。もうその時何と言っていたか覚えていません、とにかく必死でレオルに落ち度がない事を訴えました」
俯くヴィクトリア。
「大人たちは一切私達の言葉に耳を貸さず、結局レオルは連れていかれ殺処分となりました……」
ヴィクトリアは俯くとジーナとシャーロットをみる。
「彼はこの時に自分が無力だと思ったみたいです。男というだけで国がチヤホヤしてくれる、そう思っていたけど、その時彼の意見を聞く者はいませんでした。あくまで国が管理する対象のもの」
そう言う彼女の顔は酷く苦しそうな顔だった。
「でもあなた達のお友達は随分と違うのですね。あのような男性がいるなんて」
ヴィクトリアの言葉に固まるジーナとシャーロット。
不意のタイミングで言われた事に動揺する二人。
「……え?」
「……今なんて」
「ふふっ流石に今回はイーナさんも動揺しましたね。一目見て分かりましたよ」
小さく笑うヴィクトリア。
「やっぱり無理があったか」
「い、色々とバレすぎじゃない?」
二人はこれからどうなるのだろうと思考を巡らせる。
「そんな警戒しなくていいですよ。何か事情があるのでしょう、あなた達が悪い人じゃないのも分かっていますから。まあユキちゃんに関しては色々と伺いたい事はありますが。外出許可とかここでの就労はちゃんと報告されているのかとか」
「す、すみません!迷惑はかけないので!」
「ご、ごめんなさい!」
頭を下げる二人。
「やめてください!ただ気になっただけなので!もし必要ならブルジョ様にそこら辺の手回しをしてもらうので。そもそも雇ったのは彼なので」
「いいんですか?」
「よかった~このまま警察に突き出されるのかと思った」
二人は顔を見合わせてホッとする。
こうしてなんとか残る事が出来たユキチカ達は、メイドとしての二日目を終えた。
「面白い子達を雇いましたね。まさか男性もいるとは」
「あ、やっぱり気付いた?ユキちゃん、面白いよー色々な事知ってるし話し相手として最高だよ」
ブルジョとヴィクトリアは部屋で食後のお茶を飲んでいた。
お茶と言っても少しだけお酒が入っている、ちょっぴり大人なお茶だ。
「これが友達って奴なのかな、ヴィクトリア以外の友達なんていつぶりだろうかね」
嬉しそうにそう言ってお茶を飲むブルジョ。
「ふぅーこのウィスキー結構来るね」
「ブルジョ様はお酒強くないんですから呑み過ぎないように」
「逆に君はザルだもんな、顔色一つ変わらないし酔ってる所誰も見た事ないもんね」
そう話していると、突然窓ガラスが割れた。
窓ガラスを飛び散らしながら何者かが部屋に現れる。
「一体なんだ!」
「ブルジョ様!早くこちらに!」
ランプに照らされる侵入者は、機械音を響かせブルジョに飛び掛かった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる