悪役令嬢は夜間に逃避行する

さや

文字の大きさ
上 下
1 / 4

1

しおりを挟む

「今日からセシルの義兄になったシエルだよ。仲良くするように。ほらシエル、挨拶しなさい」 

そう言って、お義父さまの後ろに隠れるようにして立っていた少年を、お義父さまが前に出るよう促す。 

少年は、少しビクッとしたものの、観念して前にーー
ーーそれにしても、この光景どこかで見た事のある様な…?
……まぁ、どうでもいっか。

何となく見覚えのある光景に少し戸惑ったものの、あぁ、自分がここに養子に迎え入れられた時の光景と似ているのか、と深く考えずに神妙な顔でその子をじっと見つめる。

そんなことより、これから、どうなるのか凄く興味深かったからだ。

汚れてゴワゴワした髪、痣や傷だらけの身体、オドオドした自信のない態度、その中で、かろうじて綺麗に仕立て上げられた、服に着られてる感のある綺麗で豪奢な洋服。

この御屋敷の女主人であるキーラ様の嫌いなタイプド直球の薄汚い少年で、キーラ様が女狐と呼んで軽蔑している娼婦の子。

平民ならまだしも、娼婦……しかも、この子の存在をこの歳になって知ったということは何度かーーつい最近、会った事のあるお気に入りの娼婦だろう。

お義父さまに対して人一倍執着心のあるキーラ様が嫉妬しないはずがない。

きっと、猛烈に嫉妬して、色んな嫌がらせを行うだろう。

……ふふふ、これは一悶着ありそうね。
この少年は虐げられたまま生きるのか、……それとも、私みたいに強かに生きるのか
ーー見物だわ。

「は、はい!えと、シエルでーー」

「ーーなんで、こんな卑しい身分の子供を容姿に迎え入れたの!?私は認めないわ!!!」

紹介された少年ーーシエルと名乗ったかしら…?が、オドオドした口調で自己紹介を始めると、予想通りキーラ様の横槍が入った。

……それにしても、この光景、やっぱり何処かで……?

「キーラ、事前に説明していただろう?」

『えぇ、聞いたわよ。だけど、こんな卑しい身分の子だとは聞いていないわよ!!!』
「えぇ、聞いたわよ。だけど、こんな卑しい身分の子だとは聞いていないわよ!!!」
頭の中でどこかで聞いた台詞とキーラ様の言う台詞が重なり合う。
……偶然よね。
いくら私でも、未来を予想出来る力なんて持っていないもの。
そんな力持っていたら、あの悲劇だって私がーーーいや、今更悔いたってしょうがない。
あの事はもう、忘れよう。

……思い出したら、きっとまた泣いてしまうだろうから。

『だけど、この子は王族の血を引く証である藍色の瞳を持っている!……それに、この家には跡継ぎの男児が居ないだろ!!!』
「だけど、この子は王族の血を引く証である藍色の瞳を持っている!……それに、この家には跡継ぎの男児が居ないだろ!!!」
また、重なり合った!

どうして!どうして!なんで!?急に!?これは、未来を予知する力……?ーー
ーいや、それにしては、何かを思い出すような…。

『はぁ~?私が悪いって言うわけ!?王族の血を引いていたとしても、所詮は卑しい身分の子じゃない!!!』
「はぁ~?私が悪いって言うわけ!?王族の血を引いていたとしても、所詮は卑しい娼婦の子じゃない!!!」

これは、過去の記憶……?
いや、こんな記憶知らない。
私は、1度この人生を歩んだことがある!?ーー
ーーいや、違う前はもっと……あれ、前って何?

ふと脳裏に焦げ茶の髪の少女が映る。

あれは、何?
ーーあれは、私?
私は、日本人……ニホンジンって何!?

一気に沢山の情報が濁流のように、脳に押し寄せてくる。
やばい。
無理かも……。

「キーラは大体ーー……」
言葉が頭痛でだんだん聞き取れなくなる。

意識はだんだん朦朧としてきて、立っているのか倒れているのかそれすらも分からなくなる。

「ーーーっ」
……あぁ、倒れる。

ドサッ
「~~~っ」
「ーー……」

心配した周りの人達が私の周りに集まるのが分かる。

誰なのかすらも分からない。


立たなきゃ……だけども、身体が思うように動かない。



……あぁ、もう限界。





私にはキャパオーバーだわ。
そのまま、私の意識は途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?

夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。  しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!? ※小説家になろう様にも掲載しています ※主人公が肉食系かも?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...